SS とある日の握手会
※メリィ視点
今日も今日とてネロくんの握手会に参加しました。
最初に私が任務で怪我がないことを祈り、ネロくんは律儀にお礼を言います。これはお決まりのやり取りでした。
いつもなら、この後は最近の出来事や学校で流行していることなど、とりとめのない雑談をするのですが……。
「あ、そうだ。ごめん、今日はメリィちゃんに相談したいことがあって、聞いてもらってもいいかな」
「え、はい! なんでしょう?」
珍しくネロくんから話を切り出されました。
一体どのような相談か想像もつきませんが、頼られて嬉しい。全力でお役に立つ所存です!
「王都で暮らす若い女の人は、何をプレゼントしてもらったら嬉しいのかな?」
「…………」
えっと。
前のめりになっていた私は、ひ、と息を呑みました。
誰? 誰に渡すつもりですか?
大丈夫、私の考えている最悪の事態のはずがありません。いくらネロくんが純粋な男の子でも、この私に好きな人宛てのプレゼントの相談をするなんてそんな無神経なことはしません。ええ、絶対に。
だからきっと、ちょっとしたお礼のプレゼントのはず。
……羨ましすぎるっ! ネロくんからプレゼント! うううう!
ネロくんの生活圏内に若い女性がいる、ということを突きつけられ、メンブレ寸前です。
この感情は何? 嫉妬? 諦観? 憎悪? 今なら授業で習った暗黒物質・ダークマターを精製できそうです。
本当に誰に渡すんでしょうか?
騎士団本部の事務局の方? 宿舎や食堂のお姉さん? 落とし物を拾っただけの行きずりの通行人?
素晴らしい幸運の持ち主ですね。もし出会うことがあれば、私――。
この間、約二秒です。
「あ、母がお世話になってる看護士さんの結婚祝いに何か贈りたいらしくて。代わりに買って来てって頼まれたんだけど……イマドキな物が良いって言われて困ってるんだ」
「ですよね!」
「?」
私が笑顔で指を鳴らすと、ネロくんは首を傾げました。
そのきょとんとした顔が最高に素敵でした。可愛い……。
胸中のどす黒い感情が全て削げ落ちて、心の表面がピカピカになったような心地がします。伝説の金属・ミスリルもきっとこんな輝きを宿していることでしょう。
……失礼しました。ネロくんが本気で悩んでいるというのに、私ったら情緒を乱すばかりで親身になれず、申し訳なかったです。
改めて私はお相手の方の雰囲気を尋ね、いくつかプレゼントの候補を挙げ、オススメの雑貨屋さんを紹介しました。確かな品質と良心的なお値段、ラッピングのセンスも良く、男性でも入りやすい外観のお店です。
推し騎士様に恥をかかせるわけにはいきませんからね!
「なるほど! 任務から帰ったら見に行ってみる」
ネロくんは感心したように頷いて下さっています。
「ありがとう、メリィちゃんに相談して良かったよ」
「お役に立てたなら何よりです!」
私は和やかな雰囲気で握手をし、天幕を後にしました。
……はぁ、今日の握手会は特に刺激的でしたね。落としてから上げて、さらなる沼に叩き落とす。
私の心はいつだって、ネロくんの言葉一つで転がされっぱなしです。




