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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season2【B面】
178/225

37-2 10代が考えるMonetary society

【37話/B面】Bパート

『日本文化交流研究部』部室内ーーー


今日は椎原さん司会の下『お金』というややセンシティブなテーマと向き合っている9名の部員達。


部活でこういうテーマを取り上げるのも珍しいが、大人になってからも付き合いが続いていくであろうお金に対しての見解が知りたい面々。



椎原さんの話によって“お金”についての思いもよらぬ話が続く。



自分達が使っているお金は正式にはお金ではなかった事。…高校生の頭ではまず「?」が浮かぶ。



それだけでも勇一達には衝撃的な事実だったが、そのお金は実は有限ではなく、際限なく発行できるものだったのだ。



銀行員から椎原さんが聞いてきた話とはいえ、今までの発想では予想だにしなかった話が続く。



「例えば、とある銀行に3000万円分しか証書…というかお金が無かったとするよ。

そこに白都君がやってきます。“会社を立ち上げたいからお金を借りに来ました”という理由で、銀行に4000万円を借りに来ました。



この場合、銀行は4000万っていうキャパオーバーのお金を用意できると思う?その場ですぐよ。“急いで他の銀行から残りをかき集めてくるからちょっと待って”とかは無しにするね。」



「そりゃあ…3000万円分しかないんやったら用意できんやん4000万。これはアホでも分かるで。」


「まぁ確かに小学生でも分かるよな。確認で言うけどその銀行は事実3000万分しか保持してないんだろ。用意できるわけないよな。」



「ところが発行できるんだよね。お金~。」


「おかしいじゃねえかよ。キャパオーバーしてるのに。」


「でもさっきの話。用意するのは4000万円分の“金”じゃないんだよ。証書だよ。」


「証書だからって許容量以上のお金を作り出せるっての?ってか発行していいの?」


「まぁ“信用”っていう名の下ならね。」


「それズルくないか?」


「でも実際に出来るんだって。」



「4000万をすぐに証書として生み出せるってか…そんな事したら無茶苦茶にならないか?」


「じゃあちょっと先の話を考えてみようよ。」


「白都君が銀行から借りた4000万を使って会社を立ち上げ、事業が上手く回ったとするよ。そしてコンスタントに利益が出るようになって借りてた4000万も返せる目途が立ちました。どうする?」



「そりゃ借りたままにしとくよりも返すよ。4000万。

長い事借りてたら利子もかかるだろうし。会社がうまく回ってるんなら払えるよな。」



「だよね。そういう感じで4000万を利子を添えて返すとする。

そしたら借りた4000万は消失して利子が銀行の利益となる…と、こういう感じだけど皆はイメージできた?」


「なんだか狐につままれたような感覚やな。簡単な例えやねんけどなんか咀嚼できん。多分こういう考え方って初めて味わった感覚やねん。

…だって4000万のお金をその場でパッと生み出せるんやろ。」



「まぁ銀行の通帳に数字で“\40,000,000—”って書き込むだけで事足りるからね。」


「そのお金が役割を終えて戻ってきたら相殺みたいな感じで消えるんか…」


「そうね。そうなる。」



「じゃあ俺らが預けてる貯金という名のお金をやりくりしながら銀行は運用してるんと違うのか?」


「だってそれだと今回のケースみたいに誰かにお金を貸したら自分達の預金が引き出せなくなるじゃない。実際引き出せなくて困ったなんて話、周りで聞いたことある。」



「ないな…。いや信じられん、無いとしても。。」



「そんな…」



「じゃあお金って……何なん?」



「どう思う?」



「待って待って。そもそもだけどさ。俺ら町中の人たちが自然災害とかで必要に駆られて1つの銀行から一斉にお金を引き出そうとする。例えばの話や。

 そしたら銀行のお金が足りんようになって“取り付け騒ぎ”いうやつで引き出せなくなるんとちゃうかと思ってたけど、その考えやとお金全部引き出せてしまうんよな。」



「そうね。引き出せるって言ってた。通帳に数字を書き込むだけでね。」


「何それ?それならさ、国の借金とか膨らんでいくんが当たり前やろ。借金は借金で返していく形でいけるし。日本政府の借金が大変なことになってる言うてるけどあれって…」


「藤宮君、そういうところは頭が回るね。…うん。借金が膨らむのは自然だよね。

でもそこまで考えるとちょっと話に入り込み過ぎて難しかったかな?皆はついていけてる?」



「私は分からなかった。」



「俺も何か“何この錬金術~”みたいな所で止まってる。」


「いいよいいよ、初めて聞く話だから理解に向かおうにも思考回路がうまく回らないと思うから。

それに、そこを考え詰めてばかりだと頭がこんがらがったままになると思う。気分も話題も一旦変えましょう。」



「えええ?こんなエラい話やのに一旦切って話題変えてまうんか?」


「食べ物と一緒。考えつかない発想を咀嚼するのは時間がかかるものよ。それに今日は難しい話を掘り下げる場にしようとは思ってなかったし。

あくまでお金に対しての意識の持ち方だから。」



「椎原さんなりに今の話の流れを見ながら軸がブレないように調整してるのか。」



「ええ。まずは簡単に理解できるところからじゃないと、この先考えるうえでの土台がぐらついてしまうでしょ。」



「じゃあ…どんな話題提起する?」


「そうね。皆はこの意味分かる?“誰かの貯金は誰かの借金”」


「まぁ…これは簡単だよな。」


「これは分かります。」


「ゼロサムゲームって経済理論の用語であるけどそう言う事だよね。」


「静ちゃんは分かってるみたいだけどもう少し簡単な言い方に直そうか。誰かが貯金している金額と誰かが借金している金額を足し合わせたら0円になるっていう事。」


「経済はそうなってるって事か。」


「さっき藤宮君が言ってた“日本政府の借金が大変なことになってる”っていう事実。

国が借金をしてくれてるおかげで私たちは預金があるってこと。」


「うん。」


「これで何か感じる事無い?」



「う…ん。国が沢山借金してるから貯金のある国民から何としてもお金を巻き上げて差額を縮めたいと…。」


「ちょっと私が伝えたいって感じた意味とは違うかな。でも不正解とかいうわけじゃないから気にしないで。他には?」



「あの…」


「いいよ静ちゃん。何でも言ってくれて。」


「今お金が無くて貧しい人がいるから、お金持ちの人がいられる訳で…そう考えたらお金を持ってる人が貧しい人にお金を分けてあげた方が良いんじゃないかって思うんだけど。」



「そうよね。でもお金持ちは自分のお金は無暗に分けようとしない。それどころかもっとお金持ちになろうとする。これってどうなる事を意味すると思う?」



「お金持ちの人がさらにお金を持てば、さっきの考えだと回りまわって貧乏な人はさらに貧乏になるってこと?」



「そう。何も難しい事じゃないよね。私が思うのはね。お金持ちの人が貧しい人にお金を分けてあげた方がいいとまでは思わないけど、これ以上貧しい人からお金を取るのをやめてほしい…社会のシステムを理解できるお金持ちなら貧富の差を拡大してほしくないなって事かな。」



「でもお金持ちってそんなに貧しい人間からお金巻き上げてるか?」


「株式なんかはそれに当たるかな。“株”についての詳しい説明は伏せておくけど。」


「株やってたら貧乏人から搾取することに繋がるん?」


「私の言う事が全て正解じゃないよ。逆に聞くけどどこに繋がると思う?」


「それは…う…うむむ。」


「分からないですね。」


「ああ…恥ずかしいけど分からん。」



「だったらこれから知ろうとしていけばいいんじゃないかな。他にも“国債”とかお金にまつわる金融商品は沢山あるから。

まずは知らなかった事を受け止めて、知っていこうとする事。」



「分からない事を恥じるんじゃなくて、まずは分かってない事実を自覚する事か。」


「自覚?…まずはそこなの。」



「本当に分からなくて知りたいと思ったならね、人って自然に学ぼうとするものなの。そのためにも“なぜ”って思う事は大事よ。」



「そうだね…」


「…こんな単純な事なのに堪えられないとは思わなかったな…。」


「うん……。」




「なんか難しい話に持って行くつもりは無かったんだけど皆大人しくなったね。ちょっと自由トークに切り替える?」


「今はまだ頭にモヤモヤ感あるけどそれでも良いって事か?」


「ええ。知らない事があるって分かるだけでも大きいものよ。」




* * * * *




「いや~何か今まで考えつかん思考回路をつついてたみたいで疲れたな~。」


「でもお金っていうのは実態が無いものっていうのは何となく分かった?」


「ああ。でもそれやったら俺らは実体のないものに振り回されてたことになるな。そしてこれからも。」


「悲しいけどそう言う事になる。」


「悲しいな。確かに。」


「執着してたな…」


「数字を足しただけの実態無いものの為に、家族が追い詰められたり債務の罠にかかったりしてたんか…。それが資本主義のルールとはいえ。」



「何だか頭のいい人達にお金の“便利な側面”だけを見せられて、うまく自分達が使われているように感じました。便利なのは事実ですけど、物事は必ずいい部分だけじゃないわけですから。」



「そうね。便利っていうお金のメリットだけを見てつきあってて、デメリットには目を背けていたように感じる。」


「メリットだらけなんてうまい話無いのにな。」


「ホントね。」



「私はちょっと吹っ切れたかな。実態が無いものって分かってたら、お金以外の判断基準にもっと頼っていいんだって分かったし。

 今までは物事の判断の大部分がお金だったけどさ…これからは実態の無いものの為に判断を誤らなくなりそう。」



「お金が便利だっていう事実は変わらないんですけどね。でも“それだけ”になってたかな。

便利だからってそれに振り回されて友情や家族が壊れるのってバカバカしいし。お金が原因で生まれてた遺恨なんかもちょっと損した気分。」



「少しそれ分かるかも。便利な道具なんだけど道具以上の肩入れをしていたからおかしくなってたんだよな。」



「お金ありきではなく、ニュートラルで見て自分がどうしたいのかを考えればいいんだよな。だったら自分の本心って何だったのかって改めて聞かれたら今はよく分かんなくなってるけど……なんだか霧が晴れた感じはする。」



「これからはお金にウェイト置くのは程ほどにしたいな。それでも惑わすもんはこれからも出てくるやろうけど…俺らの心がもう少し強くなったら乗り越えられると思うねん。」



「うん。あくまでお金は大事。

だけど、そこに比重を置き過ぎず、私たちの心の在り方も鍛えておかないとね。いざという時にお金しか判断基準が無くなっちゃうのは苦しいよ。」



「うん、砂緒里先輩ありがとう。」


「学生のうちにこういう事を考える機会出来て良かったよ。」




「でもさっきの気になるな~。」


「何が?」


「あれよ。信用の名のもとやったら許容量以上のお金を作り出せるっての。ドミノの土台を外されたみたいで衝撃やったで~。」



「何言ってんのよ?

お金を介さずとも私たち“お互いの信用”だって許容量なんて制限なく高められるじゃない。私たちが心を強く持っていれば、何も取引の場にお金をわざわざ介さずとも“借用書”だけでやりとりなんて出来るものなのよ。

 心からお互い信用できないからお金を代替品として介するの。」



「おお、今の説明結構しっくり来たかも。」



「お互い心を強く持てば、その都度お金を介さずとも社会は回せるということか…素敵だね。」



「そうね。じゃあまずはこの部活内のメンバー同士から信用を創造していかないとね。世間からどういわれようが物怖じしないくらいの強固な信用を…ね。」


「うん。」




「でもよ~でもやで……やっぱり、その…お金があった方がええいう誘惑は完全には…」


「あ~らそう。じゃあ静ちゃんはお金のあるなしであんたの相手をするかどうか決めてるとでも思ってるの?お金が無くなったら自分の相手なんてしてくれなくなるとでも思ってるの?」


「う…」



「逆にお金が沢山あれば静ちゃんがあなたの事を愛してくれるとでも思ってんの?」


「いーや…断じてそんな子やない!」


「そうよね。そう思う事自体失礼よね~。じゃそんな誘惑なんて簡単に打ち勝てるんじゃない?」



「お、おおう…。」


やや強張った返答の小谷野に対し、笑顔で駆け寄ってきた静那。そして…


「でもさ、お金はあった方がやっぱりええよね~便利だもんね~」


「静那ちゃん?えぇええ…でも。」


「あのさ、こういうのは無理やり納得しなくて良いんです。少しずつ…心からそう思えるようになっていけば良いんじゃないのかな。急に気持ちって切り替わらないでしょう。

無理な抑制続けてたら余計にお金の誘惑がストレスになるよ~。だから少しずつ、少しずつでいこう。」





1995年と比べると今では一千兆円を突破し、尚も膨れ上がり続けている日本の借金は、国債や地方債などの証券を含め過去最大を更新し続けている。


その後も財政再建から目を背け続けていく事となる。


未来へと続いていくべく国の根幹を握る財源の運命は…ホントどうなるのだろうか。

『2期B面』最後のエピソードでは“10代のうちに考えておきたいお金との向き合い方入門”という位置づけで、ややセンシティブな内容を描かせていただきました。


B面のエピソードはこの後『3期B面』へと続いていきます。学校外の課外活動や県外への視察旅行へもチャレンジしていきますのでご期待ください。


【投稿休止のお知らせ】

ここまでで『TEENAGE』のエピソードは約半分となります。この後、舞台はイタリア&ドイツへと進むにあたり、プロットはあるものの、作者としては1度現地取材をしたうえで執筆したいと考えております。

暫く投稿をお休み致します。


※投稿が不定期になりますので、ブックマークをしてお待ち下さい。

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