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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season2【B面】
164/225

30-2 コーチング

【30話/B面】Bパート

野球部と勇一達の練習試合が続く高校のグラウンド。



応援歌や手拍子が響く中躍動する野球部ナイン。


静那達4人の声援が程よい緊張感を生んでいる。


顧問の先生もそれを肌で感じていた。




呼応するようにいくらか気分が高揚したのか、相手側の野球部も底力を見せ始める。


ピッチャーは小谷野だが多彩な変化球など投げられるわけではない。


ストレート主体なのでコースが甘ければどうしても打ち頃のボールになってしまう。


痛烈な当たりをレフトに飛ばされる。



打球の速さに驚き思わず避けてしまう勇一。


「おい!ちゃんと球見ろよ!ランニングホームランになるやんか!」


申し訳なさそうな顔をする勇一。


なかなか素人が強襲ライナー性の当たりをダイレクトキャッチするのは難しい。



チェンジになった時、ベンチに戻る勇一に兼元がアドバイスを送った。


「あんな。球から逃げん事が大事やねん。ブン投げられた赤子を優しく受け止めてあげようみたいな気持ちで球に向かえばどうってことないで。」


「へえ~新鮮な発想だな。」


「えええ?赤子だったら焦るよ逆に。」


「まぁあれやねん。優しく受け止めよういう気持ちが大事いう事で。」


「なかなかあんたにしてはいいアドバイスなんじゃない?」とバックネットから仁科さん。


「おまえ金網越しに上から目線やなぁ。」


「違うって。褒めてるのよ。エラーしたからてっきり勇一の事責めるのかと思ってたけど。」


「俺らの大阪の高校はエラー許されるとこやったからなぁ。」


「許される?」


「そやで。静那ちゃん。ハイレベルな野球高校やったらミスが許されんねん。責められるわけやないけど無言の交代告げられたりして。」


「それじゃ失敗を恐れて委縮してしまいますよね。」



「まぁ強豪校はそれだけ厳しいし、監督も規律にうるさくて怖い人が多いねん。」


「そうやな~怒られてたもんな。強豪校の選手達はよく。俺あの環境で野球やるんは無理や思ったわ。」


「怒られるって?」



「…そやな。例えば…ホラ。今の勇一の打席。」


勇一が空しく見逃し三振に倒れる。


「こういう時よくベンチから“ちゃんと球見ろオラ!”言うてえらい罵声が飛ぶねんな~。俺やったら嫌やわ。」



「三振した勇一は決して球を“見てなかった”ワケじゃないですよね。」



「そうやんな~。そうなんよ“球見ろ!”って球見てなかったわけと違うんよな…

完全に感情が入ってもうてるよな。指導やないよな。」



「強豪校のピッチャーすら落ちついて投げられへん。コントロール乱れてきたら交代ちらつかせるし。」


「へえ…強いチームはあらゆる所で緊張感があるんですね。」


「でも楽しないやろ。ミスが許されんのって。そのために必死に練習はするんやけどさ。人間やん俺ら。ミスはつきもんやで。」


「なんだかそう考えたら掛け声のかけかた一つとってもその人に対しての影響って大きいって思えません?葉月先輩。」


「確かに…そうね。」



2アウトまで来ているが現在は勇一達のチームが攻撃中だ。


相手投手の球が高めにきだした頃、外野から指示が飛ぶ。


「おい大谷!球高くなってんぞ!気合入れろ!」


「はい。」


外野からの声。3年の先輩だろう。




バックネット裏で見ている静那達にも当然聞こえる。



「さっきみたいな時はなんて声かけをしてあげたらいいんだろ。」


突然静那が聞いてきた。


「え?そりゃあ…“低めに投げろ”…とか?…かな?どう砂緒里。」


「う…ん。球が高くなってるって言う以外、今の所思いつかないな。」


「何か別の声のかけかたがあると思う?しーちゃん。」



「私が感じたのは“相手バッターは低めが弱いぞ”とかの方がさ、言われて気が楽になるんじゃないかな…って感じた。

“球が高くなってるぞ。”ってニュアンスのアドバイスだと“そこがダメだから直せ!”っていう否定的な意味合いとか“低めに投げないと”っていうプレッシャーをまず感じると思うんだ。


別の言葉に変えてみたらどう伝わるかなんて分からないんだけどさ。


かけてあげる言葉ひとつでその人が何かきっかけをつかんで、変われる可能性が…1%でもあればって思ったら。」




試合中ではあるが、アンパイヤをしてくれている顧問教師が振り向いてその会話内容を褒めてくれた。



「君はなかなか良い所に目をつけてるね。確かにかけてあげる言葉一つ、受け止め方一つで何かが変わる事もある。大事だよ。」


バックネットからホームベースは近い。


会話はよく聞こえる。


先生も1年の新入部員達をはじめ、どういう声のかけ方をすれば選手が伸びるだろうかを模索していたのだ。


選手たちはまだまだ1試合を戦いきれるレベルではない。


まずは大会までに個々のレベルの底上げが大事だ。


ただ、声のかけ方や気持ちの高め方一つで練習に対する向き合い方も違ってくる。




* * * * *




試合は進み、後半に突入する。



「先輩!執念でつなぎましたんで。あと頼みます!」


八薙が試合の中でバッティングのコツを掴み始めたようで、うまくヒットでつないでくれた。


そして勇一に打席が回ってきたのだ。


本日4打席目。



ツーアウトながら満塁だ。しかしここまでの3打席はいずれも三振という結果に終わっている。



“自分がブレーキになってる。なんとかしないと…”という危機迫る表情でバッターボックスに入る勇一。



「(2ナッシングまで追い詰められたら攻めが後手になる。追い込まれる前に勝負に出ないと…)」


そんな思いを感じ取ったのかどうかは分からないが、バックネット裏から静那が変わった声援を送った。


「相手ピッチャーの顔!見て勇一!何投げるか分かるかもしれないよ!」


投げる寸前で“何を言い出すんだ”と戸惑う相手ピッチャー。


勇一も“顔見て何か分かるわけないだろ”と半信半疑ながら一応言われた通りにピッチャーの顔を見つめる。



振りかぶる…


投げる寸前までずっと相手の表情を見続ける。


すると相手ピッチャーもさすがに凝視される事に気まずくなり体制がずれる。


結果、やや外角に球がいった。


勇一は食らいつくようにバットに当てる。


「芯に当たったあ!」



…と思ったのだが結果はライトフライに終わった。






チェンジの時に小谷野が勇一に話しかける。


「お前さっきのよう当てたな。球自体は早かったのに。」


「うん、相手をじっと凝視してたら、内…インコースに来るような感じはないってピンときたから。」


「そうなんや。そういう戦法もあるんやな~。まぁさっきのが2アウトやなかったら犠牲フライで得点になっとったで。」


「おう、得点やった。良かったと思うで。」



静那のとっさの掛け声で外野まで飛ばせた勇一。


結果はアウトだったが野球に興味を持てたきっかけになった。



この後勇一は、静那が生一から借りて読んでいた野球漫画『ドカベン』を同じく読みふけるようになる。




* * * * *




「ありがとうございました!」


試合が終わりグラウンド整備をしている中、野球部キャプテンの岡川君と監督の顧問教師が静那達の元へやってきた。


「今日は練習に華を添えてくれてありがとう。

おかげでいい緊張感の中で試合できたよ。声援だけでなくチームへの声のかけ方というのも非常に大事だと気づかされたし。

椎原さん達さえ良ければ夏の全国大会までの間だけでもマネージャーやってもらいたいんだけど、どうかな。大歓迎するけど。」



この中だと椎原さんが部活動の代表者に見えたのだろう。


突然のスカウトに戸惑う4人。



野球部キャプテンの岡川君も頼み込む。


「なんだか今日の練習はいつになく皆が真剣だったし、収穫もあった。是非、マネージャーお願いします!」


まるで一世一代のプロポーズの様に真剣に頭を下げるキャプテン。


やっぱり女性が見てくれている方が練習に力が入るのは正直な所ある。



「あか~ん!嫁はやらんで!あかん!あかんいうたらあかん。小谷野プロダクション通してもらわんとあきまへんな!」


「油断も隙もねぇな!うちの嫁高いんやぞ!」


小谷野と兼元が割って入ってきた。何としても阻止したい構えを見せた。



「いいだろ別に!経験者のお前達に来てくれなんてお願いしてないんだし。」


「あかんよ!まず何で俺らと違うねん。」


「お前経験者かもしれないけど終始暑くてダルそうな顔してただろ。“戦う顔”をしてないんだよ。」


「何やねんその“戦う顔”いうんは。」



その後、片付けを終えた残りの野球部員も勧誘に加わり、マネージャー嘆願に揉めたのだが、県大会予選には皆で応援に行くという事でなんとか折り合いをつけたのである。




静那にとっては野球という競技を初めて見る良いきっかけになった。



そしてこの体験が功を奏し、高校野球、そしてプロ野球といった世界に興味を持つようになるのだがそれはまだ少し先の話…。






「勇一。」


「おう静那。応援してくれてありがとうな。あいつらも応援歌、すごい感激してたよ。」


「それは提案したボスに言ってくださいな。」


「そうだな。アイツ、今回は意外なとこで仕事したな~。そういやさ…俺だけ足ひっぱってなかったか?」


「全然。そんな事無いよ。小谷野先輩と兼元先輩は経験者だし、八薙君は元から運動神経良いんだし個人差あるよ。」


「そうか…じゃあそういう事にしておく。」


「?」


「あと相手に対して声のかけ方で違ってくるとか言ってただろ。静那なりにかける言葉を考えてくれたんだなって。」


「そんな事…。でも最後の打席で打ったよね。あの時の勇一は楽しそうな顔してたよ。それだけで良かったって思う。」


「そうか。」



「静那ちゃん!俺のプレイどうだった。」


横から兼元が割り込んできた。遅れてすぐ小谷野も無理やり入り込んでくる。



「うん。さすが経験者って感じでカッコ良かった。」


「せやろ~これからもカッコ良いとこ見せまくったるからな。惚れんなよ。」


「惚れてたまるか!お前みたいなんに。」


「はぁ?邪魔やねん。どけや。」


「いややね。俺今嫁と話してんやけど。」


「嫁違うやろがい!」


「はぁ?お前今日4打数2安打やろ?俺3安打やで、負け組は引っ込んどれ。」


「はぁ?お前と違うて俺3打点上げとるし~。“フォア・ザ・チーム”考えたらどっちが活躍したかは明白やろ!」


「あ…のさ。フォア・ザ・チーム、ってどういう意味?」




静那が聞いても目の前の2人は不毛な戦いを既に始めていてこちらの質問が聞こえていない。


その様子を見かねて勇一が手招きする。


「フォア・ザ・チームっていうのはさ“チームのために自分はどのように役立てば良いかをいつも念頭に置いて実践すること”だよ。とあるプロ野球選手の方の受け売りだけど、いい言葉だよな。」



「うん。野球の面白さが詰まってるね~。漫画でチームの在り方とか読んでたからよく分かる、その言葉。他には無い?」


「そうだな…実はポジションごとに色んな名言あるんだよ。」


「じゃあそれ一丁たのんます…」





2人の不毛で無意味な争いを背に、勇一と静那は野球の話をしながらグラウンドを後にした。



そんな様子をやや遠くから見守る野球部員達。


「あのアホら、まだ2人で争ってるよ。ムダに目立ってんな~。」

『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々学校外の課外活動にも出向きます。


各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。


【読者の皆様へお願いがございます】

ブックマーク、評価は大いに勇気になります。


現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価をして頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆致しますのでよろしくお願いします。

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