第1章:仮面の裏側
先輩と同じ空間にいたい一心で、私は生徒会室への雑用係に立候補した。憧れの存在に近づくのは怖いけれど、このまま遠くから見つめているだけでは、この輝きを失ってしまう気がしたからだ。
「佐藤さん、ありがとう。助かるよ」
彼の笑顔はいつも通り完璧で、周囲の生徒たちも彼に頼りきっている。しかし、近くで見る彼は、遠くから見ていた時よりずっと疲れているように見えた。
ある日の放課後。資料整理を終え、二人きりになった生徒会室で、私は決定的な瞬間を目撃してしまう。
遥人先輩のスマートフォンが震えた瞬間、彼の表情が一瞬にして氷のように固まった。ディスプレイに表示されたのは「父」の二文字。彼はためらい、静かに立ち上がり、電話を外で取る。
(遥人の声が、扉越しにかすかに聞こえる)
「はい、わかっています。生徒会活動は…もちろん、進路には関係のない、ただの『息抜き』です。成績は落としません。ご心配なく」
その声は、いつも優しく、明るく、生徒たちをまとめあげる彼の声とは全く違っていた。冷たく、抑圧され、まるで彼自身の感情を殺しているような響き。
彼は自分の部屋へ戻る時、気づかないふりをして資料に目を落としていた私を見て、一瞬、全てを見透かされたような焦燥の色を浮かべた。だが、すぐにいつもの完璧な笑顔に戻り、「じゃあね、佐藤さん」とだけ言い、生徒会室を後にした。
私だけが知ってしまった。皆が頼る、完璧なヒーローの背中は、誰にも寄りかかれない孤独で、凍えていたことを。




