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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
214/226

55-2 独逸(ベルリン)は燃えているか

【55話】Bパート

「各地で火災発生。消防隊は対応せよ!」


テレビでは緊急ニュースが流れはじめていた。


ベルリン市街で4か所も同時に火災が発生したとのニュースが入ってきた。


その4か所とも離れたポイントだ。


まるで碁盤の四角よすみを突いたかのような攻め方だが、町の人間はまだそんなに危機意識を持っていない。



暫くしてまた火災のお知らせが入る。


5件目だ。



あまりにも不自然な火災事件の連続に不信感を持った町民もいるにはいただろう。


しかし消防署に任せておけばいずれは治まるだろうと思っている人間が大多数だった。


実際の所、消火対応は既に分散され、かなり手薄になっていた。


すなわち相手側の狙い通りになっている。そしてそのことを殆どの人間は知らない…



そうこうしている間にまた新たな火災事故の報告が入ってくる。



…6件目。



住民はやがて自分達の建物にも火の手が上がりはじめるのではと不安感を感じるようになった。


ただ、そんな不安な感情はまず行政に向けられる。



“こんなことになっているのに行政は一体何をしているんだ。

火災に対しての対処がきちんと出来ているのか?

公務員たちは何をやっているんだ!仕事しろ!”といった感じだ。



外が寒く乾燥しやすい季節である為、無暗に外へ出ていきたくない住民が大多数なのだろう。



不安を感じ、動き出した住民も少なからずいる。


…しかし精力的に消火にあたっていた人間ほど、何者かに路地裏へ引きずり込まれ、気絶させられたりと一時的に行方不明になる人間も出はじめる。


しかし警察署も手が回っていないようで、全てに対応が行き届かない。


街の各交番(Polizeibüro)では無人の部屋の中、電話が鳴りっぱなしだった。



そんな中、この混乱が強まっていく状況を打開してもらうためのキーパーソンである“ハラルトさん”の自宅にも魔の手が迫っていたのである。


奇しくも勇一の読み通りになってしまった。




* * * * *




「失礼します!

総長の娘・ハインさんより連絡が入っていると思います。

警備に伺いました真也と申します。」



夕刻前、元気な声で単身ハラルトさんの自宅にやってきたのは真也だ。



ハインさんがあらかじめ話をつけてくれていたので、ハラルトさんは状況を理解してくれていた。


話が早くて本当に助かる。


「今日一日、私の護衛をしてくれるのだね。

よろしく頼むよシンヤ君。

日本から来たんだってなぁ。」



「はい。はじめまして。

こちらこそよろしくお願いします。危険そうなら市庁舎まで逃げましょう。」



「そうだな。まぁそうならない事を願うよ。

寒かっただろう。まずは中に入りなさい。」



このハラルトさんという名の中年男性。


まだハインさんから注意喚起された内容に対しては半信半疑だったが、こうして遠い日本からもしもの場合を見越してお世話にやってきてくれたのだ。


初対面では“まだ子どもじゃないか…こんな子で大丈夫か?”と感じたものの、まずは真也を家に招き入れ、簡単な自己紹介をはじめた。



ハラルトさんという方はこれまでドイツに再び分断を起こさせないよう色々と尽力してきたそうだ。


ベルリンの壁が崩壊した昔の写真を見せながら思い出話をしてくれた。


活動をしていく中で、後に盟友となるギュンター氏と出会う。


彼が政治家として活躍し始めてからは彼の後ろを常に守ってきたのだ。


真也が彼に抱いた印象としては、昔から情に熱い勇敢な人だったんだという事。



そんな過去の武勇伝を暖炉の前で聞いていたのだが、夕刻になって突然街の中心方面から警報が鳴り始めた。


日が沈んだこの時間帯だ。


“仕掛けてきたのか?”と真也は警戒を強める。


しかし今自分のやるべきミッションは、目の前のハラルトさんの警護だ。


現地へは向かえない。


仲間の無事を願うだけだ。




「何だろうな、今の警報は。ちょっとテレビをつけても良いかなシンヤ君。」


伺いを立てた後、ハラルトさんはテレビをつける。


すると火災事故の緊急ニュースが流れてきた。


タイムリーとはいえ、あの2人が話していた事は本当だったんだと実感する真也。



「ハラルトさん。この通りです。

信じていただけましたか?

騒ぎに乗じて誰かがこちらに乗り込んでくるかもしれません。あくまで可能性ですけど。

ですので今日は僕の傍を離れないようにしてください。」



「キミこそ大丈夫なのか?

相手は殺し屋か何かのたぐいなんだろう。

無理はしないでくれ。まだ若いんだ。

何ならこれから2人で市庁舎へ向かった方がお互いにとっても安全じゃないかな。」



「そうですね。それも視野に入れてー」



“バリン”



突然ガラスが割れる音と共に妙な男が単身で乗り込んできた。


一瞬の出来事だったが2人は身構え、状況を理解する。



「誰だね君は!」


自宅への手荒な侵入に対して声を荒げるハラルトさん。


「すいませんがあなたはここで死んでいただきます。」



そう呟いて割れたガラスの上をジャリジャリさせながら部屋に入ってきた。



「シンヤ君だったか。君は下がって!彼は普通じゃない。」



確かに見た感じ、普通の男性には見えない。


軍人のようなナリをしているうえ異様なほどに落ち着いている。



「彼に手を出すな。」


あくまでも年下の少年・真也を守ろうとするハラルトさん。



「うん…本日ここに居るのはあなただけだと思っていたんですけど…

おかしいですね…

まあいいです。

悪いですがあなたは今後の歴史から退席願うように言われているんでね。

証言者に居られては困りますのでどのみちその子も殺します。」



そう言いながら異様な雰囲気を醸し出すその軍人はハラルトさんに近づいてきた。


見た感じ手ぶらだが何か武器を隠し持っているかもしれない。


緊張感が走る。



ハラルトさんは距離を置くため一旦後退し、家の柱の裏に隠し入れていたライフルを持ち出す。


どうも若いころに軍隊の経験があるようだ。



「これ以上踏み込むな。撃つぞ!」



軍人のナリをした男に銃を向ける。しかし男は何食わぬ顔で問いかける。



「じゃあ撃てよ。」


「なっ!」


一瞬ハラルトさんが躊躇する。


その隙を彼は見逃さなかった。



一足飛びで踏み込み、向けられた銃を払いのける。


中型のライフルはその衝撃でバラバラに砕けたのである。指先に何か仕込んでいるようだ。


「馬鹿な…」


「チェックメイトだ。何か言い残す事はないかな?」



1m近くまで踏み込むと、男は問うてきた。


圧倒的な力を感じる。



「シンヤ君逃げろ!」



そう叫んだハラルトさん。あくまで真也を気遣う気持ちは勇敢だ。


「それが最後の言葉か。じゃあな。」


そう言ったと思うと手刀をハラルトさんの頭上目掛けて振り下ろしてきた。



武器を破壊され死を覚悟するハラルトさん。



しかしその右手首をガッシリ掴む人間が居る。


真也だ。



「何だ?」



男は不思議そうな顔をして手首を振りほどこうとする。


しかし掴まれたままでびくともしない。



「誰だお前は?それに何だこの力は!」



そう言って軍人のような男はもう片方、左手を真也の喉元目掛けて突き刺してきた。


見た感じ素手だったがそのまま受け止めてしまうと無事で済みそうにない雰囲気の“突き”



危険を察知し、真也はその左手も受け止める。


その後両手首を押さえつけたまま、2人の硬直状態が続く。



真也は相手から視線を離さずしっかり見据えながら後ろにいるハラルトさんに呼びかける。



「この後市庁舎まで一気に向かいましょう。どのみちここには追手が来そうです。」


「わ…分かった。」


「車出せますか?僕もすぐに向かいますので準備をお願いします。」



その言葉に言霊というか“力”を感じたハラルトさんは無言でその部屋を後にし、車の置いてあるガレージへと走っていった。



「待て!って!っていうか…くっ……何だこれは…何だ?」


びくともしない両腕。


信じられない程の力に男は顔をしかめる。


握力のみでここまで一方的に押さえつけられた人間など今までいなかったかのような表情をしている。



「何だって何がだ?」


「お前は誰だと言ってるのだ。まさかと思うが試作品か?だとしたらこれはエラーだ。」


「何を言ってるんだか分からないけど、あんたはここでくい止める。」


「ぐっ…子どもの癖に何て力だ。」



さっきまで飄々としていたが、次第に脂汗を額ににじませる。



「私達より…強い人間が……居る…事が…おか…しい…」



ものすごい力で手首を押さえつけられ、さっきから身動きがまったく取れない。


目の前の相手は見た目が東洋人、10代くらいの青年にしか見えない。


たかがそんな青年に手首を押さえつけられた上に身動きすら取れないこの現実が信じられないのだろう。



だが他にも手はあるとばかりに男は口の中を少し動かしたかと思えば口の中からカミソリのようなものを勢いよく飛ばしてきた。


「ぐっ!」


真也は顔を逸らしてとっさに飛んできた刃を避ける。


しかし頬にやや深い切り傷が出来てしまった。



そのわずかな隙に男は右足を蹴り上げてきた。


自分を蹴り飛ばして脱出するつもりだろう…そう感じた真也は両手に力を入れたまま身構える。



しかし次の瞬間信じられない光景を目の当たりにすることになる。



男が右足を蹴り上げて狙ったのは自分の片腕だった。


足に何かを仕込んでいたらしく、己の腕目掛けて蹴り上げたと思ったら男の肘から先はきれいに切断された。


赤い鮮血が飛び散る中、体のバランスがとれるようになった男は今度こそ真也目掛けて蹴りつけてきた。


足に何か仕込んであったのを思い出し、掴んでいたもう片腕を放して回避する。


ここは避けるしかなかった。




蹴りを空ぶった後、男はバックステップで距離を取る。


そのまま窓際まで下がっていった。



「あいつ…両手が離せないからって……まさか自分の腕を切り落とすなんて…」


流石に驚く真也。



「お前が只モノじゃないっていうのがよく分かった。

まだ4人いる。覚えておけよ。」


そう言ってその男はそのままどこかへ逃げていった。



「そうだ!ハラルトさん!」


男が姿を消した後、我に返った真也はハラルトさんの待つガレージまで走っていく。



「おおシンヤ君、無事か?あの男はどうした?

こっちは準備できたぞ!。」



ハラルトさんは家の前で車のエンジンを吹かして待っていてくれた。



「良かった~」


どうやら逃げたあの男はハラルトさんの方へ向かったわけではなかったようだ。


片腕を失ったんだ。流石に追いかけて来ないだろう。


しかし逃がしてしまった…


“自分”という情報は恐らく相手方に漏れてしまうだろうな…と感じる真也。



奴が何者かは分からなかった。


しかも“まだ4人いる”と言っていた。


彼が話に聞いていた世界的エリートの軍人の一人なのだろうか。しかし任務を達成するためには自分の腕をも犠牲にするような判断を見せたのだ。


只モノではないというのは理解できる。


そしてそんな猛者がまだ少なくとも4人いるということだ。



「ハラルトさん。あいつは…逃げましたよ。

でもまた追ってくるかもしれません。

道中気を引き締めていきましょう。」



「そうだな。では急ぎ市庁舎へ向かおう。ここよりも安全だ。

こうも現実を見せられると、もう後は君らに従うしかないようだな。」



「気を抜かないで向かいましょう。」



* * * * *



真也とハラルトさんはやや混乱が出始めつつある街中を抜け、市庁舎へ到着した。


車を降り、市庁舎内へ入っていく。



「おお!真也君!無事か。」


建物の入り口付近で誰かに呼び止められた。


「あ!確か『MF』の…」


「グリムバートだ。グリムでいい。早速だけど緊急事態だ。

メンバーの救出をお願いしたい。」


「まずはハラルトさんを。」


「そうだな。」


ハラルトさんを見やるグリムバートさん。



「すいません。

初対面ではありますが急な申し出失礼します。

この後あなたに向けて刺客が放たれるかもしれません。

今日の所は市庁舎の中で私たちと共に待機いただけませんか?」



「ハイン殿より聞いておるよ。

ここの彼、シンヤ君にもこれ以上余計な心配をかけたくないしね。」


「ハラルトさん…」


「キミは命の恩人だ。ただ、そんな君もまだやることがあるんだろう。

キミの仲間が大変なんだろう。

行ってあげなさい。」


「はい。ありがとうございます。」



予断を許さない状況の中、理解が早くて本当に助かる。


真也は気持ちを素早く切り替えた。



「真也君…落ち着いて聞いてほしい。

先ほど仁科氏と天摘氏との連絡が途絶えた。護衛のクラウディウスからも応答がない。」


「え!その…」


「最後まで聞いてくれ真也君。

ただ彼女達を逃がそうとした際、うちのクラウディウスが自分の発信機を仁科氏に付け替えている。」


「それなら場所が…」


「そうだ!その発信機だが今ビルづたいで高速で移動している。

彼女らを担いだうえでビルからビルへ飛び移っていくような動き…人間の身体能力にしてはずば抜けている。これは恐らくだが…」


「あの5人の精鋭って事ですよね。」


「その可能性が高い。しかも真也君。相手は2人いるそうだ。」


「2人か…」



「そういえばさっきの相手は?やりあってみて…どうだったんだ、シンヤ君。」


ハラルトさんが聞いてきた。


「はい、ただモノじゃなかったです。取り押さえるつもりが逃げられましたし。」



「なんと!驚いた…既に対峙していたんだな。

追い払っただけでも大したものだよ。

でもお願いだ。今度は2人を相手にすることになるが、彼女達を助けてくれないか。」



「無論です。すぐ向かいます。GPSを!」


「ああ頼む。まだ奴らは市街に居る。進行方向に目星をつけてうまく回り込んでくれ。」


「分かりました。では。」


「シンヤ君!気をつけるんだぞ!」


「はい、ハラルトさん!また後程。」


ハラルトさんに対し少し笑顔を見せた後、真也は凄い勢いで走り去っていった。




「相手は1人だったとはいえ、追い払っただと…近年そんな記録は無い。

はち合ってしまえばもうそこから逃げる事は不可能と恐れられた存在なのに…

彼は一体何者なんだ。」


呆れたような顔でグリムバートさんは呟いた。それに返答するハラルトさん。



「日本人…だそうだ。実にいい目をしていたよ。」




* * * * *




ここはとあるビルの屋上。


気を失った仁科さんと葉月を抱きかかえ、建物から建物へと飛び越えながら移動している軍人のような2人組。


寒くなってきたので少し休憩をしていた。



「しかしまぁ…やられたというか…」


「あのガキ共、なかなかふざけた足掻きをしやがる。」


「そうだな。何を仕掛けてくるかと思えば…まず一番に車のタイヤを狙ってくるなんてねぇ。」


「あの状況でもよく頭回るじゃない。ま、ムカッ腹たったけどな。外移動は寒いっていうのに。」


「じゃあもう上から行くのやめるか?ビルづたいで移動した方が視界がよかったんだけど。

それに空いてるし。」



「……」



「何?こんな屋上に誰かいた?それとも寒いのか?」


「まぁ寒い…んだけどさ、あのビルに飛び移ったらそこからは下で行こう。」


「あのビルねぇ。

へえ~なんか誰かさんが待ち構えてるみたいなんだけど。

これも“やられた”ってことなのかな?」


「フン…恐らくこの女共を逃がそうとした時だろうな…どうもここの連中は転んでも只では起きないやつの集まりのようだ。」


「骨のない奴よりはいくらかマシなんじゃない?」


「まぁな。じゃ、いっちょやるか?」


「ああ。“興味深い報告”もさっき届いたしな。」




そんな話をしながら隣のビルへ向かって飛び移った2人の軍人。




着地したそのビルの屋上では一人の青年が待ち構えていた。



真也が息をきらしながらビルの屋上まで駆け上がり、回り込んでいたのだ。



「おやおや。こんな寒い中、どなたかな?」



「もうとっくに分かってるだろ。2人を返してもらう!」



“ギン”と2人を睨みつける。


その素顔を確認した2人は表情を変える。



「左頬に刃物の傷…間違いない。あいつだ。」

物語はドイツ編後半。攻勢編になります。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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