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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season3【A面】
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38-2 いのちの向き合い方

【38話】Bパート

ジャンヌが社長代理として会社の終活をしている建物から3km程離れた勾配の緩やかな場所に、会社私有の畑がある。


施設のメンバー達の主食となる食料はここから収穫して持ってくるのだが、こちらを担当しているのが真也。


しかし収穫物を荷車で運ぶときに人手が居た方がありがたいという事で、仁科さんが一緒に行ってくれることになっている。



彼女は彼女でやるべきことがあった。


船内で保護されたあの人身売買で連れてこられた女性達のお世話と今後の処遇だ。


身元が分かる方は家まで無事送り返すまでをこなす。


調査しても身寄りが分からない場合は、ビータンさんがトルコに戻る時にホテルのスタッフとして雇い入れるという話がつきそうだ。


辛い境遇だった彼女達に寄り添い、仁科さんは最後の一人まで献身的にサポートをする覚悟だった。


ただ、こちらも働きづめだと息が詰まってしまうということで、気分転換を兼ねて午後は真也と一緒に畑へ行くようになったのである。



強がっているものの、仁科さんを気遣い真也は並んで歩く。


同じ歩幅で…


自分がついている事で彼女に安心してもらいたかった。


イタリアのメディアに武器密売の情報を率先して密告したのは仁科さんだった。そのおかげでイタリアの治安は大きく改善に向かっているが、仁科さんを逆恨みする人間が今後現れる可能性はある。


だから自分が傍にいる。


勇気ある行動を取った彼女を守るために。


それを態度で示したかった。



天気の良い日は自然の風にさらされ何とも心が落ち着く。


冬場に入る手前ということで、今はほぼ収穫作業だ。


荷車にありったけのトマトとジャガイモを入れ、小高い丘を下っていく2人。



帰り道…時にはイタリアのスイーツ店に寄り道したりした。


真也はあの時の約束を覚えていた。



丘からの山風にやや寒さを感じる時は、何も言わず真也は仁科さんの手をそっと繋いだ。


手を繋いで2人で坂道を下っていく帰り道。


仁科さんにとっては何よりも心温まる時間だった。




施設に戻ると、事務処理にキリをつけた八薙がだいたい待ち構えている。


「真也、おかえり。今日もやろうぜ。夕食までの間。」


「うん、いいよ。一日中机で仕事してたら体がなまってしまうだろうから。」


「確かにな。さぁやろう。準備運動は終わってる。」



畑から戻ってきたら、今度は八薙のスーパーリングにつきあうのがここでの日課になっている真也。


船上での戦いで対応できなかった“柔術”や“グラップラー”との対処の仕方について八薙から知っている方法を実践を経ながら色々と教わる。


八薙も関節技を駆使してくる相手になす術が無かった苦い経験から、少しでも対応できるようにしたいと感じ、真也を練習相手に指名したのだ。


関節技を取り入れている戦術は軍人などには多いらしい。


相手を殺さずに戦闘不能に持っていける利点もあるし体格のハンデも補えるようだ。


それに武器を持たない自衛にもなる。



真也が畑から戻って1時間くらいはぶっ通しで打撃や技の掛け合いを確認し合うように練習する。


いつの間にかその様子を集まってきた子ども達が見ていた。



『ただ相手をやっつける事が戦いではない。自分や大切な人を守るのも戦いだ。』そんな教訓を言葉ではなく背中で伝えられればと感じながら2人は実戦形式の練習に汗を流す。



そろそろ夕食の時間…という所だが、今日は野暮用でジャンヌと男性3人(生一、小谷野、兼元)がサッカーの試合観戦へ行くため、出かけていった。


ジャンヌは“まだ仕事がたくさん残っているのに遊びに行くなんて…”と浮かない顔をしていたのだが、隊長のラッツィオの計らいだ。


気が乗らないが観戦に行く事にした。


「日本人のあの3人はセリエAの試合は初めてらしい。せっかくだから世界最高峰の戦いをレクチャーしてあげるんだ。

ジャンヌ。息抜きは大事だ。君に元気になってもらいたいという彼らの気持ちも受け止めてあげなさい。」


そう言ってラッツィオは快く4人を送り出してくれた。




この施設から車で程なく行ったところにセリエAの地元チームがあるらしい。


名前を“ペルージャ”と言う。


今日はペルージャのホームゲームが行われる。“ユヴェントス”というクラブチームとの対戦ということで、多くのお客さんが詰めかけた。


サッカーのファン達の総称は『サポーター』と言うらしい。


今日ばかりはジャンヌや生一達はペルージャのサポーターだ。


浮かない顔のジャンヌの手を取り生一達はスタジアムに向かう。


「ラッツィオさんああ言ってたけど、無理しなくても良いんやで。でも試合は地元が勝てるように応援しよう!」


「ええ…」


力ない声で返すジャンヌ。しかし我に返り、少しこの地域の事をレクチャーしてくれた。


「ここって結構田舎町なのよ。でもクラブチームが誕生して町が活気づいてる。地元の人はペルージャが地元の灯をつけてくれた存在って言ってるの。チームがあるだけで幸せだって。」


「へええ~いいやん!地元愛が強くて。阪神タイガースみたいやな。」


「はんしん?たいがす?」


「ああぁ、日本での話。日本にもベースボールのチームがあってな。熱心なファンが多いねん。」


「うん。ベースボール、知ってる。確か日本は強いのよね。」


「おう。強いで。個々の力じゃまだアメリカには勝てんけどな。でも日本で混合チーム作ってトーナメントやれば絶対勝つ。サッカーと同じでチームスポーツやねん。」


「そうなのね。じゃあペルージャのファンも見ていってほしい。とても熱狂的だから。」


「ジャンヌさんはサッカーの試合見るのは好きなの?」


小谷野が割り込む。


「いえ…私はずっとレジスタンスとして軍の特殊訓練を受けてきたりしてたから、スポーツ観戦なんて…

実は今日が初めての観戦なの。」


「えぇえ!初めてなんや。じゃあ楽しまな~。」


「そうね。隊長が気を利かせてチケット取ってくれたんだし。」


「おっ、ジャンヌさんちょっと口角が上がったで。ええ表情やん。」


「そんな…いや、茶化さないでよ。」


兼元の申し出にもやや冷ややかな返答。しかし観戦には意識を向けてくれたようだ。


今だけは責任感や罪悪感を忘れ、目の前の白熱するであろう試合を楽しんでほしい…


そう感じる3人だった。




* * * * *




試合はホーム主催ゲームということもあり、ペルージャが押していた。


しかしどうしても決定打まで繋がらない。


ワントップ態勢を敷いているのだが、なかなかそのトップまでボールが回らないのだ。


相手の“ユヴェントス”は守りをとにかく固めて、まるで引き分けを狙っているかのような布陣を敷いている。


あと、とにかく相手側が攻め入ってきた時のファンのヤジがうるさい。敵チームの心理状態が心配なくらいだ。



ジャンヌは初めての観戦なのでチームの詳しい内情に関しては質問しづらい…ということで生一は、前半終了のタイミングで、近くにいた中年のサポーターにここまでの戦況を聞いてみる事にした。


「すいません。僕は日本人で今日はじめてセリエAの試合を見てるんですけど。あ、もちろんペルージャのファンですよ。

今質問しても良いですか?」



阪神ファン同士には優しいタイガースの習性を思い出し、質問を試みてみる生一。



「日本人さんか~。で、そう思った理由はズバリ、なかなか点が入らないという部分だろ?」


中年のペルージャサポーターは返してきた。


「はいっ。その通りです。いや~流石に熱心なサポーターは違う。あなたに質問して良かった。」


その生一の言葉に気をよくした中年のサポーターは今のペルージャというチームの内情を語ってくれた。実に的確にだ。



『ペルージャというクラブは今、司令塔になるべき選手が不在の為なかなか上位進出できずに苦しんでいる。

うちのストライカーの“ラパイッチ”は確かに点取り屋としては優秀だが、彼に対して中盤からキラーパスを出してくれるような司令塔がいないんだ。

そこのピースがハマればうちのチームも飛躍するんだが…』


彼の話の通り、無理なパスしか前線に通らず、2~3人のマークに潰されてしまう“ラパイッチ選手”


そしてボールがクリアされるとスタジアム中に大きなため息が漏れる…この日はそんなシーンが何度もあった。


余計に彼にうまくパスを通してくれる司令塔の必要性をこのチームに感じた。サッカーにはあまり詳しくない4人でもそう感じるくらい決定力に欠けるチームに映った。


試合はそのまま『1-1』の引き分けで終わる。



“ホーム試合をいかに勝つか”というのがセリエAで上位に行くための鉄則なのだそうだが、勝ちきれなかった…落胆したのか客席から花火のような煙が沸き上がり出した。


誰かがフラストレーションが溜まったあまり煙幕をあげたのだろう。こんなのプロ野球の観客席でも見た事ない。


その後サポーター同士のにらみ合いが始まったので、ジャンヌさんに提案してそろそろ帰ろうという流れになった。



帰り際、試合内容にやや納得のいかない顔をしていた先ほどの中年サポーターが声をかけてきた。



『そう言えば今日じゃないか?フランスワールドカップのアジアの最終予選。

日本が今日勝ったら初出場になるんだろ。

あんたたち知らなかったのかい?』



驚いた生一達は大きい声で聞き返す。


『コラァ!それ早く言わんかい!!どこや?何時から?

どっかのスポーツバーで見れる?教えてくれ!』



そこからの3人の動きは速かった。


何の事かよく分かっていないジャンヌを無理やり連れていく形で、スタジアム近くのスポーツバーに乗り込んだ。


マレーシアのジョホールバルという所で行われているイランと日本の最終予選中に何とか間に合う。


生一達がスポーツバーにたどり着いた時には、試合は後半あとわずかで2-2というスコアだった。


「この時点で同点ってめっちゃヤバイやん。よし!俺らで日本を応援するで!」


「おう!ここから日本に勝利の波動送ったる!」


スポーツバーの観客は何が始まったのだと興味深い表情で生一達を見る。



「バーのおっちゃん。青い服無い?ある?よっしゃそれ着たい!」



後半が終了してしまい、試合は延長戦にもつれ込む。



生一ら3人は青い服を借り、ほっぺたに白いペイントを施し、そこに赤マジックで赤丸を描きこみ、日の丸のマークを入れる。


「ええか!こっからは延長戦や!ゴールしたモンが勝つ。」


「おう!悔いを残すなよ日本!」


「なんか見た感じイランのやつらバテてきてるやん!いけるんちゃうか?」


「だから応援するねん!やるで!俺ら3人だけでも!!」


そう言って生一が音頭を取りはじめた。


「ニッポン!」


「ニッポン!」


手拍子と小気味よい“ニッポン”の声に感化されたのか、周りのスポーツバーの客もノリノリになって一緒にニッポンの発音を叫んでくれた。


「ニッポン!」


「ニッポン!」


しかし決定打に欠ける日本代表。


「うおおおーーなんでソレ外すねーーん!絶対入れなあかんやつや~ん!」


叫んでも状況は変わらない。


声を張り上げて応援を続ける。



いつの間にかジャンヌもその熱気を感じ取り、横で手拍子を一緒に付き合ってくれた。


その姿を見て、3人は“勝利の女神がついてくれた”と確信を持つ。


「ニッポン!」


「ニッポン!」


すると中盤から日本の司令塔・中田選手が左足シュートを放つ。


キーパーが意地のセーブ。


しかしボールはこぼれている!


ドラマはその後に待っていた。



「うおおおおおお!」




出場決定を決める決勝ゴールが決まったのだ。…もう何が何だか分からないくらいに興奮していた。


3人が心の奥底から叫ぶ。


そしてスポーツバーのお客さんもそれに呼応するようにシャウトする。


「ニッポン!」


「ニッポン!」


その後、お客さんと一緒に肩を組み、輪になって周りながらニッポンコールを叫び続けた。



「もうコレ、フランスに応援行くしかないやろ!」


「お前阪神タイガースの応援はどないするねん!」


「あんまり弱いから一時休業や。今はもうサッカー日本代表!!ニッポンサイコー!」


ふと後ろを見たらジャンヌが両手を挙げている!これは“ハイタッチ”のサインだ。


3人は力強くジャンヌさんとハイタッチをして盛り上がった。



日本代表がドーハの悲劇を乗り越え、やっとワールドカップ出場を決めた事も最高に嬉しかったが、ジャンヌさんと喜びを分かち合えた…彼女の楽しんでいる表情を見れたことも嬉しかった。


「もう最ッ高の夜やねんな!皆ニッポンの勝利に乾杯!!」


「今日、このスポーツバーで皆と日本の勝利を分かち合えたんは俺達の宝物や!」


「サッカー最高!いつか日本とやろうぜ!」


『オウ!相手になってやるよ!ニッポンチーム!へッへへへへ!』


スポーツバーのお客さん一人一人に応援の後の検討をたたえ合い、4人はお店を後にした。


始めはなりゆきがまったく分からなかったジャンヌも楽しそうだった。





* * * * *




「帰るんかなり遅くなったな~早めに出たのに…」「まぁスポーツバー行ったからな~」


そう感じながら4人を乗せたタクシーは施設に到着する。


すると何やら施設内が慌ただしい。


そして真也や勇一達、レジスタンスのメンバーも…というかほぼ男性陣が施設の外で待機していた。



車の音を聞いたお母さん方と仁科さんが窓からジャンヌを手招きする。


「良かった。間に合って。

予定より早まったけど産まれそうなの。手をかして!」



状況を察知したジャンヌはお湯で素早く手を洗い、急ぎ施設内の食堂の方に消えていった。



「俺ら男はここ(外)で待っとけってコト?」


帰ってくるや否や外でたたずんでいる勇一達に問う小谷野。



「まぁ出産となると…俺ら男に出来る事なんて殆ど無いからな…」


「準備とかは?」


「真也がお湯を相当用意してくれた。でも“それだけでいい”って言って葉月達で部屋にこもってしまったな。まぁ下手に動かない方がいいだろ。」


「せやな…」


「男はこういう時は役にたたないですね。」


「んなことないで八薙。さっき俺らの声援でー」


「キャプテン、その話は後にしようや。それにこれからもっとおめでたい事が待ってるんやからさ。」


その言葉に男性陣皆納得したように座り込んだ。




ーー建物を隔てて、まさに新しい命が産まれんとしている最中、男達はやれる事もなく…家の外で並んでたたずむ。


無事の出産をただただ願う事しか出来ない無力感…


今、部屋の中では自然分娩の最中だ。


男達の出る幕はない。


仕方ないのでコートと毛布に包まり、ぼんやり寒空を見るしかない。



……空を見ているうちに、ふと感じることがある……




感じている内容は、皆共通していたのではないかと思う。




“産んでもらった昔のかすかな記憶”




『僕たちは当たり前のことを忘れてしまったのかもしれない…


全ての命はお母さんが命を懸けて産み落としてくれたという事を。


この“生”をどう使うか?


何のためにこの命を使うか?』




今一度自分に問うてみる。





勇一は、命を懸けてリーンを守ろうとしたあのミシェルさんの顔がふと浮かんだ。


“生きることを侮らないでー”


心の中にそんな問いかけをしてくれたように感じた。




部屋の中ではまだ女性達が頑張ってくれているようだ。


出産というものは予定通りにいかないことが多い。


でも新しい命の誕生に疲れたなんて言ってられない。1時間2時間…いや、何時間かかろうがその時を迎えるまで必死だ。



やがて窓越しから小さな産声が聞こえてくる。


この世に生を授かったのだ。


「女性ってすごいな…」心からそう感じた夜だった。

物語はSEASON3、舞台はイタリアへ入ります。

現地取材を経てからリライトをかける予定です。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は執筆の勇気になります。


ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。

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