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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
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51-1 その時、私の魂が動いた

【51話】Aパート

勇一の意識が肉体を離れ、遠い祖先の記憶へと足を踏み入れていた頃…




現実世界では余談を許さない状況が続いていた。


静那は何も口に入れずにずっと勇一の看病を続けている。


手から僅かに感じる彼の体温。その手が冷たくならないように必死に握り続ける静那。


時々ドクターが様子を見に部屋へ顔を出すのだが、意識の戻らない勇一の容態を見ては厳しい表情を見せるのみだ。






…勇一は意識の狭間を進んでいく中、そんな静那の存在をふと思い出す。


思い出すというよりは、意識が導いてくれたという感覚に近かった…




* * * * *




大昔…日本人はあらゆるものに愛され、祝福を受けながら自然と共に生きてきた。


動物だけでなく、植物や昆虫とも会話をしながら全ての出来事に感謝を抱いた。


相手が人間でなくとも美しいものは美しいと褒め称えた。


美味しい時はその生きた恵みに感謝した。


その土地にあるもの全てに感謝した。



しかし、そんな長く続いてきた“平和”のようなものとも決別する時を迎える。





突然目の前に農耕地帯が広がり始める。


日本の祖先たちが稲作を始めだしたのだろう。



早送りの感覚で世界を見ている勇一からしたら、あっという間に平地だった場所が農地へと変貌を遂げていくように見える。



以前観たTV番組だったか…大掛かりな仕掛けのドミノ倒しで仕込んでいた絵画がバラバラと姿を現していくようなイメージに近い。



平地という場所がほぼ畑と民家へと変わった次の瞬間、そこで出来た農作物…米を巡り争いが始まる。


“所有”という概念が生まれたからだろう。


そして本格的に作物の奪い合いが始まりだした。




規模こそ小さいものの起きてしまった紛争。


戦いで勝ったものは負けたものから総取りだ。


やはり戦争のルーツは奪い合いだ。


そこから対立や格差が生まれていく。


“分かち合い”からどんどん遠ざかっていく。



悲しみや憎しみは連鎖していく。


そんな構図を上空から苦い思いで見ていくうち、どんどん建物や町の雰囲気が煌びやかになっていくのに気づく。



貴族や豪族が幅を利かせ…小競り合いの規模が大きくなっていった。



どうやら武士という階級があちこちで大頭する時代に入ったようだ。



この辺りからの流れは歴史で学んだ事がある。



恐らく勇一の御先祖のDNAが見てきた景色なのだろうが、学んできた史実とあまり誤差は感じられなかった。


しかし知っていたとはいえ、争いや格差が絶えない世界が世代を超えて繰り返されていく。


その根本は変わらないまま、時代を越えて何度も…何度も…



“大昔の記憶を持っている同志達のはずなのに…何故にこんなに争うんだ…”



記憶を辿り、感じ取ってきた勇一だからこそ争いあう事の空しさを感じずにはいられない。



しかしある時から状況が一変する。



やっと近隣同士が争わない様に統治された世の中になったと思ったら、今度は皆で団結し国外へ向けて攻め入ろうとしているではないか!



勇一は直感した。“ああ…これは戦争の世紀に入っていったんだな…”と。



今までのように各地で小さな小競り合いが生まれることは無くなったのだが、争いの規模が急激に跳ね上がったのだ。


見渡す何もかもが近代化へと進んでいったかと思うと、あっという間に戦争一色になってきた。



戦いに使用する武器もどんどん残酷な兵器へと変貌を遂げ、その効果を試すことすら躊躇ってしまう程のものが開発されていく。



そんな中で日本も本格的に戦争に踏み込んでいった。



“神の教えに背いてまでも…何故に争う…人達よ…”



奇麗な海岸線はあっという間にコンクリートで塗り固められ、その上を数えきれないくらいの小型戦闘機が飛び立っていく。


『零戦』というやつだ。


かすかに覚えている。



その様子を思念体のまま見つめていた勇一も、だんだんやるせない気持ちになってきた。



これは歴史上の出来事だ。


過去に起こった記録クロニクル


今じゃない…


でも…


こんなのは本当に国民一人一人が望んでやっていることなのか…


相手国を憎まないといけないその根っこはどこにある…


何が生きていて不満なのだ…


何が満たされないんだ…


太陽も…雨も…川も…土地も…全て太古の昔から変わらずそこにあるではないか…





ふと上空を見る。


一人の若者が飛行機に乗り込み、本土を飛び立った。


勇一は飛行機の真横まで意識を移動させ、操縦する若者の姿を見届けようとする。


コックピット前には家族の写真が置かれていた…



思念体という状態で、若者の顔をコックピットの少し前からのぞき込んでみる勇一。


そのあどけなさの残る表情に驚いた。


勇一とほぼ変わらないくらいの年齢の若者だったからだ。



もし戦争が起こらなければ彼らにも叶えたい夢があっただろう。


やりたかった事もあっただろう。


魂の状態でもそう感じる勇一。


しかしそんな気持ちはとうに捨て去ったという全ての私情を滅却するかのような鬼気迫る表情をしていた。




この先に彼は何を見出し、何を思いながら一人空を舞うのか…



「この先、皆が笑顔でいられるような国であるために!」



勇一と同じくらいの歳の若者はそう何度も呟きながら敵方の艦隊目指して向かっていく。


無理矢理そう自分に言い聞かせているようにも感じる。


10代の若者なのに相当な覚悟だ。


今後未来を生きていく見ず知らずの日本人のために命を賭けられるほどの彼等が…もし生きていれば、何を成しどうなっていたのだろうか?



「ウォオオオオ!オオオオオ!」



敵方の艦隊が見えてきたと同時に、胸に抱く私情を全て殺してしまうかのような大声を張り上げる若者。



思いを断ち切って覚悟を決めた人間の姿だ。



勇一はもう彼の表情を直視できなかった。



尚も大声で叫び続けながら若者は突撃していく。…大声で叫ばないと恐怖のあまりどうにかなってしまいそうなのだろう。



“敵も味方も戦場ではみんなキチガイに見える…これが戦争…これが戦いに身を投じた人間達の末路…”




意識の中でもミサイルが飛び交う狂った世界は捉える事ができた。



大声を出し続けないと気が狂ってしまうような世界で、自分の先祖は戦争という時代をどのように駆け抜けていったのだろうか。



そう考えると自分の中に眠るDNAはここまでものすごい旅をしてきたんだなと実感する。



そうだ…


こんなことが出来たのも“自分が愛されてきた”という記憶を土壇場で思い出すことが出来たからなんじゃないか。



全てが自分を愛してくれたように…


未来を生きる自分の子孫たちに…


こういう形になってしまったけど…


愛を伝えたい…


愛を届けたい…


愛の心を抱き続けながら未来を歩んでいってもらいたい…


あなたはずっと大切で愛されていたんだという証明を残したい…




どこからそんな意識が沸き上がってきたのかは分からない。


思念体のような状態だから涙などは流せない。


でももし自分が今、生身の人間だったら涙なしには受け取れないようなメッセージだった。




* * * * *




戦争というものは果てが無いように感じる…


あまりにも凄惨な光景に勇一は意識をシャットダウンしようとする。


自分はそこに居ないはずなのに胸が苦しい。


ここにいては自分も気が狂いそうだと感じだ。



過去の出来事を見せられているとはいえこんな悪夢はもう見たくない。


そもそも起こしちゃ駄目だと強く感じる勇一。


イマジネーションがリアルになればなるほどそう強く感じる。




やっぱり平和がいい。


…でも平和とは?


平和って何?


大昔の世界…あれが平和?


ふと立ち止まる。




“平和”というものは本来何を指しているんだ?



戦争から次の戦争までの間を指した“定義”…なのか?



そもそも昔から平和なんて言葉はなかった。



太古の昔を見てきたからそれが分かる。



自然の中では、平和とか…他に“病気”や“健康”…もなかった。



ただあるがまま、全てを受け入れて生きてきただけだ。



健康も定義を変えれば変わってしまうもの…



歳を取れば自然と体調も優れなくなっていき…やがて土に変えるのみだ。



〇〇だから健康、〇〇だから平和なんていう基準もなかった…



それにひきかえ“戦争”は大昔からあった。



戦争が無かった時代はあったけど、その期間を平和と呼べるのかどうかは分からない。



戦争は事柄…。



自由や平等、平和…これらは人が抱く“観念”だということを意識レベルで感じる。



気になっていた“時間”すらも“観念”



私たちが見てるのは時計であって、時間は観念…




…今までよりも何段階も俯瞰した位置から物事を見つめ直してみると、これまで考えた事も無いような感覚が生まれてくる。



きっと“今まで生きてきた中で作られた常識”を全てとっぱらっているからだろう。


普通に生きていて“観念”だなんて捉え方はまずできなかったと思う。


今、己の意識は全てを受け入れられるような不思議と澄んだ感覚だ。




何か達観したような意識に入っていく中、舞台は争いの中心地へ進んでいった。


歴史という名の時間は続いているのだ。


そして戦争はその形態を様々に変え、絶えず続いていた。



先が気になったので、勇一は意識をそちらへ“合わせて”みる…




* * * * *




そこは灰色一面に覆われた世界。


少し前に見た世界だ。



“灰色に覆われた世界?もしかしてここからは未来の記録なのか…”


少し緊張が走る勇一。


といっても思念体だ。


本当に自分の意識が緊張しているのかどうかは分からない。



とにかくここがどこなのかまったく分からない…



ただそんな絶望的な場所。


灰色に覆いつくされた中、誰かが必死に何かを訴えている様子を感じ取る。


様子がはっきり見えてこないのだがそれがなぜか分かる。



視覚で認識できない中、意識の方を集中していく。



すると誰かが泣いているのが分かる。



そこへもっと集中させてみる。



そこではっきり分かった。



この渦中に居たのは……静那だ。

物語はドイツ編後半。勇一の目覚めを経て攻勢編へ進みます。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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