日めくりカレンダーと、飛んでゆく紙飛行機の夢
日めくりカレンダーをめくった後の紙を、みんなどうしてるのだろうか。
我が家の日めくりは漢字のクイズのものを使っている。私は読むだけなら得意だ。季節に関連するものや、好きな趣味の漢字は読める。
興味なかった出来事や人名や地名の当て字など、知らない文字や読めない漢字もあり、脳トレーニングになる。
「わざわざカレンダーを買わなくても、スマホで調べられるよねぇ」
辞書も引かない娘には、小バカにされた。先立つ知識があれば携帯は調べるのに便利だ。日めくりの印刷面裏側は、白紙なのでメモに丁度良いのだ。
「はいはい。カレンダーもメモも、その知識の結晶にあるんだよね。お母さんが呼んでいるから行くね」
「あぁ、気をつけてな」
娘はミュージカル好きな妻と出かけて行き、私は静かな休日を過ごす事になる。
一人になると悔しさがこみ上げる。ハムレットの漢字表記が、私は読めなかった。娘はあっさり答えられたので、なおさらだ。
娘が博識なのは、それはそれで嬉しい自分がいる。
「我ながら、いつまで経っても親バカだな」
そう言いつつ滅多に使わなくなった紙の束に目を移す。今年の分だけでもかなり溜まっている。一番上は娘の書いた飛行機の落書きに文字。
「紙飛行機か、懐かしいな」
娘のメモは取っておく。紙の束から一枚抜き取り紙飛行機を作ってみる。狭い我が家の室内を解放し、悠々滞空する姿を想像した。
さあ──夢の一飛を‥‥そう思いそっと紙飛行機を浮かせるイメージで投げた。
──ポスッ
30センチで墜落した。
作り方が甘かったようだ。重心を気にし過ぎた。なに、紙は捨てるほどある。
少しずつ形を変えては飛ばす。私は童心に返ったように夢中になる。気がつくと家の中が紙だらけになっていた。
「ただいまぁ〜って、何コレ!」
二人が帰って来た。見知らぬ若い男も一緒だ。嫌な予感に、妻の叱る声が耳に入らない。
「紙飛行機ですか。その紙のサイズならこうするとよく飛びますよ」
娘の同級生だろうか、馴れ馴れしく日めくりの紙を取り、手早く紙飛行機を作る。
スッと軽く飛ばした紙飛行機は一直線に我が家の最長の廊下滑走路上を飛んだ。
「やるじゃないか‥‥って君は誰だ」
「娘さんとお付き合いさせてもらってます」
「あっ、お父さん彼の動画見てたんだ」
娘のメモは、彼氏の作った紙飛行機の動画サイトだったようだ。
散らかした紙を片付けながら、私は色々と娘の策戦にはめられた事を知った。しかし悪い気はしなかった。
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