SS 騎士団のアイドル
※アステル視点
SS 騎士団のアイドル
とある日の昼下がり。
俺は会議を終えて、一人で団長室に戻った。
ポムテルはまだお昼寝中だろうか。
愛らしい寝姿を拝むためにも、起こさないように少し手前の廊下から足音を殺して近づいた。
「?」
不思議なことに、扉が少し空いている。俺はそっと中を覗き込んで息を呑む。
「……良い度胸だな、おい」
「きゃん!」
部屋の中にはトーラがいた。
それ自体は珍しいことではない。剣士部隊の取りまとめを頼んでいるので、諸々の報告のためによく団長室に来てもらっているのだ。
珍しいのは、ポムテルとトーラの絡みである。
こともあろうに、ポムテルは興味津々と言った様子でトーラを見上げている。彼の靴に両前足を乗せて。
靴を踏まれているトーラは舌打ちをしつつも、しゃがみこんでポムテルを優しい手つきで移動させた。
「きゃんっ!」
遊んでもらえると勘違いしたのか、ポムテルが跳ねて喜んでいる。トーラの周りをくるくる回ったり、足元に頭をこすりつけたり、すっかり懐いてしまったようだ。
きっとポムテルには分かるんだな。動物に優しい人間かどうかが。
「てめぇ、やめろ。毛と匂いがつくだろうが」
嫌がりつつも声が柔らかいし、叱る振りをしてじゃれるポムテルの顔を手でわしゃわしゃしている。
微笑ましい光景だった。俺まで嬉しくなる。
「はは、ポムテル。トーラから、猫の匂いがするのか?」
俺が声をかけて入室すると、トーラがぎょっとしたように体を強張らせた。
「あ、アステル! お前、いつからそこに」
「少し前から」
そう答えると、トーラは両手で顔を覆った。
どうやら動物に話しかけている姿を見られたのが恥ずかしいみたいだ。
全然普通のことなのにな。
トーラだって、自分の屋敷で飼っている猫たちには自然に話しかけていた。俺はその姿を何度も目撃したから知っている。
「ポムテルと遊んでくれてありがとうな」
「遊んでねぇよ」
「今度クロム家に一緒に遊びに行っていいか? 美人猫姉妹に会わせてやりたい」
「絶対来るな! うちの猫は繊細なんだよ!」
「そうなのか。絶対可愛いのに……」
俺が残念がると、ポムテルが寄ってきた。自分の存在を忘れるなと言わんばかりだ。
「きゅうん」
「ただいま、ポムテル」
甘えんぼを抱き上げ、存分にその毛並みを堪能する。
はぁ、癒される……。
俺の腕の中ですっかりリラックスしている愛犬の姿に、トーラはジトっとした視線を向けていた。
「トーラも撫でるか? お腹の辺りが特にフカフカで気持ちいいぞ」
「…………」
結局、仕事の報告の後、トーラはポムテルを無言で撫でてブラッシングまでしていった。ネロ並みに手慣れている。
俺の愛犬は、また一人魅了してしまったみたいだな。少し前までの悪戯っ子が嘘のように良い子になってきた。
たくさんの人に愛されて、健やかに成長してくれ。
俺はそう願いながら、夕方の散歩に行くために急いで仕事を片付けることにした。




