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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
201/226

49-1 妹をたのむ…ぜ

【49話】Aパート

 先ほど無人のはずのビルから大音量で流れていた音楽がピタっと止まったかと思えば、今度は建物の裏手から数台のバイクエンジンのけたたましい音が聞こえてきた。



「何かしら?」



先ほどから気になっていた仁科さんと葉月は、人ごみを避ける意味でも裏側へ様子を見に行っててみた。


その時、人通りが途切れた辺りから勢いよく数台のバイクが発進していくのが見えた。



群がった群衆を退けるように避けたと思ったらものすごい勢いで飛ばし始める数台のバイク。



この街中だと完全に速度違反のレベルだ。



「小春っ!あれっ!」


そのバイク集団を見ると、後部座席に見覚えのある4人が乗っている。



「何やってんの!生一!」


仁科さんがありったけの声で叫んで呼び止めた。



日本語だったのでその声に気付いた生一達。


「おう!ちょっくら害虫駆除して帰ってくるわ!シーユーアゲーン!」



「何よ!勝手な事言わないで!そもそもそのバイク誰ー」


叫んだものの既にバイクの集団は居ない。


ものすごいスピードで町を爆走し、やがて見えなくなっていった。



「あいつら…何しに行くのか分からないけど、そもそも速度違反で捕まるわよ。こんな町中で。」


「ええ。でも何か緊急性を感じたかな。“害虫駆除”って言ってたでしょ。この後ひと悶着ありそうね。」


「家を出ていって帰らないと思ったらもうトラブルに足を突っ込んでるって訳?

落ち着かないわね。」



「そこホント。でも誰を駆除するつもりなのか…」


「それは気になる。帰国するまではなるだけ騒ぎを大きくしないでほしいんだけどね。」


「もしかして新しい女の子が絡んでる…とか?」


「うん。私も今同じこと考えた。」




* * * * *




ヴァイマル議員の父は政治界の立ち位置で言うと大御所(Meister)だ。



生一達はその時はまだ詳しく知らなかったのだが、ドイツの政界でもトップの人間である。


そんな大御所の屋敷というか事務所へまさに土足で乗り込まんとしている。


今回密かに国の分断を画策していた事が息子の密会より世間へ漏れ出るのだ、一気に政界の外へ引きずり落とすチャンスかもしれない。




総長をはじめとしたバイク10台。その10名と今回同行を許してもらった生一達4名が、沈む夕日を浴びながら道路を爆走する。



ちなみに4名ともそれぞれバイクの後ろに乗せてもらっている。



完全に速度違反の領域だがこのスピードで黒幕の事務所まで一気に突っ切るつもりだ。




まるでバックギアが壊れたかの如くものすごい速度で快走していくのだが……やがて何やら追手らしき車が近づいてきているのに気づく。


警察車両ではなさそうだ。



走りつつ総長のバイク横までつけてきた青年が声高に報告する。



「総長!誰か分かりませんが追手です。車が猛追してきます!どこで嗅ぎつけたんでしょうか!」


「あそこにいた専属警備員の奴じゃねえのか?」


「分かりません!っていうかもう来ます!」


「クソ!向こうの方が良いエンジン積んでやがる。追いつかれるぞ!」



その時、斜め後ろのバイクから叫び声がした。兼元だ。


「総長!この先急カーブとかないんか!」


「カーブ?あるぞ200m先だ!」



「よっしゃ!何も言わんとこのバイクより先に行っとけ、皆!」


「お前ら考えるな!言うとおりにしとけ。」


「おう!」


「はい!」



道路は川沿いのバイパスに入り、速度は更に上がった。



正体の分からない連中が車で猛追してくる中、時速150kmは超えるバイクチェイスが展開されている。


そしてその殿しんがりを兼元が乗ったバイクが受け持つ。



「カーブまであと100m!」



「よっしゃそのまま速度落とさず曲がっていけ!」


「お前ら、俺に続け!」


「あと30m!!」



総長のドリフトを利かせたドライビングテクニックに沿うかのように次々とバイクがカーブを曲がり抜けていった。



殿の兼元は叫びながら何かを取り出す。


「弁償代は払わんで~!」


そう言って兼元はバイクの曲がり際手前から勢いよくオイルをまき散らした。



すると猛追してきた車のタイヤがオイルに塗れたようで、車はカーブに入ると共にハンドルをとられる。



そのままものすごいスピードでガードレールに激突した。


ブレーキ音がけたたましく響き渡る。



「ざまあみさらせ!」


ガードレールから火花を散らしているのがサイドミラーから見える。



「よーし!うぉ!また来やがった!」



後ろを見やると、また新たに3台の車が総長達のバイクを猛追してきた。


先ほどと同じ、明らかに速度違反による取り締まりの車ではない。黒光りしたいかにも金持ちが嗜むような車だ。


妙に手際の良い追跡に不信感を持つ八薙。




「総長!また来ます!」


隣のバイクの青年が判断を仰ぐ。



「迷うな!このままバイパスから町のど真ん中突っ切るぞ!続け!」



速度は相手の方が早い。直線コースでは追いつかれる。


冷静に考えている暇はない。


総長達10台のバイクはバイパスを降りたと思うと、市街地の方へ入っていった。


しかし急いで方向転換し、追いかけてくる車が見える。



市街地だろうがお構いなしに飛ばしてきた。


何者かはわからないが、向こうのドライビングテクニックも相当だ。



バイク同士がある程度固まったあたりで総長が叫ぶ。


「いいか!この辺は俺らに地の利がある。商店街横あそこを突っ切るぞ!」


「おう!」


恐怖感をかき消すような怒鳴りつけるような声を張り上げ、バイクは一列に隊列を組みなおす。


「いいか!一気に飛び越えるんだ!」



その後は総長を先頭に狭い路地を入っていく。


まるで曲芸でもしているのではないかと感じるほどのテクニックで駆け抜けていった。



「コレ…隣の河川に車輪を踏み外したら最後だな…こいつら相当走り慣れてやがる。」



1mくらいの狭い路地だ。


流石に車では入ってこれない。





狭い商店街横を進んでいくうちに、ようやく追いかけっこは終わったように感じる。


「まだ気を抜くなよ。とりあえずこの細道をそのまま行くぞ!速度はもう落として大丈夫だ。」



総長の一瞬の決断と的確な指示は本当に心強く感じる。


バイパス程早くは進めないが、自分達がよく知る裏道に入ることで難局を打開した。



しかし八薙は先程からの相手側の手際の良さに不信感を持つ。


「さっきの車…どこからともなく急に追いかけてきやがった。

あいつらの正体は分からなかったが、一体いつからこっちの情報を嗅ぎつけてきたんだ?」



この先に一抹の不安を感じつつ、バイクは元凶である元締め先へと向かっていった。




* * * * *




大御所の敷地に入りこんだ途端、叫んだ総長。



「ジーク!伏せろ!危ねえ!」



とっさに総長が仲間を庇う。


被弾したようだ。



「総長!」


追撃を防ぐため、手負いの総長を周りの青年が取り囲み引き戻す。



「しっかりしろ!」


メンバーの一人“ジーク”という青年が真っ先に敷地へ入りこもうとした途端、探知機センサーに引っ掛かったようで、銃弾が飛んできたのだ。


仕掛けに気付いた総長が彼を庇って被弾した。



急いでメンバーによる応急処置が行われる。



「まったく…危なかったぜ。」


苦笑いの総長だが、八薙は心穏やかではない。


「危なかったぜ…じゃないですよ。あんたが死んだりでもしたらどうするんだ。

あんたを慕っている連中や妹はどうなる…あんたに希望を託している町民はどうなる…」



八薙は年上の総長に対しては基本敬語だ。


しかし、あまりにも向こう見ずな総長の行動に、つい感情的になってしまった。…しかしすぐに謝罪する。



「すいません…でも無茶をしないでください。」


「へ…へへ。そうだな。チェックメイト手前で気が早まってしまったみたいだ。

まあこの傷は…この寒空の中、体が温まりやがって丁度いい。」


「強がりを言わないでください。自分を大切にー」


「何だお前。ハインみたいな事言うな。」


「ハイン…妹さん。」


「ああそうだ。アイツにはいつだってちゃんと兄として顔向けできるようにしないとな。」


「でもせめて無茶は…」



「ああ。気をつけるよ。なにせここは相手の腹の中だ。

お前らは周辺を調べろ。侵入経路はどこかにあるはずだ。」


冬季ということで日の入り時刻が早く、既に辺りが暗くなってきた。


先ほどの追手もいつどこから現れるのか分からない。


総長の被弾を戒めとして、事務所の敷地へ乗り込んだ14名は緊張感を強める。



「しかしセンサーとかあるんか~

近代的なバリアみたいなもんやな。この先何重にも張られてたら入れんやん。」


生一が難色を示す。



しかし辺りが暗くなり視界が悪くなる前に侵入経路を見つけて乗り込みたい。



八薙もあたりを見渡してみた。


辺りは不思議なくらい静かだ。


政界の大御所がいる事務所であり自宅でもある。


侵入者を防ぐセンサーこそ起動していても、警備の人間が今の所誰一人見当たらないのは不自然に感じる。


ドイツの政治家の自宅はこんなに無防備なのが普通なのだろうか?



「ここだな!」


包帯を巻いてもらったばかりの総長がまた無防備に敷地内へ踏み込む。


「総長!危な…」


死角になっている所にセンサー装置の大本が設置されていたのだ。


銃弾を撃ち込みピンポイントでセンサーを破壊する。


しかしまたもやセンサーにひっかかり、銃撃を受けてしまった。




メンバーの青年が再び駆け寄り包帯を巻く。


緊急処置レベルではあるのだが。



驚いた八薙は駆け寄る。


「さっき言ったのを覚えてないのか!危ないだろう。センサーを破壊できたから良かったものの。」


「でもこうでもしないと敷地に入り込めんだろ。

オラ、もう血は止まった。入るぞ!」



「……」



これまでも総長はこんな感じだったのだろう。


例え何度も傷を負っても先頭を走り、仲間や町民を鼓舞してきたのだろう。



そこはもう注意しても聞かないんだろうな…本能で動く人なんだろうな…と感じる八薙達。



ただ、ふと妹のハインさんの悲しむ顔が頭に浮かんだ。


男気溢れる勇敢さは称賛されるが、これではハインさんも気が気でないだろう…



「まったく大馬鹿野郎だ…あんたは。」


「そうか?そりゃあ最高の誉め言葉だな。そういやお前、名前は?」


「八薙です。」


「そうか。八薙よ。」


「何ですか?」


「全部片付いたらタイマンしようや。あんときの続きだ。」


この状況で何を言い出すんだと感じたが八薙は冷静に返す。


「そうですね。…まずは今回の件、ちゃんと解決させてその後なら。」


「おっ、ノリがいいねぇ。」



包帯を巻き終えた所で再び立ち上がる総長。


今しがた撃たれたばかりだ。


痛みは感じているはずなのにそれをおくびにも出さない。



暫くして周辺を見回っていたメンバー“アーサ”が戻ってくる。


「この建物周辺には誰かがいるような気配はありません。」


「そうか…ならもう中へ行くしかないな。」



メンバーはそれぞれ武器を手に建物内へ乗り込む覚悟を決める。


中に誰が待ち構えているのか分からない。


さっき車で追跡してきた連中が先回りしているかもしれない。



「ジークさん、アーサさん。これ、総長から。拳銃です。

新型だからこっち使えって。」



「おう。助かる。」



乗り込む前に八薙はしんがりをかって出てくれたメンバー2人に新調したピストルを手渡す。


後ろを取られると危ないので警戒を強めた。



「壁が壊されてやっと穏やかになりつつあるってのに、人並みの暮らしすらも分断しようとする輩は、たとえどんな偉い手だろうが許すわけにはいかねえ。

ゲルマン魂の面汚し共が…

俺達の居場所は俺達で守る!行くぞ!!」



勢いよくガレージを蹴り上げ、総長を先頭に14名は事務所内に突入していった。




「ウラアアアア!」


けたたましい掛け声と共に14名の男達が豪邸内になだれ込む。



しかし肝心の黒幕は勿論、幹部らしき人物もいなかった。



もぬけの殻だった。



一応潜伏している人間がいないか部下に探させる。



しかし誰もいない。




「確かにここはヴァイマルの事務所で間違いない…なんでこんな分かっていたかのようなもぬけの殻になってやがる…」


誰も居ない豪邸の中で緊張感が走る。


いるはずの彼らはどこに行ったのか…



「総長、あいつらの行きそうな所とかは他に無いんか?」


生一が一応聞いてみた。



「行きそうなところか…クソ、夜は見当もつかねえな。」



「ここにおってもそのうち追手が来るんと違うか?囲まれる前に一回離れた方が…」



「いや、見ろ。まだ奥の部屋が残ってる。」



総長は奥の会議室らしき広間を見据える。


「奴らこの広い部屋で待ち伏せしているかもしれねえ。警戒を怠るな。」



再び警戒を強めながら、奥の部屋…広間に突入した。




「明かりをつけろ!」


突入後すぐ、やや広い部屋の明かりをつけて視界を広げる。


会議室にしてはやや小さめの部屋だった。




……しかしこの部屋にも誰も居なかった。


というか人の気配がない。



しかし総長とそのメンバー達は明かりのついた部屋の真ん中に張りつけられている地図を見るやいなや、青ざめた。



“何だ?”と八薙達4人もその地図を見やる。



そこには総長達の下町の地図が張りつけられていたのだ。


そしてとある場所に赤でチェックマークが付けられている。


これは…総長達の集うスラム街、アジトの拠点だ!



相手は総長達のアジトの心臓部を既に知っていたのだ。



「いかん!ハインたちが危ない!」


総長が柄にもなく表情を引きつらせる。


おそらく自分達が留守の間を狙い、仲間や妹達を襲撃しに行ったのだ。



「何やて!ハインちゃんが!?」


「あっちには戦えるやつなんておらんやろ!マズいでソレ!」


生一や小谷野、兼元も“事”を理解する。


ここの連中は総長達をここにおびき出しておいて、その間にアジトを壊滅させるつもりだと。



「今なら警官もクリスマスセレモニーで殆どが現場に出払っている。

畜生!二世議員のあいつらは囮だったのか!」



怒りで拳を震わせる総長。そんな状況でも必死で解決策を考えないといけない。


怒鳴りつけるように全員に指示を出す。



「これより急ぎアジトへ戻る!てめえら急げ!こんなタイミングを使ってきやがって!」



相手の本丸に乗り込んだものの、すぐに戻らないと留守にしている仲間が危ない。


血相を変えて全員が広間から出ようとしたその時。



突然広間の明かりが消えた。



“バチン”というブレーカーの落ちる音と共に視界が真っ暗になる。





「そこまでだ。もう正義のヒーローごっこは終わりにしよう。やれ!」




その声と同時に、暗闇から複数の銃弾が広間にいる総長達に向かって一斉に撃ち込まれた。

物語はこの後、ドイツ 攻勢編へ進みます。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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