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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
221/226

59-1 交渉という名の脅迫

【59話】Aパート

ここは混乱の続く市街地のど真ん中…


仁科さんや葉月の乗っている『MF』所有の事業用自動車の中。



ラジオから勇一の演説が流れた後、次第に渋滞が治まっていくのを感じる。


恐らくドイツ人たちに彼の心意気が通じたのだろう。



そしてその数分後、トランシーバーより市庁舎内まで乗り込んできたあのアンドロイドが灰のように崩れ去り、自害したような感じで果てたという報告が届いた。



「良い報告が入った。真也君は無事だ。皆もなんとか生きてる。今のところどうやって人兵器を退けられたのかは不明だがね。」


その報告を聞いた途端、肩を震わせる仁科さん。




先ほど後ろの男達に言われていた言葉…


“今回ばかりは流石にあの少年、死ぬぜ”に内心は不安で仕方なかった。


鉄格子を挟んでとはいえ、すぐ後ろには男達もいる。


気を緩められる状況ではなかったが、真也が無事だという知らせを聞いて涙が止まらなくなった。


肩だけを震わせながら無言で涙を堪える仁科さん。


その様子に気づき、肩を優しく撫でる葉月。


「よかったね。皆…無事で。」


「うん……よかっ……た…。」



安心したのか涙が溢れてきた。


彼が死んでしまうのではないか…もう会えないんじゃないか…そう思うと本当は胸が張り裂けそうだったのだ。


「真也が無事で……本当に…良かった…。」


安堵の気持ちをそのまま口にした。


仁科さんのまっすぐな想いだ。ただただ真也の無事に涙を流した。



「あらあら…泣いちゃって…」


「そちらのお姉さんは、あの少年の事が好きなんだな。」


後ろの鉄格子から男が聞いてくる。


「……黙ってて。」


すぐに葉月が制するが話は続く。



「まぁ普段は大人しそうなのに仲間を守るとなれば人が変わる…惚れないわけないよなぁ。」


「黙ってなさい!」


葉月が“今は余計な事を言わないで!”とばかりに制する。


「でもあんたは自分も幸せにならないといけない。なにせ女だ。」


「何が言いたいのよ。」


怪訝そうな顔で葉月が問う。


せっかく仲間の無事を知れたのに無粋な事を言ってくる男達に純粋に腹が立った。



「他人を愛していると信じていてもそれは自己への愛から生まれたもんだって事だよ。

アイツさえ幸せならいいってか?

そこまで達観した境地に行けるのは大したもんだ。…でも女は男とは違う。

見返りが無いと分かっている人の為に、女は尽くせないもんなんだよ。

結局、究極は自己への愛を選ぶ。」


「黙って!」


「土壇場…というか最後には女って生き物は自分を取る。

そういうもんなんだよ。」


「何が言いたいのよ。もう黙ってなさい!」


葉月が一喝する。



「天摘氏…相手の言葉にいちいち心情を揺さぶられては駄目だ。

ほら、車が進み始めた。

渋滞も収まったようだ。

彼らとの合流へ急ごう。」


「…はい。」


先ほどから何とも意味深な言葉を投げかけてくる男達。


自分達の心の奥底で抑えている不安感をピンポイントでえぐり出してくるような言葉…


正直、畏敬を感じた。


先ほど話していた台詞も気になるが、今は勇一達と合流して仲間の顔を見たかった…


鉄格子を挟んでいるとはいえ、こんな化け物をすぐ後ろにして心が落ち着かなかった。


とにかく安心したかった。



「もう間もなく到着する。軍隊も引き払っているようだから庁舎内へ入る事も可能だろう。

私達はこの後彼らを事務所へ連れて行く。

またメンバーから連絡が入るから、皆と固まっていてくれ。庁舎横の病院にて今は安静にしている。」



「分かりました。」「お願いします。」



市庁舎が正面に見える広い道路で2人は降ろしてもらった。


鉄格子から見える3人の男達の顔は忘れられない。


一歩間違えれば精鋭でもある彼らに生け捕りにされ、交渉道具としての人質にされていたかもしれない。


気持ちだけは彼らに負けてなるものかと葉月は去り際に男達を睨みつけた。


「良い表情してるねぇ。やっぱり俺、あの東洋人好きかも。」



車はそのまま夜の街に消えていった。


この後、仁科さんと葉月は勇一達と無事合流を果たすことになる。



火災の対応はギュンター氏がその後必死に対応してくれた為、日付が変わる頃には治まっていった。




* * * * *




仁科さんと葉月が男性の居る病室に合流する。


「皆!ちゃんと生きてる?」


「生一以外皆“包帯組”ね。」


「はい…何とか。」


「何やねんそのダサい名前。ユニットにもして欲しくないわ!」


「いきなり入ってきてねぎらいの言葉一つも無いんか?だから嫁失格やねんぞ。」


「うん…生きてる生きてる。良かった良かった。」


「ぶち殺がしたいところだけどとりあえずは生存確認…っと。」


「まぁ本当ですよ。」


「2人にも後で詳しく話すけど、明日ここを発ってスイスに戻る事になった。突然でごめん。

急な流れだけど大丈夫か?」


「まぁそんな流れになると思ってた。ここはもう私たちが安全で居られる場所じゃないもんね。」


「ええ。それに私達もこれからどうするか…考えないといけないんじゃない。」


「そうだな…」


「そういえばしーちゃんは?真也君の方は用心を兼ねてあの議員さんの護衛で出払ってるんでしょ?」


「静那なら今『MF』メンバーから事情聴取受けてるぞ。何せ人兵器を退けた張本人なんだから。」


「退けた??それって本当?」


「勇一。今の言い方やと語弊あるやん。

何か知らんけど静那に触れた瞬間、自ら朽ち果てていった言うてたで。」


「自ら?」


「そう聞いてる。…なんだか怖いよな。その理由の先を知るのがさ。」


「ええ、本当。静ちゃんの過去を知ったからっていうのもあるけど。」


「知らんでもええ世界に興味本位で足を踏み入れてええかどうかいうのも考えないかんな。」


「その件も含めてとりあえずスイスで話そう。まずは皆の回復が第一だし。」


「そうね。このままだと皆が包帯だらけになってしまいそう。」


「何で俺らがダメージ負うの前提やねん!負けっ放しで終わる俺ら違うんやぞ!」


「はいはい。」


「“はい”は一回や!」


「もうコイツも一ぺん死んできた方が良いんとちやうか?そしたら勇一みたいに浄化されて変態も治るかもしれんし。」


「確かに。」


「“確かに”ちゃうわ。」


「おい!俺は変態じゃないぞ!それに何だよ、浄化って!元が酷かったみたいに言うなよな~」




会話にまとまりも収拾もつかなくなった辺りで静那が部屋に戻ってきた。


「あ、葉月と小春も!」




「良かった、無事で。」


「しーちゃん!」「静ちゃんも無事で良かった~」


まず女子3人で抱きしめあい、お互いの無事を喜ぶ。



「なにあの三食丼みたいなん。」


「茶化すなよ。仁科さん達も不安だったんだから。」



そうしているうちにセルジオさん達『MF』のメンバーも病室に戻ってきた。




「真也君以外は皆揃ったかな?」


「セルジオさん!この度はその…ご迷惑をかけました。」


「とんでもない。君達レディーを守れなかったこちらの責任だ。もし君らが無事でなければ合わす顔が無かったよ。」


「とんでもないです。」


「まぁ反省する部分も多々あるとして…今後の事を話したい。」



「皆で一旦スイスまで引くというか非難するって事ですよね。ざっくりとですが仁科さんと葉月には伝えましたよ。」


勇一が不思議そうに答える。何か追加で報告する事でもできたのだろうか。



「いや、お姫さんの事についてだ…静那、だったね。」


「静那について?」


静那は少し俯く。


「ああ。今回の件で静那という存在はついに北の相手側に見つかってしまった。」


「そんな!静那は今回派手な動きは何も…」


「さっき軍隊が出動した戦闘の最中にスパイが紛れ込んでいたんだろうな…人兵器初のお披露目式でもあったのだろう?どんな戦闘が展開されるか軍隊に紛れて視察していたんだろう。」



「あ。」


「生一、心当たりあるんか?」


「おう。真也と一緒にギュンターの邸宅行った時に精鋭の軍人が1人居てたねん。

そいつが“あのアンドロイドがどのように任務を遂行するか、やや離れた所からデータを取らせてもらう”言うてたって。

もしかしたらあの現場に紛れ込んでたかもしれんな。」


「隙が無いなぁ…まったく。」


「ええ。彼らが頭も相当切れるのはよく分かった。

さっき私達、車の中で話をしてみたんだけど、思考の裏を読まれそうで怖かった。相手の不安感を弄ぶような話し方だった…」


少し怯えた顔で仁科さんが呟く。



軍人としての戦闘力はさることながら、交渉力や洞察力も凄まじいものがあるらしい。10代の若者が平常心で太刀打ちできるものではない。



「話を続けていいかい?

静那は君たちにとっても大切な仲間だ。

それくらいは私たちも承知している。

そこでだ。

もう少し彼女を預からせてもらえないか?」


「預かる?」


「ドイツ支部の地下基地の一番安全な場所にかくまう。

真也君の警護が終わったら2人で。我々のメンバー何名か付けて一緒にスイスまで送り届ける。」


「それまでは…」


「お姫さんは我々のミッションが終わるまでは基地から外には出さない。」


「それってなんだか窮屈そうだけど静那はそれでいいのか?」


「うん。さっき話をしたんだけど、皆さんが私の最善の安全を考えてくれたんだったらそれでもいいかなって…」


「また静那ちゃんと暫く会えんようになるんか…」


「看病してもらいたかったのに…」


「コラ、今は静ちゃんの安全が第一なの。自分勝手な事言わない!」


「会えなくなるって…この前から3日空いただけでしょ。大げさね。」



「…俺はそれが一番安全なら異議はありません。戻る時に真也も居てくれるのなら。

それにもしもの時に俺達が静那を守れるかって言われたら…自信はありません。」



「冷静に考えてくれてありがとう。

彼女の存在はほとぼりが治まる数日間は消しておきたい。

このドイツに“同志”は大勢いるからね。」



「静那ちゃん…どこにも行けへんけど…」


「大丈夫だよ。少し遅れて真也とスイスに戻る…それだけだよ。

看病できなくてごめんだけど…」


「静那ちゃん…」


ベットから心配そうな表情をする小谷野と兼元。


その表情に笑顔で返す。


「旦那様には絶対悲しい思いはさせませんから。」


「それ普通逆やで。」



「生一!いいからっ。静那なりに安心させようとしてるんだよ。」



「では少し強引な点もあったが、君たちは明日スイスの本部に向かってもらうよ。車と運転手はこちらが出す。移動面は心配ない。」


「ありがとうございます。セルジオさん達も…」



「ああ…我々はこれからが勝負だ。

行こうか。“静那”」


「はい。」



「静那ちゃん…」


「大丈夫。ちょっと留守にするだけだから。」


そう言って静那は小谷野と兼元のベットまで駆け寄り優しくハグをした。



その後セルジオさん達『MF』のメンバー達と共に街へと消えていった。『MF』基地に向かうのだろう。


「静那がいなくてちょっと寂しいけどさ。明日の準備…しようか。」



やや沈んだ表情の小谷野と兼元の肩を軽く叩き、気持ちの切り替えを促す勇一。


これが最善の選択なんだと心に言い聞かせて。





『MF』基地へ別施設を仲介する形で“相手側”から交渉の申し出が入ったのは真夜中の事だった。


昨夜の事態は何とか防げたのだが…彼らにとってはここからが執念場だった。

物語はドイツ編後半。攻勢編になります。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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