34-2 きのこの山とたけのこの里論争
【34話/B面】Bパート
放課後になると、この部屋…部室にやってくる決まった面々がいる。
誰かが部室にやってきて、それが複数名になったあたりから『日本文化交流研究部』の活動は始まる。
1つのテーマを深堀したり、主に静那や椎原さんに向けて日本に対する見分を広めてもらうため、日本の文化や古くから伝わる民話などをプレゼンしたりと最近は様々だ。
休みの日は部員皆で課外活動に行く予定もある。
しかし時には何でもないテーマに火がつき、話し込むこともあったりする。
「静那ちゃーん。お疲れ。こっちでお菓子食おうや。」
部室に着くなり小谷野が提案してきた。
「コラ!何学校にお菓子持ってきてるのよ。」
「いやいやこれ今朝学校周辺でやった清掃活動の参加賞のやつやで。これやったらええやん。」
「そうだとしてもここで開けないで家に帰ってから食べなさいよ。勇一も部長としてきちんとって…ええええ?」
仁科さんが部長の勇一の方を見やると勇一もカバンからお菓子を取り出そうとしていた。
「ちょっと!入手経路は許容範囲としてもさすがに学校内で…しかも部活中に食べるのは駄目でしょうが。あくまでも部活なのよ。」
「仁科さんちょっと固いよ。放課後になってちょっと小腹空いたんだし。」
「せやで。部長がそう言うてんやからええやんか!」
「部長たまには仕事するな。」
「一言余計だよ!」
「何勢いづいてるのよ。もう、仲良くなるのは良いんだけどその方向性も考えないと。私は規律の無くなった慣れあいは好きじゃないな。」
「じゃあ俺らが和気あいあいと食べてる間、おまえだけ隅っこの方おれよ。俺らはこっちで仲良く食べるさかい。」
「なんでお菓子で除けものにされないと駄目なのよ!」
「小春、私たちも食べよう。せっかくのもらい物だし…それに暑さで帰る事には溶けるかもしれないよ。これチョコレートでしょ。」
「うう…まぁ、本当は駄目だけどね。こういうの。」
「小春先輩はお母さんみたいだね。」
「静ちゃん…。この時間帯にお菓子とか食べてたら夕ご飯食べられなくなるよ。毎日寮母さんがちゃんと作ってくれてるんでしょ。」
「はい…すいません…じゃあ私も食べません…。」
シュンとする静那。
「ああ…静ちゃん。何もダメって言ってるワケじゃないからさ。ごめんごめん。」
「……。」
「…ごめんって。」
「んじゃあ食べようや。」
パッと表情を変える静那。
「う…(くっ…かわいい。)」
その表情に仁科さんは唸ってしまう。
「静那、ちょっと今の表情の切り替えは策士っぽいな~。」
「策士?いやいや。たまにはゆるいのもいいかなって思っただけだよ。だらだらした慣れ合いになってしまうのは確かに良くないけどさ。
それに私ももらってきたのがあるから。」
そう言って静那も清掃活動の参加賞でもらってきたお菓子を取り出す。
「私一人で食べるよりもみんなで食べたほうがいいなって思ったし。皆とお菓子のわけっことかしたいし。」
その菓子を見て小谷野と兼元が反応する。
「それ“たけのこの里”やん。日本を代表するお菓子やで。ちなみに明治製菓いうところが作ってんやで。」
「そうなんだ。確か5年前かな…私が日本で初めて食べたお菓子もこれだったからもらった時思い出したんだ。たけのこの形しててユニークだよね。」
そんな弾んだ会話にようやく仁科さんも表情を緩ませて近づいてきた。
「静ちゃんがもらったお菓子って“たけのこの里”だったんだ。私は“きのこの山”だよ。」
「あ、これも知ってるよ。」
「私はこっち。きのこの方が食べやすくて好きだな。」
「うわ~お前エッロいな。引くわ~。」
「何でそういう発想になるかな!今お菓子の話してんだよ。全ッ然、関係ないでしょ。」
「そうだぞ、小谷野!何言い出すんだよ。」
「いや、普通は“たけのこの里”チョイスするやろ。花をも恥じらうつつましい女の子やったら。」
「意味分らんし!」
「そうよ、何でたけのこが良くてきのこの方が女の子にそぐわないみたいなこと言うのよ。」
「そもそもどっちでもいいじゃない!なんで人のチョイスしたお菓子にありもしない疑い掛けられないといけないわけよ!」
「甘いな。“たけのこの里”と“きのこの山”はどっちが良いかっていうのは今まで何度も血なまぐさい論争起こしてきた歴史があるんやで。」
「えええ!本当なの?」
「静那、マジにしなくて良いからな。っていうかそんなの聞いたこと無いぞ。」
「いいや、“きのこの山”が発売された1975年は無かった。けど“たけのこの里”が発売された1979年以降に突如勃発したんや。マルちゃんの“赤いきつね”と“緑のたぬき”でも論争起きとるし。」
「嘘つけ。作り話ちゃうんか?それかメーカーの戦略とか?
だいたい俺らがまだ生まれてもない頃やのに何でそう言い切れるねん。同じような商品や団体が出たからっていちいち優劣つけたりせんやろ普通。」
「じゃあ言わせてもらうけどよォ生一、新日本プロレスと全日本プロレス…あれはどないやねん。」
「ぬな…」
「どや。」
「“どや”じゃないわよ。こっちにも理解できる事例で説明しなさいよね。論点になってる部分が分からないでしょうが。
とにかく同じような商品が2つあれば必ずしも論争が起こるとは限らないでしょ。」
「いや…実は。」
そう言いだしたのは意外にも葉月。
「うちの道場の小学生たちがこの前ケンカしててね、その争いの元ネタがさっきのお菓子の件だったのよ。
どっちがおいしくてお得なお菓子かって話。
まさかそこからケンカにまでなるとは思わなかったから私も原因を聞いて呆れてたけど。」
「どや?」
「だから“どや”じゃないでしょ。くだらない!」
「くだらんこと無いで。争いの火種になってきたテーマなんやから解決方法の糸口を模索するんもええやろ。」
「はぁ?」
「どっちのお菓子が優秀か?支持を得られるか。」
「そんな話合いしてどうするのよ。」
「そうよ。どっちでも好きな方を食べたら良いでしょ。」
「いーや、俺ははっきりしたい派やな。この際。」と生一。
「2つがスーパーとかで並んでた時はどっち買うか結構悩みますね。」
先程から静観していた八薙もどうもこの話に入ってきてくれそうだ。
「う~ん。静那は。どう?」
「争いの火種になってたのなら私たちで何かしらの結論出すのも悪くないんじゃないかな。幸いどっちも現物がここにあるんだし!」
「そんな真剣な顔で言う程の事でもないんだけどな…じゃあお菓子開けつつ各々意見言ってくれないか?」
こうして2つのお菓子のパッケージは開けられた。
「どんな形式にする?部長。」
「形式って…そうだな。まずどっち派かを言って、その理由を言う。それでいいんじゃないか?」
「まぁ多数決で一気に決めてもしこりが残るしな…ええんと違う?」
「暇ねぇ。」
「暇とか言うな!これもディベートの一種みたいなもんで大事やで!」
「どうだか。」
「おれもどちらかというとそう思うんだけど…まぁ何でも試しだ。やってみよう。」
静那が少し興味を持った感じがしたので話を展開することにした。
…お菓子を食べながら…
* * * * *
「じゃあまず俺から行くで。言い出しっぺやし。」
小谷野がこの何とも言えない論争に、まずは切り込む。
「俺はきのこ派やで。今現物あるやろ。後ろの“内容量”よう見てみ!“きのこの山”の方が若干多いねん。」
実際にパッケージを見る面々。
「ホントだ。少し多い。」
「よくこんな所気が付きましたね。」
「そこ大きいんと違うか?栄養成分とかもそれに比例して若干多いはずや。」
「何得意げに言ってんのよ。カロリーが多ければそれだけ太りやすいってことじゃない。大食らいじゃなければ“たけのこの里”の方でもいいでしょ?それに多いっていっても“g単位”じゃない。殆ど一緒よ。」
「お前さっききのこが好き言ってたやろ。」
「だれも好きなんて言ってないでしょ!私はどっちでも良い派なの!」
「きのこのほうが食べやすい言うてたやん。」
「あれは、チョコとそうじゃない部分が分かれてるから。一緒に味わうっていうオーソドックスな楽しみ方もあるけど、チョコとスナック部分と両方の味を別々に楽しむっていうのも出来るじゃない。」
「なんや、お前ちゃんとした意見あるやん。完全にきのこ派やんか。」
「もう、それはどっちでもいいって!ハイ次いこ次!」
断定されるのがあまり気に食わないようで、仁科さんは話を次に進めようと催促する。
「じゃあこの話の火に油注いだから…」
そう言って葉月が話始めた。
別に悪い事を言ったわけでは無いのだが少し申し訳なさそうな顔をする。
「さっきの道場内であった小学生低学年のケンカの話。ケンカの原因だから私も少し理由を聞いてみたたんだけど…実際の売り上げは“たけのこの里”の方が多いんだって。
後日そう言いはってた子がお菓子の売り上げを調べてきてくれたの。
負けず嫌いなのかわざわざメーカーに電話で聞いたみたい。
すごいでしょ。
ムキになったからって小学生がよくここまで調べるもんだなって感心したから妙に覚えてる。」
「じゃあ天摘さんは、たけのこ派?」
「いや…ゴメン。きのこの方。」
ここで一斉にその意外な理由に注目する。
どうやらこの論争にようやく全員完全にスイッチが入ったようだ。
「なんでやねん?」
「ホンマよ。それ肯定してから一転否定して気持ちを引きつけるやつやん。」
「一転、その心は?」
「これはたけのこ派に反論した子が言ってたんだけどね、個数が違うらしいのよ。」
「個数?」
「私も箱から出していちいち数えた事なんて無かったんだけどね。子どもっていうのは好奇心の塊みたいで個数まで知ってたの。」
「ほら見てみろよ。そういう事考えたり追及するやつおるやろ!俺の事“暇ねぇ~”とか言うてからに。」
「もう!いいから話聞く!」
「で、その子に個数を聞いたらね、“たけのこの山”が29個入ってるのに対し、“きのこの里”は30個入りなんだって。」
「1個多いからお得やし、きのこ派って事?」
「そんな卑しい理由じゃないよ。
私、道場に来てる子ども達のお世話をしてたんだけど。空手の稽古が終わった後、親のお迎えが来るまでは道場の控室で子ども達のお守をしてたんだ。
その時に小学生にお菓子を配ったりしてたんだけど“きのこの里”だと30個だから3個ずつとか5,6個ずつとか均等に分けられるから丁度良かったのよ。
子ども達ってさ、自分に配られたお菓子が1個多いとか少ないとか結構気にするのよね~。
それだけでよく取り合いになったりするのよ。低学年だと特にね。
だから均等に分けられる数入ってる“きのこの山”の方が良いかな。」
「おぉ~」
「成程。」
「葉月先輩、その考え方素敵です!そう考えたら私も“きのこの山”の方が良いかも。」
「そうよね。お菓子なんて自分だけで独占するもんじゃなくて、みんなで分け合って食べる方が絶対楽しいもんね。」
「うん。均等に分けられるって大きいよ。」
「おい!兼元。」
「何やねん。」
「なんかこれ論争が一気に終わりそうな勢いになってへんか?」
「確かに…売り上げなら“たけのこの山”が優勢やのに雰囲気できのこ圧勝になりかけとる。」
「他には意見無いかな?」
「私も今の話聞いてたら“きのこの山”がいいかなって思えてきた。」
「でもそれは分け合うのに適した数って言う事やろ。それ以外にも色々あるやん。」
「でも均等に分け合えるのってポイント高くないですか?」
「ええ、大人は気にならないけど子どもは多い少ないを気にするからね。
それにお菓子の消費者って子ども達の方が圧倒的に多いし。」
「じゃあ、それ以外は?」
「………」
「え~無いんか?」」
「あのさ、小谷野。お前は“たけのこの里”を推したいのか?」
「いや、そういうワケじゃないねんけどさ。でも…これで“たけのこの里”が30個入りになったらまた論争が振り出しにもどるやんか。」
「それは確かにそうですね。」
「他にも“きのこの山”やとチョコの部分だけ食べ終わったやつやったら色々使える用途あるやん。耳せんとか箸置きとか。」
「あれを耳せんに使う奴とか見た事ねーわ!」
「箸置きにも無理があるんじゃないか?」
女性陣は頷くまでもないという感じの視線だ。
「同意。他には無い?」
「うん。平和的な意味で今は“きのこの山”がいいかな。売り上げとかは関係なく分け合うのに実用的だし。」
「そうよ、もうそれでいいじゃない。」
「それやとなんかあっけないやん。まだ全員の理由聞いてないし…」
「じゃあ他に何か別の意見ある人。」
…しかし挙手は無かった。
「小谷野さ…お菓子ってみんなで話をしたりする時とかのコミュニケーションツール、潤滑油みたいな役割であるもんだし、そんな論争起こすほどの事じゃないよ。」
「でも実際に天摘道場の子どもさん達がおかしで論争起こしてるやん。論破したいがためにメーカーに問い合わせるまでして。」
「それは子どもだからだろ。純粋な好奇心を突き詰めるのは良いんじゃないか?」
「なんかあっけなく話終わったから…。」
「また納得いかない点があったら話振ってくれればいいだろ。どっちをチョイスしても平和ならいう事無いよ。」
「永遠に解決しない問題があっても良いって事だよ。」
「そうよね。なんか話してて変だったけど、この先メーカーさんがどっちが良いかとかを大々的に国民向けて調査しそうね。
PRの為に。」
「ありえるな。」
「言われたらありえる。」
「砂緒里は見てるところ違うね~。まったく…箸置きだとか耳せんに使うとか…どういう角度からあんな発想が飛び出すのやら。食べ物だっつうの!バチあたるよ。」
実際、この2つのお菓子はパッケージのデザインや開発に至るまで様々な工夫を重ね、商品名にはじまり形や印象など数百もの試作を繰り返してきた歴史があったりする。
実際に明治製菓は2001年以降になると、2つの商品の人気投票をメディアやSNSなどを駆使してはたびたび実施。
消費者に対する意識付けなのか、話題に事欠かないよう定期的に対決の構図を演出させていくことになるのだが、まだそれは少し先の話……
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々学校外の課外活動にも出向きます。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
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頑張って執筆致しますのでよろしくお願いします。