57-1 人兵器の試作品
【57話】Aパート
相手側の精鋭はなんとか食い止めた。
仲間達も一応ではあるが無事のようだ。
しかしまだ懸念材料は残っている。
街中の混乱が強まる中、そこからやや離れたポイントでは“とある政治家”に魔の手が伸びていた。
ハインさん達の活動に対して理解があり、国家に対しても影響力がある人物だ。
しかし、そんな彼をベルリン大火の混乱に乗じて殺害しようとしているメンバーがいる。
予断を許さない状況の中、生一がバイクを走らせ真也と共に彼の邸宅まで急いだ。
街の混乱と渋滞を横目で見ながら感じる2人。
“このままでは街中で暴動が起こる。だれかがメディアを通じて広く安全でも呼びかけてくれないと収拾がつかなくなる…”そう感じていた。
街の“これから”も心配だが2人は郊外エリアを抜けてさらに走っていく。
「真也!ハインさん達は先行ってるけど動きがないねん。セルジオさんからの報告も無い言うてる。どう思う?」
「確かハインさんが向かったのは1時間以上前ですよね。まだ相手は到着していないと思うんで、話し合いが難航しているとしか…。」
「それ以外考えられんよな。でも2時間以上経っとるで。動きが何も無いのはおかしいよな。」
「そうですね。」
「議員さんと総長が仲良かったって聞いてるから、無下にはせんと思うねんけどな。ハインさんの事。」
「はい。ハインさん“私にしかできない役割だ”って言ってましたし。」
「ならなんで音沙汰ないんやろ。」
発信機は邸宅内から何も動きがない。
何かがあったのではないかという不安を払しょくするためには邸宅へ直接乗り込むしかない。
「無事でいて。ハインさん…セルジオさん…」
祈るような気持ちでバイクを飛ばした。
* * * * *
「下がれ!これ以上前に出ると撃つぞ。」
ギュンター氏の邸宅は事務所としても使われているため、結構大きい。
その邸宅に謎の人間が乗り込んできたのだ。
たった1名で…である。
「こんな暗い中すみません。ギュンター氏をお願いしたいのですが?」
「誰だ!近寄るな!」
「やめてくれません?銃口向けるの。」
「誰だお前は!」
拳銃を構えるギュンター氏の側近や警備員。
ざっと20名いる。そして全員拳銃を所持…武装している。
しかしそんな大勢から向けられた銃口をものともせずに1人の男が部屋の中へ無作法に踏み込んできた。
男はギュンター氏の居る書斎はどこかと入り込んでくる。
「もう一度だけ警告する。これ以上踏み込むと撃つぞ。」
「だからギュンターさんを出してくれって言ってるじゃないですか?」
めんどくさそうな顔をして男は前に進もうとする。
1歩前に進んだ途端、20名が一斉に銃口を向けた。
「聞き分けないですね。では今回特別に同行してくれたゲストにこの先はお願いしましょうか…」
“ふぅ”と一息ついた後、男は後ろを見やる。
そこには首の無い人間が立っていた。
体は華奢で脅威という感じはない。…しかし首から上が…無い。
「なんだこれは?!人間か?」
「お初にお目にかかります。
これこそ新しい兵器…ヒト兵器のお披露目です。如何です?」
「ヒト兵器だと?人間なのか?」
「そりゃ人間をベースに作っておりますので。…というか早くギュンター氏を出していただかないとこの兵器に建物ごと蹂躙されますよ。」
「ふざけるな!」
目の前の“ヒト兵器”と呼ばれる人物をもう一度見やる警備員達。
どうみても子ども位の大きさの首無し人間だ。
この小さな人物がとても兵器の様には思えない。
それでも威嚇の為銃を構える。
「相手が誰であろうがこれ以上踏み込むと撃つ!聞こえているのか!撃つぞ!!」
「ああ~聞こえていますよ。首の所に人間の体温と音を感知するセンサーが搭載されているそうですので。」
男が解説してくれた。
しかし不気味だ。
その小さな兵器と呼ばれれる人間はゆっくりと書斎の部屋から別の部屋へ移動しようとする。
ギュンター氏の居場所を探すつもりなのだろうか?
「動くな!」
警備員達がそう叫んでも尚もその小さな兵器は歩みを進める。
彼らの存在などお構いなしにギュンター氏だけを捕縛でもするつもりなのだろうか?
「動くなと言っている!聞こえているなら何故止まらない!」
後ろから男がめんどくさそうに答える。
「彼にはこれからの歴史上からは退席してもらうようにお願いされているんでね。悪いけどここで死んでもらう。」
「そんな事、我々が許すと思うか!」
「なら止めてみればいいさ。ホラ、あの兵器が別の部屋に行ってしまうぞ。」
見ると、その小さな首無し人間は部屋を出て別の部屋に行こうとしていた。
彼らの存在などお構いなしという感じで。
「ギュンター氏の元へ行かすな!撃てえ!」
警備員の一人がそう叫ぶと、一斉に銃口が首無し人間の方に向けられ発砲された。
“ダダダダァン”という感じで、20名が一斉に狙撃すればものすごい音がする。
そしてその銃弾の殆どは、その首無し人間に命中した。
確かに直撃した。
…しかし。
少しうずくまったかと思ったらまた立ち上がり、再び別の部屋向けて歩き始めた。
「馬鹿な!殆ど命中したはずだ…」
窓際から男が意地悪く言う。
「早く止めないとギュンター氏が危ないぞ。見つけたら殺す。…そう遂行するようプログラムされてあるんで。さぁどうする?」
そう言って男の方は窓から出ようとする。どこかへ行くつもりだ。
「どこへ行く!」
「そりゃ駐車場だ。悪いが逃がさねえよ。」
そう言って2階の窓から飛び降りた男。
先回りして逃げられないように車を抑えるつもりだ。
「どうしますか?」
「とにかくあの首無し人間を止める!ギュンター氏はまだ建物内に居る。止めるんだ!」
「了解!」
そう言って20名の側近や警備員はこちらの姿などまるで関せずとばかりにウロウロしている首無し人間を取り囲む。
「撃てェ!」
“ダダダダァン”
号令と同時に先ほどと同じような…先ほど以上の銃声音が部屋中に響き渡る。
やや煙が巻き起こる。
…しかし。
目の前の首無し人間は無傷だ。
「銃が効きません!」
「うろたえるな!押さえつけろ。こいつは大きくはない。全員で担ぎ上げて窓から放り投げろ!」
指示を受けて警備員が首無し人間に向かって掴みかかろうとする。
しかし向かってくる警備員の腕を掴んだかと思うと、次の瞬間曲がってはいけない方向に腕をねじ上げたのだ。
「うわあああああ!」
部屋に悲鳴が鳴り響く。
驚いた警備員達はその首無し人間から距離を取る。
どうやら力が違いすぎて近づくこともできない。
ギュンター氏を連れて車で逃げようとしても駐車している場所にはあの男が待ち伏せている。
「ぐっ!これ以上進ませるな!」
警備員の一人が号令をかけるのだが手立てがない。
銃弾を撃ち込んでもまるでダメージになっていない。
「何者だ…本当に人間か…」
恐怖と困惑の中、首無し人間は尚も部屋を徘徊していく。
「こうなったらギュンター氏を連れて一旦外だ。何名かは氏を確保して外に出ろ!」
その声に10名の警備員が3階へ向かって行った。
するとその“動き”と“声”に反応したのか、首無し人間は動きを速め、一緒に3階へ行こうとする。
頭が無いが、どうやら言葉もきちんと聞き取れるようだ。
3階にいると感じたのだろう。
先ほどは“センサーを搭載している”とは言ったものの、意志と思考を持っている。
「上がってくるな!化け物!」
そう言って階段をゆっくり上がってついてくる首無し人間に銃弾を浴びせるのだが、全く効果がない。
「この化け物!」
警備員の一人が階段下から近づき、後ろから羽交い絞めにした。体格差を利用してこのまま下の階まで突き落す気だ。…しかし。
「うわあああ!」
警備員の肩関節から鈍い音がする。
肩を掴まれ“肩関節”を砕かれた警備員は悲鳴をあげながら階段を転げ落ちていった。
“どうしたらいい!”
取り囲む数はこちらが圧倒している。
それにひきかえ相手は中学生くらいのナリの首の無い…人間の様な風貌をしている。
埋め込まれているセンサーを頼りにしているのか、3階めがけてゆっくり歩いている。
「撃てェ!」
3階の広間に入ったところで待ち構えた10人の銃弾が首無し人間を捕えた。
全弾を体中に受け、やや怯んだ仕草をみせたが、何事も無かったかのように立ち上がる。
…不死身の怪力人間だ。
ギュンター氏は3階にいたのだ。
ついに追い込まれてしまった。
側近の1人が用心も兼ねて小声でギュンター氏に言伝する。
「目の前の首無し人間は何をしても倒せません。ここは逃げましょう。ロープで。」
そう言うと、側近の人間は窓からロープを垂らせた。
これを使って下の階へ逃げてくれという事だろう。
もう考えている時間がない。
「分かった。」
ギュンター氏はロープに跨り下の階へ移動する。
「こちらです!」
下には数名の警備員が待ってくれていた。しかし彼が降りた後、3階では悲鳴にも似た叫び声が聞こえてくる。
10人程の警備員は自分を逃がした後、なす術も無くやられてしまったのだと理解し悔しさを滲ませるギュンター氏。
しかし今は悲しんでいる暇もない。
警備員が案内する。
「車でここから逃げましょう。あの化け物に太刀打ちできる術はありません!」
「分かった。」
邸宅の外、公用車が置いてある敷地へ急ぐギュンター氏。
しかし車は既に破壊されていた。
「駄目ですよ。逃げちゃあ。」
「貴様はさっきの…」
「あなたはここで死ぬんです。もう世界は“その戦線”で動いていくことで決まっているんですから。」
「何!?」
「さぁ、まもなく人兵器がやってきます。最後に思い残す事でもあれば私が聞いてやらんでもないですが…」
「貴様ぁ!」
側近の一人が男に向かって銃を突きつける。
「よせ!」
「しかし!」
「賢明な判断だ。そんなモンで殺せるとでも思ったかな?万が一殺れたとしてもアレがいる。」
男が首をクイッとやると、階段を降り…ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる首無し人間の姿が見えた。
「どうする?
私は大人しく殺される方が良いと思いますが。
この人兵器はねぇ…無益な事はしないんですよ。
要するにあなたが絶命さえすれば…他の従業員や秘書の命は免除してもらえる…という事で…
この意味、分かりますよね。
それでも側近の人間達に足掻かせますか?
既存の政治家に漏れず、国民の命よりも自分の命が大切ですか?」
「何だと!」
「下手に死人を増やすだけですよ。」
「貴様ぁ…」
「あなたが死ねば、このミッションは終わりです。
他の人間に興味はない。
死体を確認したら帰るのみです。
ホラ、来ましたよ。」
振り返ると首無し人間があと20mというところに迫っていた。
目の前には異様な雰囲気を醸し出す男…2人に囲まれている。
「来るなっ!化け物!」
ギュンター氏の側近が必死に発砲する。
銃弾を全て胸元で受け止めるものの、まるで応えていない。
尚も銃を構えた時、首無し人間がその銃を片手で払いのけた。
「!?」
そのひと振りで銃が粉々になる。
鉄ごしらえの銃がバラバラになった。
その様を見て青ざめるギュンター氏。
「人間か…」
「だ・か・ら、人兵器だって言っただろ。あぁ、あなたには紹介がまだでしたね。
さぁそろそろ歴史から退場のお時間です。
言い残すことは?」
ギュンター氏は勿論、周りを取り囲む警備員達も次元の違う相手になす術も無い事を悟り、足がすくんで動けない。
自分達よりも小さい目の前の化け物に対してどう立ち回れば良いか分からない。
“済まなかった…ハイン君…兄の様に君を信じてあげられなかった私の責任だ…”
やや俯いて、先ほどハインさん達を地下ガレージに閉じ込めてしまった事を後悔したギュンター氏。
すると…
「あきらめないでッ!」
怒鳴りつけるような女性の声がしたと思うと、バイクに跨った女性がギュンター氏に手を伸ばしてきた。
ハインさんだ。
「ハイン君!なぜ?」
「話は後ッ!乗って!」
バイクはセルジオさんが運転。ハインさんが後部席に乗っていたのだが、ギュンター氏を2人の間に無理やりはめ込むようなやや乱暴な乗せ方で乗車させる。
「逃げます!捕まって!」
飛び乗ったギュンター氏を確認して、セルジオさんがバイクを吹かそうとすると…
「外野が何を勝手なことしているんだ。行かすわけないだろう。」
そう言って軍人の様な男が立ちはだかる。
「じゃあ逆側から行け!」
また誰かの声がしたと思うと、もう一台のバイクが敷地内に入ってきた。
バイクはそのままドリフトのような格好で横から車体をぶつけるような形で首無し人間をはね飛ばす。
体格が小さいため、首無し人間はバイクのタックルをまともに受けるとそのまま外壁まで吹っ飛ばされた。
「道開けたで!行けえハインさん!」
「ええ!ありがとう!生一さんっ!」
バイクを運転していたのは生一だった。
この隙に軍人の男とは反対方向にバイクを走らせて逃げようとする。
「逃がすか!」
しかし男もプロの精鋭というのは伊達ではなく、ものすごい勢いで追跡してきた。
「万が一を見越して出口の門は閉めてある。開けきる前に捕まえるッ!」
そう言いながらギュンター氏ら3人を追いかけてきた。
「むうッ!」
しかし誰かの気配を感じたのか、男は追跡する足を急に止める。
「あんたの相手はこっちだ。行かせない。」
行く手を阻むかのように真也が立ちはだかった。
「頬に切り傷…成程…お前か…」
真也の事を只モノではないと瞬時に判断した男は追跡を諦め視線を向ける。
しかし何かの存在を察知したようでいきなり叫んだ。これは“言語命令”だ。
「アンドロイド“ベルタ”!目標がバイクで逃げた!お前はそちらを追え。どこまでも逃がすな!」
ふと男の斜め後ろを見ると、さっき壁まで吹き飛ばされた首無し人間が起き上がり、こちらに歩いてきたのだ。
“かなり強烈にバイクでぶっ飛ばしたのにものともしていない…こいつがまさか…”
真也はその首のない人間の異様ないで立ちに違和感を感じた。
「行け!ベルタ!」
そう言った瞬間、その首無し人間は出口の門目掛けて走り出した。
「行かさない!」
そう言って真也が首無し人間の前に立ちはだかろうとするが…
「お前はこの俺を指名した…だろ。」
ここは男に阻止される。
「やるしかないのか。」
「そう言う事だ。だが…打ち切りのようだ…」
向こうでバイクが勢いよく邸宅から外へと走り出す姿が見える。
どうやら首無し人間が駆けつける前にセルジオさんが門を強引に破壊して一気に脱出したようだ。
「彼らに逃げられてしまったのでね…これ以上は無駄かと…」
「じゃあどうするつもりだ?」
「どの道あのアンドロイドがギュンター氏を摑まえる。もう彼の体温や心拍パターンは記憶しただろうからね。彼を殺すまで追いかける。」
「そんな事はさせない!」
「なら追いかけて止めてみろ。出来るものならな。
私はこれからあのアンドロイドがどのように任務を遂行するか、やや離れた所からデータを取らせてもらう。
データを取るだけでキミの邪魔はしないよ。
止められるかどうかは別にして、それも試作品としての一つのデータだからね。」
「何を言ってるんだ。
試作品だとか…」
「聞いてないかな?
あれは人兵器の試作品だ。
今回初稼働だそうだ。
エラーを起こさないかどうか見ていないといけないからね。」
「人…兵器。試作品か…」
「さぁどうする。もうベルタはバイクの位置をロックして追いかけていってるのだが。」
「追いかけるって相手はバイクだぞ!」
「ターゲットがすごい勢いで離れていくようなら、こちらも凄い勢いで追いかける事ができる。
…とおっと、しゃべり過ぎたかな。
じゃあ。検討を祈る。」
そう言って男は暗闇に消えていった。
おそらく言った通り、離れた場所からあの首無し人間の任務遂行の様子を観察するつもりなのだろう。
「加勢はしないのか…余裕だな…さて、どう追うか…」
暫くしてから生一がやってきた。
「アイツ行ったか?アイツはヤバい思うてたからな…お前の足手まといにならんように隠れとったわ。」
「賢明な判断でしたよ。バイクは出せますか?」
「ああ!あの“アンドロイド”とかいうヤツ?
アイツが猛追しているかもしれん。セルジオさんのバイクに追いつこう!発信機ついとったし。」
「はい!お願いします。」
急ぎバイクを出そうとすると、邸宅から何人かの警備員がこちらを見ていた。
「我々にはどうしようもできません。お願いします!ギュンター氏を助けて下さい!」
「分かりました。無事に保護します。」
そう答えバイクを思いっきり飛ばし、邸宅を後にした。
物語はドイツ編後半。攻勢編になります。
ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。
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