8-1 新しい生活
【8話】Aパート
「私、この高校に通いたい。編入試験受けてもいい?」
寮母さんに手続きをお願いしてもらい、試験に臨んだ静那。
結果は見事合格だった。
しかも“理数科”という特別進学クラス行き。
面談には寮長さんである堅田さんが同席してくれた。
県外からの転校で今年編入試験を受けたのは3人程。試験が終わり、2~3時間後にすぐに採点から結果発表という流れだったので、その日のうちに合否が分かった。
「諭士さん。私受かったよ。4月からはここでしっかり勉強するから。」
声を弾ませ電話をする静那。
「なんだか早速友達を見つけられたみたいな雰囲気だね。よっぽどその学校が気に入ったのか?」
暫く会ってないのに的をえた質問。
驚く静那。
「そうなんだ。私が入学したら何でもサポートするって言ってくれる先輩がいてね。すごく優しくて頼りがいが~無いようである感じ!」
「静那…言ってる意味がよく分からないよ。本当に久々の学校生活になるけどちゃんと話は出来そうかい?」
「うんっ。今度の学校ではうまくやれそう。…じゃなくて上手くやれる!私今から楽しみだもん。」
「それは良かったよ。でも絶対辛くなったら電話しなさい。寮の電話は飾りじゃないんだから。
通話料は気にせずに必要な事はきちんと報告してきなさい。いいね。」
「大丈夫だよ。“みんな”いるもん。」
「じゃあその言葉、信じてるからね。秋には一度顔を出す。他にいるものがあれば堅田さんにその都度きちんと言いなさい。」
久しぶりの諭士さんとの電話だが、通話料金がつい気になってしまう。
あまり物を持たない(今で言うミニマリストな)生活をしている静那。自分はなんだか貧乏性になってしまったかもしれないと少し自覚して焦る。
テレビは無いけどラジオはある。
それに机とベット…。
机には真也と諭士さんとの3人で撮影した写真が立てかけてある。確か…12歳の頃に撮った写真だ。
私服は2パターンしか持ってないのでタンスいらず。
貴重品は、父親からもらった玉型の白いピアスだけ。
お洒落を嗜むスペースもなく、女の子の部屋にしてはいたってシンプルだ。
借りている部屋だからという遠慮もあるのか、部屋の装飾も特に無い。
料理場とシンクは下の階の寮母さんの部屋だ。食事の時は1階へ行く。
これからはここを拠点に高校生活が始まる。
寮を管理する堅田さんから、入学前のお祝いとしてレインコートと制服、そして教科書一式をプレゼントしてもらった。
小学校の時、周りと上手くいかずに結局は1年足らずで退学になってしまった静那。
でも今回は優しそうな先輩もいるしきっと大丈夫だろう。
色んなことがあったけど一人でもきっとやっていける…そう信じ、登校の初日を迎える。
季節は冬を終え、学び舎は桜の開花で満ちていた。
* * * * *
入学式が…終わった。
静那は名前こそ“和性”読みだが、どう見ても外国人なので、目立つ。
今日から始まる高校生活だが、進学校というのもあってか、あからさまに髪を染めたりするのは禁止されている。
もし脱色でもしようものなら退学になる可能性だってある。
大人しく高校生活の間は学業に励むようにと、静那“以外”はほぼ全員黒髪であった。
その為、入学式後の新入生向けオリエンテーションイベントでは2,3年生から嫌でも視線を受けてしまう。
それに日本人にはない顔立ちをしているので、特に男子高校生からの視線を感じる。
ここまでは小学校の時と同じだ。
ふとオリエンテーションが行われている体育館の隅っこの方に知っている顔があった。
白都さんこと“勇一”だ。
「勇一さん!」
オリエンテーションの合間、静那は勇一の方を向き、小さめの声で軽く手を振った。
それを見て驚く先輩男性陣。
「オイ勇一!お前の名前呼んで手ぇ振ってたよな?お前あの子と知り合いだったりするの?」
勇一の隣の男子生徒が声をかけてくる。
日ごろからあまり目立つ行動を控えている勇一にとっては少しキマリ悪かった。
でもそれ以上に彼女が無事この高校に合格したんだなという実感が得られて嬉しくなった。
「おまえ良いよな~あんなお人形みたいな子、知り合いでさ。帰宅部しながらなんか外国人の伝手でも作ってたがか?」
「いやいや、そんなことないって。
ホント偶然公園で会ってさ、その縁で学校案内しただけだって。」
小声で話す。
それでも羨望の眼差しを受ける勇一。
今までこんなに注目を受けたことが無かったから恥ずかしくなってきた。(もちろん勇一自身が注目されているわけではないのだが…)
それくらい異国からやってきた少女に対する注目度は大きかった。
オリエンテーションが終わり、各クラスへ戻る新入生たち。
勇一は静那に聞いてみたかったことがあるので、静那が通りかかった時に小声で質問する。
静那も勇一の存在に気が付いていたので、質問にサッと答えた。
「静那さ…クラスどこ?」
「え?クラス?10ですよ。」
「えぇ?マジか!」
ここで思わず声が大きくなった。
しまったとバツが悪そうに周りを見る勇一。
クラス10というのは“理数科”という特別進学クラスである。
確か日本語が…特に古典が苦手と言っていた彼女のイメージとは考えられないくらい優秀だった。
軽く手をふりながらため息をつく勇一。
「(俺は普通科のクラス9なのに…あの子こんなに頭良かったんだ…)」
後で聞いた話だが、編入試験は古典が無かったそうだ。
あと、数学の点数がやたら良かったのでこちらのクラスに配置されたということらしい。
そんな話ができたのも放課後になってからすぐに静那が自分のクラスに来てくれたからだ。
以前、学校案内をした時、自分の2年の教室はココだと伝えていたのが良かった。
静那は、当然目立つので放課後沢山の学生に囲まれはしたが、昔この件であまり良い思い出が無かったという事らしく、ある程度話をかわした後はサッとこっちに来たという話。
もしかしたら早く行かないと勇一が帰ってしまうのではないかという懸念もあったらしい。
来てくれた理由は、もちろん自分を頼っての相談だ。
自分を心から必要としてくれていると感じた勇一は素直に嬉しかった。
「まぁ、初日だし分からん事多いだろ。無事合格できたんだしな。何でも言ってみ!」
気分が良かったので“先輩になんでも相談してみろ”とばかりに先輩面していた。
普段勇一は年下相手にもこんな態度はしないのに。
静那に頼られたかったのだろう。
なにしろ中学生のころから今に至るまでで初めて出来た後輩だ。
後ろから勇一の友達が話しかけてくる。
体育館で勇一を羨ましがっていた男子生徒だ。
「なんかこの新入生相手にしての接し方見たら、イメージが違うな。お前、こんなキャラだったか?」
普段の勇一は無口だ。
すごく大人しいというのがクラス内の認識であった。
しかし、今の勇一は目の前の新入生に対して、一族の親分みたいな雰囲気を醸し出している。
「まあ、…そのさ…約束してたからさ…無事合格したら何でも相談に乗るって…」
頬をさすりながら答える。
「そ。それは良かったね。」
そっけない表情になってその男子は奥に引っ込んでいった。
なんだか自分がこれからここに割り込んでいくには入りづらい空気だと感じたのだろう。
勇一も初めての後輩、しかもブロンド髪の女の子と一緒ということで、下校中のクラスメイトの視線にも気づき、一気に決まずくなった。
視線に気づくのが遅すぎる。
勇一は場所を変えようと提案。
隣の棟の図書室へ行くことにして、そそくさと2人は教室を出ていった。
そんなクラス9のとある女子がだれかに呟く。
「あんな子、県内のどこかの中学校にいたっけ?いたら絶対目立つのに…」
「編入で来たんじゃない?高校入試の時あんな銀髪の子、おらんかったやん。生徒会長やってる西山は何か知ってる?」
側にいた生徒会長らしき男子生徒が答える。
「今年は編入試験で3人入ったって言ってたよ。
多分そのうちの1人じゃないかな?
仁科さんと同じ境遇だから編入試験の時に会わなかった?
気になるなら…担当の教師が確か三枝先生だったと思うから聞いてみればいいよ。」
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