第2章:役割の逆転
二週間後、文化祭が目前に迫った頃、学校全体に緊張が走った。生徒会会長である遥人先輩が、過労とストレスで倒れたのだ。
彼の入院は、文化祭の準備に大きな混乱を招いた。「完璧な青山先輩が…」「やっぱり無理してたんだ」という心配の声に混じって、「頼りにならない」という批判も聞こえ始めた。
私は、彼の机に置かれていた、彼の完璧なスケジュール表を見た。分刻みの生徒会・部活の予定の合間に、「父との面談」「進路資料作成」という文字が、赤くマーキングされていた。彼の完璧さは、彼自身の夢のためではなく、「誰かの期待」に応えるための仮面だったのだ。
病室で、やつれた遥人先輩は、私の顔を見るなり、目線をそらした。
「見ないでくれ、佐藤さん。こんな、弱っている僕なんか…」
彼は目を閉じ、小さな声で言った。
「僕は、完璧でなきゃ意味がないんだ。父さんにとって、完璧な優等生でいなきゃ…ここにいる価値がない」
私は、彼の細い手にそっと触れた。
「先輩…先輩が私にしてくれたこと、覚えてますか?」
「あのキーホルダーのことか?大したことじゃない」
「いいえ。あの時、先輩は『完璧な人なんていない』って言ってくれました。あの言葉が、私を救ってくれたんです」
私は深呼吸をして、はっきりと伝えた。
「皆が頼りにしているのは、完璧な青山遥人じゃありません。皆を助けてくれる、優しくて一生懸命な先輩です。完璧じゃなくても、少し弱くても、私にとっては、命の恩人みたいに大切なヒーローなんです!」
私は彼の目をまっすぐ見て訴えた。
「今度は、私が先輩のヒーローになりたいんです。だから、今は休んでください。皆のことは、任せてください」
彼から漏れたのは、嗚咽のような小さな声だった。彼は、誰にも見せなかった「弱さ」を、初めて私に見せてくれた。私の献身は、彼が抱えていた家族からの重圧という「鎖」を、初めて緩めることができたのだ。




