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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界復活オレゾンビ~「吐血」が強スキルってマジ?~

作者: さぐものK

色々考えた新作のアイデアの一つを短編として投稿させていただきました!

もし人気が出たら長編として連載していこうかなとも思ってますので、面白かったら評価、感想、レビュー、☆、リアクションなどで反応頂ければ幸いです!


では、お楽しみください!

 君の人生は、『吐血』が特徴的な人生だったね!


 ……なんて言われたら、たいがいの人はキレると思う。

 そんな人生なら捨てても良かったんじゃ、とすら思う。



 死が始まりだった。


 元々病弱気味だった俺の身体が、流行り病に負けた。

 肺炎から、あっという間。


 家族の悲しむ声が、遠く聞こえた。

 根性のない親不孝な息子で、ごめん。

 妹、悪いけど頼んだ。



 闇の中をアテもなく漂う『俺』。

 ………このまま俺は消えてしまうのだろうか。


 いやだ。

 まだやりたい事がいっぱいあったんだ。

 美食とか、恋とか、名声とか……欲しいものだっていっぱいあった。

 でも全部、身体の弱い俺の手をすりぬけて……。

 ああ、もうちょっとだけ……。




「生きたいか?」


 !

 誰だ!?


「生きたいんなら、それを望め。強く強く望め」


 暗い、いや暗いかどうかも知覚できない虚無(きょむ)の中で、ハッキリと声が聞こえた。

 女性の声だ。


 どこから聞こえるのか、何者なのか。

 わからない。

 これは女神のチャンスか。

 はたまた悪魔の(いざな)いか。


 いや、どっちだっていい!

 俺は……俺はもっと生きたい!



 謎の声に促されるまま、生きる意志を強く持った時、『俺』がどこかへと引っ張られるような感覚が来て、意識が途切れた。




 目が覚めると、そこは────


 ……何処(どこ)だ、ここ。


 まぶたを開くと、薄暗い部屋の木製の天井が見えた。

 俺はどうやら仰向(あおむ)けで寝ていたみたいだ。


 しかし、病院の天井じゃない。

 背中に当たるゴツゴツとした感触から察するに、ベッドの上ですらない。

 いったい、ここは……?


 と、横を向いて、ギャッと声を挙げてしまった。

 骨だ、ドクロだ、髑髏(しゃれこうべ)だ。

 上半身を起こして見回すと、ドクロは部屋のあちこちに置かれていた。

 壁や床にはロウソクが置かれていて、いくつかは灯がともっている。

 そのおかげで部屋の様子が見える。

 壁は石造り、床は土、窓もない。

 しめっぽくて殺風景で、部屋の奥にある上への階段しか出入口がない。

 地下室?

 足元を見ると、細かい字が(きざ)まれた円が、俺を囲うように描いてある。

 魔法陣ってヤツだろうか、本物初めて見た。


 魔法陣を描く火葬場は無いだろうし、葬式にしても怪しすぎる。



 なんだこのジョークみたいな光景は……と、なんとなしに腕を見て、また驚いた。

 腕と腕を繋げた痕がある。

 繋ぎ目を(さかい)に、皮膚(ひふ)の色が微妙に違う。

 脚にもそんな痕がある。

 まさかと、小汚いズボンの中を覗くと、股間にすら痕がある!


「なんなんだ、これっ!!」



「おはよさん、お元気そうでなによりやね」


 背後から女性の声が聞こえた。

 ついさっき聞いた声だ!


 声のした階段の方を向くと、女性が階段をゆっくりと降りてきた。

 17歳の俺よりいくらか年上っぽい、若い大人の女性。

 20代前半だろうか。

 黒髪の、知的そうな美人だ。

 変な格好をしている。

 顔だけすっぽり覆えそうなフードに、青黒くてヒラヒラしてるけどボディラインがハッキリ分かる服、どことなく怪しげな模様の入った手袋、黒と白の横縞ニーソに革のブーツ。


入魂(にゅうこん)、大成功やね」


 女性は、(あわ)ててた俺とは対照的に、落ち着いた様子だ。

 いや、すこし楽しげですらある。


(あか)りよ!」


 そう言って女性が指をパチッと……鳴らそうとして失敗している。

 何回も。


「ええい!」


 ようやく成功してパチッと鳴ると、室内のロウソク全てに灯がともる。

 女性は深く息を吐いて、一仕事終えたという顔だ。

 ……知的そうな美人という評価は撤回した方がいいかもしれない。



「……で、誰?」


 俺は女性に質問した。


「キミを呼んだネクロマンサー(死霊術師)、名前はミザリィ。エギム・ミザリィや、よろしゅう」


「ここは?」


「ちょいまち、先にキミの名前聞きたいなぁ」


「……ルイ。獅子原(ししはら) (るい)


「ルイね、うーん……こっちの世界でもありそうな名前やし、ルイのままでええかな、うん」


「こっちの世界、って……」


「キミが今いるココは、前とは別の……『異世界』やって聞いたら……すぐに受け入れられるかなあ?」


 異世界。

 家や病院にこもりがちな俺にとって、ゲームや漫画や小説は良い暇潰(ひまつぶ)しで、いわゆる王道ファンタジーや異世界ものと呼ばれる作品も、色々知ってはいる。

 けどまさか、本当にあるなんて……。


 いやしかし、目の前の女性の、スマホガチャゲーの最高レアってカンジの格好は異世界そのものだ。


 あっ!


「異世界ってのがホントなら、俺の家族は……!」


「あー、もう会えへんね。悪いけど」


「そんな!」


「まあまあ、アタシが呼ばなくてもどのみちソコは変わらんかったんやから。文句言わんでな、なー?」


「それは…………そうか」


 不服だけど、納得するしかない、か……。

 父さん母さん妹よ、本当にごめん。


「そういえば、さっきネクロマンサーって言ってた気がしたんだが」


「ん、そう。キミの魂を、その身体に入れたのがアタシ」


「……この身体は、やっぱり俺のじゃあないのか?」


「そらそうよ。異世界から肉体までは持ってこれんからね。頑張って作ったんよー?その身体」


「作った、って」


 イヤな予感がする。


「今のキミは、作り物の継ぎはぎ死体に魂を入れて完成した存在。つまり──」


「『ゾンビ』なのか?」


「お、知っとるんやね」


「ふざけ……!」


 と、一時(いっとき)動揺(どうよう)に任せて怒ろうと立ち上がったが、じゃあ死んだ方が良かったかと言えばそんなことはない。

 出かかった言葉を途中で飲み込んで、座りなおした。


「おお、冷静やね。これはホントに大当たりの魂が来たみたいやなあ」


 ミザリィの品定(しなさだ)めするような態度に俺はギロッと(にら)んで反応した。


「ごめん、ごめんて」


 ミザリィは手を合わせて謝罪の意を示した。


 俺は深く鼻で深呼吸して、胸のモヤモヤを吐きだした。


「俺はなんで……いや、ゾンビをなぜ作ったんだ?」


「ボディーガードのために」


「……それだけ?」


「と言っても、そんじょそこらのボディーガードなら作るより雇う方が早いんよなぁ。キミじゃなきゃ、もとい『異世界の魂』でなきゃいけない理由はちゃあんとあるんよ?」


「というと?」


「『異世界の魂』は、世界を渡る際に強力な『スキル』が宿るはずなんよ。生前の魂の特徴をベースとした『スキル』を」


 なんだかなろう小説みたいな話になってきたな。


「俺にもあるのか?『スキル』」


「あると思う、けどなー、どんなスキルかは実際に見てみんと判別できひんのよね。なあキミは生前どんな人やったん?」


 ミザリィが、なんだかちょっと早口気味に聞いてくる。


「どんな、って……」


 生前の病弱(びょうじゃく)さを思い出し、言い(よど)んでいると、

 ドオンッッッッ!!!


 と、大きな音と振動が来て、天井からパラパラと砂粒が落ちる。


「なんだ!?」


「早ない!?」


 爆音のあとの静かな地下室に、足音が迫ってきた。


「やれやれ、居留守(いるす)を使うなんてひどいじゃいですか。おかげで扉を壊す手間ができてしまいましたよ」


「あーら『新世界党(しんせかいとう)』さん。今とりこみ中やから帰ってくれへんかな」


「やれやれ、いいかげんにステッシャーと名前で呼んでくれませんかねえ。ええ帰りますとも。貴女が素直に入党してくれるならすぐにでもね」



『新世界党』とやらのステッシャーと名乗る男は、青白い髪にモノクル、それに襟の立ってる金模様の入った白の長袖と、同じく白のスカート……ちょっと神父さんみたいな格好だ。

 これまた知的で冷静そうな雰囲気の男だけど、居留守してる家のドアを破壊するくらいだ。

 そこに暴力性が(ひそ)んでいるのは間違いないだろうな。



 しばし沈黙するミザリィとステッシャー。

 今なら会話に割って入っても大丈夫だろうか。


「『新世界党』って?」


 俺は質問する。


「長年の平和の裏で腐敗しきった政治を焼き付くして、新しい世界を皆で打ち立てよう!……ってのがコンセプトの、テロカルト(暴力的宗教)団体やね」


「人聞きの悪い……革命戦士の集いと呼んでいただけませんかねえ」


 ステッシャーは俺をチラと見て、鼻と口を服の(そで)(おお)う。


「で……そちらの方は……『ゾンビ』ですか?」


「そゆこと」


 ステッシャーの眉間(みけん)に深いシワが走り、顔が歪む。


「ミザリィ、貴女の力を本部の方達は所望していますが……私はゾンビが嫌いです。反吐(ヘド)が出る」


「せやったらさっさと帰ったら?」


 ミザリィは口調自体は余裕そうではあるけど、声色(こわいろ)からどことなく(あせ)りを感じられる。


「そういうわけにもいきません。本部も貴女の態度に腹を立てていましてね。ついてはこのたび、貴女に保護命令が出ているのですよ」


拉致(らち)誘拐(ゆうかい)ってことやろ?アンタんとこにハッキリ決別宣言してから、たった数日でこんな強行策(きょうこうさく)に出るなんてなあ」


「世界を変えるには、力に頼る必要があるのですよ」


 ステッシャーはゆっくりと、しかし堂々とミザリィに近づく。


 こんな状況、俺の好きだったマンガやアニメのヒーロー達なら見過ごすはずがない。

 俺は二人の間にサッと割って入った。


「待てよ!さっきからテロだの誘拐だのって、物騒な──


「ルイ!アカン!」


「え?」


 ステッシャーがこちらに手を向けると、目の前が突然爆発し、俺は吹っ飛ばされた!


「ぐっ……ああ!」


 何が起きた!?

 魔法………魔法ってやつなのか!?


 俺は階段とは逆方向の壁にぶつかり、もたれかかるように倒れた。

 正直、油断してた!

 今まさに人を誘拐しようとしてるような奴が、説得できるわけもないし、何の力も持ってないはずがないってのに!


 顔を上げ、ステッシャーを見る。

 ステッシャーの顔はさっきよりも大きく、怒りに歪みきっていた。


(けが)らわしいゾンビさんが私達の間に割り込んでくんじゃねえよ……ウゼえな!!」


 口調まで歪んできている。


 ゾンビになっても感覚は変わらないようで、全身が衝撃のせいで痛い。

 いや、痛いだけじゃない!片腕がもげている!

 ゾンビは(もろ)いものというイメージはあるが、うぐぐ……!


 俺が痛みにうめいている間に、ステッシャーはベラベラと熱く語っている。


「お前だけじゃねえ、政府は、人間は、世界は!穢れきっているんですよ!!不浄!不潔!不純!不名誉!穢れに穢れている!!!」



 ステッシャーのテンションが、どんどん沸騰している。


「政府の次は老人と病人と、病弱な奴ら全員だ!奴等は死と病気をその身に(ただよ)わせながらおめおめと生きている穢れの(かたまり)だ!クセェ汚ねぇ存在は、新世界には必要ねえ!!」


 そう言って、ステッシャーはその手に力を溜めた。


「……!」


 俺は、ステッシャーのその言葉にかつての記憶を呼び起こされていた。



 小学生の時から、時々血を吐いてしまうほどに病弱だった俺には、友達が作れなかった。

 いや、作らせてくれなかった。

 作ることが許されなかったと言ってもいい。


『病気がうつるから』


 実際、俺はその頃重い病気で、血を吐くことすらあった。

 しかしウイルスや菌による病気ではない。

 そう言っても、信じてくれない奴はいっぱいいた。

 クラスメイトが嫌うならまだしも、その親達がこぞって俺の陰口を言って、自分の子供を守ろうとしていたんだ。

 俺を見るたびにしかめっ面する親も沢山いた。

 中には「ルイを教室から隔離(かくり)しろ」と教師に訴えた親もいたそうだ。

 家族は俺を守ってくれたけど、自分の子を守りたい親の気持ちも理解できてか、あまり強気には出られなかった。

 でも、それでも俺は、あの親たちに言いたかった……。




「穢れてなんかない……!」


「あ?」


 俺は腕に力を入れて立ち上がり、ステッシャーを(にら)み付ける。


「俺は、不浄でも不潔でもない!!!取り消せ!!!」



「穢れの代表みたいな存在が何言ってんですか?クセェからはよ消えろや」


 ステッシャーが言葉を吐き捨てて、手から光球を放つ!


 うずくまった人間くらいならスッポリ(おお)いそうなサイズの光球!

 俺は、復活して早々に……!



「させへんわっ!!」


 身動きの取れなかった俺の目の前に、ミザリィが出てきて俺を(かば)ってくれた!

 俺はおかげで無事だったけど、ミザリィは全身がボロボロになっている……!


「か、はっ……」


 ミザリィは弱々しく息を吐いて、膝崩(ひざくず)れになる。


「ハッハハハ!ゾンビ作りで魔力を使いきったのですか!?バリアも張らずに身一つで『焼光弾(フラッシュファイア)』を受けるとはなあ!」


 ミザリィ、ボディーガードに守られる側が守ってどうすんだよ……!!


「やっぱ、アンタ……いや、『新世界党』嫌いやわ……」


「ああ~?」


「アンタらは……歴史を、過去を、人間を、なにより死を侮辱(ぶじょく)しとる……!ネクロマンサー(死霊術師)はなあ、そういうのに敬意を持っとらんとやっとれんのよ!だから……アンタみたいなクソは大嫌いなんだよ!!!!」


 ミザリィ……!



「ふ~~ん」


 口をとがらせたステッシャーの手が、ミザリィの顎をガッシリと掴んだ。

 そしてその手でミザリィを持ち上げ、横の壁に押さえつける。



「そうそう、私もうひとつ嫌いなものがありましてねえ。貴女のその田舎臭いレザンソオ(なま)りも嫌いなんだよなあ!」


 ステッシャーの、光る人差し指がミザリィの服の上を滑ると、服は裂け、肌に傷がつく。


「うぐっ!……え、ええんかなあ?『新世界党』さん?貴重な人材にさっきからこないな傷をつけて……」


「幹部たちにはどうとでも言い訳ができます。それに……ククッ、ただ連れて帰るのも勿体ない。少々『味見』しておくとしましょうかねえ」


 ステッシャーの顔がミザリィの鼻先に触れるほど近づき、口を開いてねばっこい舌を出す。


 俺は拳を握りしめた。

 女を傷つけて、女を侮辱して笑う奴!!

 このゲス野郎!穢れてるのはそっちの方だろうが!!!

 許せない!許しておけない!!


「うおおおっ!!」


 俺が熱血のこもったパンチをおみまいしようと立ち上がり、走り出したその時、俺の(のど)の奥から込みあげてくるものがあった。

 喉がつまり、足が止まり、呼吸ができなくなる。


「がっ!ゲホッ!ゲホゲホッ!」


「ルイ!?」


 ミザリィが心配そうに俺の顔を見る。

 咳をしても俺の喉は収まらず、むしろ何か、液体が逆流してくる感覚があった。


「グエボッ!!」


 俺の口から勢いよく、赤い液体が出た。

 鉄臭くて、赤黒くて、生前もちょくちょく見ていたもの。


 血、だ。



「ど、どこまでも汚ならしい……!病人の死体を使っていたとは!!」


 ステッシャーは激しい嫌悪(けんお)の表情で俺を見る。


「そんな!?病人の死体なんて使ってへん!きちんと確認も洗浄もしたのに、なんで……!?」


 その時俺は、ミザリィが少し前に言っていた言葉を思い出した。


『異世界の魂は、生前の特徴をベースにしたスキルを持つ』……

 まさか、まさか!



「俺のスキル(生前の特徴)は『吐血』だってのかよおおお!!!」



 それはつまり俺の人生の、いや魂の特徴が『吐血すること』だと神に言い渡されたようなもの。

 特徴って言ったら普通は長所のことだと思うだろ!!!

 なのに、こんな、そんな!!


 今まさに人を助けようとしている俺の足を引っ張る『スキル』なんて!!

 馬鹿は死ななきゃ治らないなんて言葉があるが、俺の場合は『病弱は死んでも治らない』だってのか!?!?

 俺は身体が変わっても、ずっと病弱のままだってのか……?

 ふざけんな……ふざけんな、ちくしょう……!



 俺の叫びを聞いて、ステッシャーはガタガタと震えだした。


「『スキル』!!スキルと言ったのですかテメエは!!あの、異世界の魂が持つという!?ああ!恐ろしいっ!!!病人というのは魂まで穢れているのですねえ!!焼かなきゃ……!やはり魂も残らぬように消さなければ!!新世界に残る私に、穢れがうつる前に、はやく死ねカスがッッ!!!!」



 ステッシャーが掌をこちらに向け、魔力らしき光を溜めている。

 さっきミザリィが庇ってくれた時の光より、さらに大きい。

 こんなの食らったら、さすがに……


 いや……もういっそステッシャーの言うとおり、魂ごと消えてなくなったほうが、俺自身のためでもあるのか……?

 こんな魂、存在してたって……。


 フラッとそんな思考が()き出た時、ミザリィの苦しそうな顔が視界に入ってくる。

 俺を庇ってくれたミザリィの顔が。



 俺は唇の端を血が出るほど噛み、自分に気合を入れた。


 俺がどんな奴だろうと、それでも、それでも!

 ステッシャーだけは許しておけない!

 世界がどうのとまでは言わない。

 だけどミザリィだけでも、救いたい!!

『吐血』でもなんでもいい!

 ステッシャーを……目の前のゲス野郎を倒せる力を、なにか!!俺に!!


 俺の胸の中に、熱いものが込み上げる。

 それが感情か、あるいは血かも分からないほどに 、俺の心は燃え上がっていた。


 誰かに吐けと言われた気がして、口を(おさ)えもせず俺はソレを吐き出した。


「ぶへぇっはぁ!!!」


 口から出たのはやっぱり血だった。

 ……だが。



 シュイイイイイッ!!!!



 吐き出された血は、射出という言葉が適用できそうなほどの超高速で放たれ、ステッシャーの肩を(つらぬ)いた!

 まるでウォーターカッターのように!



「「!?」」


 ステッシャーも、ミザリィも、そして俺自身も驚いた。

 これは!これはいったい何なんだ!?



「う、ぐうああああ!?」


 驚きで痛みを忘れていたのだろうか。

 ステッシャーは貫かれてからすこし間を空けてから、叫び出した。


 ミザリィを掴んでいた手は離れ、彼女は尻餅をついた。


「す、すごい。これが……」


 ミザリィが、ぼそっとつぶやく。



 や、やった!

 ステッシャーに一撃喰らわせてやったぞ!!

 これが俺の『スキル』の力……!

『吐血』の力なのか!!



「きっ、傷が!血が!穢れがあああ!」


 ステッシャーは歯を()き出しにして、顔中に血管を浮かび上がらせながら怒っている。


「#^。%+゛?/ーーーーー!!!」


 もはや言葉にもならない叫びと共に、ステッシャーはさきほど溜めていた光の弾を放つ。


 で、デカい!!

 こんなの喰らえば、焼死か破裂死だ!!!

 防御しなきゃ……防御?

『吐血』でどうやって……!?

 熱くなった頭では、うまく考えられない!


「『霧』やぁっ!!」


 !

 わかった!


 ミザリィのアドバイスに従い、俺は血をフウッと()き出す!

 すると、その血煙(ちけむり)によって光弾が散らされていった!


「やった!いけた!」


 ミザリィの予測がうまく当たってくれたみたいだ!


「んがっ……!!こ、こんな!こんな汚ねえスキルに!!汚ねえ魂に!!」


 ショックを受けるステッシャー。


「さあ、一発デカいの、ぶちこんだれぇっ!!」


「うおおおっ!!」


 俺はミザリィの声に(こた)え、スウッと息を吸い込み、(たぎ)る血を喉に溜めていく!


「ぐ!?ば、バリア……!」


 遅いぜ!ゲス野郎!!

 くらいやがれええええええ!!!!!



 俺の口から、さっきよりも太く赤黒い、血のレーザー砲が放たれる!



「こ、こんな……!私は!私は新世界に……!ひ、ひいいいっ!!」



 血のレーザーはステッシャーの身体を真っ二つに切り裂き、吹き飛ばした。






 ──半日後。



「さて、行こか」


「荷物、少ないですね」


「敬語はよしてって言うたでしょ?アタシは死者に敬意持ってネクロマンス(死霊術)やってんねやから。主人と奴隷やなくて、ビジネスパートナーでいこうや、な」


「……分かった。でもホントに大丈夫か?荷物」


「心配いらへんよ!アタシ、ネクロマンサー界15年に1度の天才って呼ばれてんやから。仕事なんて旅先でいくらでも見つかるて!」


「いや、カネの心配もあるけど……この物資(ぶっし)で『新世界党』の本部をツブすって、出来るのか?」


「出来るってえ!というか、党員1人ヤってしまった以上、こっちから行かんと刺客が続々やってくるやろうしなあ。退くも進むも地獄なら、やってみる価値はある!……それに」



「それに?」


「あの『吐血』!無詠唱であれだけの力出せるのはまさに異世界人の『スキル』!勝つ見込みとしては十分!!いよっ!勇者様!」



 さっきから不安がってる俺を元気付けようとしているのか、ミザリィは明るく、優しげにニッコリと笑った。


 彼女のその笑顔を見るために、俺の存在が、力が……吐血が、使えるのならば頑張ってみよう。戦ってみよう。

 まだ出会ってすぐの関係なのに、なんだかそう思えた。



「よし!俺も気合い入れて頑張るぞ!エイ、エイ、ウォロロロロロロ」


「あーもうまたかい!スキル使ってからこっち、興奮すると吐血するようになったみたいやから落ち着けって言うたのに!」


「そんな事言われても、根性と熱血は俺のトレードマークみたいなもんで」


「こない根性論の好きな病弱さん初めて見るわ……」



 とほほ。



「あ、外では仮面つけてな」


「なんでだ?」


「キミの身体の頭部として使った死体、結構名のある冒険者の遺体でなあ」


「うん」


「……墓漁(はかあさ)りがバレたら、最悪、憲兵(けんぺい)に追っかけられてまう……」


「勝手に遺体使ってんのかい!!!死者への敬意はどこいったんだよ!!!」


「死者ってゆーたら魂の事を指すのはネクロマンサー界では常識やもん!身体は死ねば肉の塊!!一般人はそのへんの常識分かってへんねや!!」


「墓漁り女が常識を語るなーーー!!オロロロロロロ」


「ああっまた吐血してー!」



 ……苦難の多い旅になりそうだ、色んな意味で……。

最後までお読みいただきありがとうございました!


もしルイとミザリィの旅の続きが気になった方は、評価、感想、レビュー、☆、リアクションなど頂けると連載するかどうかの判断基準になるのでぜひよろしくです!!

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