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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
MOVIEⅡ【A面】
152/226

Departure ~自由と信念⑭

Chapter14

「待ちなさい!」


牢屋のある立ち入り禁止エリアから出ようとした時、立ちふさがり呼び止める声が聞こえる。


書斎のような部屋から秘書のようなナリの女性が2人、姿を現した。



「この人、確かトニー陣営の侍女だった…。」



「ちゃうで八薙。こいつはこっちサイドと精通しとるやつや。」



「結構腕が立つ。うかつに近寄ると危ないで!あと巨乳。“美乳”かどうかは見な分らんけど。」


「どうします…。」


小谷野の最期のコメント部分はスルーして、八薙は生一に判断を仰ぐ。



確かに手ごわそうだ。筋肉質な肩幅…決して女だと思って侮れない。


「2人だけです。我々がさっきの戦法で抑えていますので皆さんは先に!」


レジスタンスのメンバーが提案するが、その言葉を遮るように怒鳴りつける侍女。


「ここから行かすかァ!」


何やら警棒のようなモノも持っている。





しかしそんな怒鳴り声にモノともせず先走る男がいた。


小谷野だ。


小谷野はすでに侍女の1人に向けて飛び掛かっていた。


「んな事言わんで、イカせてえや~!いっけずぅ~」



抱きつくような形で侍女を押し倒す。


予想外の行動に体をゆすって逃げようとする侍女は“ヒメイネ”。


彼女のスタイルに見とれていたとはいえ一度倒された相手だ。


さしずめリベンジというところだろう。




「この変態みたいなハゲが!」


それを見てもう一人の侍女がヘルプに向かうが、生一に呼び止められる。


「あんたの相手は俺や!あん時は派手にやられて…まぁお世話になったわ。」



2人の取っ組み合いらしき現場の手前に生一が立ちはだかった。


黒髪ボブカットの侍女・アーヤは舌打ちする。


「やられた分はヤリ返す!」


鼻息が少し荒いが兼元もそこに加わった。もう一度“何か”を期待するような目だ。




八薙がその様子を見て判断する。


「先輩!ここは任せましたんで!行きましょう皆さん!」


次々とこの場から走り抜けていく。



「待て!くっ!コイツッ!」



ヒメイネは追いかけようとするが、抱きついてなおも付きまとう小谷野が離れようとしない。


はたから見たら、小谷野が女秘書を襲っているような構図にも見える。


それでも格闘の心得があるヒメイネは小谷野の腹部を思いっきり蹴り上げて一旦打開を試みた。


しかし蹴り上げた膝にまとわりついて離さない小谷野。


「(このボウヤ、痛みよりも“興奮”が勝っているのか…)」


ヒメイネは少し怖さを感じる。


そのまま黒いストッキングに手をかけ、ビリっと勢いよく破いた。


「ひいっ!」


その変態的キモさに怯えるヒメイネ。


「おっ、いいじゃ~ん。人間らしい表情見れてくれるじゃ~ん。このまま俺と服脱いでダンスってみな~い?」


「寄るな!くっ!寄るな!」


「へへへ念願の…」


いやらしい顔全開で小谷野はショートパンツに手をかける。見方によったら完全に変態だ。


パンツのベルト部分を掴まれ、驚いたヒメイネは体を横に捻らせた。



しかし!


それは小谷野の誘導作戦だったのだ。




ヒメイネを動揺させ体を捻らせたタイミングで、小谷野は素早くバックを取り頚動脈を絞める“スリーパーホールド”へ移行した。


首にガッシリ腕が巻き付いた!


そしてその手を離さない!


両足は胴締めの要領でしがみついている。



容赦なく締め上げていく小谷野。


このまま相手が“落ち”れば勝負ありだ!!



「生一!こっちはイケる!あと頼む!」そう叫んだ小谷野。



もう一人の侍女・アーヤは、小谷野の繰り出す予想外の変態殺法に驚くも、まずは目の前の東洋人ガキ2人を倒すことに意識を向ける。


冷静に対処すればこんなバカガキ、負けるような相手では無いと踏んだようだ。



「こいつは体がやらかい。投げられんなよ。」


生一が短く兼元にアドバイスを告げる。



しかし彼女の特徴はそれだけではなかった、スルスルっと間合いを詰めてまず兼元に近づく。


“来た!”と思い、兼元は身構えるが相手が屈んだ時、胸の谷間が露わになった。思わず目線がそちらに行く兼元。


意図的に隙を作らされた。


これはどうしようもない男のサガだと思いたい。


目線を“操作”させた後、バックスピンキックの要領で腹部に蹴りを見舞った。


たまらず兼元は後ろにダウンする。



相手はヒールを履いているのもあり、蹴りが鋭角に突き刺さる。


尻餅をつき、苦しそうな顔を浮かべる兼元。



「リーダー!」


“大丈夫か?”と言わんばかりに兼元のもとへ駆け寄る生一。


「!?」


…しかしアーヤに襟を掴まれた!



“くっ!”と振り返ったがまたしても目の前には誰も居ない。


生一の視点からしたら、振り向いても目の前に誰も居ないし一瞬何が起きたか分からない。


既に生一の頭を起点にして宙返りし、後ろに回りこもうとしていた。


そして耳元でささやく。


「逃げちゃ駄目よ。」「逃げねーよ。」


「!?」


生一が言い返す。


同じ技は2度は食らわないと言いたげだ。ある意味この戦法を誘っていた。



着地したアーヤの足を捕縛。そしてアキレス腱を締めあげようとする。




彼女のもう一つの特徴は、驚異的な跳躍力だ。


飛びついて投げたり、後ろに回ったりして視界を惑わすのが得意戦法のようだ。


その軸となる足首を極められ、初めて焦った顔をするアーヤ。


両手で振りほどこうとしたがそれは頭部ががら空きになっている事を意味する。



背後から兼元が素早く首に巻き付き、小谷野と同じく頚動脈を絞める“スリーパーホールド”をかける。


離さない!



そのまま彼女達は締め落とされてしまった。





一旦気絶した彼女達。


しかしそんな彼女達に対しても生一は気を緩めない。


「浮かれんな!こいつが意識取り戻すまでに体縛りあげとくんや!急げ!」


生一がロープを取り出す。


彼女に意識を取り戻され、暴れられでもしたらまた仕切り直しになる。次も彼女達に同じ戦法が通用するとは限らない。


急いでアーヤを捕縛する。


生一達が逃げた後、追いかけてこられないようにキツめに縛る。


「よし!小谷野は?こや…」



余ったロープを渡そうと小谷野の方を見ると……気絶した侍女・ヒメイネの乳を揉んでいた。


何とも幸せそうな顔をしている。


「テメッ!先やることあるやろがい!捕縛が先!捕縛!こんのボケェ!!先捕縛せえや!」


「あと1分くらい揉ませて~や。思い出作っときたいねん。」


「黙れ!急がなヤバいかもしれんのやぞ!優先順位考えろ!」


「でも…」


「あんな!冷静になれ!


ウニ丼は食えへんかもしれんけど、イクラ丼にはありつけるかもしれんのやぞ。そんな目の前の鰹節まぶしたような丼ぶりに目ェ奪われんなよ!イクラ丼食いたないんか!」


「イクラ丼も食いたい…でも…離したくないという本能が…ぐえっ!」


「兼元!もう俺らで捕縛するぞ!急がんとあかん言うてるのに…こンのバカは。」



そう言って兼元の方を見ると…………気絶して捕縛された侍女・アーヤの乳を同じく揉んでいた。


とても幸せそうな顔をしている。



「もう!お前ら絶対アホ!急がなあかんのに!」


「でももうこの乳子ちゃんは捕縛してるからええやん。俺も思い出作っときたいねん。」


「……俺もうお前ら放っていくから!じゃあな。」


「あああ!待ってって!縛るん手伝うから~。」



そう言って兼元はヒメイネの両手両足の捕縛を行いながら、もう片方の手で乳を揉むという器用な事を始めた。


何か兼元の執念を感じる。


そんな感じでも何とか捕縛し終える3人。



「…もう…行くぞ。」


「いやまだ。」


「ええ加減にしろ!皆式場へ行ってんやぞ!」


「でも“味”とかがまだ…」


「……もうマッジッでお前ら放って先いくからな。あばよ!」


「待ってって!生一のいけずゥ~」





しぶしぶ2人はその場を後にする。


気持ちを切り替えながら走り出した。



「お前、目の前に上等な品物あんのによくそんな平静保てたな。もう老化に足を踏み入れやがったんか?」


「違うわ!先にやらなあかん事あるやろいう事。別に下半身が草食動物化したんと違う。」


「まぁそんな事より俺らのリベンジ、見たか!」


「まあ…勝ちきるまでは色香に惑わされんかったいうのは評価するけど…変態過ぎてビックリマンやわ!」


一定の評価はする生一。


あの時の辛いトレーニングを乗り越えた2人だ。


見た目以上に根性あるのは認めている。




しかし…何と言うか………彼らはブレない…




「八薙達に遅れをとったけどこのまま結婚式場乗り込むぞ!」


「応ッ!派手にやったろやんけ!」


走りながら応じる兼元と小谷野。


ふとそんな彼らの手を見ると、何かが握られていた。


…女性モノのブラジャーだった。


「そンの戦利品、式場に乗り込むまでにポケットにしもうとけェ!」




* * * * *




結婚式のドレスを身にまとい、そこからさらに煌びやかな装飾品を付けていく。


無理矢理着つけ場まで連れてこられたかと思うと急いで準備をさせられたミレイナ。


もう自分の意志など全く尊重されずに事が進んでいく。


それはおそらく結婚式を終えたあともずっと…


そう感じていた。


表情が曇る。


しかし侍女のジークリットに諭される。


「お気持ちお察しします。しかし間もなくユーリイ様が到着されます。式場では表情をなにとぞ努めてお気を付けください。」


ジークリットさんもやりきれない思いだろうが、こんな巨大勢力の前にはどうしようもないという感じだ。ただただ目の前の…長く世話になったお嬢様の心情を気遣っていた。



程なくして着付け室へユーリイが顔を出す。


「ミレイナ、まもなく式典だ。私は君に対して色々と譲歩した。君の要件は無下にしなかった。何が言いたいか分かるな。」


「はい…本日はユーリイ様とトニー財閥の為に身命しんめいを賭す覚悟です。」


「分かっているならよろしい。では私はこの先の入場口で待つ。」


短く告げてユーリイは部屋を後にした。



今の今まで自分は人質の身だったのだ。


しかしその間の自分の身を案ずる言葉など一つも無かった。


“我が家に恥ずかしくない振る舞いをせよ”の一言。



「勇一さん。」


誰にも聞こえない小さな声でミレイナは呟いた。



新郎新婦入場が間もなく始まる。




* * * * *



「勇一さん。入り込める所はどうもここしかないみたいです。


正面口はプロ格闘家みたいなのが2人も陣取っていましてね…」


渋い顔で話しかけてきたのは“ビータン”さん。


人身売買で捕らわれた女性を助けるため、この船に乗り込んできたとあるホテルのガードマンさんだ。


“ビータン”は偽名で、本名は“エスペランサ”という名前だそうだ。


彼に優しくお礼を言う勇一。


「ありがとうございます。侵入経路を見つけてくれただけでも感謝してます。ここからは俺一人で行きます。」


「ちょっと!それは無茶だよ。結婚式中に乱入するなんて…そんなケース聞いたこと無いよ。」


小声で忠告するビータンさん。


しかし勇一はニヤッと笑う。


「そうかもしれませんね。でも日本のドラマでは意外と“あるある”なんですよ。」


「だからと言って…危ないです。」


「はい。でも命…かけられます。一人の女性の自由がかかってるんです。」


そう言って勇一は“あの人”の言葉を思い出す。


「自分の命よりも大切な存在を見捨てたりなんて絶対に出来ない。むしろ自分の命っていうのはこういうふうに使うんだ。」


静那が誇りに思っていた父親の言葉…。



大きく深呼吸をし、覚悟を決め、TV機材の搬入口側から結婚式場へ単身乗り込んだ!


ビータンさんが機材搬入口のエリアで警備員を偽装してくれていたからこそ成せた技だ。




* * * * *




「これより新郎側トニー家、正式名アンソニィ嫡男・ユーリイ-ユーリウス。


そして新婦側、フンベルト家次女・ミレイナの結婚式を執り行います。」


スポットライトが大聖堂中を照らす。


カメラも回り始めたようだ。サテライト スタジオ(中継用の小スタジオ)からの生中継も始まった。



「新郎新婦の入場です!」


拍手が起こる。


まずユーリイが司会台へ向かう。



神父さんらしき人間が台座で控えていた。“ズッファ”である。



その後、ミレイナは父が他界していた事もあり、一人で入場してきた。


日本ではこんな1人での入場は考えられない。


あまりにも寂しい入場だ。


それでもこれから1人で背負っていく決意なのか、ゆっくりと司会台へ歩を進めていく。



母親のオリーヴィアさんはあまり体調が良くないので後方から見ている。ミレイナの振る舞いに託すしかないという想いだ。


傍では着付けの支度を終えた侍女のジークリットが母の介護も兼ねて付き従っていた。


心配そうに司会台へ向かうミレイナを見つめている。



司会台からユーリイが視線を送る。


彼からしたら“挙式”は、誓いの言葉を交わし、結婚を成立させるためのセレモニーにすぎない。


ただ、マスコミを始め多くの財閥関係者が集うこの場だ。


今後の権力を確かなものと示すには絶好の機会だ。絵師に頼み、400万近くかけて壮大な絵画を仕上げてもらい、壁には神々しく掲げられている。



神父に扮した“ズッファ”が誓いの言葉を読みあげる。


挙式全ての流れはバーンシュタイン側とトニー財閥側との取り決めなのだろう。




ミレイナとユーリイが司会台の前に立つ。


「アンソニィ嫡男・ユーリイ殿。汝はこの女性、ミレイナを妻とし、生涯愛することを誓いますか?」


「はい、誓います。」


淡々と返答するユーリイ。



しかし周りの来客来賓からは“迷いのない返事だ”と称賛の意を向けられる。



“ズッファ”はミレイナの方に視線を向ける。



「ミレイナ殿。汝はこの男性、ユーリイを夫とし、生涯愛することを誓いますか?」



何か言いたそうな顔をするミレイナ…打ち合わせではここで“誓います”というのが流れだ。



「…神父様 私は…」


「ミレイナ!誓いますね?」


「……は…は。」


“はい”が言えない。言葉が出てこない。


しかしもう多くの来賓が見守る中での誓いの場だ。意を決するしかない。


「は…」


「ミーレーイーナーー!」


勇一が正面口かではなく、横の勝手口。機材搬入の扉から乗り込んできた。


小走りに司会台へ向かい2人の前に立つ。


「何だ貴様はァ!」


怒りの形相を勇一へ向けるユーリイ。


「誰が侵入を許可した!」小声で関係者に怒鳴りつける父・トニー。


この時ビータンさんは既に身を隠していた。



「勇一さん!?」


「ユーリイ!花嫁を盗みに来た。こちらに渡してもらおうか!」


丸腰なのに強気な言をする勇一。


もう頭の中は真っ白になっていた。でもここまでできたのは“ミレイナの自由を守りたい”それだけだった。


「またお前か、生きていたとはな。」


声を荒げながら胸ポケットに手を回す。拳銃を取り出す気だ。


すると父のトニーから小声で「待て!」と言われる。


“この場を見て冷静に考えろ。生放送中だ。”という意味だ。




大勢の来賓がしんとして司会台に注目している…


そしてカメラが回っている…生中継だ。


ここで“かんしゃく”を起こした様を見せてはいけない。客を混乱の渦に引き込んではいけないと我に返ったユーリイは警備員にスマートに通達する。


「こいつをつまみ出せ!式典の妨害者だ。」


おそらくカメラの回っていない会場外で銃殺する気だ。



「くっ!」


そうはさせじと勇一は司会台に無理やり乗り込んできた。


そしてミレイナの手を掴もうとする。


「ミレイナ!逃げるぞ!」


しかし警棒のようなもので誰かに思いっきり頭を殴られてしまった。



神父の“ズッファ”がカメラの映らない死角から殴りつけたのだ。


ミレイナの目の前で、力なく頭から血を流しながら倒れ込む勇一。



テレビ音声には聞こえないような声で勇一にささやくユーリイ。


「この状況で花嫁を奪って逃走しようなどと血迷ったか。お前のような虫けらが体1つで何が出来る。」



「勇一さん。」


涙目のミレイナ。



死角から頭を殴られ意識がもうろうとする勇一。


警棒で殴られたのは初めてだがかなり痛い。日本でも扱いようによっては相手を死傷させかねない武器として認定されているほどだ。



警備員が迫ってくる。


“どうなる事かと思ったけどひとまず大丈夫そうだな”という感じで、司会台に視線を送っていた来賓の人達も安心して着席する。


あとは警備の物がこの命知らずな東洋人をどこかへ引っ張り出してしまえば、無事式典が再開となる。



半立ちの状態の勇一は、警備員に腕を乱暴に掴まれる。


そして無理やり立たされた。


その様子を横目で見るユーリイ。


「おまえごときがこの私に抵抗できると思っていたのか?バカめ!今度こそ銃殺刑だ。生きてこの船からは出さん。」


睨みつける勇一に対し、観衆には聞こえないくらいの小声で告げるユーリイ。


“銃殺”というワードを聞いたミレイナは警備員をかいくぐり勇一の前に立った。


「待ってください!」


勇一の腕を掴んでいた警備員の手をどける。



「ミレイナ!何をやっている。」



ここでミレイナは大聖堂内に聞こえるほどの声で叫び嘆願した。中継のカメラを意識してだろう。


「お願いです。ユーリイ様。この人を許してあげて下さい。


私はあなたと結婚します。ですからどうかお許しを!」


ザワザワする大聖堂内。


ユーリイは驚いたが小声でミレイナに告げる。


「ミレイナ。お前は私に指図するつもりか。この旦那となる私を!


しかも何度も我々を混乱に陥れたこの東洋人を助けろと!」



「そんな…ユーリイ様!ただ、私は……お願いします。お許しください。」


大きな声で言うなと迷惑そうな顔でユーリイは憤慨する。


「駄目だ。そこをどけ。」


警備員がロープなどを持ち、捕縛の構えを見せる。



“何やらもめ始めたぞ”という雰囲気で式典会場内は再び困惑した雰囲気になった。



「どけと言っている!ミレイナ!夫の命令が聞けんのか!」



つい声を荒げてしまった。


頭に血が昇っている。


自分の結婚式になんたる暴挙と、その暴挙に対しての養護に出るのだという怒りで生中継が進んでいる事を忘れている。



ミレイナはそれを分かっているかの如く大声で返答した。


それはトニー家にとっては信じられない言葉が飛び出すのであった。



「………嫌です!


今、はっきり分かりました。私はこの人、勇一さんを愛しています。もう何も怖くありません!


私が父に代わり財閥を解体して、海外へ亡命します。」



ここで一気に会場がザワザワしだす。



「おい!カメラを止めろ!」


この状況はマズイと父親のトニーが撮影班に告げた。



命令に驚いた撮影班は、急いでカメラ機材を降ろし撮影を中止する。



「そんなことが許されると思ってんのか!」



ユーリイは怒り心頭だ。怒りで頭が震えている。


その怒りで震える心情を案じ、母であるオルテンシアが乗り出してきた。


「なんということを言うのです!これは私たちの家系に泥を塗る行為に等しいです。我々に対する裏切りです!許せません!!」


オルテンシアお付きの警備員が両サイドに陣取る。


「撮影は止めましたね。もうこの場で射殺してしまいなさい!」


非常通告を告げるオルテンシア。



この大聖堂内で血の惨劇を見せる気だ。


来賓の方々のザワザワが悲鳴に変わる。


警備員のうち2、3名が銃を取り出した。


その銃口が勇一に向られる。


「勇一さんっ!」


必死の形相で勇一の前に立ちはだかるミレイナ。


本気だ。




それを庇おうとする勇一。


「出ないで!彼らはあなたを…」


「駄目だ。ミレイナもろとも撃つ気だ。」


「なんで…なんでこうなるのを分かってこんな場に…」


「たとえ取り押さえられようがな、自分の命よりも大切な存在を見捨てたりなんて絶対に出来ない。むしろ自分の命っていうのはこういうふうに使うんだ。」


「勇一さん。」



オルテンシアの警備員はこのままだとミレイナもろとも銃弾を受ける事になるため、やや躊躇している。


「何をしているのです!撃ちなさい!」


オルテンシアがそう告げた瞬間!






「そこまでよ!トニー財閥の皆さん。やりすぎじゃない。」


声の主に全員が視線を向ける。


それは東洋人の女性だった。



葉月だ。



いつの間にこの会場に潜り込んでいたのだろうか。



しかも撮影班からいつの間にかカメラをぶんどって撮影を続行していた。



すなわちこの銃口を向ける様がイタリア全土に放送されれているという事だ。



唖然とする観客、そして銃を取り出し構えの姿勢を見せてしまった警備員たち。



「さぁ~大変な事になってきました。結婚式に思いもかけない東洋人が参戦だ~どうやら財閥の陰謀が式典の根底にあったようです!」


流暢な解説を担当するのはあの“ビータン”さん。



唖然としたトニーだが、我に返り葉月達に向かって怒鳴りつける。


「なぜ一カメラマンが財団の陰謀だと語る!何者だ貴様!カメラを止めろ!」



しかし観客から思わぬ声が沸き起こる。


「カメラを止めるな!カメラを止めるな!」


トニーとオルテンシアは事態が混迷していくのを何とか抑えたい。国中にこの様が映し出されるのはエライ事だ。


しかし新郎のユーリイはこの大混乱に混乱したまま固まっている。



「勇一!こっち!」


葉月が大聖堂入り口へ逃げるように促す。


勇一は今度こそミレイナの手を取り入り口向けて走り出した。


「こっちだ!行こう!そして日本へ!」


「あっ!待てミレイナ!」


カメラを回している為、警備員は発砲が出来ない。人殺しの瞬間など生中継で晒してしまえば、自分達の首は勿論財団はおしまいだというのは分かっている。


オルテンシアが混乱して固まるユーリイの代わりに逃げる勇一とミレイナに向かって、怒鳴りつける。


「なんという事を!こんなにも醜い東洋人共にそそのかされ、あまつさえそちらの魅惑にひれ伏すとは。心まで醜い下衆に成り下がりおって。」




勇一とミレイユが向かおうとする大聖堂入り口。


“バタン!”…と、その入り口が反対側から勢いよく開かれる。


そこから八薙を先頭にレジスタンス達数名が乗り込んできた。




驚いたユーリイと父・トニー。


「警備をしているあの2名はどうした!また東洋人か!この醜い種族どもめ。あくまで我々に逆らうのか!」



八薙はミレイナさんと勇一を自分の後ろに誘導。


そしてユーリイ、トニー、オルテンシアに向けて言い放った。




「いまのあんたらが一番醜いぜ!」

豪華客船『Venusヴィーナス』の中で繰り広げられるメンバーの激闘とラブロマンスをChapterに分けて描いていきます。


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