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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
213/226

55-1 独逸(ベルリン)は燃えているか

【55話】Aパート

ビルのガラスが割れたりと、ベルリン市街地の夜はちょっとしたいざこざがよく起こっていたのだが、この日はどうも大人しい。


クリスマスを控え、寒さが厳しくなってきたからというのもあるだろうが、不気味なくらい静まりかえっていた。


しかしここから暗躍する影が忍び寄る。



未だに相手の顔が見えない今、『MF』の心強いバックアップを受けながら勇一達のチームが躍動する時がやってきた。


火の手が起こり始めたのはやはりというか日の入り時刻の後だった。



* * * * *



情報の提示と指示は『MF』のメンバーから発信される。


マップを片手にシーバーからの情報を待つ八薙達。


総長達が乗っていたバイクを使わせてもらい街を巡回しているのだが…免許証は勿論持っていなかったりする。




やがて日が傾き始める。



まず『MF』のメンバーが独自のルートより“動き出した勢力”を察知した。


その元手をさぐる中、狙われそうなポイントを八薙達に指示する。


それと同時に情報を受け取ったハインさんが“メーリングリスト”と繋がりのある地元主要メンバーを使って注意喚起していく。


しかし、セルジオさんの予想通りというか、平和なドイツの街に“それはないだろう”とタカをくくる人間も多かった。



ハインさんは反応の薄い町の人々にやや危機感を感じつつ、次の行動に入る。



「小春さん。葉月さん。

これから私はセルジオさんと一緒にギュンター氏の邸宅まで行ってきます。

後、お任せしますのでよろしくお願いします。」



「気をつけてね。

もしかしたら誰かに先回りされているかもしれないから。」


「はい。セルジオさんに護衛していただきますので大丈夫かとは思いますが、気をつけます。」



日が沈む前、総長の元アジト付近で2手に分かれた。



「私たちもクラウディウスさんの護衛があるんだし、もう少しポスティングで呼びかけしましょう。」


「そうね。これから暗くなるから3人で行動するのがいいと思うけど…」


「私もいざという時を考えればそれが良いと思うよ。それでいこう。護衛させてもらう。」



護衛の為に『MF』のメンバー・クラウディウスさんが引き続き付いてくれている。


3人は再びベルリン市街へと繰り出していった。



「ハインさん…無事帰ってきて…

あなたは一人なんかじゃない…みんながあなたの事を待っているんだから…」



タクシーに乗り込んだハインさんを見ながら葉月は小さく呟いた。


後は何事もなくギュンター議員を説得してもらえる事を祈るのみだ。



長い一日が始まる…




* * * * *




日が暮れていくベルリン市内…


八薙達のチーム4名は、行政機関を起点にしてマップとトランシーバーを駆使しつつ町全体の巡回を続けていた。


ベルリン市街地周辺をひたすらバイクで快走している。



とりあえずまだ日が完全に沈んでいない今、目立った動きは見られない。


恐らく日が沈んだ後に動き出すんだろうなと予想していた。




日が暮れようとした頃、予想通り『MF』のメンバーから連絡が入った。


動き出したようだ。


狙われそうなポイントを八薙達に指示する。


「南方公園横、木造のニュータウン街か…意外と遠いな。」


「分散させる気か…」


「それもありますがさっき確認した風向きを考えてみて下さい。ここに放火するのは理にかなってます。」



「ああ…確かにすぐ近くに森林地帯あるしな…燃え広がってもうたら暫くはここの消火にかからんといかんようになる…」


「燃え広がりやすいエリアやな。消火活動するにも消防署から離れとるし…」


「とにかく相手は頭がキレるねんな。なるべく束で動こうや。」


「そうですね。特に日が暮れたら危険ですし。」


「じゃあ行こう。」



ポイントを確認し、4人は風が吹きつける方角へとバイクを走らせていった。



「今日はどんくらい猛攻くるんやろうか…ハインちゃん、大丈夫かな。

日の入り前に向かった言うてたから先回り…とかはされてないと思うけど…」



ハインさんの並々ならぬ決意は4人も感じ取っていた。でも彼女には無茶をして欲しくない…


ミシェルさんの戦友でもあるセルジオさんが付いてくれているので大丈夫だとは思うが、自分達が傍で守ってやれない事のもどかしさは感じていた。



市街地から少し離れた木造建築が立ち並ぶ住宅街…


見えてきたと思った途端、ものすごい爆発音と共に火の手が上がった。


「あっちや!先やられた!」


「おう!急ぐで。」


「大分バイクにも慣れて来たしな。八薙、先導してや。」


「はい!」



程なくして火災現場に到着する。



しかし住民にはまだ混乱の様子は見られない。


“ガス管でも破裂したのだろうか?”という感じで野次馬になっている。



とりあえずは消防隊が駆け付けるまで、地域の方が必死に消火活動をしているのだが、風が強く空気が乾燥している為なかなか火の手が収まってくれない。


“下がってください!”と拡声器で呼びかけているが、野次馬の住民はどこか他人事のようだ。


まるで“ここだけで起こっている出来事”とでも言わんばかりに。



「こいつらなんか危機感無いなぁ。」


「無理もないですよ。知らないんだから。」


「このエリアも電話とかしたんやろ?」


「してます。でも急に火災が起こるとか言われてもどれだけ真剣に耳を傾けてくれていたか…」


「しかも連絡網やからな…ハインちゃん一人が全世帯に注意喚起したわけやない。」


「連絡回さんかったんやな…多分…」


「とにかく動けるようにしてシーバーからの連絡待ちましょう。このエリアだけならまだ大丈夫です。」




しかしトランシーバーからの次の報告は予想外のアクシデントだった。


『こちら本部。仁科氏、天摘氏との連絡が途絶えた。発信機あり。様子を確認願います!』



報告を受けた4人は一気に緊張が高まる。


「あいつら今街中やんな。戻らんと。」


「そうですね。戻りましょう。」


「なんかに巻き込まれたんか?」


「分からん、まず行ってみんと。」



火災の発生している民家に背を向け、4人は再び追い風に乗って市街地へと引き返していった。



“確か『MF』の人も護衛で一緒におったやろ…何があったんや…”




* * * * *





時間は少しさかのぼる。


今日の夕日が完全に沈もうとする時間帯だ。


「全然動きがないわね。」


「ええ。でも油断せずにいきましょう。」


「ふう…頼もしいな君たちは。」



2人の護衛に付いているクラウディウスさんは、こんな緊張状態でも堂々としている彼女達を見て、やや驚いていた。


彼女達はまるで以前戦争のような極限状態でも経験してきたのだろうか…と思うくらい表情が落ち着いている。


普通10代の女の子だったら恐怖感のあまり冷静でいられなくなりそうなのだが…


そんな事を考えていた矢先。



『こちら本部。市街地北部の森林へ確認を急ぎ』



先ほどの連絡では南部の森に隣接する住宅街だった。



「次は北か…おそらく消防隊員を分断させる気だね。」


街の消防署にも限度がある。


離れた場所同士で火災を起こし、対応するポイントを分けるつもりだろう。


それに駆けつけるまで時間がかかる。


「ここからそんなに遠くないですよね。行きます?」


葉月が聞いてきた。


「冗談じゃない。危険が及べば君達2人を守れないかもしれない。

火の手が上がる前に私が向かおう。」


「いや、それでもここは別れない方が良いかと思います。」


「…そうだな。

すまない、私の方が少し焦っていたな。」



こんな状況でも冷静に判断する葉月。



最寄りに丁度タクシーが止まっていたので、3人は急いで乗り込んで移動することにした。


「すまないが急ぎだ。北部のこの地点まで行ってくれ。」


「急ぎですか?分かりました。」


“急ぎ”ということでタクシーは勢いよく走ってくれた。



車の中で3人は軽く打ち合わせをする。


「現地に到着したら君たちは近隣住民に呼びかけだ。注意喚起の余りチラシも持ってきてある。」


「ありがとうございます。クラウディウスさんは?」


「私は路地裏を急いで見て回る。心当たりのポイントがあるんでね。

そこを回った後、タクシーが止まった場所で落ち合おう。」




現場まではそう離れていない。


車だとすぐだ。



「運転手さん!向こうに見える路地の横で降ろしてください。」


「はぁ…それがそうもいかないんですよ。」


「どうしたんですか?」


「止まれないのか?」


「ええ、ちょっと今は立て込んでおりまして。」


「立て込んでって今は渋滞していないだろう。100m程先のあそこだ。急いでくれ。」


「すいません。お客様。」


「どうした。」


「あそこに降りてもらうと困るんですよ。」


「困る?」


「ええ。上からの申しつけで。」


そう言い終わらないうちにタクシーはものすごいドリフトを効かせながら、手前の細い路地へ入っていった。



「何をしているんだ!あの先で降ろしてくれ!聞こえないのか!おい!」


「ですので今しがた話した通りですよ、お客さん。」


「くっ!」


止まってもらおうと前の運転手の肩に手を伸ばそうとする。


しかし鉄格子のような仕切りがあるため手を出せない。



「ずっとお客様が乗ってこられるのをお待ちしておりました。そしてここが終着でございます。」


運転手がそう言うと車は乱暴に止まり、後部席が開く。


急いで車を降りる3人。



指定されたエリアからやや手前にある細い路地を抜けた広場だ。



そこには一人の男が待ち構えていた。



「誰なの?」


仁科さんが問いかける。




「すいませんがね。“営業妨害”になる輩には退場していただきます。」



軍人のような身なりだ。



「2人とも逃げろ!」


怒鳴りつけるような声でクラウディウスさんは2人を制して男の前に立ちはだかった。


「小春っ!逃げるしか!」


迷っている暇は無い。


仁科さんと葉月は彼に背中を預け、勢いよく走り出した。



「どのみちすぐに火の手が上がりますが、あなたはここで…」


そう言うと目の前の軍人のような男はクラウディウスさん目掛けて踏み込んできた。



ただ彼も隠し武器を所持している。


袖口に仕込んだ鉄のような棒で掴みかかってきた手をはじく。



しかし次の瞬間手から勢いよく鮮血が飛んだ。



「その“仕込み”が無かったら片腕が飛んでました。忍ばせておいて良かったですね。」



袖が奇麗に切り落とされ、ワイヤーのようなもので切りつけられた傷がその腕に浮かび上がる。


かなり深くまで食い込んだようで出血が激しい。



“払いのけただけで…そんな…”



クラウディウスさんは後ずさりする。


彼は軍隊の経験がある。しかしこんな神業のような攻撃をしてくる相手は見た事がない。


次対峙すれば無事でいられるかどうか…


しかし!



「逃げろ!」



振り返って心配そうに見ている仁科さんと葉月に向かって怒鳴りつける。


あくまで自分はどうなろうと彼女達が逃げる時間を稼ぐつもりだ。


「ぐっ…」


2人は圧倒的な力を持ったその軍人から必死で逃げようとする。


しかしまた別の軍人が、横からスッと彼女達の目の前に立ちはだかった。



「悪いねぇ。もう一人居るんだよね。」


「あッ!」


フッと目の前に男が現れたように見え、急いで立ち止まる。



全く気配を感じなかったことに驚き、同時に恐れの感情を抱く葉月。



「あなたとあなた…は、ちょっと来てもらおうか。」


その男は2人を捕まえる気だ。



「葉月っ!」


間髪入れずなんと葉月が男の前に踏み出た。


相手が誰だろうが迎え撃つつもりだ。



「勇敢で無謀なお嬢さんだ。」


“来いよ”という感じで腰を落として身構えた。


そんな男に対し、葉月は正面から踏み込み、まず両手を掴みかかる。



はじめからこの男に勝つことは考えていなかった。



この男を抑えている隙に、仁科さんを逃がすという事しか考えていなかった。


しかし目の前の男はそこまで全て見透かしているかのように微笑む。そして掴みかかってきた葉月をそのまま抱きしめた。


「健気だねぇ~」


「くっ!放して!」


ガッシリ抱きしめられた葉月は振りほどこうとするも、相手の力が強くて離せない。



「こんな東洋人…好きかも。」


そう言ってその軍人は抱擁したまま葉月の首筋にキスをしようとした。


「嫌ッ!」


尚も暴れる葉月だが強引に抱き寄せて離してくれない。



「葉月を離せ!」


もう我慢できないと感じた仁科さんが葉月を男から引き離そうと向かってきた。



そこに合わせて男は向かってきた仁科さんの首筋に手刀を落とす。


その一撃で仁科さんは気を失い倒れ込んでしまった。



「小春っ!?」


仁科さんが倒された事で焦る葉月。


絶体絶命だ。


「イイねぇ。その表情~」


そう言って男は葉月の頬を鷲掴みにする。


「ッツとお…危ないねぇ。」


その瞬間指に噛みつこうとした葉月。


「顔のわりに気が強いじゃない。殺さないから優しくしてくれないかなぁ~」


そんな余裕のセリフを言いながら首筋へと腕を回す。


圧倒的な力の差を見せらた後、葉月はそのまま締め落とされてしまった。





「そっちは?」


気を失った葉月を担ぎあげつつ、手前を見る。


「終わってるよ。」


広場ではクラウディウスさんが倒されていた。意識はなく重体だ。



そしてやや離れた場所では打ち合わせたかのように火の手が上がる。



「さて。この現場はもう任せて移動しましょうか。」


暗くなってきた広場…


タクシーのトランクルームにまず気絶した仁科さんと葉月を積み込んだ。


その後タクシーに乗り込み、運転手と共に次の現場へ向かおうとする軍人らしき男2名。



「あらあら?目の前、あれ誰?」



しかしタクシーの目の前に4人の人影が立ちはだかった。バイクから飛び降り、怒りの形相を向けている。



「あの人が発信機つけてて助かったわ…」


「このまま行かすと思うなよ。」


「降りろゴルァ!」


「相手は…クソ軍人2匹か…」



八薙達が追いついたのだ。


クラウディウスさんがもしもの場合を見越して発信機をつけてくれていた。


その為狭い路地裏の広場だろうが見失わずに済んだ。




軍人2人はめんどくさそうに車を降り、問うてくる。




「君達、どうしたのかな~?」


「とぼけんなや!今気絶した女の人トランクルームに入れてたやろ!」


「…見てたんだね。」


「タイミング良かったんや!」


「で?」


「“で”やあらへんよ。返してもらおうか。俺らの仲間を!」




言われた軍人の2人はお互い顔を見合わせて微笑む。


「揃いも揃ってまだ10代の子どもじゃないか。知らなくてもいい世界もあるのにねぇ。」

物語はドイツ編後半。攻勢編になります。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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