49-2 妹をたのむ…ぜ
【49話】Bパート
「うっ…腕をっ…拳銃が…」
「足が…。動けねぇ…」
広間におびき寄せてハチの巣にされた総長達。
メンバーの殆どが銃弾を受け、倒れ込んでいるのが分かる。
ただ、何人がやられて何人無事かも分からない。
傍でかろうじて息をしているものもいるが、もう助からないというのが分かる。
「総長!」
八薙達のすぐ目の前で総長がうずくまっていた。
銃弾が放たれた時、自分達4人をとっさに庇ったんだと気付く。
「あ……足を…やられた…」
暗い視界ではあるが、足に銃弾を受け出血が見られる。
「俺達をかばって…何やってんだよ…」
兼元が絞り出すような声を上げる。
「なんだその様は?“シュタイン”とかいうヒーロー気取りの連中が。」
「誰だ!」
叫んだ先に白髪の老人の顔がかすかに確認できる。
その姿と表情を認識するや否や睨みつける総長。
「ヴァイマル!貴様ぁ!」
「おや、まだ元気が残っているようだな、総長さん。
お前達はもう終わりだ。
我々は次のステージ。第2フェーズへと入る。」
「第2フェーズ…どういうことだ!」
脂汗をかきながら必死で問う総長。
「完全なる人兵器が完成したのだ。新たなる協力者も加えてな。」
「完全なる人兵器…新たなる協力者…」
「間もなくその試作型がこちらに届く。
その力を借りればもはや都市の分断などは容易い。
市民に打つ手など勿論無い。
そうなればこのシティの制圧から本格的な世界侵攻へ。」
「ふざけんな。どこのお山の大将か知らんが、ドイツの警察部隊を軽く見過ぎだ。そう簡単にシティを制圧できんぞ。」
一方的な意見に対し、睨みつける八薙。
「フッ、東洋人とはどこまでもおめでたい生き物だな。」
「何だと!」
「あの欧米“ネイビーシールズ”そしてイギリスSAS特殊空挺部隊よりも更に上位クラスの精鋭が5名、もうすぐこちらに集結するのだよ。それが反乱の合図だ。
彼らの存在だけでも1つの町を分断する程度、軽く事足りるのだが。
さらに北の同志より完成された人兵器の試作型が間もなく届く。そうなれば誰も我らを止められん。」
「んなもん俺らが阻止して…」
「軍人でもない…まだ子どもに出来る事など何がある?
ここは単なる拠点の1つに過ぎないうえ、この国には数えきれないくらい我々の同志がいるのだ。
下町のヒーローを気取るような奴らとは規模が違いすぎるのだよ。
そして今回の件は、こちらの子飼いの政治家も関わっている。
万が一我々を退けられたとしても法で裁かれ罰せられるのはお前達だ。貴様ら町人の存在など取るに足らん。
間もなく21世紀を迎える暁の刻……我々がこれまで軍事によって虐げられてきた過去を覆し、新たな時代へ入るのだ。」
「お前ら一体何モンだ!」
「我々か…
そんなものはこれから死ぬ輩が聞いても仕方あるまい。
しいて言うならこれから訪れる新世紀の覇権を握る選ばれし人間だ。
では、そろそろ死んでもらう。
こっちも忙しいんでな。」
「ジークッ!アーサ!」
総長が声を振り絞って叫んだと思うと、しんがりを務めてくれていた2人が強烈なフラッシュをたいた。スポットライトのようなものだ。
とたんに眩い光が広間中に広がる。
「今だ!相手の視界が狂っている間に!」
考えている時間はない、広間の出口から動けるもの数名が飛び出して行く。
八薙達4名は無事だが、もはや何人がここから逃げ出せているか分からない。
「フン…この期に及んでまだあがくか。」
必死で逃げようとする総長達を追いかけるそぶりも見せない大御所のヴァイマル。
その理由は屋敷の外に出てすぐに分かった。
敷地周りを既に大勢の人間に取り囲まれていたのだ。
建物の柱からその様子を伺う総長達。
50人以上はいる…
相手は警官達…ではない。おそらくヴァイマル子飼いの警備兵達だろう。
「うおっ!」
小谷野の頭上を弾道がかすめた。建物に銃弾がめり込む。
完全に包囲された上に狙われている。
これではとてもじゃないが強行突破してアジトまで戻れない!
「(どないしたらええねん!ㇵインちゃん…みんな…)」
下手に動けない中感情の堂々巡りを感じる小谷野。
総長は…なんとかついてきていた。
しかし足を複数個所撃たれたようでかなり辛そうだ。
暗い中、口で苦しそうに息をしている。
総長が辛そうな顔をするということはよっぽどの重傷なんだと八薙は悟る。
“ハアハア”と荒い息をしながら総長は八薙達4人に告げた。
「八薙…このままじゃ俺達は全滅だ。
だが、お前らは生きて帰らないといけない。
…イチ観光客だ。巻き込むわけにいかん…」
「何をする気だ、総長。」
「大きな花火になってやる。アイツらの手にかかるくらいなら…」
「自爆…するつもりか?一緒に戦おう、総長!」
「いや、そもそもこれだ。」
総長は足の被弾痕を見せる。
「この逃げないといけない状況で足の負傷ってのは命取りだ。」
「でも勝算はあるんか?」
「俺も伊達にこういうことをやってきちゃいねえよ。こういう時の為の準備はしてある。
ベルトに相当量の火薬を仕込んである。
この屋敷くらいは吹っ飛ばせる強力な代物だ。
まぁ昔から物持ちは良かったかな…」
「総長…」
ここで総長は先ほどのジークとアーサの肩を持ち、呼び寄せる。
彼ら2人が唯一軽傷だったからだ。
「いいか。敷地外に出たら煙幕と一緒にもう一度スポットライトを照らして相手向かって投げ入れろ。そしたら急いでバイクに飛び乗れ!
こいつらを背中に乗せてアジト向かって突っ切るんだ!
こいつらはヨソモンだ。今回の件に関係ねえ。
お前らのメンツにかけてもこの4人を無事に逃がせ!」
「はいっ。」
「総長…」
「後はお前らに託す。お前達が全員ここを出たのを確認した後、俺は残ったモンで最後の仕事を遂行するさ。」
「駄目だ!総長、ハインさんにどう説明すれば…」
「八薙…バイクは?」
「バイ…ああ、乗れる。」
「じゃあ、俺のキーを渡しておく。1台はお前が運転しろ。」
「やめろ。バカな事…」
「いいか。花火は離れて見るもんだ。」
「くそっ。」
やるせない思いが八薙達の心を駆け巡る。
本当にどうしようもないのかと。
総長は自分の額に巻いていたハチマキ(Stirnband)のようなものを八薙に手渡す。
「これを。
妹を頼む…ぜ。」
「総長。」
小谷野や兼元、生一も悔しそうな表情を向ける。
「お前ら日本人が裏切者だなんて微塵も思ってなかったさ。寧ろ最高の戦友だ。
揃いも揃って気位の高い野郎だってな。
出来ればハインを連れてどこまでも逃げてくれ。
どんな形になってもいい…何年経ってもいい…必ず俺達の町を取り戻してくれ…ってな。」
「こんな時に弱弱しい事言うなよな。総長らしくない!」
「そう思うならまずハインの元まで行け!でないと借りも何も返せなくなるだろ。」
「借りは……やつらにまとめて返すつもりだ!」
「この野郎…」
「勝手な総長やなぁ。俺等も勝手にするで。」
「スポットライト、行けます!」
スポットライトのスタンバイが出来たジークとアーサ。
屋敷からバイクを駐車している敷地内まで走り抜ける覚悟と準備が出来た。
「おまえら頼むで。」
「分かりました。」
ふと後ろを見る。
ジークとアーサ以外のかろうじてついてきたメンバー達は銃弾を複数箇所受け、満身創痍の状態だった。
もう走り抜ける力は無い。
恐らくここで総長と運命を共にするつもりなのだろう。
住処を奪われた自分達を家族でもないのに保護し、ここまで面倒を見てくれたこの恩人と共に…。
「よし、行けッ!!」
総長が最後の号令をかけると同時にジークとアーサを先頭に八薙、兼元、小谷野、生一はバイクを駐車している場所まで走り抜けていった。
「あっちに行ったぞ!」
何人かの男達がこの6名を追跡しようと追いかけてくるのが、屋敷外壁からの足音から分かる。
視界が悪い中とはいえ立ち止まったら標的にされて終わりだ。
バイクが見えてきた。
「先に!乗って!」
アーサと呼ばれた青年が指示を出す。
八薙は総長のバイクにまたがり、急いでエンジンをかける。
「よし!一発でかかった!行けるぞ!」
「俺達も続くぞ!」
もう一人の青年・ジークも残り2台のエンジンをかける。
そのエンジン音に気付き、建物を取り囲んでいた軍人らしき男達が塀を飛び越えて向かってきた。
そこへアーサがまず煙幕を投げつける。
たちまち煙が巻き起こった。
その上で先ほどのスポットライトをその煙幕内に投げ入れる。
煙の中で眩い光が乱反射して視界が完全に分からなくなった。
「(なかなか有効やなぁ、煙と光のコンビネーション…)」
そう感じたのは生一。
「今しかねえ!出るぞ!」
ジーク、アーサ、そして八薙が運転する3台のバイクが屋敷の塀を豪快に飛び越えてなんとか脱出を成功させた。
煙幕とライトで混乱した中での一瞬の出来事だった。
しかし…
6名が屋敷を出てから1km程離れた頃だろうか……ものすごい爆音と共に屋敷から火の手が上がるのが見えた。
尚も後ろで破裂音や爆発音が響く。
紛れもなく総長が足止めの為に自爆したのだ。
「ちくしょう……」
バイクのサイドミラーからその様子を確認しつつも八薙達はバイクのギアを上げる。
今は悲しんでいる余裕などない。
命と引き換えに総長が脱出経路を作ってくれたのだ。
この借りは奴らにまとめて返すしかないと感じる4人だった。
* * * * *
ジークとアーサ、2人のバイクの後部座席には小谷野と生一が。
そして八薙の後には兼元が乗っている。
たった3台(6名)…僅かとなった手勢でバイクはジークの先導の下アジトへと向かう。
しかし先頭のバイクが途中で路線を変えようとした。
とっさに八薙が問う。
「なんで急に?」
「こっちのルートの方が安全です。」
ジークが路線を急遽変更する。
「ちょっと待ってくれ!」
しかし八薙がそのルートに納得いかないようで、急いでバイクを回り込ませ、一旦ジーク達のバイクを止めた。
今の所追手は来ていないようだ。
「どうした?日本人。」
一旦エンジンを止めたジークとアーサはバイクを降りた後、八薙に問うてきた。
すると、ここで八薙は後部に跨っていた兼元にとっては耳を疑うような返答をする。
「“こっちのルートが安全”って、あなたたちにとっては…でしょ?
このまま俺達をどこに連れていくつもりなんですか?」
「八薙!?
お前何言うてんねん。こんな状況で!」
「せやで八薙。今まさに逃げてる最中や。なんでそんな事……?」
「…カンの良いガキは早死にするぜ!」
そう吐き捨てた瞬間、なんと2人は拳銃を取り出し八薙と兼元に突きつけた。
「何で分かった?」
さっきまで見せていた鬼気迫る雰囲気とは全然違う表情でアーサが睨みつけてきた。
「あんた見回りだろ。
いくら視界が悪くとも結果あれだけの人間に取り囲まれていたんだ。見逃すはずないだろ。
行きの時に現われた“手際の良い追手”も来ていない。
…それにジークってあんたもだ。
総長が庇うって分かっていてワザと被弾させたのか?
流石に想像すらしたくなかったぜ。
酷すぎて反吐が出る。マジで人間かよ。」
「抜かせ!」
そう言って非情の2人は引き金を八薙、兼元に向けて引いた。
しかし新型の銃からは何も反応が無かった。
「何ィ?」
八薙は事務所に乗り込んだ時、こういう可能性を見越して銃を手渡す時に弾丸を抜き取っていたのだ。
次の瞬間、バイクの後ろに跨っていた小谷野と生一が後ろから2人を抱き込み“バックドロップ”のような要領で豪快に投げ捨てた。
ヘルメットを脱いでいたのが幸いし、頭から地面に落とされた2人は1発で気絶する。
その後はお決まりの流れ……意識を取り戻すまでに捕縛作業だ。
しかしどこか無言のまま作業を進める4人。
「小谷野さん、生一さん…バイクって運転できますか?」
「んなモン出来んでももうやるしかないやろ。
追手は来てないみたいやし、この2人積んでアジト戻るのが先決や。」
「すいません。速度は抑えますんで、こいつら括り付けたら戻りましょう。」
「……ああ。」
「……せやな…」
信じたくなかったが、気絶しているこの2人の青年はヴァイマル側に既に調略されていた。
おかげで内部の情報が筒抜けだったわけだ。
でも…総長の“町や仲間を命がけで守ろうとする背中”を見せられても尚こんなことが出来てしまう2人が信じられなかった。
「総長は…命をはってまで……なのに…畜生…」
その後、やや緩やかな速度でバイパスを走り抜けていく3台のバイク。
こちらのメンバーはもう誰も居ない…壊滅状態だ。
悲しさとやりきれなさで心が押しつぶされそうだった。
しかし、そんな感傷に浸っている状況ではないのも事実。
“シュタイン”のアジトで待っているであろう僅かなメンバー…そして総長の妹・ハインさんの安否が心配だ。
「無事で居てくれ…みんな!」
物語はこの後、ドイツ 攻勢編へ進みます。
ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。
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