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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
181/225

39-1 洞察

【39話】Aパート

“赤ちゃん”というものは周りの雰囲気を一変させる力がある。



新たな生命誕生に活気づく施設内。


産まれたばかりの赤子との対面を済ませた全員が笑顔になり、その後赤ちゃんを中心に話が弾みだす。


赤ちゃんの存在は尊い。



場を変える力がある…そう感じる男性達、そして勇一だった。



「(自分が産まれた時もこんな感じだったんだろうかなぁ…)」



仁科さんや葉月、そして静那は必死にお産の手伝いをしていたのだろう。


産まれた後は感極まって泣いていたようで、目を真っ赤に腫らしていた。


でも命と向き合った後の感動の涙だ。


ホッとした表情で今はウトウトしている。


「明日はちょっと遅めの朝食にしようか。とりあえず皆お疲れ様。解散にしましょう。

男性陣!明日の朝はよろしくね。」



“なんで慣れない俺らが全員分の朝の支度を”と感じる男性はそこには居なかった。


女性陣が頑張ってくれたおかげで尊い命が産まれたのだ。


ここからは男性陣の活躍の場だと自覚する面々。


その子のお父さんはもう居ない。だからこそ皆がこの子のお父さんになってあげないと…という気持ちだ。




* * * * *




次の日の朝…


朝食の準備があるということで、早めに起きた勇一達だったが、既に下の階の事務所では仕事が展開されていた。


社長代理のジャンヌ…そして仁科さん…


お互いやるべき仕事に時間を惜しむかのように取り組んでいる。


「(社会人が皆あんなテンションで仕事すれば日本も安泰やのになぁ)」


2人の本気の仕事ぶりを見ながら兼元は感じた。



本人が使命の如く感じて寝食を忘れるくらい没頭できれば、それが“本当の仕事”なんだろうなと感じる。


仕事をしている“フリ”をしている大人を勇一達は日本で何人も見てきた。


そんな情けない大人達とは違い、一心不乱に作業を進める姿。


凛とした大人の姿に関心しきりだった。



「おい、行くぞ。」「行きますよ!」


建物の外に出ると既に真也がスタンバイしていた。


早朝のうちに、畑へ野菜を摘み取りに行くのだ。


「今日は女性陣にはゆっくり休んでもらわないと。」


そう言いながら野菜を積み込む荷車を引きながら、勇一達5人は小高い丘の畑に向かう。


八薙は女性達が起きてくるまでキッチンにて水場の担当だ。



「ふあぁぁぁあああ~」


大きなあくびは兼元。


「眠そうやな~まぁ昨日俺らも遅かったからな~」


「まぁな。昨日はホンマ色々あったからな~勇一らは知らんと思うけど。」


「そういえばサッカー観戦に行ったんですよね。どうでしたか?」


「それはそれで良かってんやけどな。その後もっとエエことあったねんぞ。」


「赤ちゃんが生まれた事…です?」


「違う違う。サッカーに関連する事や。すごい事やねんぞ。」


「分からんやろ~」


「当ててみ!勇一。」


得意げに話をふってくる小谷野。しかし勇一は涼しい顔で返答する。


「もしかして、アレ?サッカー日本代表が勝った試合の事じゃないか?」


「何で知ってんねん!」×3


「そうですよ、勇一さん。あの施設テレビ無いし、新聞も…確かとってなかったはずです。僕らが知らない間にどこでその情報知ったんですか?」


「うん。それは…。」


不思議そうに勇一を見やる4人。


「インターネットってやつだよ。」


「インターネット?確かあのパソコンでやるやつか?」


「そう。インターネットからだと世界中のニュースを知れるんだよ。世界の時事ネタも知っておかないとって“ワールドニュースサイト”っていうニュースばかりが提示されているページを見てたんだけどさ、青いユニフォームの日本代表に関する記事が結構大きめに速報で掲載されてたんだ。


世界の時事ニュースなのに大きな扱いで取り上げられてたんだぜ。何事かと思ったよ。初出場なんだってな、ワールドカップ。

ま、タイトルだけ確認してあとはあの流れだろ…すぐに部屋を追い出されてしまったけど、決勝ゴールを決めたんだな…っていうのは分かった。」



「へえ~インターネットいう所からやったら世界中のニュースが分かるんやな。」


「おまえそんなんも知らんかったんか?」


「生一は知ってたのか?でもインターネットってまだ日本でもそんなに普及してないだろ?生一は何で調べられるの知ってんだよ。」


「俺はあれやねん。トルコのイスタンブール行った時にちょっとインターネットで調べものしてん。」


「それで何を調べてたんだよ。」


「まぁ…阪神タイガースの順位…とか…プロレスの試合結果とか…」


「お前他に調べなあかん大事な事あるやろがい!日本の俺らの情報調べずに何調べてんだよ。」


「ええやん。そんなん俺の勝手やし。」


「何でやねん。それにパソコンで調べものが出来るんなら俺らにも教えろよ!携帯電話みたいにメールとかも出来るんやろ。無駄にインターネットで遊んでる場合かよ!」


「遊んでるん違う!大事な情報やん!“NWO”のグッズ欲しいやん!」


「いや!優先順位がおかしい!」


「日本とのコンタクトの方が大事や!」


「まぁまぁ良いじゃないですか。あの施設でもインターネット出来るんでしょ?落ち着いたらメールでコンタクト取ってみれば。」


真也が3人をなだめる。



そんな会話を聞きながら勇一はある事を思いだした。


……それは、今年初めの事。日本を出発する少し前の事だ。


無事難関大学を突破した友人の西山と椎原さんとのやりとり。


最後に2人に会ってからもう9か月も経つ。2人は元気にやっているだろうか…恋は…進展しているのだろうか…


“いやいやそういう話ではない!”と勇一は一人ツッコミを入れて振り返る。


2人が大学に合格していよいよ東京へ経つ日を間近に控えたとある日。渡航する1週間くらい前の日の事だ。


2人とも携帯電話を扱う事になったので、国際電話でもいいから向こうでの経過を連絡してほしいと言ってきた。その時に電話番号とメールアドレスをやりとりしたのを覚えている。


勇一も4月からの大学生活に向けて携帯電話を持たせてもらえることになったのだ。


携帯電話自体は飛行機事故で焼失してしまったため、登録した電話番号が思い出せないのだが…メールアドレスは、西山の方は思い出せる。


確か…『k.nishiyama159@docomo~』だったはずだ。


覚えてもらいやすいようにと自分の身長をアドレス内に入れていたのを思い出した。


「(西山の奴…ここからメールして繋がるのだろうか…でもインターネットってそういうもんだしな…よし、ここから日本にメールを入れてみよう)」


そう感じた勇一だった。



* * * * *



5人が畑で収穫を終えて戻って来てみれば、生後1日にも満たない赤ちゃんを囲んで笑顔の空気が続いていた。


赤ちゃんが笑うたびに皆ご満悦の表情。



しかし赤ちゃんというものはいつまでも笑ってはいない。


暫くして表情を曇らせたかと思うと泣き出した。


「あら~どうしたのかな。お腹が空いたのかな~?ママの所いく?」


仁科さんが優しくあやしていたが、お母さんの所に赤ちゃんを移動させようとする。


どうやらお腹が空いてオッパイが欲しいようだ。


それを見ていた小谷野。


視線がいやらしく感じたので仁科さんは釘をさす。



「ホラ、赤ちゃんは授乳の時間なの。男は向こうの部屋に行ってなさい。」


「なんでピンポイントで俺に言うねん!」


「だってこのままだとあんたも母乳をマジでねだりそうだったから。」


「赤ちゃんはそりゃ出る方の乳を欲してるかもしれんが、俺は出ん方のがええんや。」


「だからって差し出すわけないでしょうが!変態!あっち行ってなさいよ。」


「くそ…どさくさにまぎれようと思ったのに…」



赤ちゃんがいるため大きな声は出さないにしても、授乳タイムの為生一ら3人は部屋の外に退出させられてしまった。


去り際に授乳している赤子を見ながら小谷野がまだだだをこねる


「おれもほーしーいー。出んやつでええから。」


「もうええやん。さすがに赤ちゃんの方が大事や。ホラ出るで。」


「俺も欲求不満やねん。裸体が欲しいねん。」


「気持ち切り替えようや。そうよアレ!昨日のやつ。サッカー日本代表の話!

まだ静那ちゃんにきちんと話してなかっただろ。」


「あ~あれか。ペロージャとラタイッチの話か。」


「ペルージャとラパイッチや!お前どんだけ溜まってんだよ。」


「うっせえわ!例え俺を抑えたとしても1分後、2分後の俺が後ろでつかえてるんだよ。」


「訳の分らん事言ってんじゃねぇよ。俺らは俺らでやれる事あるやろ!ホラ。」


生一のその言葉を聞いて我に返る小谷野と兼元。


そうだった。


昨夜は楽しそうな表情を見せていたジャンヌだが、今朝からは一転また仕事に没頭し始めたのだ。


無事出産に立ちあえたという事で気持ちも切り替わったのか、今日も朝からずっとデスクで父親の残務をこなしている。


そんなまだ気の晴れないジャンヌに果敢に絡む2人と生一。


「ジャンヌさん…ええかな?」


「あ、小谷野さん。ごめんなさいね。今忙しくて。」


「そうだよな。じゃあいつくらいに終わるかな?今日の所は…やけど。」


「そうね。…11時には切り上げて寝ておきたいわね。」


「11時って、今日は食事以外はずっと働き詰めやん。休まんといかんよ、ジャンヌさん。」



兼元も必死で休んでほしい旨を伝えるのだが、立ち止まりたくない想いが強いようだ。



「…ごめんなさい。兼元さん。父の残した仕事を優先したいの…

昨日のサッカーの話でしょ?どこかで時間取って話できるようにするから。

だから…今は…ごめん。」



そう言ってジャンヌさんは目線を机に戻した。


少し離れた場所でその様子を見ていた真也。


真也にはジャンヌさんの気持ちが少し分かる。


心が不安定な時は、何かにすがるように打ち込むことで一時的には忘れる事ができるものだ。今の彼女は悲しみに向き合っているとたまらない気持ちになるのだろう。


真也も一時期、不安で心が押しつぶされそうにならないように、気を失うまで体を動かし続けていた時期があった。



「(ジャンヌさん…今は苦しいかもしれないけど、僕には何も言えない…でもどうか乗り越えてほしい…ジャンヌさんが笑顔になってくれたら誰よりも喜んでくれる人がすぐ目の前にいるのだから…)」


今は誰かの言葉で何とかなる状況ではない。


それを知っていて真也はあえて何も言わない。




生一達3人はジャンヌに相手にされなかった事でしょんぼり顔で施設の外へ出ていった。


秋風でも浴びにいくのだろうか。外はかなり寒くなってきたのだが…



その建物を出た所で待ち構えていた人間が居る。


家族を亡くし孤児となったり片親になってしまった子ども達だった。



「キイチ!遊んでやる。」


「なんでお前らに遊んでもらわなあかんねん!」


「でもおねえちゃん達、仕事があるって。お前暇だろ。どうせ。」


「生意気なクソガキだ。くそ。…八薙も炊事の後は相変わらず仕事の手伝いか…」



自分達の今の気分を紛らわせるために、ちょっと遊んでやるか…と感じる生一。


しかし激しい動きをするととたんに腹部から背骨にかけて痛みが走るのを思い出す。



走り回ったりするのはキツイしどうしようかと考えていると、葉月がやってきた。


子ども達は一斉に葉月に視線を向ける。


「はずきん!お仕事終わったの?」


「ええ。今日の夕食の仕込みはお仕舞い!お母さん方みんなで頑張ったからね~」


赤子の事もあるので、料理の仕込みを早々に終えたようだ。


「じゃあこれから遊べるの~?はずきん。」


「ええ。これから皆と畑に行きましょう。」


「畑~?」


「そう。来年に向けて土を元気にしておかないとね。」


「土を元気にするの?」


「そうよ。土さん、皆の分の野菜を作ってくれたおかげで今元気ないの。だから“来年も美味しい野菜を作ってね~”って元気づけに行くのよ。行かない?皆?」


「え~寒~い。」


「あらそう。じゃあ私だけで行ってくるね~。皆はお兄さんと遊んでいてね。」


「え~嫌~やっぱり行く~。」


口々に方向転換する子ども達。


大好きな葉月お姉さんに対して正直だ。


「じゃあ行きましょうか?生一達も手伝ってよ。フラれて暇なんでしょ?」


「え~キイチってフラれたの?」


「そうよ~だから優しくしてあげてね~。」


「おいコラ!いつ俺達がフラれたよ!いつ!」


「おい生一!俺達って“達”をつけんな!“達”を!」


「それだけ跳ね返られるなら元気な証拠ね。荷車押すの手伝って。子どもじゃ無理だからさ。」


「クソ…なんか葉月のペースに振り回されてねぇか?」


「まぁ行くか…土と触れあうんも気分転換やし。」


「しゃーないな~」


「朝行ってきたのに、また畑か~」


「そう文句言わないの!お母さんたちはもっと大変だったんだから。」


「まぁ…それは…そうかもしれへんけど。男には分らん辛さやし。」


「分かればよろしい。じゃあ皆、行くよ。」


「はーい。」



荷車に大量の藁を積み込み、子ども達と畑に向かう葉月達。


その葉月と子ども達の群れの後ろをしぶしぶついていく3人。




収穫し終わった畑はこれから冬を迎え、放置される。


雪に覆われる冬の時期が終わるまで、畑に麦藁を敷き詰めるような形で土を暖めておくのだ。


この辺りは農薬を無暗に撒かず、自然農法を取り入れているようだ。


葉月からしたら、子ども達に農業のイロハを教えたいと思ったのだろう。彼女はここに来てからは常に身寄りの無い子ども達の事を考えていた。


“いつまでもここにはいられない。だからせめて自分達の居る間に生きる知恵を伝えたい”と。

物語はSEASON3、イタリア~ドイツ編へ入ります。

現地取材を経てリライトをする予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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