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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
190/225

43-2 悔やみきれない想い

【43話】Bパート

※登場キャラクターのモチーフになっている格闘家達を補足として開示しておきます。

『ハイタワー』…セーム・シュルト

「黒幕の詳しい情報は移動中に話す。」



とにかく場所は分かったので、急遽車を出して追随する事で決定した。


勿論人質となった女の子の奪還だ。



ラッツィオが運転をかって出る。真也の覚悟を汲んだからには彼との心中も覚悟の上だ。


ただこちらも現場の後処理がある為、全員では向かえない。


現地メンバーへの指揮はジャンヌに任せる事にした。



移動中、真也の治療係としては葉月が乗り込む。


葉月も彼と心中する覚悟が出来た。



小谷野と兼元も飛び入りで急遽乗り込むことになった。


真也の怪我の状態を一番把握しているジャンヌは、今にも泣きそうな表情をしていた。今はもう彼に無茶してほしくないという気持ちで胸が張り裂ける思いだったのだ。


そんな表情を見た2人は彼女を安心させたかったのだろう。


「ジャンヌさん。真也アイツは俺がサポートするから。安心して待っててや。」


「せやで。俺らであの子は無事連れ戻したる。信じて待っててや。」


「兼元さん…小谷野さん…」


「ええか…俺らはだれも死んだりせん。必ず生きてまた会える。なっ。」


笑顔でジャンヌさんに手を振って施設を後にする。





車内で真也の介抱をしながら、葉月は迷わず一緒に同行してくれた小谷野と兼元に話しかける。


「2人とも、さっきの声かけは男らしかったよ。絶対にジャンヌさんに気持ち届いてる。」


「ホンマ~?」


「同じ女性の私が言うんだから間違いない。それにその…私からもありがとう。子ども達を助けだすのだって…危険な事なのに…」


「何や。今日はえらい素直やな。」


「そんなんじゃない。でも、後でちゃんと私からもお礼がしたいから…だから死なないで。」


「フン、愛する嫁が待ってんねん。死ねるかよ。」


「まぁな。愚問やでソレ。」


「ならいいけど。」


「(う~ん、ここらへんの返答パンチがまだ弱いな…仁科と比べて。)」




真也の傷口はとりあえず包帯でグルグル巻きにして一時的な処置をする。


呼吸は整っているが汗がにじんでいる…痛むのが分かる。


濡れタオルを真也の顔や首筋に当てて冷やす葉月。現場に到着するまでは出来る限りのケアをしたい。


「真也君…動けそう?」


「大丈夫です。僕は動けます。」



4人とも準備が整ったと見た運転中のラッツィオが話しはじめる。



「いいか?これから相手方の屋敷に突入する。

相手はやはり貿易系列の犯行だったが、向こう側の要望など詳しい事はこちらに任せてくれ。

とにかく時間が時間だ。

こんな視界の悪い夜間に大掛かりな臨戦態勢は整えてないだろう。

こっちもジリ貧ということで、早い事トップを抑えてからイルダ(Ilda)を奪還しよう。

スピード勝負だ。騒ぎを嗅ぎつけられたら不利になる。」


「分かりました!」


「到着しても3人はすぐに外に出るな。夜目がきく私がまず警備兵の配置を確認する。」


「はい。」



人質にされている女の子は“イルダ”という。


とにかく今は彼女の無事を祈るばかりだ。



* * * * *



日本だと大型銀行のような感じのゴシック調の建物にやってきた。


あの黒幕が乗っていたであろう車が建物横に雑に置いてある。


ここで間違いない。


5人とも核心と緊張感が高まる。



少し離れた所に車を配置させ、まずラッツィオが車を出る。


訓練を受けてきているだけあって夜目がきく。


周りにスナイパーらしき護衛が潜んでいない事を確認してから車に向かって手を上げる。


それを合図に3人は建物へ小走りで近づいた。


葉月は車で待機。いざとなったら生還した人間だけでも連れて逃げるように言われているが、そうなってほしくはない。



特に真也…手負いの彼を車から祈るように見守っていた。



やがてラッツィオの合図と共に3人は建物の中へ入っていった。



* * * * *



建物内の護衛は居ない。


相手側もまさかあの後すぐここまで追いかけてくるとは思っていなかっただろう。


その点は良かった。


建物内の殆どは明かりがついていなかった。


その薄暗い廊下を進み、明かりがついている奥の部屋を目指す4名。


隊長が側面に誰も潜んでいないことを告げた後、勢いよく前進!


ドアを強引に開けた。



「!!」



「イルダッ!」




そこには黒いスーツの黒幕と連れてこられた女の子・イルダがいた。


驚くスーツの男。


怯えるイルダには手錠のようなものがかけられていた。



「まさか!お前……銃弾をまともに受けたのにここまで来たのか!何者だ!」


前に出るラッツィオ隊長。


「ディーター(Dieter)さんですよね。詳しいいきさつは漏れています。もうこれ以上国の目を掻い潜ることは叶いません。財務警察へ突き出しますので大人しくしてください。」


「お前は…フンベルト商会の!?」


「今は我々がどうとかいう話は結構です。あなた方が武器を横流ししていた件をしっかり洗い出すことが先決です。さぁ、観念してください。」



予想外の追跡に焦りを見せる黒幕の“ディーター”という男。


見た所ドイツ系の男性のようだ。


そして重症のはずの真也がここまで追いかけてきたということに驚きを隠せない。



しかしディーターは不敵な笑みを浮かべ、何やらトランシーバーのようなもので呼び出しをする。



「あの状態でここまでやって来るとは思ってもみなかったよ。そこは素直に驚いている。

…しかし、こういうケースを想定して人質だけでなく“彼”を置いておいて良かったよ。」



言い終わるタイミングぐらいで、奥の部屋から格闘家のような身なりの男性が現れた。



とにかくデカい。2m以上はあるだろう。


「私のグループが雇った最高のボディーガードだ。

さすがにこんな所で捕まるわけにはいかんのでな。おいとまさせてもらうよ。」



そう言い終わると2m級のデカい格闘家に持ち場を任せ、再び逃げようとするディーター。


もちろん女の子・イルダを、保険の意味合いも兼ねて強引に連れて行こうとする。


「行かすかよ!」


まず兼元と小谷野がディーターを追おうとする。しかし2m級のボディガードに行く手を阻まれる。


「!(でけぇ!これじゃ飛び膝蹴りも当たらんぞ)」


2人は目の前の大男への対処に困惑する。


ラッツィオも彼はタダモノではないのを察知してこれ以上前に踏み込めない。



またしてもイルダを人質にされたまま逃げられてしまうのか!?




するとハアハア言いながら真也が大男の目の前まで歩いてきた。


グルグル巻きにした包帯から既に血がにじんでいる。


当然だが胸元の出血がまだ止まっていない。


満身創痍だ。



「悪いがゆっくり相手できない。通してくれないのならすぐ終わらせる。」



それでも目の前の大男に対して挑発的な事を言いだす真也。


「ほぉ…」


目の前の大男は目つきが変わった。


「“ハイタワー”よ!こいつは腕力が強い!気をつけろ。」


大男の本名は分からないが、彼にも“ハイタワー”というコードネームのようなものがあるようだ。



負けるはずないと感じた黒幕のディーターは、離れた場所から一旦2人の対峙を見ている。


とにかく目の前の東洋人が憎たらしい。


しかし今ならかなりの手負いだ…殺れる。殺ってくれるはず。


憎き相手が血祭にされる様を確認したいのだろうか。



まだ対峙もしていないのにハアハアと呼吸が荒い真也。



こんな状態でどうやってこの2m級の人間と戦えるのか。しかもかなりタフそうだ。



確かに真也は強い…でもこの体格差に3人は不安を隠せない。


特に身長を活かした膝蹴りを“あそこ”に食らうと危険だ。



「終わらせてみろよ。小さな東洋人。」


ハイタワーは距離を近づけたかと思うと早速膝蹴り、ニーリフトを繰り出してきた。


当然だ。


血の滲んでいる胸部が弱点だと知らせてくれているようなものだ。


この身長差から膝を前に突き出せば、丁度真也の胸部に突き刺さってしまう。


おそらくまともに突き刺されば勝負が決するだろう。



しかし“読み通りだ!”と感じた真也は少し斜めに体を逸らせて膝をかわした。


そしてふくらはぎの部分を掴むと、ひっくり返してダウンさせようとする。


思いっきりグイッと膝を軸回転させることで体をうつぶせにしてダウンさせた。


「ここだ!」


マウントを取った状態から何を繰り出すかと思ったら、真也は全力で足首を捻って極めてみせた。



柔道や総合格闘技などで見られる膝十字固め(アンクルホールド)である。



真也が力づくで絞り上げたため、足首にかけての関節が曲げられ、骨が折れたようなヘンな音がした。


「ウオォォオオオオ!」


“ハイタワー”と呼ばれるその大男は悲鳴をあげる。


打撃戦ではなく関節技で足を破壊しにくるとは想定していなかったのだろう。



激痛が襲う片足を急いでひっこめて立ち上がろうとするが、真也は非情にももう片方の足も捕まえる。


そして相手のかかとをひねって膝を極める“ヒール・ホールド”を仕掛けた。



容赦なく締め上げた結果、膝関節の靭帯が切れたような音がする。


「うおっ!えげつねぇ。」


兼元が思わず顔をしかめる。


両足の関節と靭帯が破壊されたのだ。


大男は立ち上がれなくなった。



本来“ヒール・ホールド”は人間の膝関節の構造上から危険技として認定されており、様々な格闘技の大会において禁止技となっている。


しかし真也は早急に勝負をつけるため、容赦なく靭帯を破壊する戦法に移行した。スパーリングの中で八薙から教わったやり方だ。


相手を打撃で戦闘不能にさせるよりも効率よく降参させられる。



両足の自由を奪われた大男はもはや抵抗できずに腕と上半身の力で後ずさりするのみだ。


彼にこれ以上危害を加える理由はない。



真也は立ち上がり、視線を黒幕のディーターに向けた。


チェックメイトだ。



自分の雇った最高のボディーガードの信じられないような敗退に驚くディーター。


そして女の子・イルダの手を掴み、さらに奥へ逃げようとする。


もしかしたら奥の部屋には護衛の人間がさらに待機しているかもしれない!


「ぐっ!待て!」


真也は傷だらけの体ではあるが追いかけようとする。



しかしそれよりも早い“弾道”がディーターの肩口を襲った。


後ろからラッツィオ隊長が発砲したのだ。


「ここまでです!ディーターさん。言い訳があるのならカラビニエリへどうぞ。」


“カラビニエリ”というのはイタリアの騎兵隊の事だ。


「黙れ!」


肩口を撃たれたもののこちらにはまだ人質がいる。


イルダをこちらに振り向かせ、彼女の頭に銃口を向けようとする。



「!」


しかしその拳銃さえもうまく打ち落とすラッツィオ隊長。


「ぎゃああああ!」


拳銃を打ち落とした時、手の平に弾が貫通したらしく痛みで悲鳴をあげるディーター。



“こうなれば”という表情で追い詰められたディーターは、ナイフをベルト部分から抜き出した。


間近でナイフを突きつけられ恐怖で顔がひきつるイルダ。


そのままイルダをきりつけようとしたのだが……その時にはもう真也はディーターとの距離を詰めていた。


「うおおおお!」


走り込みながらディーターの顔面に拳をぶち込む。



ディーターは壁際まで吹っ飛ばされ、壁に後頭部を打ちつけた後そのまま気を失った。



ついに人質を取り返したのだ。


「あ…ああ……」


両手を抑えられ恐怖のあまり声を出せなかったイルダが、自分が助かったことを理解して思わず震え声を上げる。今にも泣きそうだ。


「よっしゃ。助け出せたんちゃう?」


歓喜の声を上げる小谷野。


しかしラッツィオ隊長と真也は冷静だった。



「追手が来ないうちに急いで引き上げるぞ!真也君!急いで彼の捕縛にかかってくれ!」



真也もこれで完全に終わりじゃないという事を分かっている。


隊長から渡されたロープと施錠で気絶したディーターを素早く捕縛する。


「兼元君、小谷野君、外のルートを確認してくれ。追手がいないうちにコイツを連れて車に戻るぞ!急げッ!」


「お、おう。分かったで。」「せや!急がんと!」



銃声が建物内に響いたのだ。


誰かが駆け付けてくるかもしれない。


銃を持った複数名に取り囲まれでもしたら“詰み”だ。


「いいか!車に乗ってここから脱出するまでは絶対に気を抜くな!急げ!」




* * * * *




「任務完了だ。すぐにそちらへ戻る。引き続き事後処理を続けよ。」


トランシーバーのような通信機でジャンヌに報告を入れるラッツィオ隊長。



今は施設に戻る途中の車の中だ。



先ほどまで激しく動いていた真也はさすがに精魂尽き果てたようで、後部座席で横になっている。


人質として捕らえられていたイルダは……無事だ。


葉月の胸の中で緊張の糸が途切れたかのようにわんわん泣き続けた。余程怖い思いをしたのだろう。


葉月は彼女が泣き止むまでずっと優しく抱きしめていた。



後ろのトランクに人が乗っては…いけないのだが、ここには小谷野と兼元、そして捕縛してグルグル巻きにした黒幕・ディーター…の3名が乗っている。



イルダが落ち着きを取り戻し、施設に近づいてきたあたりでラッツィオが葉月に告げた。



「葉月さん。夜中だが、これからもう一仕事ある。

財務警察 (Guardia di Finanza) へ後ろの奴を突き出してこないといけないからね。

後は小谷野君と兼元君に同行してもらうから、施設に到着したら先に真也君と一緒に降りてくれ。治療はジャンヌについてくれるように頼んである。」


「はい。」



短く返事を返す。今回の件でお互いの信頼関係はより強固になった。



「真也君が君の覚悟に応えてくれたな。本当に…この子が無事でよかったよ。」


「そうですね。ま、彼にはこれから無理やりにでも休んでもらいますけど。」


「ははは。まぁ終わった…かな。」


「いえ…」


葉月は冷静だった。


「解決したわけではないです。武器商人達が一旦姿をくらましただけ。だから…」


「そうだな…。終わってない。」




* * * * *




「おい真也君。起きれるか?着いたぞ。」


「あの…隊長は?これからどこへ?」


「あいつを国家警察に突き出してくる。

なあに、あの2人も護衛で立ちあってくれるんだ。問題ない。

真也君はいいからもう休め。」


「…いいんですか?」


「ああいい いい。休みなさい!」


「はい…あの…よろしくお願いします。」


「君は律儀だな。」


苦笑いしながらそう言うと、ラッツィオはトランクに無造作に乗せている黒幕を積んだまま、小谷野と兼元の3人で夜道に消えていった。




車を降りた所からすぐの所に施設が見える。


“相当無茶をしたけどなんとか無事に帰ってこれたか…”と実感し、真也が歩き出そうとすると、真也の袖を引っ張ろうとする存在がいた。


人質として捕らえられていた少女・イルダだ。



真也はまず彼女の目線に合わすために屈む。そして改めてその顔を見る。



「シンヤさん…ありがとう。

私、怖かった。

ありがとう。

シンヤさん、ありがとう。」



目に涙を浮かべながら震え声でお礼を言うイルダ…


あの建物から脱出し終わるまでは慌ただしくて言えなかったのだ。



自分の名前を呼んでくれている…。


真也は施設に居た時、あまり子ども達のお世話をしていなかった。


しかし裏方で色々と動いてくれていたのを子ども達はちゃんと知っていたのだ。



「!!」



そして、姿こそ違えど、その少女の声は…あの日、まだ幼かったころの静那…シーナに似ていた。


その瞬間、真也はあの日の事を思い出し胸が締め付けられるような思いになった。



自分の意志とは関係なく涙が溢れそうになる。



とっさにその顔を見られたくないと思った真也はイルダを抱きしめる形で顔を背ける。


「イルダ…無事で…本当に良かった…本当に…もう大丈夫だよ。イルダ…」


「ありがとう。シンヤさん。ありがとう…怖かった。」


「怖かったよな…ごめんね。もう大丈夫だよ。イルダ…」



幼き静那とイルダの姿が完全にかぶり、思わず安堵の涙が出てくる真也。




あの日、何もできなかった無念さを思い出す。


自分はあれから死ぬ気で強くなったんだ…


いざという時に皆を守れるように…


そしてその局面。


自分の力でこの子を無事救う事ができた。


救う事ができた…


でも…


でも……


今の思いをどう言語化すればいいか分からない。でも真也はあの幼き頃に感じた悔やみきれない想いが心の中でどうしようもなく渦巻いているのを感じる。


静那も…


静那も助けたかったのだ。


この子同様、静那もさぞ怖かっただろう。


…痛かっただろう。


…辛かっただろう。


…苦しかっただろう。



真也は泣いているのを悟られないようにしながら、必死に声を絞り出す。


「ごめ…ん…な…辛かったよね…ごめん…ね…」


抱きしめたイルダに過去の懺悔をするかのように泣きながら何度も謝った。



「ごめん…なさい。…怖かったのに…怖くてたまらなかっただろうに…僕…は…何もできずに…ごめん…ごめん…辛い思いさせ…て……ごめん…ごめんなさい…」



尚も涙が止まらない。


悔やんでも悔やみきれない想いで心が押しつぶされそうな感覚になり、胸が苦しい。


それでも目の前の少女の無事を体温で感じ、真也は声を震わせ涙を流した。





少し離れた場所では葉月が静観していた。


2人が落ち着くまでずっと。




何となく葉月は感じとる。


きっと真也君は今“あの時の静那”の事を思い出しているんだな…と。


彼がどんなに辛かったのかは自分には分からない。


でももう自分を許してあげてほしい…償いなんてしなくていい…どうか自分を愛してあげてほしい…そう感じながら葉月も暗い夜の中、たまらない思いを胸に静かに泣した。


「(しーちゃんだって…きっと同じように思ってる…だから…)」




* * * * *




「すぐに治療室行きましょう。準備出来てるから。」



建物に戻ってくるや否やジャンヌが真っ先に真也に声をかける。


そして真也の傍にくっついていたイルダにも声をかける。


「無事でよかった。でもイルダ。お兄さんはこれから怪我の治療をしないといけないからごめん。夜遅いし葉月お姉さんの所に行きなさい。」


意図を理解したイルダは葉月の手を借りて子ども部屋に入っていった。


「イルダ、今夜は2人で一緒に寝ましょうね。」


葉月が優しくイルダの手を取り、子ども部屋の寝室へと連れていく。



そんな2人の姿に安堵した真也は改めてジャンヌの方を向く。



「ごめんなさいジャンヌさん。…その…治療は明日でお願いできませんか?」


意外な顔をするジャンヌ。


当然だ。



「何でよ。全然傷が癒えてないじゃない。葉月の応急処置だけでしょ。」


「そう…なんですけど、その…もう眠くてクタクタで…とにかく休みたいんです。

事後処理の内容は後で戻ってきた3人に聞いてください。」


「でもまずは包帯だけでも取り換えて…」


「すいませんが寝かして下さい。明日ちゃんと治療受けますので。今はとにかく…寝たいんです。」


「…そう。分かった。でも絶対よ明日。」


「はい。わがまま言ってすいません。ありがとうございます。ジャンヌさん。」




つぶやくような小さな声で返事をした後、真也は一人寝室の方へ入っていった。


襲撃を受けたが、寝室は休めるように片付けられていた。






寝室にひとり籠る真也。


とたんに涙が溢れてくる。


一人になった途端、さっきの思いが蘇ってきた。




ベットにうつぶせになり、布団に包まる。


その上にさらに布団を羽織り、外に声が漏れないようにした後、静那に出会ったあの時の惨劇を思い返し、狂ったように泣き続けた。



悔やんでも悔やみきれない思いが体中を駆け巡り、布団の中で大声を張り上げ泣き続けた。



「本当はあの時助けたかったんだ!

助けたかった!

助けたかったんだ!

あの時、助けたかったんだ!!」




あの頃とは比べものにならないくらい強くなった。


でもあの時の思いは悔やんでも悔やみきれず、今も彼の奥深い傷となっていたのだ。

物語はSEASON3、イタリア~ドイツ編へ入ります。

現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

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頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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