終章:真実の笑顔
文化祭当日。生徒会が協力し、先輩の不在を感じさせない最高のイベントになった。成功の裏には、入院中の先輩が毎日、私宛に送ってくれた、細かすぎる指示と、私に代行させた彼の雑務があった。
閉会式後、ようやく病院から許可を得た遥人先輩が、私に会いに来てくれた。学校裏の静かな場所。
彼はもう、完璧な仮面を被ってはいなかった。少し頬はこけていたけれど、とても穏やかで、彼自身の意志が宿ったような表情だった。
「佐藤さん…いや、結衣」
初めて名前を呼ばれ、私の胸は高鳴った。
「君のおかげで、僕は初めて父さんに『嫌だ』と言えた。僕がやりたいことをやる、と」
彼はまっすぐに私を見た。
「皆は僕をヒーローだと言うけれど、本当のヒーローは君だった。僕の弱さを許し、僕が一人ではないと教えてくれた。完璧じゃない僕を、一番強くしてくれた」
「先輩…」
「君が僕のヒーローであることは変わらない。でも、もう、一人で戦わなくていい。僕の弱さを受け止めるのは、今度は僕のヒーローである、君の番だ」
彼は一歩、私に近づいた。
「佐藤結衣さん。好きだ。僕の、ただ一人のヒーローでいてほしい」
憧れだったヒーローからの告白。私は、涙でぐしゃぐしゃになりながら、深く頷いた。
彼の完璧な世界は、一度崩壊したけれど、私という名の「安全基地」を得て、より強固で、より人間的なものへと再生した。
私にとって、彼は永遠に、日常の優しさで私を救ってくれた「ヒーロー」だ。そして、彼にとって、私は彼の弱さを愛し、その孤独を終わらせた「ヒーロー」になったのだ。
[完]




