60-2 奪回
【60話】Bパート
舞台は地下施設で無事静那と再開できた7名。
「大げさだよ~まだ別れて24時間も経ってないのに…」
静那が困惑する中、泣きながら静那に抱きついてくる仁科さん。
葉月も静那の元気な姿を見て涙を流していた。
2人とも緊張状態が続く中で必死に自分を保っていた。
静那という存在のおかげでなんとか乗り越えられたのだが、ずっと気が休まらなかったのだろう。
「何か怖い事でもあったの?」
仁科さんを抱き留めながら勇一に聞いてくる静那。
「まぁあると言えばあったんだけど…」
「何?何があったの?」
目の前でこんなに仁科さんが泣いているのだ。余程の事が…と緊張状態で聞く静那。
「あの首無しの人間に…また会った。」
「そうなんだ。」
「ってエエエエ!静那リアクション滅茶苦茶薄いな。」
「そうかな?でもその首無しの人はこちらが攻撃しなければ手を出してこなかったでしょ。
命令だったら分からなかったけど。」
「あ。」
「確かに。」
「おおお。」
「静那ちゃんソレ何で分かるん?」
「私と会った時も何もしなかったから。残念ながらそのまま消えていっちゃったけど…。」
その静那の発言にお互い顔を見合わせる。
「これもしかしたらなんとかなるんちゃうか?」
「瓢箪からコマやで。」
ここは『MFドイツ支部』地下施設の中だ。
7人は一旦、静那と合流する為ベルリンまで戻ってきたのだ。
真也の拘束が解け、無事釈放されるまでは、ここで静那と一緒に滞在させてもらえる許可を頂けた。
しかし静那の首無し人間に対しての意外な見解に“何か”を感じずにいられない。
「グリムさんっ、真也達が拘束されている場所は?」
「分かるよ。発信機が機能している。ここからそんなに遠くない。というかベルリン市内だ。」
「相手の動きは?」
「そこまでは分からない。恐らく番兵であるアンドロイドを配置させ終えたら“任務の遂行”へと向かうんじゃないかと…」
「あまりゆっくりできないってことか…」
「おいおい勇一君。流石に無理じゃないか?さっきのお姫さんの話から攻撃を受けない保証はどこにもないぞ。
それどころか生きて帰れる保証もない。
ロックオンでもされたら我々でも守れない。」
「でもグリムはん。俺あの時、違和感感じてたねん。
あの局面でトイレ行ってもあいつなんもしてこんかったし…」
「そういえば。」
「どうしたよ生一。」
「たしかあの男言うてた。“この人兵器は無益な事はしない”言うて。任務以外の事は。
要するに命令の邪魔やなかったら殺生はせえへんいう事や。」
「だからってそれが決め手になるのかよ。
“侵入者は抹殺”とかの命令組み込まれてたらあかんやんか。」
「じゃあフレンドリーに接してみれば。」
「お前やれる勇気あるんか?」
「いや、怖い。」
「やろがい!」
先ほどからそんなやりとりを見ていた静那が切り出した。
「じゃあ私がそのアンドロイド?って人に会いに行こうか?」
しかし反論の嵐となった。
まずグリムバートさん。
「危ない!君は守らないといけない最重要人物だ。」
「でもあまり時間無いんですよね。」
「そうだが、私の判断だけでは決められない。」
「今セルジオさん捕まってるんだからグリムバートさんの判断でいいんじゃないかな?」
「それは…何とも言えないが…」
グリムバートさんがここまでうろたえる姿を見るのは初めてだ。それくらい打開案が無茶だということだ。
勇一達の間でも意見が分かれる。
「駄目よ。もししーちゃんに何かあったら誰が守れるのよ!嫌よ!」
「私も静ちゃんに何かあった時の事を考えるとリスクがあり過ぎると思う。」
「静那ちゃんにあんな危ない所行かせられへん。」
「俺もや。お前はずっと俺の傍におれ!何も嫁が犠牲にならんでええねん。」
「静公になんかあったらよう援護でけへん。そこを冷静に考えたらな…何とも。」
しかし賛成意見もある。八薙と…勇一だ。
「俺は…これから先を考えたら賭けてみるのもいいかと…もし何かあれば静那連れて皆で全力で逃げましょう。」
「ギュンターさんを失うのは今後の情勢を考えたら痛すぎるからな…さっきは悔しさのあまり涙が出たけど、なんとかできるなら諦めたくない…」
「勇一!お前見損なったで。
静那ちゃんに何かがあってもお前守られへんやろがい。
しかも一番重傷の癖に!
俺かて何とかしたい!
でも俺は少なくともそういう部分を冷静に考えてから反対してんねんぞ。」
「何も静那の事ないがしろにしてはいないよ。でもお互いの素直な意見って事で言ったまでだよ。」
やや感情的になっている兼元をなだめた上で静那に視線を向ける。
「皆の気持ちはこうだけど、静那はどうしたい?」
このままではドイツの分断は根元から確実に進んでいく。
ギュンター氏抹殺により情勢が一旦傾いてしまえば、覆すのが困難になってくる。
その瀬戸際で自分達は何もできずに手をこまねいているだけにはなりたくない。
静那は少し考えた後、自分の気持ちを正直に話しはじめた。
* * * * *
真也達が捕縛されている建物はベルリン市内にあった。
中で4人が鉄格子に監禁されている。
鉄格子だけなら真也だったら力づくで開けられるかもしれない。
しかし、出入り口の所にはあの首無し人間が駐在している。恐らく見逃がしてはくれないだろう。
精鋭の隊長であるミルヒと呼ばれていた男は、隊員のケーゼを連れギュンター氏の邸宅へ再び向かった。
一番の抑止力であった真也は動けない。
もう脅威はなくなったとばかりにミッションコンプリートへと向かう彼らの姿を『MF』の2人やハインさん、真也は黙って見守るしかなかった。
悔しさのあまり涙しそうになるハインさんの肩に優しく手をあてる真也。
「これからどんな戦局になっても僕らがハインさんをフォローするからさ。
僕達は絶対にあきらめない。
僕は会う事が出来なかったけど、先輩方総長さんの事が大好きだったんだ。
絶対にお兄さんの意志は引き継がれていくよ。」
「ご…めん…」
「自分を責める事無いよ。ハインさんは悪くない。
悪いのは…というより、あんなの…“交渉”でも何でもない。」
交渉とは何だったのか…
「“交渉事”ってのは本来異なる立場や利害を持つ人々が、お互いに納得できる合意点を見出すためのコミュニケーションのはずだ。
お互いにとって最適な解決策を見出すもの…
あれは交渉じゃない!ハナッから“相手の感情や状況に配慮する”モノではなかった。」
あの大人達が展開してきた“交渉のようなもの”に心から理不尽さを感じる真也。
「それがあんたらのやり方なら、こっちにも考えがある。
この落とし前はいつか必ずつけさせていただくからな。」
* * * * *
そんな真也達が捕縛されている建物からほど近い場所に車を止めたグリムバートさん。
車を降り建物に向かおうとする静那に告げる。
「いいかい。これから言う事は命令だ。厳守してくれ!」
「はいっ。」
「自分の命を一番に優先する事。
君の事を想っている人間がいる。それを忘れずに。
危ないと思ったら外へ逃げるんだ。」
「分かりました。」
「いいか。危険を感じたらすぐに報告しなさい。
周辺に駐在している我々全員で一斉に駆けつける。
何も大佐…君のお父さんに顔向けができないからなどではない。これは私の意志だ。
いいね。自分の命を最優先にすること!」
「ありがとうございます。行ってきます。」
敵のアジトへ単身乗り込むというのに悲壮感一つ見せない静那。
これはようやく地上を出歩けるという解放感なのだろうか。
真也達が捕縛されている場所は、セルジオさんの付けている発信機ですぐに分かった。
外から見れば小さな事務所という感じだが、恐らく中に牢屋があるのだろう。
しかも入り口に入ってすぐ、あの首無し人間が配備されているらしい。
入っていくや否や予想通りアンドロイドが行く先に立っていた。他に人間は居ない。
考えてみれば当然だろう。
このアンドロイドさえいれば警備の人間など必要ない。
「ごめんください…」
少し奥まで入ったところで早速アンドロイドとはちあった静那。
そんなアンドロイドにまず挨拶してみる静那。
「こんにちは!」
するとそのアンドロイドは静那の姿を見るなり驚いたようなアクションを見せる。
一昨日対面したあのアンドロイドと同じ反応だ。
顔が無いので表情は分からないがそんな感じがした。
「あの…」
静那が話しかけようとするとアンドロイドは静那のほうへゆっくり近づいてきた。
そのまま真ん前まで近づいてきた。
静那と同じくらいの背丈か少し小さい位。
そして静那の体、肩の部分に手をあててきた。
「私の事を知ってるの?」
静那は表情こそ分からないが目の前のアンドロイドに問いかける。
答えられるわけもないのだが、静那の肩に触れた後、その首無しアンドロイドは安心したような雰囲気になる。
そしてそのまま体から煙を出し始めた。
「ああっ!」
体が蒸発したように溶けていく。
あの時と同じだ。
突然体中から煙を出し、灰になっていく。
不意に建物の外側から風が入ってきた。その風に乗って灰が空中に散らされていく。
何も言わず…何も言えず……そのアンドロイドは灰となってどんどん朽ち果てていく。
灰になって消えていく中、静那は何となく感じとる。
「この人は恐らく私の事を知っていた…そして、私を守ってくれたんだ…」
建物の外から今度はやや強めの風が吹きつけてきた。
体の殆どが灰になり、風に舞う。
「ありがとう。私は元気です。」
この奥に居るであろう真也達を助けないといけない。
しかし目の前のアンドロイドが完全に形を失うまで静那はその場で見守り続けた。
首が無くても意識や感覚が“シーナ”を覚えていたのだろうか。
かつての仲間…最後の生き残りである彼女の生存を確認し、幸せになってほしいという意識で戦意が喪失したのだろうか。
理屈で説明できることではない…
表情こそ分からないが、安らかに消えていくように見えた。
やがて、わずかに残った灰と僅かな骨だけになったアンドロイド。
静那は手を合わせ、冥福を祈った。
「どうか安らかな眠りを。次は幸せになって…。」
* * * * *
「真也!助けに来たよ。」
この間の抜けた明るいセリフと共に登場した静那の姿に4人全員驚きの声を上げたが、一番驚いたのは言うまでもない。
「静那ッ!なんでここまで来れたんだ。」
「何でって門番してた首無しの人が通してくれたんだよ。」
「首無しのって…あの…人兵器って呼ばれてる。」
「あの人、こちらが攻撃しなければ何もしてこないよ。」
「そう…か…そうなんだ…いや…そうだったんだな…」
まだ信じられないという表情の真也。
セルジオさんとクラウディウスさんも信じられないとばかりにお互い顔を見合わせる。
「お姫さん、まずは無事で良かった。で、あの人兵器は今どうなってる?」
「その…一昨日の人と同じように灰になりました。」
「そうか…にわかには信じられないけどな…」
真也がこじ開けた鉄格子から最後に出てきたハインさん。
すぐに助けに来てくれた静那に反応する。
「貴方は確か…」
「あっ。静那です。こっちの地方の言い方だと“ズーニャ”かな。」
「ありがとう。ズーニャさん。助けてくれて。」
「それよりもギュンターさんが。早く行かないと危ないよね。」
「そうだ!!」
突然そう叫んだかと思うと真也の顔つきが変わる。
「もう真也、びっくりした~。すぐ隣で叫んだりして。
どうしたの?」
「早くギュンターさんを助けに行かないと。」
すぐさまセルジオさんが反応する。
「大丈夫だ。真也君。今ならまだ間に合う。行けるな?」
「勿論ですっ!」
「天から与えられた千載一遇のチャンスみたいなもんだ。絶対に逃してなるものか!」
「はいっ!」
そう言って2人は建物の外へ勢いよく出ていった。
外には『MF』の車を待機させている。
おそらくその車を拝借して一気にギュンター氏の邸宅まで向かうだろう。
「はははは…忙しないね。真也。」
「真也君はともかく、セルジオの奴も相当腹に据えかねたものがあったんだろうね。あんな交渉を持ちかけられたんだから。」
「あんな交渉?」
「それに関しては後でちゃんと説明するよ。
それよりもだ。
君は君で我々を助けた後、どうするように言われているのかな?これは任務なんだろう?」
「ああ、そうでした。」
静那は使い慣れないゴツイトランシーバーを取り出す。
「外傷無し。4人共無事に助け出すことが出来ました。静那、これより帰還致します。」
そう報告し終えた後、クラウディウスさんの方を見る。
「うん!上出来だ。」
物語はドイツ編後半。攻勢編の華僑です。
ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。
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