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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season2【B面】
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31-1 勝利へのスタンス

【31話/B面】Aパート

ここは校舎の東側2階。


放課後になるとこの奥の部屋が部室となり、集う面々がいる。


誰かが部室にやってきて、それが複数名になったあたりから『日本文化交流研究部』の活動は始まるのだが、特に会話テーマが決まっていない場合は男女分かれて別々の机で取り留めもない会話からスタートしていく。


そのうちテーマが決まればお互い机を囲んで話始めるのだが……今日は司会者を担当する勇一が生徒会に呼ばれていて居ない。




まったりしたトークが2つの机に分かれて行われていた。




男子側のテーマは先日の野球で感じた事だ。


野球経験者が2人いるのだから自然とそうなったのだろう。



「先日練習試合してみて、うちの高校…県大会どうですかね~?」


めずらしく小谷野と兼元に絡む八薙。


野球経験者としてうちの高校の客観的な戦力分析を伺いたいのだろう。



しかしすぐ冷めた目になり答える小谷野。


「…あかんな。あれじゃ。基本のロクヨンサンも満足にとれてへんやん。」


「そうなんですか?」


あっさりと即答されて意気消沈の八薙。



後で分かった事だが野球部員の1年には八薙のクラスメイトも在籍していて、予選突破を目指し頑張って汗を流していたのだ。



「第2打席で俺が打ったヒットあるやん。そなええ当たりでもないのにあれで2塁まで行かしたらあかんわ。バックアップが出来てないうえに、あのセンター小回りきかんねん。それに取った段階で“3塁までは行かさんとこう”いう後手に感じる送球やったし。

あれやったら強豪校が相手やとカサにかかって攻めこまれるで。」



「…厳しいですね。」


「お前、自分のプレイだけやなくて周りも結構見てんな~」


「当たり前やん。」兼元も同調する。



「高校生なんやから打つ練習は楽しいやろうけど、勝つには結局きちんとした守りが大事になるねん。当たり前に取れるアウトは当然として、いかに進塁ささんようにするかを常に考えるとか…まぁそういう“野球脳”が無いとあかんわな。」


「おまえ野球部途中でリタイアしたやろがい。バスケ部行くいうて。」


「でもバスケも根っこの部分は同じやったで。」


「何が?」


「バスケもシュートして点入れるんは皆好きやねん。シュート練習はようやってる。

でも守り・ディフェンスがザルやったら一向に点差も開かんし、こっちがバテてきたあたりですぐ逆転されてまう。


野球以外のスポーツ…サッカーとかバレーもそうやねんけど点入るいう華やかな部分ばっかりをテレビで流すやん。あれなんかあかんと思うねん。

守りがきちんとしててこそ初めて得点が活きてくるゆうもんやで。だからディフェンスが強いとこがやっぱり手堅く勝ち上がる。」


「そこの領域にまだうちの高校は達してないということですか?」


「まぁうちは新入部員がレギュラーはっとるくらいやしな。まずは野球の楽しさを知ろういう所からなんと違うか?

多分あの監督さんはそれ分かってると思うわ。

多分今年に入って練習試合したんうちらが初めてやと思うねん。」



「夏の甲子園を勝ち上がるにはそれだけ過酷だって事ですね。」


「まぁ高知県には常連校の“明徳”がおるからなぁ。」



「明徳って…先輩方確か出身は関西ですよね。“高知の明徳”知ってるんですか?」


「高校野球夏の甲子園に関してある程度詳しい人なら大抵知ってるで。松井の件で有名や。」


「すごいすね。」


「それに“ブルーロック(海の監獄)”言われてるところやし。」


「初めて聞きますよ。その言い方は。」



「周り海ばっかりで町中からだいぶ隔離された場所に高校の敷地があるねん。周りに娯楽も何も無いからマジでスポーツしかやる事無いみたいな環境らしいで。おまけに学生も寮暮らしみたいやし。


俺の友達がな、明徳のレスリング部におるねん。

でも“来世、もうレスリングだけはしたくない”言うとったわ。来世があるかどうかはさておき、それくらい飽きるまでスポーツに明け暮れる事が出来る環境やねん。」



「確かに高知県の代表校でしょっちゅう名前が出てくる常連校やけど、そういう環境下なんやな。」


「そんな高校が県大会予選に居座ってたら厳しいですね。」


「せやろ。学校と寮におる以外は野球漬けのチームに対してうちは普通の進学校。…分が悪いよな。プロ野球と高校野球くらいの差はあるで。」


「なんだか理不尽ですね。」


「いや、そうでもないで。大阪にも野球に全振りしたような強豪校いくつかあるねん。PⅬ学園とか桐蔭とか。どっかで聞いたこと無いか?」


「あります。甲子園は中学の頃見てたんで分かりますよ。」


「あの辺の学校凶悪やねん。部員もめっちゃおるし規律も厳しいし。坊主やし。恋愛禁止やし、確か携帯所持もできへんし。」


「えらいあるな。禁止事項。」


「そやねんな。俺も聞いた話やけどあんな軍隊みたいな環境下で野球とかしたないよ。新入部員は球拾いに雑用にうさぎ跳びとか野球以外のルーティンが延々続くんやで。

1年坊主は野球すらやらせてくれへんねん。」



「強豪校は野球部に入っても野球させてくれないのってよく聞きますけど…やっぱりなんですね。」


「まぁそうみたいやな。1年が入ってきたら自分達がされた仕打ちをしたくなるんが人間いうもんや。仁義なき後輩いびりのループは続くやろうな。」


「でも先輩達の高校はそんなスパルタ式じゃなかったんですよね。」


「そうやけどよ。どのみち俺らの高校じゃあんな野球馬鹿のチームには勝てんいう“悟り”みたいなもんはあったからモチベーション低かったな~。

強豪校の4軍5軍とかでも勝てんのとちゃうか?一回も当たらんかったけど。」



「その話やと関西はもう野球の強豪校以外では野球やっても無駄。本気でプロめざしたいんなら野球のエリート高校でも行けいうてるようなもんやん。」


「実際そうやで。でも行ったとしても部員が多すぎて中学時代から有名やったような奴以外はなかなか野球やらせてくれん。」


「いびつな世界やな。」


「他の部活も当然練習スペースいるし、野球部用のグラウンド自体そういくつもないしな。」


「とにかくJリーグが始まったとはいえ、まだまだ野球人口多すぎんねん。プロの世界という野心ギラつかせたやつが…」


「そう考えたら2人とも賢い選択だったんじゃないですか?野球がやりたかったから適度に楽しめる高校でのびのびやれてたわけですし。」


「まぁよ。今考えたら“何のために野球してたか”になるな。野球は好きやったから程よく楽しめれば良かったねん。そこには合ってたな。

……だからうちの高校の野球部員も程よく楽しめたらええんと違うか?高校出てプロになるわけやないんやし。」




「ただ試合はするやろ…勝負は避けて通れんし、負けるんは悔しいよな。」



「そこは辛い現実やろうな。実際あいつらじゃ明徳や商業には勝てんと思う。でももうこれは野球に対するスタンスの問題やねん。どっちがあかんとかいうモンでもない。

野球楽しみたいんやったら野球が出来る所ですれば良いし、プロ行きたい思うんやったらそれなりに厳しい所で競争に勝ち抜いていかなあかん。

どっちを選ぶかは本人の自由や。ただ…」


「ただ?」


「“どっちも”いうんは虫が良すぎる言う事よ。普通はな。」


「まぁそうやろうな。」


「いやいや本当にそう思うてる?高校生って結構欲張りな奴多いねん。

当然レギュラー張りたいし、活躍したいし、モテたいし、人気者にもなりたいとか実はめっちゃ強欲に考えとったりする。

そんで全部手に入れようとして色んなものが手からこぼれ落ちて行くねん。」



「大人になったらそういうのは無理やと気づいて“落としどころ”を考えるんやけどな。」



「でもまだ高校生って無邪気やからこそ、どっか諦めきれんねんな。どこか冷めた態度とっとるやつおるやん。でもそれは抑圧されてるだけで、心の奥底では何かを強烈に欲してんねんな。」


「本当は欲するもの全て手に入れたいいう野心がある…か。ええやん。俺はそんなん嫌いやないで。」


「それを最後まであきらめずにブレずに突き進もうとした奴がエゴイストになってプロまで行くねん。プロになる奴は、たいてい相手を無理やりにでも押しのけて上まで登りつめた奴が多い。でもそれくらいの傲慢さがないとプロにはなれんねんな。」


「才能の原石だけじゃあかんいうことか。」


「そやで。強烈に勝ちだとか称賛に対する“飢え”みたいなんが無いと最後は気持ちでまくられるねんな。」


「おぉお、深いな。えぐいけど説得力あるわ。」


「俺も空手の試合で聞いたことありますよ。実力が拮抗しるんなら“勝ちたい”って思いの強い方が最後は勝つって。」



「最後は俺が勝つんやというエゴ、大事やな。勝負の世界ってそう見たら“内”は結構殺伐としてるもんやで。別に格闘技とかじゃなくともな。」


「だから勝負は面白いねんけどな~。」


「ああ。勝負ごとにスマートさを求めたらあかん。それは本当の勝負を知らん奴の思考やと思う。

傍からはそう見えても“潰しあい殺し合い”みたいな感情がどっかで渦巻いてんねん。」



「なんだかこの話聞いたらますます勝負事というか試合に勝つことって難しく感じますね。」


「阪神弱いからな~。見てたらなんか…分かる。」


「まぁ気力、気持ち、エゴって勝負の決め手には大事なエッセンスやねん。そこまでの情熱を抱けんかったから俺は野球を辞めた。」


「プロじゃなくても野球は出来るもんな。」


「おう。その辺りが俺の落としどころやな。

ま、拙者は殺伐とした試合よりも、静那ちゃんと交わす甘っちょろい戯言の方が好きでござるよ。」





「どしたの?何か呼んだ?」


“静那”の名前を聞きつけて本人がこちらの机にやってきた。


「ああ、武藤さん。今、先輩方と勝負の世界に対するスタンスの話してたんだ。武藤さんは何か勝負事やったことある?」


「うん。あるよ。勝負なら何度も。」


「どうだったの?結果、勝った?」


「相手はだいたいベテランさんだからね…。やられる事が多かった。でも終わった後は“うまくなったね~”って褒めてくれたよ。」


「うまい?」


「うん。おじさん達からいっぱい褒めてもらった。良かったって。」


「良かった?」


「攻め方がうまくなったって言われたよ。」


「攻め方?」


「それからは、事ある事におじさん達に指名されて大人気だったんだよ、私。」


「大人気って…」


「名人ともなると“ノゾキ”や、蹂躙するための“荒らし”がうまかったな~」


「覗きって…ちょっとまって武藤さん。それって一体何の勝負?」





「おい!ちょ待てよ!」


最近流行りの『SMAP』キムタクみたいな口調で、生一が割り込んできた。


「武藤サンに聞く前に先によォ、お主は一体何の勝負やと思うてたのかな?答えてもらおうか!さあ!」


「!?」



この後、仁科さんの素早いヘルプが入り、八薙は事なきを得たのである。

『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々学校外の課外活動にも出向きます。


各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は大いに勇気になります。


現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価をして頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆致しますのでよろしくお願いします。

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