27-1 昔話「かぐや姫」
【27話/B面】Aパート
校舎の東側2階。
放課後になるとこの部屋が部室とになり、集う面々がいる。
この日は既に10名の部員が集まっており、一人のプレゼンターに注目している。
今回は何かの発表会のようだ。
発表する人…今回のプレゼンターには小谷野。
静那本人からのリクエストに答える形になった。
リクエストは日本の昔話でも有名な『かぐや姫』の紹介。
* * * * *
『じゃあ…お詫びに小谷野先輩にも昔話を一つリクエストしてもいいかな?』
先日のこの静那の提案により小谷野が選んだ日本の昔話は“かぐや姫”だった。
「………ということでかぐや姫は月に帰っていきました。っと。“竹取物語”もとい、かぐや姫というのはこんなお話です。
久ぶりに聞いた人もおったと思う。どうやったよ。
ここからは自由な質疑応答に入るで。
俺も一応この作品発表する前にそれなりに時代背景とか調べてきたから答えられる分は答えるで。ちなみに物語の舞台になっとる時代は平安時代な。」
「平安時代……ってことは月へ行けるロケットみたいなんはまだ無いな。」
「あるわけねーだろ。」
「あのさ生一!どうやって月まで行ったかとかいう考察は無しにしよう。話の趣旨から逸れるから。」
「まぁオレもそこを掘り下げる気はないで。この話はそこがメインちゃうしな。」
「なら他、質疑あればええで。」
まず女性陣から素直な感想を述べてくれえた。
「かぐや姫って噂からはじまり実際に相当モテたって話から、ものすごく美人だったのが伺えるね。テレビもマスコミも居ないこんな時代にたくさんの貴族や豪族から言い寄られるなんてすごいね。」
「そうだよね。噂がよっぽど知れ渡ったんだろうね。」
「まぁ“かぐや様”いうくらいなんやから向こうから“告らせたい”んと違うか?」
「オイ!今は1995年やぞ。未来のネタ先取りすんな!」
「そうよ生一!私ら置きざりにして何か訳の分からない突っ込みしないでよね。」
「あぁ悪ぃ。」
「昔の美人ってどんな感じだったんだろうね。」
「それについては調べてるで。“能面”って分かる?静那ちゃんも。」
「うん。あの目が細くてマユゲが離れたとこにちょんちょんってあるお面だよね。」
「おおむね正解や。ああいう細目なんが平安時代は美人とされたわけよ。あとはサラサラの髪とかおしとやかな感じの顔立ちとかかな。一重で…あと体系もふくよかな方が良かった言われてるで。」
「それやったらかぐや姫は決して美人には該当しないんじゃ。竹取の翁の家は決して裕福じゃなかったんだし。」
「確かにバクバク飯食うて肥え育ったイメージは無いな。遺伝とかで太りやすい体質とかと違うかったんか?顔だけむくみやすい体質やったとか。」
「そこまでは分からんよ。実在した人物やないんやし帳尻合わせたんと違うか?」
「不明点に対して帳尻合わせるようなストーリーは名作にはなれへんぞ。なんか裏があるはずや。」
「え~そこ気になるの?」
「だって現代まで語り継がれる名作やぞ。無理やりのご都合主義ストーリーじゃ後世まで生き残らへんって。」
仁科さんが勇一を見る。“この話広げる?”って顔だ。
「まぁそんなに深堀りする事じゃないだろ。前にグラビアについての話で、色気についての説明してくれた時に“美しさは何も見た目だけじゃない”っていうのがよく分かったんだし。声や仕草が美しかったんじゃないのかな。」
「まぁそれでも良いかな。生一は。」
「確かに俺らの中での美人の基準とまた違うからな。何とも言えん。時代によって共通してる美しさの中には、声や仕草っていうのは間違いないからな。」
「じゃあ他の質疑いくで。」
「竹取の翁が竹を斬った時、よく一緒に真っ二つにされんかったな。かぐやさん。」
「ちょっと!残酷な事言わないでよね。」
「多分あれやろ。“光る竹”やから『ここを切り落とすんやで~』いうて切る部分誘っておいて、本人は少し下の方にスタンバってたんと違うか?」
「スタンバるって何よその言い方。変な造語作らないでよね。」
「まぁ切られることを想定して光る部分の下に隠れてたいう事やと思うで。」
「竹の中が1DKの部屋と想定したら、光る部分は天井のシーリングライトみたいなもんか。」
「そこを破壊されたから“ワレェ何人の家真っ二つにしてくれてんねん!部屋の弁償せえ!”みたいな感じで顔を出してきたんと違うか?」
「竹の筒の中が家…あんたらの発想がヘンよ。」
「それ言うなら竹取の翁ん家越してきてからどんどんサイズが大きゅうなる方がヘンやぞ。小人は小人のままでおったらええのに。」
「まぁ大きくなって美人な成人になったって書いてるから受け入れるしか無いだろそこ。」
「でもこの部分は受け入れられんぞ。よう見てみ。」
生一は竹取物語の本をもう一度開く。
「ココ!“竹の中から見つけた身長約10cmの少女が、翁夫婦に育てられ、3ヶ月で約15歳という立派な女性に成長しました。”って書いてるけど、これ人間の成長の速度で言うと、50倍くらいやで。
15歳の女性ってまぁ130~140cmくらいはあるよな。
それで考えたら1週間で身長が10cm以上も伸びてることになる。そんな伸び方したら普通大騒ぎになるぞ。」
「確かに現実に1週間で10cmも身長が伸びたら怖いよね。まるで竹みたい…っていうか竹パワーってやつ。」
「確かに竹は成長速度が速いけどな。でも人間に置き換えたら普通に怖いよ。」
「それ言い出したらきりないよ。きっと環境や状況に合わせて体のサイズを伸び縮みさせることが出来る体質なんじゃないのかな?」
「女やのに?」
「いらんこと言わんでいい!」
「小春。真面目に突っ込まないでいいから話進めよ。」
「じゃあ状況に合わせて諸々のサイズ対応が出来る体質という事で…。」
「人間ちゃういうのはこの辺りで翁夫婦やったら気づくやろ。」
「まぁ良いだろ、デカくなるあたりで。で、その後のモテ話よ。」
「凄い貴族や豪族から言い寄られたんだよな。わざわざ家におしかけられて。お金積まれて。」
「噂も広まってすごいモテっぷりだったいうて描かれてるな。でも知っての通り月に帰らなあかんようになった。」
「俺思うんやけど“月に帰る”いうのは比喩やと思うで。」
「何でそう思うんです?」
「そうだよ、月じゃないならどこ行かされるんだよ。」
「昔話でご都合というか不自然な部分って、多分何かの問題をオブラートに包んでる可能性があると見てんねん。」
生一は昔話のこのあたりに関してはうるさい。
「どんな問題だよ。」
「例えばよ…月いう場所ってある意味、異国というか“異世界”やん。
異世界で普通に暮らしてたかぐやさん。でも男をたちどころに虜にしてしまうスキルを先天的に持ってんねん。そんで次々と男を虜にしていくわけよ。」
「ええことやん。」
「うん、何も問題はないと思うけど。」
「でもかぐやさんとの恋がらみで男がバトりだす訳よ。ここにおる2人のように。」
「成程。」
「何納得してんだよ西山の癖に。」
「そして月という名の異世界の神様から“おまえは男を引きつけ過ぎて争いを起こすほどの力を持ってる。ここに居ては争いの種になってまうから、おまえは異世界へ送り込む刑に処する”なんて通達されるわけよ。」
「“異世界”かぁ。初めて聞くワードだな。」
「“異世界”なんてワードあんまり聞かないけど、月にあるまた違った次元の世界って認識で良いんだな。」
「まぁ異世界なんて認識はあいまいやからそんなんでええよ。」
「言っている意味は分かるんだけど、何だか便利な設定ね~。その“異世界”って。」
「便利な設定だから近い将来“異世界”がらみの話って流行りそうだね。色々ご都合詰め込めるし。」
「それでまぁ“異世界行きのトラック”みたいなんに無事はねられて、地球に降り立ったいう感じで考えたら辻褄合うんと違うか?」
「なんでトラックなのよ?」
「トラックやったら一瞬で死ねるやん。死ぬ前の文字通り“死ぬほど苦しい記憶”を引きずってたら無事地球に降り立てたとしても気分的になんか気持ち悪いもんやで。」
「まるで一回トラックにはねられたみたいな言い方ね。まぁいいから続けて。」
「地球に送られたけど、念のため男達を引きつけないよう“どうせなら1人でつつましく暮らせ”といわんばかりに竹の中に押し込んだ。」
「でもその世界(地球)で退屈のあまりヘルプサイン出してて、それで翁に見つけてもらう流れで外に出て…やがては男達を無意識に引き寄せてしまう持ち前の力を発揮しだした…と。」
「せやねん。で、このままやとまた地球でも彼女を巡って争いやトラブルを引き起こしかねんと感じた異世界担当の神様が“やっぱり地球におる住民様に迷惑かけんうちに、うちの世界にこのトラブルメーカーちゃんを連れ戻そう”みたいに考えたんと違うか?」
「おおぉぉ。それならなんか辻褄合うな。」
「“合う”っていうのかなコレ~。」
「異世界っていう考え方が何か新鮮な感じするけど。その異世界側から地球の平安時代の世にかぐや姫を送り込んだというプロローグ入れ込んでたら……筋の通った話になるよな。」
「確かに筋は通るし、モテるのも納得いきます。」
「モテる女は辛いな。」
「そんな甘い表現と違うと思うで。あまりにもモテるゆえに神様にいちいち住処を振り回されてるくらいなんやし。」
「住処って…」
「じゃあかぐや姫はその後…月に帰った後は幸せになれるのかな。」
「エピローグってやつか……女だらけの国があれば安泰やけどな…いや、レズビアンっておったよな確か。」
「はい!その話やめる!!かぐや姫が幸せになる道筋の話でしょ。急に何変な事言い出すのよ!」
「そうだよな。でも実際にあまりにも美しい人だったら……男性の本能的に争奪戦になりかねないな。」
「向井とか加藤ですら前戲せずに即挿入したくなるくらいのレベルの女やろ…想像しただけでヤバいよな。」
「あのさ、私たちが知らない人の名前入れるのやめてくれないかな。誰よ“向井”とか“加藤”って?」
「多分女性陣は知らない方が良いと思う。」
「なんで勇一が知ってんのよ。」
「ま……まぁいいだろ。そんな事より!かぐや姫の末路だよ。末路!」
「“末路”言うたらなんか破滅みたいな感じでイメージ悪なるやん。普通にどう暮らしていくのがええんか模索するんでええやん。」
「暮らす?」
「かぐや姫も人属性やろ。なんか仕事して食い扶持探さなアカンやろ。」
「“人属性”って……でもそれやったら男の紐に。」
「そんな事言ったら元も子もないでしょ。彼女がこんなスキルを持ちながらも、自分らしくどう生きていくのがいいかを話し合うんでしょ。」
「そんな話やったかな。」
「いいじゃない。架空の人物とはいえ、幸せの道筋を考えてあげるのって。」
「…じゃあ風ぞ「はい却下!」
「…じゃあAVじょ「はい却下!」
「まだ何も言ってねぇじゃねえかよ!」
「そもそも何であんたはエッチ的な事しか言えないのよ。女の幸せを何だと思ってるんだよ。」
「でもそれなら言わせてもらうけど、結婚も満足にできんのやぞ。」
「何でよ。自分が決めた相手ならいいじゃない。したって。」
「自分がこの人が好きやからこの人と結ばれます言うても、異次元クラスの美女やで。…考えてみ。絶対旦那の方が妬まれて殺されるやろ。」
「それは昔の司法もない豪族の世界とかならありえない話じゃないけど……じゃあどうすれば。」
「もう賞味期限過ぎるまで待つしかないんと違う?」
「ひでー言い方だな!」
「でも次元が違うくらいモテるのってこういう事やろ。あまりにもモテすぎるやつは権力とかも絡んで逆に自分で相手を選ぶことすらできんねん。家から一歩でも出たら全ての男達のぺ●●が待ち構えてんやぞ。」
「コラ!言い方!」
「じゃあかぐや姫は月に帰っても相変わらずモテるけど…恋人と結ばれたりする事は無く、月(月と言う名の異国か異世界)で40歳くらいまで慎ましやかに一人で暮らしましたって話になりそうですね。」
「リアルに考えたらそうなるかな…」
「なんかかぐや姫のエピローグが無いのも頷けるかも…」
「小谷野、エピローグって無いん?」
「資料としては見つかってないな~。」
「これ、続き無いとなんか悶々とするよな。一人の女性として幸せになりましたって終わり方の方がいいと思わないか?」
「物語にはなんらかの余韻を残して終わらせる方がええって聞いたことあるで。この前の『浦島太郎』とかもそんなとこあるやん。」
「まぁそれも終わり方の一つの形だけどな。…静那さんは?」
「私ですか?かぐや姫は私たちと同じくらいの年頃の、女性だから…やっぱり幸せになってほしいですよね。月に帰ったら今度は男の人を逆に勇めるような素敵な女性になっていけば。幸せの道筋は色々あるんだから。」
「自分から色々動いていく事が大事って事か。」
「そんなイメージかな。自分に言い寄ってくる人だけと付き合うより自分から色んな人と接していく方が考え方も広がるでしょ。」
「静那ちゃん、それって……」
「ああ小谷野先輩。“かぐや姫”に限った話だよ。でももし生き方が分からないって困ってる女の人がいたらそんなアドバイスするかな…私。」
「相手の事をまず考えるのって静那さんらしいな。」
「先輩に言われるとは恐縮であります。」
「かしこまらなくていいよ。」
「何か他には思ったこと無いか?」
「うん。この物語を作った人、誰に対してこの話を伝えたかったのかははっきりと分からなかったな。
身分が違う人が沢山出てきたから、きっと権力やお金では人の心は手に入らないっていう事を伝えようとしたんだと思うんだけどさ、それなら大勢の人に愛されるお話としては弱いよね。昔は大勢の人が農家さんだったって記録があるし。」
「大衆向けのお話というより貴族に向けての教訓で作られたのかな。」
「うん……誰に向けて書かれたのかが分からないよね。」
「作られたのが平安時代以降なら…貴族以外の平民層はまだ字が読める人少なかったと思う。だからやっぱり貴族たちへの戒め?教訓として広まったのかなコレ?」
「まぁ所説あるからね。調べてみようよ。話によっては不老不死の薬の存在が出てきたりと色んな逸話があるよ。どの話が史実にそったものかも分からないから。」
「その話が本当だったらかぐや姫の元居た世界は相当進んでるな。人間とは違った宇宙人かもしれん。」
「まぁそんな風にも考えられるよね。最後にかぐや姫を迎えに来た“天人”ってのも何を意味してるのか分からないし、かぐや姫の正体は山の神だっていう説もあるし。物語からの捉え方は様々だよ。」
「昔の人は月や山のような神秘的なものに対して色々とロマンを感じてたのかもしれませんね。」
「娯楽が現代と違って殆ど無かったからな。でも想像する力は俺らと変わらんわけやし。」
「変わらんことないやろ。今から1000年前はパンツなんて素晴らしいものが発明されてなかった訳やし。」
「なんであんたはそういうエッチ的な方向に話を持って行こうとするのよ!話の腰折らないでよ。何よ、“発明”って!」
「いいだろ。現実に着用していた衣服は多分かぐや姫が去った後、競売に賭けられてー「おい!やめろ!」
「はい終了!なんだかいかがわしい話にしていくの禁止ッ!」
「お前らかてアイドルの使用済みタオルとか欲しいやろ!」
「そんなの欲しがる訳ないじゃない!バッカじゃないの!」
「お、お前今のでアイドル好きの女性ファン的に回したんちゃう?」
「どうでもいいわ!それに今そういう話の時間じゃないでしょ!」
「確かにいつの間にか脱線してる感あるな。(あいつ自分のペースに持って行くのが上手くなったな…)」
「まぁ俺が、結局…何が言いたいかっていうと…」
急に生一がまとめようとする。
「かぐや姫が去っていった後、彼女が身に付けていたお召し物類は残された男性達が“青春の思い出”として一つ残らず大事に持ち帰って美味しくいただきましたとさ…っていうエピローグが一番しっくりするんじゃない?…ってコト。」
「そんな終わり方だと、大昔の大和の国の男性貴族は変態ばっかりってことになるじゃない。」
「ええやん。そっちの方がなんか親近感持てるし。」
「変態の国…日本…」
「その解釈、絶ッッ対違うからね!」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々学校外の課外活動にも出向きます。各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
【読者の皆様へお願いがございます】
ブックマーク、評価は大いに勇気になります。
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頑張って執筆致しますのでよろしくお願いします。