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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
200/227

48-2 折衝力

【48話】Bパート

「さぁて、仕事の時間や!

エレガントにいくで~!」



クリスマスマーケット街に隣接する大きなビルは、デパートに似た複合施設になっていた。



1階はパーティーグッズ売り場やお菓子屋、レストランなどが連なっている。


2階へ行くと、子ども達が遊ぶプレイランドや洋服店が並んでいた。


3、4階は見た感じ歯医者などのクリニック施設、5階は貸し会議室が並ぶという構造だ。



日本のデパートとよく似た作り……というか日本が欧州のスタイルを真似たからそう感じるのだろうか。



あまり怪しまれないように4人は各フロアを歩いて場所の目星をつける。



今の所人の気配が無いが、やはり5階の会議室が有力候補だ。



一通り建物内を確認した後、1階カフェにて最終確認に入った。




既に時刻は14時前。


本日の閉店時刻まであと1時間しかない。


取引現場を暴く為とはいえもうすぐ強制退出の時間になってしまう。



「では各々、抜かりなく。

後で落ち合おう。」



生一の号令で4人は動き始めた。


まず2手に分かれた。




まず兼元小谷野コンビ。


早めの閉店という事で、人通りが極端に少なくなった2階プレイランド奥にあるトイレに籠る。



15時に差し掛かろうとする頃、兼元が警備員の人間を呼び止める。



「すいません。もう出ようと思ったんですが、奥にあるトイレに忘れ物しちゃって。

でも扉が開かないんです。一緒に見にきてもらえますか?」



非情に困った顔をして警備員さんをトイレまで誘導する。


そこで…



「ごめんな~」

「お、お前何を!ツッ!ぐあっ!!」


トイレに入るや否や警備員さんを待ち構えていた小谷野と共に2人がかりで押さえつけた。


猿轡さるぐつわをしたうえで、やや乱暴ではあるがトイレの用具箱に警備員を押し込んだ。



「あと借りるわ、コレ。」


そして警備員の服を拝借。



まず小谷野が警備員に成りすました。



「今なら誰もおらへん!ここ入っとけ!」


2階に完全にお客が居なくなったのを見計らい、小柄な兼元は建物の通風孔へもぐりこんだ。


これで閉店以降のビルに2人は侵入完了となった。




生一と八薙のペアはというと…


まず生一が肩車してもらい5階にある天井裏のダクトに入った。


天井の換気口は比較的広く、匍匐ほふく前進して各部屋に移動することが可能だ。


そして八薙は各階にすぐ移動できるよう非常階段で潜伏してもらう。


何か動きがあれば単独で行動できるようにするためである。





そうこうしているうちに閉店の音楽が流れ始める。




閉店時間になったということでビルの中のお客は全員外に出ていった。


従業員も裏口から退場した事により、もうビルの中は数名の専属警備員しかいない。



反比例するように既に建物の外は溢れんばかりの観光客で賑わっていた。


クリスマスツリーのオープニングセレモニーが間もなく行われるからだ。




そんな中…


ビルの中ではやや年配でスーツ姿の男性がどこからともなく姿を現しはじめた。



恐らく裏口から入ってきたのだろう。


10人程だが予想通りエレベーターで5階へ向かって行った。


非常階段の扉の隙間から彼らを確認した八薙は、どの部屋に入っていくかを静観していた。




* * * * *




時刻はついに16時過ぎになった。



巨大ツリー前では人でごった返しており、セレモニーも始まりそうなのだが、何やらビルの1階入り口付近が騒がしい。



あの総長達が30人くらいの若者を引きつれ、ビルの中に入らせろと抗議していたのだ。


しかし複数の警察官や警備員が取り囲み、イベント中の規制をかける。


この施設はもう閉店しているのだと。


総長側も観光客など沢山の人だかりが出来ている中、手荒な事は出来ない。





混雑と警備員の多さに総長たちは難色を示している最中、ビルの中から1人の専属警備員らしき男が慌ただしく入り口までやってきた。



「大変です。2階から不法侵入者が入りました!私一人だけですので手に負えません!今すぐ応援を!」


「何だと!閉店後のチェックはしたはずだ。どこから入ってきた!」


「すいません、原因が分かりません。」


「ええい。今日は入れてはならんのだ。案内しろ!」


警備員のリーダー格の人間はそう言って案内を急いで要請する


「こっちです!」



ここでビル専属警備員の半数は2階へ向かう。


それでも残った警備員達と警察官が総長達の行く手を阻む。


「とにかく今日はもう立ち入り禁止です。お引き取り下さい。」


「そういうワケに行かねえんだ。」


「でしたら明日にでも改めて。」


「今じゃないと駄目なんだよ!お前は誰に言われてここで警備してる?ああ!」


「大声を出さないでください。セレモニーを見に来ているお客様が大勢いますので混乱を仰ぐことになります!」



警官はやや不機嫌だ。


総長達がどうやらこの辺の人間だというのは分かっているのだが、世界的なイベントの警備を任されているのだ。


混乱が起きないように努める事が警察官としては優先される。



「後日にしてくれませんかね。」


「だからそれじゃあ遅いんだよ!」


「それでも今は駄目です。セレモニーが間もなく始まりますのでここは抑えて!」


「ぐっ…国家のポリが相手だとどうにもらちが明かねえ。うまい事この状況を使われたか…」




その時、ビルの1階奥…2階へ向かう階段辺りで大きな悲鳴が聞こえた。


ビル内での事なので外の観客にまでは悲鳴が届かなかったが、入り口付近にいた人間には確かに聞こえた。



「どうした!クッ…シーバーがまったく応答しない。」


「緊急事態のようだ。俺達も行くぞ!」


「警官の皆さん、ここはお任せします。」


そう言って残ったビル専属の警備員たちは悲鳴の上がった奥の階段向かって走っていった。



「総長…何だか分からないけど中で何か起こってるみたいですね。」



「今の悲鳴は…まるで階段から転げ落ちるような感じの…」


「ああ。今回はしてやれたと思ったんだがどうも様子が変だ……何だこれは…」


総長はここで違和感を感じる。


ビルの中で何かが起こっているという………




* * * * *




ここは5階のとある会議室。


部屋の中から話し声が聞こえる…


そしてその会話は生一が換気口から絶賛録音中だ。




「これはヴァイマル様。」


「フム、兵器投入の目途は無事進んでおるか?」


「御心配なく。間もなくあの5名も到着いたします。」


「フン…街の人間に気付かれずに事を進めるのは私でも大変なのだぞ!」


「分かっております。分断が進んだ後の小型武器の売り上げは全て上納させていただきます。」


「人間とは時として脆いものだからな。

不安感を煽り…分断させて憎しみを煽ればそれだけで事足りる。

あとは買ってもらった武器で勝手に殺し合いをしてくれる。

いくら町民同士とはいえ、人間の根本…信頼関係を崩壊させてしまえばあとは容易いものだ。

だがそこに持って行くまでには政治力と周りを固める資本が必要だからな。」



「あのナチスが取ったやり方は時代に関係なく有効ということですな。

いやいや、ヴァイマル様もワルでいらっしゃる。」


「何を言う。お主も十分ワルではないか。

本格的な分断となれば、どれだけ利益が懐に入ってくるか既に“はじいて”おるのだろう。」


「勿論。ただ後はあくまで他人の意志でやることです故。」


「それも間違いではないがな…なんとも妙を得た言い方をする。フフ…」



そう言って、ドイツの政権を掌握しつつある男・ヴァイマルは笑みを浮かべる。


ちなみに二世議員である。




戦争は起こってしまえばお互いの感情が交錯し、甚大な被害が出尽くすまで歯止めが効かない。


小さな力ではどうしようもなくなる。


そこに至るまで…住民の心理をうまく突くための会議が繰り広げられていたのだ。…しかし!



突然「ジャジャーン」という感じのけたたましい音楽が流れてきた。



大音量がビル中に響く。


音響設備は確か…2階のプレイルーム奥にある。



「何だこの音楽は?」


途端に会議室の中がざわつき始める。


「今日は警備と関係医者以外はこの建物には居ないはずだ。外からの妨害に対しても手は打ってある!」



しかし尚も大音量でビル中に爆音で音楽が響き続けている。


あまりにも大きい音なので、ビルの外にも音楽が漏れ出ていた。



* * * * *



「何かしら?セレモニー中なのに急に後ろのビルからやかましく音楽が流れてきたみたいだけど…」



後ろの方で式典を見ていた仁科さんと葉月が不思議そうに顔を見合わせる。


「あのビルからみたい。

何かのドッキリかな?今日はもう閉店だったからきっと何か建物内で仕込んであるのよ。」



「それにしては音量が大きすぎない?

式典の声を完全に潰してる。」



「確かに変ね。建物の明かりは消えてるのに…」



巨大クリスマスツリーを中心にすずなりになっている観客からも不穏の声が挙がる。



あまりにも奥のビルから大音量で音楽が流れだしたもので、ハプニングか何か別の催しが始まるのかとザワつきはじめた。


あれから様子を見に行った警備員たちの反応もない。



ただ事ではないと感じた警官数名は建物内の様子を見に行く事を決断し、中に入っていった。



これで入り口前の警官の数がグッと減ったのである。




そんな流れを目の前の総長は見逃さない。


小声でメンバーに伝える。


「お前ら、自信のある奴だけついてこい。あとは“ここ”預ける!足止めしとけ!」



そう言って警官の数が少なくなったのを見計らって総長を先頭とした数名が脇から乗り込んだ。


預けられた若者は警官にタックルをして転ばせる。


「今です!総長!」


「あっ!コラ君達!」


「後で事後処理するよ!あんたたちは外の人間でも諌めてな!」



そう叫びながら総長を先頭に数名が奥の階段に向けて勢いよく走り抜けていった。



「!」




静まり返った1階の奥…階段口に向かう。


驚いたことに階段に差し掛かったとろで何人かの警備員が伸びていた。



何かのトラップに引っ掛かったようで、軽く気絶している。



そんな総長達の様子を見た“警備員の一人”が総長に向かって叫ぶ。


「総長さん!非常階段の方から行けます!5階です!急いで!」


その声は警備員の恰好をした…小谷野だった。



「お前は!あの時の日本人の…」


すぐに状況を察知した総長は、連れのメンバーと共に非常階段を勢いよく駆け上がっていった。




「いたぞ!その警備員は偽物だ!」


やや遠方から小谷野向かって叫ぶ警備員。


その声に反応して追いかけてくる警察官。



警察官の殆どはまず2階奥の部屋にある音響設備を止めに向かったのだが、数名はこちらへ向かってきた。



「しまった!髪の色違うし流石にバレたか。じゃあこっからは追いかけっこや!」



3階目指して階段を駆け上がり逃げようとする。



しかし警察官も猛追してくる…のだが、その階段に細工をしていたことまでは気づかない。



小谷野が駆け上がった部分以外はあらかじめ大量のオイルを撒いていたのだ。


途端に足を滑らせて派手に転げ落ちていく警備員達。


“よっしゃあ!狙い通り”と思ったのもつかの間、手すりにつかまりながら尚も追いかけてくる警備員もいる。



しかしそんな状況にも小谷野は余裕だった。


「兼元ッ!」



3階にスタンバイしていた兼元が登場。


警備員の上空目掛けて風呂敷を投げつけた。



そして空中で分解された風呂敷から大量のコショウが振りまかれた。



これにはたまらないといった具合に強烈にむせ返る警察官達。


「これで4~5分は稼げるやろ。急がなな!」


4階まではオイルを撒いたりピアノ線を張ったりと実に様々なトラップを仕掛けている。しかしあまり長い事足止めは出来ない。


“あまり悠長には出来ん”という焦りも感じていた。



* * * * *



そんな中、5階ではまさに現場に乗り込まんとしていた人間が居た。


“バン”という音と共に会議室に乗り込んできた八薙、そして総長達。


やや驚いた顔をするスーツ姿の男達ではあるがまだ落ち着いている。



「何だね君達は!」


「ヴァイマル議員の企てはもう分かってます。

ウチらの町で何してるんですか?取り急ぎ警察に突き出しますので変な仕込みは金輪際やめてくれませんかね。」



まず総長が毅然とした態度でヴァイマルという議員に通告する。


「この町を拠点に混乱を起こそうとしてるのは知ってんだよ。」


連れの若者も追随する。



しかしスーツ姿の男達とその議員はすました顔だ。


「我々がここで会議をしていたのは事実だ。ただ、町を混乱に陥れるような話をしているという証拠はどこにあるのだね。

何ならここにあるレジュメに目を通してから言ってほしいな。

乱暴な行為を働けば捕まるのは君たちの方だよ。

下にいる警官隊ももうすぐ到着する。」



先ほどまで大音量でビル中に鳴り響いていた音楽は止められ、しんと静まり返る。



階段を中心にトラップを仕込んでいたとはいえ、もうすぐ警察官がこの部屋を見つけてやってくる。



“証拠が無いならそちらに立ち入る権利はない”という顔をしてこの場を通そうとするヴァイマル議員。


相手は老獪な政治家たちだ。


口論ではどうにも勝ち目がないように感じる。




その時。


『お主もワルよのう。』


天井から先ほどのヴァイマル達の会話が聴こえてきた。



レコーダーで天井から録音をしていたのだ。



天井の換気口が開き、レコーダーと共に潜入していた生一が顔を出す。


「オイ!じじい共。証拠ならここにあるで。」



その言葉で政治家たちの表情が一気に引きつる。



「クッ、お前ら取り押さえろ!入口を開けろ!」



グループの中には30代くらいの男性もいたので、総長達に突っかかってきた。


状況が覆った今となっては、力づくでここから正面突破して逃げるつもりだ。



「お前ら!あまり時間がねえ。怪我させねぇ程度にサッサと終わらせるぞ!」



「オウ!総長!」




* * * * *




「ひえー勘弁してくれ!みんなヴァイマル議員に言われてやっただけなんだ!」


議員と交渉していた武器商人の男はひたすら嘆願していた。


ここのデパートの支配人のようだ。


数ヶ月前からヴァイマル議員に完全に調略されていたようだ。




総長達の日頃からの息の合った連携というか…数の暴力というのもあり、あっさり勝負はついた。



しかしこの後の事後処理に応じている時間はあまりない。


というか事情徴収は総長たちにとっては苦手な分野だ。警察官にお願いするほうが良い。



「勝手に話し進めやがって…」



一応捕縛したヴァイマルという二世政治家を睨みつける総長。



「フン。こんなことしてタダで済むと思っているのか。」


「何だと。あんたの親にまだ何か策があるとでもいうのか?」


「あるも何も、今度の計画はお前達では手が出せない程の上の方の人間が絡んでいる。

諦めろ。」


「それで自分の町を捨てる事になってもか?冗談じゃねえ。

それなら直接現場に乗り込んで問いただすまでよ!

上の方の人間って奴を!」



「貴様…」



「迷ってる暇はねえ。今からこいつの本丸に乗り込むぞ。大御所の家宅捜索だ!」




その強引な発言にもまだ余裕の表情を見せるヴァイマル。



「今しがた言ったばかりだ。お前達じゃ手が出せない世界なんだよ。」


吐き捨てるような発言。


しかしそんな脅しに総長は止まらない。



「警官共はもう間もなく来る頃だな。

お前らは警察の対応に回ってコイツを突き出せ。

俺は下のモン連れて今すぐ現場へ向かう!ここは任せるぜ!」



「ハイッ!!」



警官達はもうじきやってくる。考えている暇は無い。


この町を守るという総長の強い決断力に慕う若者は迷わず追従する。



息の合った行動と総長の決断力。そして信頼関係に感心していた八薙達ではあるが、事はまだ終わっていない。



「置いてくつもりか?いっしょにいくぜ!」


ビルを去ろうとする総長に後ろから話しかけた。



その声にニヤリとして振り返る総長。


「おう、上等だ。裏手にバイクを用意してある。

お前らの儀ってものにも通ずるところがあるんならついてこい!頼りにしてやる!」



「ああ!頼りまくってこい!総長!」

物語はドイツ編へ入ります。

ドイツでの現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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