久方振りの再会
素敵な国にやってきたばかりの一人の老人が困った顔をして辺りを見回していた。
大きな眼鏡から覗く目が泣きそうな子供のものとほとんど変わらない。
そんな様子に気づいた国民達がやって来る。
「どうされたのですか?」
「何かお困りですか?」
人々の温かな問いかけに老人は安堵の息を一つ付きながら、それでも少し震える声で言った。
「人を探しているのです」
「人を?」
老人を囲む人々の内、一人の少女が問い返す。
「はい。ここで待ち合わせをしようと約束をしたのですが……どこにも姿が見えなくて」
もし見つからなかったら……そう零して、老人は涙を流す。
それを見て国民達は優しい言葉をかけ、その背中を擦った。
「私達も一緒に探しますからどうか安心してください」
人々は口々に言い、その中で先ほどの少女が問う。
「どんな方なのですか?」
「お婆さんです。私と同じくらいの。ただ、私より一年程前にここにきているはずなのです」
その答えを聞いて人々は何かを察する。
そわそわとし出した彼らを見て、老人の心に一抹の不安が湧き出る。
違和感から彼らを改めて見てみると、奇妙なことに国民は全員が同じほどの年齢で老人どころか中年さえも居ない。
皆が少年や少女、あるいは青年に差し掛かるほどの姿形をしているのだ。
「あなたのお名前は?」
少女がため息を一つして老人へ問い、老人は心細さを感じさせる小さな声で答えた。
「やっぱり……あんた、天使の言う事をまともに聞いていなかったんでしょ」
くだけた口調になる少女を見て国民は皆、安堵したように微笑む。
しかし、その中で老人一人だけが混乱したような目で彼女を見返していた。
「いい? ここに入る時、天使が説明してくれたでしょ? 天国では自分が望む姿でいられますって」
その言葉を言い切ると同時に少女の姿が一気に老けだし、やがて老人が探し求めていた姿に変わった。
「こんな姿が嫌だったから若くなっていたのに」
老女の姿と声を聞いて老人は息を漏らす。
捜し人が見つかったのだ。
老女はすぐに少女の姿に戻ると他の国民達に気恥ずかしそうに謝罪をする。
「皆さま、ごめんなさいね。うちの旦那が……」
言葉が終わらない内に老人が少女を思い切り抱きしめ、そのまま大声で泣き出した。
「早く会いたかったのね」
国民達が言葉と涙を落とす。
死後に必ず再会をしよう。
そんな約束が果たされる唯一の場所。
そう。
この国、天国ではこのような光景はあり触れたものだし、また誰もが経験をしたものでもあった。
そんな中で少女は気恥ずかしそうに笑う。
「うちの人ったら、昔からこうなんですよ。慌てると何にも見えなくなるの」
言い切ると彼女も老人の身体を抱きしめ返して呟いた。
「あなたが恋した姿さえも忘れちゃうなんてね」
老人は嗚咽の中に思いを込める。
「君で良かった」
どこよりも素晴らしい国の民たちは新たな住民を皆で歓迎した。