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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
210/226

53-2 簒奪(さんだつ)

【53話】Bパート

「お取込み中すいませんね。

話が…したいんだが、いいよな。」


八薙がヴァイマルを睨みつける。



あの総長達とは関係ない東洋からの観光客が…しかもたった4人でこのビルに乗り込んでくるとは流石に思わなかったようで、その表情から余裕は無い。



「さああの子を返してもらおうか!」



先ほど彼は“この2名もこのまま倉庫に放り込んでおけ”と言った。


この2名“も”という部分。



倉庫に行ってみると、昨日のマーケットビル内での戦友達がぐったりした姿で放置されていた。


この男の権力と言論で立場を覆されたのだろう。


しかしハインさんの姿は見つからなかった。



暴行を受け、捕縛された“フリ”をしていた兼元にその場を預け、八薙は側近の男の服を拝借した後、再び小谷野と2人でヴァイマルの元に戻ってきたのだ。



「あの子?…な…何の事だね。そんな事よりも失礼じゃなー」


「ハインちゃんや。しらばっくれんなよ。今すぐ身柄をこちらに渡さんかい。」


小谷野も怒り心頭の表情を見せる。


ただ八薙はまだ冷静のようだ。



「あなたの命を狙いに来たんじゃない。

イチ日本人があなたのような国の大御所を殺害すれば大事件になるくらいは分かる。

ただ、総長の妹さんを大人しくこちらに返してくれたらの話だ。

返してくれないのなら…分かるよな。

後で法で捌かれようが俺は覚悟が出来ている。」



総長に誓ったのだ。


自分がたとえ犯罪者になったとしてもハインさんを助け出すつもりだ。


手にしたことも使った事もない拳銃を突きつける八薙から“本気さ”を感じ取り、白髪の老人・ヴァイマルは観念する。


「分かった。君の要件をのもう。まず捕らえている人間と連絡を取らせてくれ。」


「駄目だ。助けを呼ぶつもりだろう。」


「ではどうしろというのだ。」


「まずその電話を置け。」



尚も睨みつける八薙。


隙が無い。



「小谷野さんっ。」


小谷野が地面に置いた携帯電話のような子機を取りに行く。


「さあ言う通りにしたぞ。これからどうしろというんだ。殺すのが目的でないのなら。」


「答えろ。お前らの上にいるのは誰だ。」



“言葉を慎め!若造が!”と一瞬感じたが、時間稼ぎになると感じたヴァイマルはそのまま返答に応じる。



「昨日話した通りだ。

お前達では手が出せない程上の人間だ。お前の様なものが知れるようなー」


“パンッ”


という銃声と共にヴァイマルの頬を銃弾がかすめる。


「!?」


「いいから話せ。」


「貴様…」


「“貴様”じゃない。立場をわきまえてしゃべれ じじい!」



そう言って八薙はヴァイマルの頭に銃口を向け、睨みつける。


八薙は銃で人を撃ったことなどもちろん無い。


…でも目の前に居るのは紛れもない総長の仇だ。


すぐにでも殺してしまいたいような衝動…キレる寸前を保ちながら対峙している。



「きっ…北の同志だ。

世界は再び分断をしようとしている。

分断によって都合良く動けることがあるのでな。」


「それで?」


「同志たちの思惑までは分らん。

た…ただ、仕掛け人としてわ…私が指名されただけだ。私が根回ししたのではない。」


「それでもあんたはこの町に手を出した。それは間違いなかろう。」



震えている。


初めてここまで追い詰められ、恐怖というものを感じているのだろう。



「私はあくまで上から言われたことを遂行しただけだ。」


「その遂行の為には人をも殺すか?そこまでして遂行しないといけない事か?」



返答に詰まるヴァイマル。



「追い詰められた人間はこう言う。

“上のモン”がやった…と。

なんだよそれ。

あんた政界のトップだろ?

そのトップが“上のモン”って…ふざけるな!

勝手な巨大組織を想像させてあきらめを誘導するな!」



銃口を突きつけ、前に一歩進む。


「ひっ!」


「この町と…“上のモン”と天秤にかけてんじゃねぇよ。

こんな老体になっても未だに自分の判断を誰かの正解に預けようとしやがって。」


さらに前に進み銃口を向ける八薙。


もう我慢の限界という感じだ。




その時、勢いよく後ろの扉が開き6人の軍服を着た人間が入ってきた。


そして一斉に八薙と小谷野に向けて銃を突きつける。



「Meister!クラオスより伺い駆けつけました。遅くなって申し訳ありません。もう大丈夫です!」



「おお!来てくれたか!」


途端に安堵の顔を見せるヴァイマル。


一気に形勢が逆転する。


立場は圧倒的に八薙達が悪くなった。



「銃を降ろせ!東洋人!」


「この野郎…」


怒りの感情を必死にこらえながら銃を地面に置く八薙と小谷野。




「Meister、こちらへ。

一旦ここから逃げましょう。」



部下らしき人間がヴァイマルを入り口側まで誘導する。



“このまま逃げられてしまうのか…まだハインさんを助け出せていないというのに…”



さっきまでとは一転し安堵の表情を浮かべて逃げようとするヴァイマルに対し、側近の部下が小声で聞いてきた。


「Meister、あの女はどうしますか?連れていきます?」


「そうだな。まだ残党が残っておるかもしれん。

保険という考えもある。よし。

『Ⅽ—6』にいるあの女を急ぎ連れて来い。一旦ヘリでここを出る。」


「承知いたしました。それでは。」




そう言った次の瞬間、側近の部下はヴァイマルの頭を撃ち抜いた。



「!」



「なっ!」



「え!」



側近の部下の正体は、暴行を受けて倉庫に閉じ込められていた総長の仲間だった。



即死に近い形で絶命した老人を見ながら八薙に向かって涙ながらに話しかける。



「ありがとうな…。お前も許せなかったのによく殺さずに我慢してくれたよな。嬉しかったぜ。」


「何で…何で殺すんだよ。そんな事兼元さんは言ってなかったと…」


「いいんだよもう…。いいんだ。

コイツは総長を殺した。俺達は仇がうてた…もう何も思い残すことはねえ。」


「お前…」


「トルステンだ。俺にも妹がいる。俺らの最期を伝えてやってほしい。」


「最期って何言ってんだよ。トルステン!」


「ここは俺達が受け持つ。でもお前ら4人は逃げろ。ハインさんにはまだ言うなよ。」


「何考えてんだよ!」


「何って…お前達のおかげで総長や皆の仇を討つことが出来たんだ。もうこの後どんなお咎めがあってもいいさ。」


「ふざけんなよ。総長の分も生きろよ!命はって俺達を守ってくれたんだぞ。」


「あ~

俺達そんな頭良くないからな。分かんねえわ。ただ一つだけ…」



そう言ってトルステンや他4人の青年達も涙を流し始めた。



「もう…許せなかったんだよ。こいつら我が物顔で俺の町を侵食しやがって…でも俺達は頭が悪いから法律が敷かれたらどうする事もできなかった…

町を追い出され…平和なはずのここさえも訳の分らん奴らに蹂躙されていくような景色を見ていたら…もう我慢できなかった…

勝手に町の風紀を変えやがって…

そう…とっくに我慢の限界を超えてたんだ…」



悔し涙を流しながら語るトルステン達。



「だから嬉しかったぜ…お前たちで状況をここまでひっくり返してくれて…」



そんな中、八薙の肩に手をやる若者がいる。


「あん時酒場でおまえに向かって一番に突っかかってきたヤツ覚えてるか?あれ俺なんだよ。

あの時はまぁ…その…悪かったな。」


「今更何言ってんだよ。もういいよ。」


外側に対する排他的な感情を埋め込まれた人間がとった行動だ、分かっているなら恨む道理もない。


「ニクラス(Niklas)だ。母さんいるから申し訳ねえけどな。」


「いや、どうするねんお前ら。」


小谷野も気になって聞いてくる。彼らはこの後どうしようというのだ。



「コイツを殺した罪は免れねえよ。なにせ政界のドンだ。流石に警察に出頭する。」



そう言ってヴァイマルから奪った電話機から警察に電話を入れるニクラス。


自首するつもりだ。



「やめろ!お前が罪を被らなくても、他の方法が…」



「いーや。これは俺らの落とし前だ。それこそヨソモンには関係ねえ。」


「トルステン…」


「死罪でも何でも受けてやらあ。総長の仇が取れたんだぜ。

そんな顔するなよな。

俺は今…気分がいいんだ。」


「ああ…何か全てを終えたサイコーの気分だぜ。」


「奇遇だな。俺もだ。」


「フン。俺もだよ。」



口々に自分の思いを分かちあう“シュタイン”のメンバー達。



しかしこの後“法”で裁かれることは免れない。


例え勝ったとしても“お縄”だ。


死罪だって考えられる。


八薙達はやるせない気持ちでいっぱいだった。



「あの日本人さんが色々“小道具”持ってたおかげで1階の兵隊どもが異変に気付いてここに上がってくるまでもう少し時間稼げそうだな。

ご丁寧にエレベーターまで止めてくれて…

よっし!今のうちにあんたらの脱出経路を説明しとくぜ。

実は換気口が下につながってんだよ。

警察が到着したタイミングで入れ替わるような形で4人は下にー」



「待てよ!!」



メンバー達がその涙声の方を見やると八薙が涙を流していた。


「なんでお前らが罰せられないといけないんだよ!お前ら何にも悪いことしてないだろうが!」


しかし皆は既に落ち着いた顔をしている。



「人間の感情ってどうにもならない事ってあるだろ。

俺達は総長の仇が取りたかった。

お前らのおかげでそれが果たせた。

それで十分だ。」


もはや揺るがない気持ちのようだ。


「総長の妹さん……頼みます。」


暫くすると、放送室にて“活躍”してくれた生一。そして兼元が戻ってきた。


兼元は各階に“仕掛け”を施していたようだ。



「もうちょっと時間稼げそうやで~」


「なら大丈夫だ。さっき警察を呼んだからそっちの方が先に間に合いそうだ。」


「警察って!?」


「生一、その話は後にしようや。とりあえずここからハインちゃん連れて脱出や。」


「居場所分かったんやな。で、そこのお前らはどうするん?」


「また会いましょう。日本人の皆さん。」


「どうしたん?お前らも一緒に逃げんのか?」


「……」


「“生一”や。名前忘れんなよ。次会うた時聞くからな!」




* * * * *




やがてヴァイマルの組織が巣食うビルはドイツの警察達に四方から取り囲まれる。



武装し身構えていた組織のメンバー達は“訳が分からない”という顔をしながら一旦警察に確保されていった。



ビルからメンバー達が締め出されていく最中、裏口の換気口からハインさんを含む5人は無事脱出を成功させることができた。



しかし現場を後にしながら昨日のヴァイマルの言葉を回想する4人…



“ここは単なる拠点の1つに過ぎない。わが国には数えきれないくらい大勢の同志がいる”そして“北より完成された兵器、新たなる協力者の力を借りればもう世界は手が付けられなくなる。”という言葉。



彼は死んだ。


しかし彼の同志、そして“上のモノ”が恐らくこれまで遂行してきたベルリンの分断計画を実行するだろう。


それがいつなのか…


総長の思いを無駄にしたくない。


その前にまずハインさんを思いっきり泣かせてしまう事になるのだろうが…



* * * * *



ハインさんを連れて一旦ベルリンの駅へと向かった5人。


事件の根本は解決していないが、今は彼女の安全確保が第一だ。


仁科さんや葉月同様に警察に保護してもらうのが一番だと感じた生一達はベルリン市内にある警察署に駆け込もうとしたのだが…。



「あ!」「お。」「ん?」「あれ…」



そこで駅にある掲示板に書かれていた暗号を目にする。



『終わったらすぐスイス本部と連絡とれ・こっち・大変・勇一・いる』


「あの…これって。」


「おう、仁科の字やんなコレ。」


「スイス経由でやりとりしろってことやろ。大変って…大変なんやな…」


「何間の抜けた事言ってんだよ。」



「どうしたの?」


やや疲労感の見えるハインさんが聞いてくる。彼女は勿論意味が分からない。


「ハインちゃん、ちょっと俺らの仲間もピンチみたいやねん。ちょっとやりとりしてくるから。まずは警察行こうか。」


言葉を濁してハインさんを警察署へ連れて行こうとする。


この時はまだ総長の事を言えずじまいだった。



「勇一の奴…あの時お義父さんの件、静那ちゃんによう言えたよな…。

今になってやけどアイツ初めてすごいと思ったわ。」


「ああ…俺はよう言えん。逃げとんのとちゃうで。」


「いや逃げてるやん。」


ハインさんに事実を伝えるのが辛い。でもいずれはきちんと話さないといけない。


「真也達と無事合流出来た後で話しましょう。俺、ちゃんと話しますから。」



“妹を頼むぜ”総長からそう言われた八薙は責任を感じていた。




* * * * *




生一達の話はここで一旦終わった。



「ハインさん、どうなったんだよ。」


「事実を知った一昨日から悲しみに暮れとったわ。もう何も言えへんかった。」


「そうだろうな…」


「でも彼女はホンマに冷静やったわ。すぐに『MFココ』の人にお願いして2人を連れてくるように言うてたな。唯一残された情報源なんやし。」



「2人?」


「お前今まで話聞いてたか?2人いうたらもうあいつらしかおらんやん。」


「あいつらって…ま、まさかまだいたのか。捕縛されたまま。」


「相手はもう何か別の事に向けて動き始めてるみたいで、証拠隠滅しにいこうとまではせんかったみたいで…

総長のアジトへ戻ってみたら普通に昨日から縛り付けられたまんまで放置されとったんやって。」


「なんだか笑えるな…」


「そりゃあほぼ1日トイレも行けへんかったんやし、可哀そうな姿になっとったやろうな。」


「コラ!話逸らさないでよ!」


「ああ悪い。本当は凍死しかかっててヤバかったみたいやで。12月のしかも野外に放置してもうてたし。」


「それってある意味拷問だな。」


「まぁそれは俺らも忘れとったから悪かったよ。もしあの時ハインさんが気づいてなかったらと思うと…」


「2日目の夜もそのまま放置されて…氷点下の深夜になって…」


「ああ、笑えんけど死んでたかもしれん。」


「怖いなぁ。」


「俺かて反省したよ。もし死んだら俺らの責任やん。」


「確かに。」



「で、そろそろ話進めるで。

その2人は保護された時、かなり体力的に衰弱しとったから匿った後はまず温かい部屋で寝てもろうた。

それが昨日やねん。

それで今日になった。もう半日以上経っとる。

さすがに起きて体力もある程度回復した頃やと思うからこれから“取り調べ”やるねん。

ハインさんと『MF』のセルジオさんも交えて。」



「それっていつ?」



「今日。

2人が目ェ覚めてたから、すぐにやる予定やってんぞ。

でもお前が直前で目覚めたから予定変更になったわ。」


「そうだったのか。

良かったよ…間に合って。」


「そうやな。お前も取り調べに参加するか?多分これからや。」


「勿論!」



まだ体を上手く動かせない勇一は、両肩を貸してもらうような感じで取調室へと移動した。



「ったく、世話やけるなぁ…」


「悪いって。でもこのタイミングで目覚めたんだ。だったら俺も参加しないといけない気がする。」


「何やねんソレ。」


「俺だって…ただ死んでたわけじゃないんだし。」


「意味分らんわ。あの世でも見てきたんか。」





* * * * *





勇一を担ぎながら8名は一つ上の階、取調室へと入る。


そこには、体調をいくらか持ち直した“ジーク”と“アーサ”が座らされていた。


一応手錠がかけられている。


勇一は聞いた話でしか知らない人物だったが、本物だ。



遅れて同じく話の中で聞いていた“総長の妹”ことハインさんが部屋に入ってきた。


事件後に彼らと対面するのは今日が初めてなのだろう。


部屋に入るや否やハインさんはとたんに表情を変え、2人に向かって怒鳴った。



「なんで兄さんたちを裏切ったのよ! 兄さんが何をしたというの!」



彼らの顔を見ながら涙ながらに訴える。


小谷野と兼元も同調するかのような表情で睨みつけた。


その様子を見つつもセルジオさんだけは淡々とこの取り調べを遂行しようとする。



「これよりジーク氏とアーサ氏、2人の“事情聴取”を始める。

思う所はあるだろうが司会は私だ。まずは各々席に着きなさい。」



涙をこらえ、ハインさんを始め勇一達は一旦着席した。



12名全員が入るにはやや狭い部屋ではあったが、それよりも緊張感の方がその場を支配していた。

物語はドイツ編後半。攻勢編に入っていきます。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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