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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
207/226

52-1 衆力功あり

【52話】Aパート

ついに勇一が意識を取り戻した。


とは言っても体中のしびれがあり、まだ手足をうまく動かす事が出来ない。


真也によって発見された時にはかなりの出血と凍傷で神経がやられていて、危なかったらしい。



「俺…どれくらい意識失ってた?」


ベット横で紅茶を入れてくれている静那に聞いてみる。


ちなみに頭はしっかりしていた。



「え?そうだね…」


静那は4本の指をかざす。


「4日?4日も意識戻らなかったのか…」


愕然とする勇一。




自分が意識を失ってから4日も経過していたのだ。


「もう大変だったよ。」


静那が静かにそう呟く。


「そうか…なんかごめんな。」


「いいよ。それよりも喉乾いてるでしょ?はい、これ。」


そう言って静那は紅茶を差し出してくれた。


しかし彼女の手元がフラついているのに気づく。


フッとした拍子でティーカップを落としそうになる静那。



勇一が手を伸ばし、コップの落下は防がれた…だが…


「静那…まさか殆ど眠れてないんじゃ…」


「うん…でも一昨日は少し寝たよ。」


「少しって…じゃあ少し寝たとはいえ、ほぼ起きっぱなしってこと?」


「そんな事勇一は考えなくていいよ~」


両手を肩の方に持ってきて“大丈夫”のポーズを取るのだが……髪が乱れているうえ目の下にえらいクマが出来ている。


こんな静那見た事ない。


「でも静那…寝てないのが顔にモロ出てる…」


「何ィ!」


「“何ィ”じゃなくてさ、さすがに寝ようよ。俺も体調が万全じゃないからこの後も多分寝るし。」


「せやな。」


「せやで~。顔がやつれてて驚いたんだからな。」


「ははは…じゃあさすがに交替して寝っか。交替してくれる人もいるし…」


静那がそう言い終わる前に生一達7名が病室へゾロゾロ入ってきた。



「え?」


病み上がりながらも勇一は驚く。


「あの…ここって…『MF』の基地内じゃ…」


「せやで。お前ここでずっと死んどったんやで。」


不機嫌そうな顔で応える兼元。


「なんで皆ここに来れてるんだよ。」



どう見ても『MF』地下施設なのに皆が集結している。


この事実に勇一の頭の中では“?”が尽きない。


「とりあえず水分補給しつつ聞け!」


こちらも不機嫌そうな生一。



…というか静那と真也、あと八薙以外はなんだかえらく不機嫌そうな表情をしている。


「でもその前に…」と葉月。


7人が視線を勇一のベット横に向ける。



静那が座ったまま器用に寝ていた。静かに寝息をたてている。



「先にしーちゃんを寝室まで連れて行かないとね。」


そう言って寝ている静那の肩を持ち、近くにいた兼元がもう片方の肩を貸すような形で2人がかりで隣の寝室へと連れて行った。


肩を担がれながらも熟睡している静那。


ピクリともしない。


“本当につきっきりで看病してくれていたんだ…”というのを感じる勇一。



「さて、静那ちゃんもおらんなったし~まずは“落とし前”つけさせてもらおか。」


そう言うや否や勇一の真横に陣取る小谷野、仁科さん、生一の3人。



何だか表情が怖い。



少し離れたところで真也と八薙が困った顔をしている。


どうしたんだろう…と思ったとたんに思いっきりビンタが飛んできた。


「痛いって!何するんだよ。首から上は無傷だけど!」


「何って、嫁を悲しませたバツや。」


そう吐き捨てるように言った小谷野。



次に生一が脳天唐竹割り(脳天チョップ)を振り下ろす。


生一の手は“掌外沿しょうがいえん”の部分がやたらと固いせいで痛い。



最後は仁科さんが思いっきり頬を抓ってきた。


「いだだだだだだ!」


結構手加減無いのが分かる。



「まったく…静ちゃんをあそこまで心配させて!ッのバカ!!」


「せやで!半殺しにしてええんやったら最終奥義“絶倫華ぜつりんか”が炸裂する所やで!」



その小谷野の奥義自体はどんな技なのか興味深かったのだが、とりあえず顔中がズキズキする。


「ちょっとは看病してくれとった人間の気持ちも理解しィ!」


生一も冷たいセリフを吐き捨てる。



「こっちも死にそうだったっていうのに…荒いなぁ。俺まだ病人なんだぞ。」


「患者だろうが死なんのならサッサと意識くらい取り戻しとけ!散々待たせやがって。」


「無茶言うなよ。」


「無茶ちゃうわ。看病してくれたお礼でもあとでちゃんとせえよ。」


そう最後に言葉を吐き捨てられる。



でもちゃんと理解した。


目覚めた後になるが、静那にはきちんと髪を洗ってブラシをかけてあげよう。言葉ではなく態度で誠意を見せようと感じた。


と同時に、未来の意識世界で静那に出会った事も少し思い出す。


「ん?どうしたのよ。急に沈んだような顔になったりして。目覚めたばかりで何か不安でもあるの?」


「い、いやそういうわけじゃないんだけど…」


“何でもない”というポーズをとる勇一。


今はまず自分が意識を失っていた間、何があったのかを知ることが先決だ。




丁度良いタイミングで葉月が戻ってきた。


静那をちゃんとしたベットに寝かせたのだろう。


少し遅れて兼元も戻ってきた。


兼元も勇一に対して不満はあるようだが、手洗い祝福を受けた後なので穏便に済ませてもらえた。



「じゃ、お前が死んどった間、何があったか話するで。よう聞いときや。」


「言い方ッ!」



* * * * *



静那が爆睡しているため席を外しているが、勇一が目覚めるまでの4日間の出来事を分かち合いする。



ちなみにここの基地内のメンバー、セルジオさん達には報告済みという事だ。


いきさつを理解してくれたからここに9名を匿ってくれたのだろう、と理解する。



「まずは僕から話してもいいですか?」


先ほどは後ろの方で縮こまっていた真也だが、一番に口を開いた。


一番大人しい真也が…意外だ。


勇一に対して罪の意識を感じているのだろうか…余程不可解な事があったのだろうか…




前に出てきてベットの横に座る。


「僕からの報告は、勇一さんに聞かないと分からい事もあるんで、皆さんにはまだおおまかな内容しか話できていません。

だから教えてほしいことがあります。」


そう言って真也はまずここの地下施設内に来た当日、セルジオさんから聞いた内容を話始めた。



他の6名は既に聞いた内容だったのでそこまでリアクションはなかったが、静那が壮絶な人生を歩んでいたという事実には驚かざるをえなかった。



「セルジオさん…言ってました。ここからは静那には内緒なんで今なら言えますけど…」


そう前置きをしたうえで語る。



「実は僕たち日本人8名はあの時の旅客機の墜落事故で全員死亡したことになっているみたいなんです。

メディアから意図的に消された存在に…

だから恐らく日本へ普通に帰る事はできないだろうって。

僕らが生きていたら都合が悪い人間がいるから。」



「それってまるであの人が…」


「そうかもしれません。そして今もどこかで誰かを通じて僕らは監視されている可能性があります。」


「だから勇一があんな目に遭った言うんか。」


「そう、そこです。そこが不可解なんです。僕が勇一さんに聞きたかった部分。」


「あの日の事か?」


「はい。ここまでの話で色々思う所はあると思いますが、あの日の事をひとまず知りたいです。

思い出してもらえませんか?」



真剣そうな表情で真也が問いかける。



「…分かった。俺に分かる事は何でも答えるよ。」


勇一はベットから少し体制を起き上がらせた。



* * * * *



「さっき勇一さんに話した内容…この情報をセルジオさんから聞いた時、一刻も早く皆に伝えたいって思ったんです。

でもこのエリアは危険だから、まず勇一さんとどこかで落ちあって、それから話を共有しようとした…

勇一さんを指名したのは、先日皆に話してくれたあの仮説に現実味が出てきたと思ったからです。」


「一番話が早い思うたんやな。」


「はい…でも現場に到着したらあんなことになっていて…」



申し訳ない顔をする真也。


でも過ぎた事は仕方ない。勇一は問う。



「それはもういいよ。真也のおかげでこうして命があるんだし。

それよりもあの日の集合場所について…だよな。

真也が一番気になっている事って。」


「はい。」


「ちなみにあの駅近くの地図って、今あるか?」


「この件を聞こうと決めてたのであらかじめ用意しています。」



駅周辺のマップを真也がベットに広げてくれた。



「勇一さんはなんであの場所を合流地点に指定したんですか?」


「そうそう。私もそれ気になってた。だって用心の為に合流地点は電話じゃなくて掲示板を使って、しかも暗号でやりとりしたんでしょ?」


「だったら仮に公衆電話が誰かに盗聴された可能性はあったとしても、合流地点までは分かりっこないよね。」


「確かに。それに俺達しか分からない“あの暗号”を使って表記したんですよね。」


「ああ、間違いない。」


「じゃあ敵方に勇一の行き先を告発した犯人がいるとなれば…このメンバーの誰かって事になるよね~…バカバカしい。それ。」


「ホントね。」


「でも何で勇一さんが選んだ場所をこうも正確に突き止めて先回りしてたんだろ…」


「俺、ここのセルジオさんって方に考えられる可能性を聞いてみたんですけど、さすがに分からないって…」



「そもそも勇一、なんでこの建物に決めたん?」


「う~ん。それは…なんとなく決めた…かな。」


「なんとなく?」


「そうだよ。」


「そんなその場で地図見て適当に決めたような場所がピンポイントで相手に分かる訳ないやん。エスパーでもない限り。」


「普通に考えたらそう感じるよね。じゃあエスパーがいる説でも仮定する?」


「それはあまり現実的じゃないかも…」


「じゃこの仮説はフタしときましょう。でも真也、一番気になるのはそこなのよね。」


「はい。なんで相手は勇一さんの指定した場所を知っていたのか?そこだけは不思議で仕方なかったんです。」


「発信機でも付けられとったとか…」


「それを仮定したらさ…ここの『MF』メンバーすらも怪しくなってこない?

疑い出したらキリがないっていうか。」


「相手の思うつぼってか…」



「実は僕もそんな考えがふと頭に浮かんでました。勇一さんがこんなことになってしまった後というのもあり、どんどん考えが後ろ向きというか疑心暗鬼になっていったというか…」


「…分かる。思考パターンがどんどん後ろ向きになるよね。」


「それで俺らに“助けてくれ”言うたんか。」


「……はい。周辺の駅の掲示板を使ってですけど。

これをもし解読でもされたら終わりだなと思ってドキドキしてました。

今振り返ったら本当に僕、小心者だなって笑えてきますよ。」



「いや、疑心暗鬼に苛まれてたらしゃあないで。」


「とにかく真也は相当心理面で追い込まれてたという事だな。1人で思い悩んでたら苦しくなる一方だし…」


「八薙君…」


「ま、結果的に掲示板の書き込みを見つけてこうやって集えて良かったよ。」



会話が一旦落ち着いたところで改めて勇一の方を見やる7名。



「でよ、勇一。

お前この落ち合う場所に向かう間、何か違和感感じんかったか?

誰かにつけられてるとかいう気配から些細な事まで何でもええ。

何か覚えてたら話してほしいねん。」



正体の見えない相手がどこまでこっちに入り込んできているのか?


相手にどこまで自分達の行動が筒抜けなのか?


そこを全員が認識しておかないと、これから先どこまで踏み込んでよいか分からないのだ。



“なぜ勇一の指定した場所は割れていたのか”という部分が真也をはじめ全員が一番気になる部分だった。



勇一は思ったことをとりあえず口に出してみる。



「そうだな…あの時は確か午前中だったな…日差しが明るくて…でも寒かった…」


「おう、そんな些細な事でもええ。何でも言うてみてや。」



皆真剣に耳を傾ける。



「駅の掲示板に目的地を書いて…そこからは車に注意しながら歩いたな…

見えてきた公園の横道を北向いて歩いていって…信号が見えてきて…その信号を渡った先に見えてきた建物…」


「うん…地図だとここの建物か…」


「この建物の東側へ回ってから入っていった…。うん、こんな感じ。」



勇一の話を聞きながら思い浮かぶ風景と地図を重ね合わせる。



「駅から北へ向けてこの道を歩いてきたんですね…」


「そうだ。そこは…間違いない。」


「で、この建物内に入っていった…と。」


「そうだな。何かヒントになったか?」


「どう思う?」


「いや、まだ何も見えてこない。」


「相手目線で考えてみない?」


「例えば俺らが勇一の怨敵やったと仮定してもなんかヒントは見えてこんか?」


「うん…特段変なところはなかったしね。この地図からルートを見返しても特に目立つような道でもないし。公園の横道を通るくらいしか…」


「せやなぁ…公園の横道を通るくらいやな…」



「公園?」


生一が何かを感じたようだ。



「どうしたよ?生一、何かひっかかるとこあるか?」


「公園って…公園やねんな。」


「ええ。地図上のこのエリア、野外公園になってるでしょ。この横道を歩いていったって勇一が。」


「勇一が…か…」


「だから何かあるんか?言うてみぃや。ええから。」


「…………」


途端にふさぎこんでしまった生一。




勇一が問うてみる。


「そんなに“公園”って部分にひっかかるか?」



「…そうよ。そう。」


「公園って日本にも普通にあるでしょ?何かひっかかる?」



「生一?」


「まぁ公園なんてどこにでもあるよな…」



「…………あのよ。俺らの高校の手前にも確かこれ位の大きさの公園があるよな。」



「え?あ、そう言えば。」



「本当だ。それに公園の横道も同じような道だし…」



「せやろ。ちょっと俺たちが通ってた高校周辺の風景を思い出してみろ!

路面電車の駅と、ここの駅と場所的にも非常に似通ってないか?」


「あ…」


「そんでそこから歩いていったら公園が見えてくるよな。

その公園の横道を高校がある方角…北向いて歩いていったら何が見えてきた?何があった?」


「横道ぬけたらそりゃあ信号が…って、え?」


「ちょっと待ってよ。いや距離的にもほぼ同じだ。」


「そんで信号抜けたら俺らの通う高校やねんな。この地図と殆ど同じ場所にある。

オマケに建物の大きさも似てる…横に長い。」


「うわ…マジだわ。」


「そんで勇一。お前は建物のどの辺に入っていった?」


「そりゃ東側…ってまさか。」



「せやねん。そのまさかやと思うねん。

俺達9人が部活でいつも使ってた部屋…

あれって校舎の東側やったよな。2階やけど。」



「確かに…恐ろしいくらいイメージできる…」



「地図で見たら校舎東側と場所が殆ど同じ…嘘みたいだけどさ…」



「帰巣本能っていうのあるやろ。心理学でちょっと習うたねん。

地理的に似てるからここからやときっとこの建物に向けてやって来る思うたんと違うか?相手…

それにこの道、お前んとこの自宅から高校までの通学路やろ。」



「何だよソレ。怖すぎるんだけど…」



「平日はほぼ毎日静公を囲んでこの場所で俺ら部活してたやん。集まってたやん。」



「そうね…もうホームルームが終わったら無意識レベルで東校舎2階に行ってた…」



「……じゃあ、もしそうならば犯人は…」



「ああ…日本での俺らの事を少なくとも知っとる奴が関わってるってことやな。」

物語はドイツ編後半。勇一の復活と共に 攻勢編へ進みます。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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