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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
186/225

41-2 父の意志

【41話】Bパート

「紛争?ベルリンで?」



静那の父をよく知る人がいるらしい。しかし今はドイツ支部にいる。


是非会いに行きたい。


父の描いていた思いや、ここでの大佐としての経緯を知りたかった。



「支部ってドイツのどこですか?私、会いに行きたいです。」


珍しく静那が主張した。


亡き父の軌跡をたどってみたかったのだ。




静那は幼いころから父に毎日髪をとかしてもらいながら鏡越しでおしゃべりするのが日課だった。


…しかし彼が『MF』という有志ある市民が集った国連のような団体に所属していて、どんな活動をしていたのかは何も知らされていない。


争いに巻き込まれないように紛争の気運を感じたらすぐに引っ越しをし、各地を渡り歩いた記憶しかない。


父との日々は幸せだった。でも父の本当の軌跡は知る事なく帰らぬ人となった。


せめて父の活動や思い描いていた事を知りたい…


静那がそう感じるのも理解できる。



“実は静那は大佐の娘だ”ということをヴィーラントさんに伝えると、何かを察知したような顔をした後、静かな口調で静那達に告げた。



「支部の場所へ案内は出来る。…ただお勧めは出来ない。

現地メンバーへ君らが会いに行くという旨を伝えればきっと拒否されるだろうね。」



会いに行くのはお勧め出来ないと言われる。


当然“何故ですか”という表情を浮かべる静那。ここは心情的にもすんなりとは引き下がれない。


父を知る人に会いたい…せめて父の軌跡に触れたい…。



「今、ドイツは体裁こそ平和だ。

しかし密かにベルリンの壁を再興しようとしているメンバーが暗躍しはじめている。

今は局地だけだが、やがて東西分断に向けて大きな争いに発展するかもしれない。


我々『MF』の主力はその動きを阻止するために現地拠点に入っているんだ。ただし極めてデリケートな任務だ。

決して戦火の最中に乗り込むような派手なミッションではない。

“事前に火種を消す事”

人道に外れた部分の救済が『MF』の活動理念だ。」



そこで静那の表情が変わる。


何か自分の中でのスイッチが入ったように感じた。



「私も…私も事前に戦争を止めるために何か出来ませんか?

何でもいい。お父さんの意志を継ぎたいです。

お父さんが見たかった景色って…どんなものか…」



どれだけ危険なミッションかは分からない。


しかし静那を筆頭に皆も強く感じた。



「もう一度言うが、これは極めてデリケートな任務だ。

そしてここから『MFドイツ支部』へと派遣する許可を出せるのは現状、私だけだ。」


ヴィーラントさんは言葉を選びながら話をしているように感じる。それだけ極秘の任務というわけだろう。



「大佐の娘さん…ということなら検討の余地はある。

余地…というのは一緒に活動に参加するという意味ではない。


大佐の元部下に会って、彼らから大佐にまつわる話を聞く…それだけだ。

気が済んだら速やかに支部を出ていってもらう。

それ以上の余地はない。

命の保証が出来ない任務に10代の子どもを加える訳にはいかない。大佐が仮に生きていたとしてもそう言うだろう。」



「私は…父の…」


「本当に覚悟があるかね?」


「……あります。」


「返事が遅い。少しでも命にかかわる問題には参加させる事は出来ない。」


「……」


「あの…僕らは支部までは行けなくてもせめて静那だけでも…話をするだけでもいいんです。」



「支部のある場所…そこは目には見えなくとも既に戦場みたいなものなんだよ。

戦争の起こっていない場所でも肌感覚で戦場だと分かる。

場所はまだ割れていないがね。


私は何も意地悪を言っているわけではない。

軍事訓練も受けていない素人が関わるのは危険だという至極当然のことを言っているだけだ。

訓練を受けている人間は頭も切れるし素人では太刀打ちできない。

しかも世界では秘密裏に核とは違うもっと恐ろしいタイプの兵器を作ろうとしている人間がいるそうだ。

今回の任務の延長線上で、そのしっぽが掴めそう…ということがどれだけ危ないエリアに足を踏み入れているかが分かるだろう。」



言葉の内々に重さを感じる。


まだ軍事訓練を受けた事もない人間には分からない感覚で、その感覚が分からない人間が立ち入るエリアではないという事を、10代の若者にも実に分かるように伝えてくれている。



「遥々ここまで訪れてきてくれて悪いが、案内をする私にも責任があることも分かってほしい。君たちは軍人ではないだろう。戦えるように訓練されていないだろう。」


静かに語り、席を立とうとするヴィーラントさん。


しかし静那が呼び止める。


「お父さんなら…私たちをどうしていたと思いますか?」


「……そうだね。比較的安全なこの支部にかくまっていたと思うよ。いつになるかは分からないが事態が完全に収束するまで。」


「…違う。そうじゃなかった。」


「どうだというのかね。」


「お父さんは…まず“どうしたい?どう思う?”って意見をすり合わせようとした。」



「…そうだね。

それでも大事な愛娘を局地戦線へ立たせるような事はしなかったと思うよ。

確かに大佐は我々の意見を尊重してくれた。君はどうしたいのかと。

危険な任務ならその覚悟の程を聞いてきた。」



「ヴィーラントさんは本当はどうしたいんですか?」


「君の要望を汲んであげたい。死なない保証があるならね。」


「だったら…」


「その覚悟の程を示してほしい。聞くところによると君はまだ治療中の身だと。

最低でも治療を終えてからその覚悟を伝えに来なさい。」


「分かりました。ありがとうございます!また伺います。」


とたんに静那の顔が明るくなった。



まだ許可が出たわけでもないのに…と感じる勇一だが、2人の会話の見えない部分で深い意志と意志のぶつかり合いがあったのだろう。


静那にとって父の意志を継げるなら何でもしたい。ただヴィーラントさんも大佐からの意志を引き継いでいる身なのだ。


お互いの気持ちが奥底で交錯したようなやり取りとなった。



* * * * *



民家のカーペットをめくり“地上”へ顔を出す4名。


MFの主要メンバーは今ドイツ北東部に布陣を構えている。


『MFドイツ支部』だ。


そしてそこでは世界が辿る将来の行く末を左右するような重要な局面が密かに繰り広げられている…



生一からしたらはじめは面白そうだと感じたのだが、冷静に考えても自分は軍人ではない。訓練も受けていない。銃火器の扱いも知らない。


気持ちがどんなに高ぶっても命あってのものだ。


引くところは引かないといけないのかと考えてしまう。


それでも世界を揺るがしかねない紛争の芽が顔を出そうとしている現状に何かを感じずにはいられなかった。



「早う怪我なおしてしまいたいな…」


「はい!ボス。」


独り言のような感覚で、静那に話を振ったわけではないのだが彼女は元気よく即答する。



その声を聞いて3人は感じる。


「(静那はおそらくドイツに行くだろう…でも今回ばかりは自分達は何もできない)」



それでも何かしら静那の力になりたかった。


彼女の意志は止められないだろうが、危ない橋を渡って欲しくない。そしてそういう状況になったとしても自分達は何も立ち入ることが出来ない…


大切な人がそういう状況になれば、無力感ともどかしさで耐えられなくなるだろう。


そういう状況も見越して小谷野や兼元は黙っていられるだろうか。


仁科さんも葉月も静那に迷惑をかけたくないという思いが今は強いと思う。…しかしいざ極限の状態になったらどういう選択を取るのか。




ドイツへ行く事…静那が『MFドイツ支部』と関わる事でこれだけの不安材料が頭の中をよぎる。


無事に何事もなくドイツから日本に向けて皆で帰りたい。


皆が無事なら…それでいい…


そう思うと、イタリアに急遽駆けつけていった7名の事が急に気がかりになる。




現地の子ども達はもちろん、7名は無事なのだろうか…


勇一がそんな思いを巡らせている最中、何を思ったのかハッとして静那の方を見る。


「!」


静那と目があってしまった。



「静那~、お前今俺の事見てただろ。」


「え…うん。ごめん。」


「いーや、謝らなくていいよ。俺が心配そうな顔してたのが気になったんだろ。」


「おぉおお。合うてます。」


「でもさっきの人の話聞いてたらさ…そりゃ静那を危ない場所に連れて行かせたくないよ。静那の身に何かあると思ったらさ…こんな顔にもなるよ。」


そう言ってわざと沈んだ表情を繕う勇一。


「戦地に行ってしまったら…もうどんなに相手の事を思ってもどうにもならないですもんね。

ただただ無事で生きていてほしい…としか。」


「静那…」


「静ちゃん…」



「さっきの人。ヴィーラントさんって方の言葉覚えてる?

“死なない保証があるならね”ってやつ。

この言葉でどんなに本気で言ってるのか分かるような気がした…

きっとあの人にも亡くなってしまった戦友がいっぱいいたんだと思う。

私たち戦争した事ないもんね…

分からないよね…」



「ああ。そうだな。あの人の言ってる言葉の重みは最後まで分からなかった。軽々しく“分かる”なんて言えないよな。」


「そうね…私たちにも何とか伝わるように一生懸命言葉を選んで喋ってくれたように感じた…」


「せやな…あの人多分昔は最前線で戦うてた人やろうな…」


「そうかもね…」


「だから何も言えなかったな…平和に向き合うのって…命がけなんだな…」


「あの人が言うてた“覚悟”ってやつか。確かに俺ならよう言えんわ。」


「すごいね…静那のお父さん達。」


「お父さんは正義の味方だったんだよな。とても真似出来ないけど…」


「誇れる…でしょ?」


「うん。」


「少しでもお父さんの仲間たちの力になれる事があれば…いいよね。

でも今はこっちも大変。

まずは皆が無事であること。」



「せや。あいつらもう向こうに着いとる頃やしな。」


「そうだよ。真也達大丈夫かな。」


「もうこっから心配しても無駄や。多分何食わぬ顔で4,5日後にこっち戻ってくるんちゃうか?」


「そう願いたいわよ。」


「私もそれ希望。でも大丈夫かな。」


「当たり前だ。先輩を舐めんなって!」


いっちょ前に先輩達の心配をするなという感じで静那の髪をワシャワシャする勇一。随分髪が伸びてきたなと実感した。




* * * * *




雪がちらつく山道。


来た道を引き返していく。


坂道を下り終えた辺りでレジスタンスの本部が見えてきた。


これから本格的に寒さが増していく季節。



ドイツ北部…ベルリン……次なる拠点が見えてきた。


しかし今はじたばたしてても仕方ない。


まずはイタリアへ向かったメンバーと施設に居る皆の無事を祈る4名。


お母さん方や子ども達は大丈夫なのだろうか…



無事に合流した後で、このドイツ行きの件は改めて話し合う事にした。



皆が納得のいく形で…なおかつ無事日本へ帰る事が出来るやり方で!




* * * * *




舞台はようやくイタリアにある施設へ移る。



10時間近く走りっぱなしだったが、ようやく現場へと到着する7名。


到着した時、既に建物は人質を背に何者かに乗っ取られており、施設の外では数名の仲間が倒されていた。


皆にとってもそうだが、ミレイナさんの居た大事な施設を我物顔で占拠しているどこかの組織。


バーンシュタイン壊滅による残党の報復なのか…もしくは武器商人トニー系列側からの報復なのか…


相手は誰なのかはまだ分からない。




分かっている事は、犯人は施設内にまだいるという事。


そして組織のボスは、今まさに子ども達を人質に取っている事。


“警察を呼べば子ども達の命は無い”という事だろう。



あと、施設内には見た事も無いような“難敵”もいるのだが、この事実に関しては7名はまだ何も知らない。

物語はSEASON3、イタリア~ドイツ編へ入ります。

現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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