32-2 世界がバラバラになりかけた日
【32話/B面】Bパート
ここは校舎の東側2階。
放課後に入ってしばらくすると、この奥の部屋では様々な話題で盛り上がるのだが…今日は暑さの目立つ一日となった。
これから夕方にかけての時刻に入るが、まだまだ気温が下がりそうにない。頭がぼーっとする。
「しかしまだ6月というのに暑いなー」
「6月って梅雨やろ普通~。」
「窓からの風があるじゃない。元野球部だった人間が1番に弱音言ってどうすんの。」
「でもこんな暑いとマジとろけるぞ…世界が暑さで溶けてまうレベルやで。」
「大げさなの。世界が溶けるなんて。」
「でも世界が溶けてしまうような危機って実際あったんよな。」
いきなり生一が極端な話を振る。
「ええ。何回かね。」
それにサラッと返答してしまう椎原さん。それで話題にスイッチが入った。
「はい?ええ?それ初めて聞くぞ。地球に対して隕石の衝突とかか?」
「それは…規模が小さいから世界的な大惨事とまではいかなかったけど。」
「じゃあ何だよ。世界が溶けるような危機って…」
突然の話に気になる勇一。
「勿論核ミサイルの発射未遂って形での。…人道的なものよ。」
「知らんかったよ。」
「今からかなり前…アメリカとソ連の緊張が限界点になってたあたりでしょ。」
「俺達が生まれる前かよ…」
「静ちゃんはソ連側か…じゃあ知ってるんだよね。核の発射如何ではこの地球…生きとし生けるものは滅びかける寸前まで追い詰められたことがあるって。」
「もし発射されてたら…か…」
「我々の暮らしに甚大な影響が出ていたかもしれない。」
「そんなの冗談じゃないで!どこの国の軍隊か分らんけど操れもできんくらいの威力がある兵器をよその国へ打ちこむとか打ちこまんとかで揉めてたんやろ。」
「滅茶苦茶迷惑な話だな。」
「まったくよね。今はたった1つの選択のミスで世界が壊れるような戦争が勃発する世界なのよ。
まぁ結果として回避され続けてなんとか滅亡せずに今まで来れたんだけど、これからも大国の判断で地球の運命が左右されるなんていうのはたまったものじゃないよ。」
「きっと頭に血が昇った上司の傍らにいた仕官さんとかが、必死で説得して何とか事なきをえたっていうパターンとかじゃないかな。」
「そうだとしてもこの地球は皆のもんだぜ。どっかのお偉いさんとやらのモンじゃないのにな。
フリーザみたいに世界の支配者にでもなった気でいるのかどうかは分からんが、何とも迷惑なこったな。」
「でもそういう野心のある人は必ずいるし、いなくはならないよね。」
「そうだよな。難儀だけど。どっかにいるし…変えられないし…そういう奴に限ってトップになりたがるし…」
「まぁこんな一つの事件をきっかけに地球に生物が住めなくなるくらい世界がバラバラになったりしてしまわないよう、秩序を守る影の秘密組織・ガーディアンみたいなのが世界には居るんじゃないのかな?」
「影の実力者ってやつが世界の秩序を守るために暗躍してるってか?いいやんそういうの。俺は好きだね。おるんなら是非お目にかかりたいもんだな。」
「多分いたとしても目立たないようにひっそりといるんじゃない?」
「何でよ?」
「考えたら分かるでしょ。目立ったらやりづらくなるでしょ。戦争したくてたまらない連中もいるんだし。
どこかで援助受けながらひっそり活動してるって形が普通よ。」
「まぁそうでしょうね。第一今の国連があんまり機能してないじゃない。ああいう目立った国際機関だとそこに所属している各国の代表の裏で、必ず国の利権とかも一緒に動いてるはずだからかえって動けないものなのよ。」
「こくれん?」
「勇一はちょっと勉強不足ね。静ちゃんに教えてもらいなさい。」
「うう…。」
「簡単に言うと、 国の平和及び安全を維持するために1945年に設立された国際機関よ。」
「俺らが生まれる前にあったんだ。」
「でも設立されても尚、世界中で戦争や紛争が未だに起こり続けてるでしょ。だから大きな機関や組織だとこの先も平和や安全の維持は難しいって言われてる。」
「もう国を絡めずに“有志ある世界中の市民同士”で作る『市民の国連』みたいなものの方がリアルに問題を防げそうだってこと?」
「そういう答えに行きつくよな。世界の調和を本気で実現&維持したいのなら。」
「国連っていう国際機関の力じゃあ世界の紛争を止める力はないから、陰でくい止めようと暗躍している人間が居るっていう説はありえるかもしれないね。」
「可能性としては全然考えられるな。」
「まぁ迷惑な話には変わりないな。戦争しても一部の人間しか得せんのにリスクがデカすぎる。
もうアレよ。巌流島とかに特設リング作っておいてやるから“戦争するんや!”言うて発言した当人同士が、そこで気が済むまでどつき合いして、疲れてきたら話し合いすればええねん。
何にせよ関係ない人間を巻き込まんでほしいねんな。」
「おおむね意味分かったし同意できるかな。」
「うん…」
「あ…静那。戦争のこと…思い出させてごめんな。」
「うん…でも私たちが子どもの頃に比べて兵器のレベルはどんどん凄いものになってきてるよね。兵器って人を殺すために作るものなのに怖いな。」
「そこは日本の憲法みたく作らせない、使わせないようにしないとな。いっそ武器なんて全て無くなってしまえば平和な世界になるのにな。」
「お前静那の手間やからって気休めでそんな無責任な事言うてるけど、もし世界中で武器が無くなってしまったらどうなると思うてんのよ。」
「え?…そ、そりゃあ戦争は終わって、争いもなくなるんじゃ。だってやり様がないだろ、戦争。」
「甘いなぁ。」
「何でそんな事言うんだよ。だって待てよ。仮にも武器だぞ。人殺しに使われてきた武器が世界中からなくなるって…そりゃあ仮定の話だけどさ…無くなったら争いだってできなくなるだろ。…大掛かりな戦争なんて武器が無いならできなくなるはず。」
「……じゃあ静那はどう思うよ?」
「……。」
「他、仁科は?天摘は?」
「……。」
「椎原は?」
「うん…厳しいね。」
「まぁ普通に考えたら分かるよな。」
「俺はまだ全然分かんないぞ。」
「だからもう少し考え深めてみ。今の世界って兵器の力・恐怖心で無理やり従えさせてる国いっぱいあるんやぞ。」
「だからそんな恐怖心も、仮に武器や兵器が消えたらなくなるだろ。あ!」
「少し分かったやろ。武器や核兵器で怖がらせてたけど、その恐怖で抑止させるための武器が無くなったら。」
「…これまで武器を持ってなかったばっかりに脅され続けていた人々の溜めに溜めていた恨みか…」
「まぁリアルに想像したらすぐに分かる。だから武器が無くなるなんていうのは理想とは思うけど、仮にその理想が叶って全部無くなったとしても根本の所で解決はせんねん。
相手に強い恨みや怒りが残ってるなら。
心に遺恨の気持ちが消えないなら。」
「それだけ今までの歴史…武器のおかげでいびつな関係が作られてきたからね…」
「だから軍国主義に走っとる国は、これからもますます精巧で破壊力のある武器を作り続けるやろうな。もう相手国に対して脅しをかけた時点から軍事力を止める事はできん。歯止めがきかん位まで来てるっていうのを知ってるからあとは進むしかないねんな。」
「そうなるな…」
「だから“先に”手出ししてしもうたら…兵器で“先に”脅してしもうたら…もう後戻りが出来んかったりするもんなんやで。
ケンカも同じようなもんやで。
それがエスカレートした形が戦争…人殺すんも同じやろう。
いくら怒りで我慢ができんかったとしても、一度殺してしもうたら罪を償うとかいう以前に心の中でもう後戻りが出来んようになるねん。それに犯した過ちが大きすぎてもう直視できなくなってるんやろ。」
「だから殺したら駄目ってことか。」
「いや、これは俺のイチ意見としてであって、殺したらあかん理由なんてのは自分で考えろ。」
「まぁ仮に武器が無くなってしまえば平和な世界が実現するだろうっていうのは早計だったよ。あくまで人間の心の中の問題だよな。」
「…だからって強力な武器を作り続けてるってのもどうかと思うけどな。でももう後戻りできんいう事情も分かるけど。」
「それにそいつらに世界の行く末を握られてるのはたまったもんじゃない。」
「それはそうだな。」
「そういや…何で暑いっていう話からこんな話題になったんだっけ?」
「お前(生一)じゃねえかよ。急にビックリする事言いやがって。」
「でも椎原も静那もこの歴史的事実知ってたんだし良いんじゃねえの。案外世界のタクトを握るような奴らが俺らの未来を脅かすラスボスになるかもしれんかったりして。」
「そんな日本の…ただのイチ高校生が…世界の実権を握ろうとするような大層な人物と出会える訳ないじゃない。」
「でも会えるのなら言わずに居れん事ってあるやん。“てめえらのエゴで世界中に迷惑かけるな”とか“もう当人同士で腹割ってとことん話しせえよ。代理人やなくてお前が来い!ゲスいビビり共!”とか。」
「あと…“貴様のような奴がいると家でゆっくりとエロビデオも見られへんやんか!”ってな。」
「まったくしょうもない方向に持って行かないでよ。」
「んなことねえよ。争い合うより愛し合う方がええやん。どのみち俺ら死ぬんやし。」
「うん。人間の死亡率は100%って聞いた事あるよ。人はいずれ必ず死ぬんだから争うよりも愛する方が良いっていうのは大いに賛成かな。」
「じゃあさ!課外活動を終えた夜はお城“みたいなところ”で一緒にお泊りしー「はい却下ッ!!」
「何高速で却下してんだよ。別に良いじゃねえかよ。じゃあご休憩だけにするから。」
「良いワケないでしょうが!ぶち殺がすよ!」
スキあらば話を変な方向に持って行こうとうとする小谷野と兼元。そうならないよう部内の秩序を守ろうと暗躍する仁科さん。
これもある意味、この部室という名の世界の治安がおかしくならないようにする為のせめぎ合いだったりする…かも。
「料金は昼の方(ご休憩料金)が圧倒的に安いらしいぞ。」
「勝手に話進めんなぁぁぁ!」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々学校外の課外活動にも出向きます。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
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