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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
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54-1 志定まれば、気盛んなり

【54話】Aパート

ヴァイマルサイドに調略されていた、ジークとアーサ。


彼らの“事情聴取”が始まった。



2人が共通して口にするのが“規模が違い過ぎる”という言葉。


総長と行動を共にしていく中で、今の家族や仲間との暮らしを守りたいという思いは確かにあったそうだ。


この町が好きだった。


しかしふと“こんな我々に何が出来る”という無力感を少しづつ感じるようになっていったことを話してくれた。


正直な心境なのだろう…



しかし涙をこらえる事が出来ないハインさんは声を震わせながら反応する。


「それでも兄さんはこのまま続く和平を信じてー」


「それが甘いんだよ。」


「テメェ、まだハインちゃん話の途中やろがい!」


「小谷野君…静粛に。兼元君も席に着きなさい。」



『MF』サイドでこの場の司会であるセルジオさんに諫められ、大人しくなる小谷野と兼元。


ただ、先ほどから否定的な言葉ばかりを吐き出す2人に苛立ちを隠せない。


部屋の中をやや殺伐とした空気が支配していた。



「総長の理想は分かるよ。でもそれはあまりにも現実味が無い。

もしかして先の見えない現実から目を背けているんじゃないかとも思ったよ。

現場のトップが仲間を庇うなんてのも一見カッコ良くても先のコトを考えていない無謀な行為だ。」



「無謀か…君はそう感じるんだね。」



先ほどからセルジオさんだけはとにかく話を受け止めようとしている。


“それは〇〇だよ。”というような言い方は一切しない。


まずは彼らが思っていたことを吐き出してもらおうとしているように見えた。


しかし亡き総長に対しては最後まで否定的な意見で終わる。



「総長だって何となく相手の戦力は分かっていたはずだ。

それなのに真っ向から迎え撃とうとして…何度も傷だらけになって…

もうこの場所にこだわっている状況じゃないって分かってたはずだ。

力じゃどうしようもないって…

それでも頑固なまでに引かないで…

頭に花でも植えてるのかというくらい方針を変えようとしなかった。」



「頭に花ねぇ…」


ここでセルジオさんは息を詰まらせる。


この言葉に何か思う事でもあるようだ。



少し沈黙が出来たので兼元が呼びかける。


「でもよ…世界に一つだけの花があるかもしれねぇじゃねえか。」


生一も続く。


「花の美しさに目が行かなくなってるようなら今一度目を向けてみな。どこに咲こうが花は奇麗だ。」


「何とでも言え。花なんて戯言の部類だ。」


「じゃあ!このまま東西分かれて冷戦になってしまってもいいのか?ドイツがまた分断してしまうような惨事になっても…」


言われて真也までも少し感情的になる。



勇一も感じた事を発言してみた。


「国民同士がお互い憎み合う世界なんて愚の骨頂だぞ。

ドイツはかつて日本と一緒に戦った戦友なんだろ。俺達日本の歴史も多少は学んでいるはずなのに。」



否定的な反論ではなく“お互いの昔”を思い出して考え直そうというニュアンスに今度はジークとアーサが感情的になる。



「何が歴史だ。ならやってみろよ。止められるものなら!」


「止めるって何だよ。協力できることなら何でもするぞ。お前達の総長の名にかけてさ。」



最期の言葉が己の良心に刺さったのか、かなり耳障りだったようだ。



ここでジークは重大な計画を口にする。


「じゃあいい事を教えてやるよ。5人の精鋭と人兵器の話は既に聞いてるだろ。」



あの時ヴァイマルから直接聞いた話だ。八薙達にとっては特に忘れるわけがない。確か“フェーズ2”がどうだとか言っていた。



「1週間後だ…あの日から換算すると明後日になるな。

ドイツ・ベルリン市内を大火に陥れる計画が進行している。」


「何やて!」


「大火か…それは穏やかじゃないね。続けて。」



「街中に火を放ち、混乱を起こし、社会的な不安を増幅させて分断を図るというものだ。

明後日のベルリン大火計画はそのプロジェクトの先駆けというわけだ。

ベルリンの街がどれだけ広いかは流石にあんたでも分かるだろう。

それでも止められるとでも言うのか?

しかも彼らの同志は各地に数えきれないほど大勢いるんだ。」



「確かに…相手の数は分からへん…」



「それに世界中で知られている特殊部隊の更に上のランクの精鋭が5人もその大火に加わる事が決まっている。

“彼らの到着が合図”って言ってたからな、明日には到着してるんじゃないか?この町に。」


「そうだとしたら…こちらもあまり悠長にしている時間はないね。」


今はあくまで事情聴取の時間だ。しかしセルジオさんはややペンの動きを速める。…同時に何かを考えているように見えた。



しかしジークとアーサは呆れ声で返す。



「“時間は無い”?まさか食い止める気か?

この広い街でどのエリアが標的になるか分からないんだぜ。

あんたの所の隊員もそんなに多くないだろ。

俺達の町以外…このエリア全てを守るなんて無理に決まってる。

そもそも相手との戦力差が違い過ぎるんだ。さっきも言ったが軍人なら誰もが知っている“ネイビーシールズ”以上の実力を兼ねそろえたプロの軍人が5名。

しかも今回の大火に合わせて秘密兵器まで投入するらしい。あんたらが束になってどうにかなる相手じゃない。

…冷静に考えてみろ。」


「何でそこまで教えてくれるんだ。」



「あんただよ。

…あんたが“歴史”だの“総長の名にかけて”だの言うからムカッ腹立ったんだよ。

どれだけあんたの言ってる事が薄っぺらくて理想を掲げてるだけの戯言か身に染みて分かるだろうと思ってね。」



そう言われて感情的になると思っていた勇一だが、そうではなかった。


少し笑みを浮かべて落ち着いた口調で返す。


「そうか…それでも戦争になってしまう前に阻止できるのなら俺は全力で動くよ。

例えこんな体でもな。」


勇一から静かな闘志を感じた。



ペンを置いたセルジオさんがまず立ち上がる。



「一旦事情聴取は切り上げだ。

この後、うちらのメンバーも加わり緊急会議に入る。」


「え…それって。」



「もちろん今回の大火作戦の阻止だ。

我々はフリーメイソンのような組織ではない…が、事前に紛争の火種を食い止めるというのなら活動方針とも一致する。

キミのお兄さん…そして我が大佐の名にかけて、ベルリン大火は絶対に阻止だ。」



立ち上がったセルジオさんは真っ先にメンバーの集う部屋へ向かおうとする。



「あのっ!俺達も参加していいですか!」


部屋を後にしようとするセルジオさんに問いかける八薙。


「勿論だ。ただし、覚悟があるのならな。

年齢的に規律違反だが今回のミッションの参加を特別に許可する。人手は多いほうが良い。」



“よし!”という表情で顔を見合わす兼元と小谷野と生一、そして八薙。


真也も“やってやる”という気迫に満ちた表情をしている。


「私も行く。」ハインさんも声を上げ、立ち上がった。


「あら、奇遇ね。」隣で仁科さんが声をかける。


「あなたは?」


「急ぐんでしょ。歩きながら話しましょう。小春よ、宜しく。隣は葉月。」


仁科さんも葉月ももうスイッチが入ってしまったらしい。




そのすぐ後ろを真也…といきたいところだったが…


「おぶりましょうか。」


「ああ、悪い。世話かける。」


体の自由がきかない勇一を背負って部屋を後にした。



「勇一さん…ありがとうございました。

おかげで情報が聞き出せましたよ。」


「俺、何かしたかな?」


「彼らの心に燻っているものを見逃さなかったじゃないですか。

本当は彼らだってどうにかしたかった…」


「そうだよな。」


「どうしようもない現実を見せられた時、人は現実から目を背けようとします。

でも…それは本能みたいなもので…仕方ないのかもしれませんね。」


「ああ。あいつらも総長を慕っていた頃があったんだもんな。」


「出来れば生きて…償ってほしいですね。何年かかってもいいから。」


「おっ、ちょっと他人の事気遣えるくらい心に余裕出てきたか?」


「茶化さないで下さいよ~」


「はは…後で静那にも説明してやらないとだな。」


「はい!」







全員が部屋を後にし、残されたジークとアーサは呟く。


「けッ、花なんか見てるから全てを焼かれるんだよ。どれだけ無謀な事しようとしてるか分かってねえ。」


「死に場所でも探してるつもりかよ…総長みたく。」

物語はドイツ編後半。攻勢編へ進みます。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


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頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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