Departure ~自由と信念⑬
Chapter13
やや広めのオクタゴン(8角形)リングに1人取り残された真也。
しかも高いところから落とされたばかりで背中を強打し、胸が苦しい。
胸を抑えながらやっとの思い出立ち上がる…も、目の前にはあまりにも体格の違い過ぎる3人が真也を取り囲む。
人間離れした体格の“Beast”
氷のような目をした“Ice Emperor”
見るからに立ち技が危険そうな“Tyrant”
囲まれたリング…逃げ場はない。
体格も力も圧倒的な3人にどう対処すればいいのか。
そんな事を考える暇もなく“Beast”が掴みかかってきた。
とっさに組みあう真也。
逃げ場も無く組み合うしかなかったといった方が良い。
組み合ったとたん両手が塞がったのを機に鋭い前蹴りが腹部に刺さった。“Tyrant”の蹴りだ。
ぶっ飛ばされそうになったが“Beast”は真也の手を離さない。
もう片方の手で思いっきり殴り掛かってきた。
真也は何かを閃いたのか、大人しく拳を受けることにする。
そしてそのまま金網の端までぶっ飛ばされた。
まともに食らってしまい口から血が出てきた。さっき高い所から落ちたのも体に相当応えている。
ただ、一旦3人との距離を離したかったのだ。
しかし間髪入れず、その倒れた真也に走り込み、覆いかぶさろうとしてきた男がいる。“Ice Emperor”だ。
この体格で覆いかぶされたらやっかいだと感じた真也は体全体を使って真横に飛び跳ねる形で緊急回避した。
「おっ、このガキまだ動けたか?もう終わったかと思ったが…」
真也のタフさに少し驚く3人。
それにしても3人とも確かにプロの格闘家だ。まるで隙が無い。
やっと3人との距離がとれたものの、じきに詰められる。
考える暇を与えてくれない。
タイプの違う3人をどう相手すればいい…冷静に考えようとするがその時に右視界にジャンヌさんが逃げ惑う光景が映った。
20名ほどの警備員を交わしながら必死に会場内を逃げている。
しかし戦況は明らかに不利だ。
会場内は決して大きくないうえ、出口が外側から全て閉められている。捕まってしまうのは時間の問題だろう。
「!!?」
そんな事を考えていたらいっきに“Ice Emperor”と距離を詰められた。
体全体で向かってくる様はすごい威圧感だ。このまま体格に任せて押し倒されたら3人からの標的になってしまう。
しかし容赦ない“Ice Emperor”は一気に間を詰めて真也と組み合う。
このままでは相手の思うつぼだ。
そう考えた真也は手四つの状態になった瞬間、思いっきり“Ice Emperor”の手を握りつぶそうとした。
するとバキバキッという音と共に“Ice Emperor”の両手に変な音が響いた。
痛みに驚き“Ice Emperor”は手をひっこめようとするが真也は手を離さない。
その腕を起点に背負い投げの様相で“Ice Emperor”を金網に打ち付ける。
その後ろまで距離を詰めていた“Tyrant”がそれを見てやや距離を置く。
「まだこんな力が残ってたか…」
見た目では考えられないくらい怪力のようだと理解し、警戒したのか間合いを取った。
真也からしたら誤算だった。
いっそ飛び込んできてくれた方が対処しやすかった。
しかし相手は立ち技格闘技のプロのようだ。
油断ならぬ相手なら相手程、自分の間合い内でしか戦わない。
じりじり距離をつめる“Tyrant”。横サイドから“Beast”も距離をつめてきた。
「キャアアア!」ふとジャンヌさんの悲鳴が観客席から聞こえた。
でも捕まったのかどう確認してる場合じゃない。ただ劣勢なのは変わりないだろう。
真也が“そっち”に意識を向けた瞬間、“Tyrant”のフックが飛んできた。
モロに受けた真也はハデに吹っ飛ばされる。
「ってえな…。」
今回の打撃は不意をつかれたため、かなり応えた。
普通の人間なら足にきて立てないだろう。
そして劣勢は続く。
起き上がりに追撃に入った“Beast”の拳をモロに受ける。
大振りでよけやすいが当たればとんでもない威力だ。
金網を背にしていないのが幸いしたものの、真也の体が飛ぶ。
そのまま反対側の金網まで大きく殴り飛ばされた。
やはりプロ格闘家の打撃は重さが違う。
拳をモロに受けた部分が腫れていた。
でも距離が一旦出来た。
ヨロヨロと起き上がりながらも、もう一度今の状況を再確認する。
他の事から一旦“ケリ”をつけて、今…この戦いに集中するためだ。
ジャンヌさんが劣勢だがこの3人がいる限り助けに駆け付けられない。
ミレイナさんはもう大勢の警備員、そして“Fist of Stone”と“ブリッツ”共に連れ去られ、ここには居ない。
もう人質として置いておく必要がなくなったため、結婚式場へそのまま連れて行かれたのだろう。
このままだと結婚式は始まり、悲劇的な方向に進むだろう。
ミレイナさん…最後に見た彼女の表情は悲しそうな顔をしていた。
真也はミレイナさんとはそこまで面識は無かった。でも真也達にとっては大事な親友だ。少しの間だけだったがお茶を入れてくれた静那と何やら談笑していたのを思い出した。
その時見せた彼女の嬉しそうな表情が頭をよぎる。
彼女の自由を…失わせたくない!
結婚式をあげるのなら…心から想う相手と幸せになってほしい。…自分のエゴかもしれなけれど。
そして真也は忘れられないあの日の事を思い出す。
もうあの時のような悪夢…誰かが目の前で深く傷つく光景なんてまっぴらだ。
あれから自分は眠れない日が続き、死ぬほど辛かった。
だからこそそれに抗うように死ぬ気で強くなった。
“死ぬ気で”だ!
あれからどれだけ自分の体を鍛え続けてきたと思っているんだ。
何のために極限まで自分を追い詰めてきたんだ。
こんな所でやられている場合じゃない…
「(こんなでけーやつに阻まれてどうする!)」
3人に追い詰められながらも真也の目は死んでなかった。
さっきのカリを返さんと“Ice Emperor”がものすごい形相で掴みかかってきた。
真也は半立ちの状態から掴もうとする彼の手をはじく。
そして懐に入り込み肘打ちをめり込ませ、そのまま肩の力を使ってそのデカい体を吹き飛ばした。
ダメージが入ったらしく、吹き飛ばされた“Ice Emperor”はうずくまり吐血した。
「コイツ!」
それに激高した“Beast”が殴り掛かってくる。
上から叩きつけるようなパンチだ。上からだと相手の方が上背があるのでよけづらい。
それでも相手のパンチの動きをよく見て真也は合わせるように額を差し出した。
上からのパンチを額でガードしたのだ。
そのまま蹴りを“Beast”の膝に叩き込む。
“Beast”はよろけて片腕をつく。
そこに真也は容赦ない顔面への足刀を見舞う。
顎に鋭角にヒットし、骨が折れるような音をさせてダウンさせた。
“Beast”はうつぶせに倒れて体を痙攣させていた。
顎という人体急所の一つに命中させたのだ。
しばらくは起き上がってこないと見た真也は立ち上がり“Tyrant”に視線を向ける。
驚いた“Tyrant”はまず間合いを取ろうとするが、真也は普通に歩くような感じで近づいていく。
すると“Tyrant”は戦法を変える。
両手で真也の肩を掴むと腹部へ膝蹴りを浴びせてきた。
しかしその膝をキャッチする。
そのまま背中を大きく反らせた反動で体ごとを持ち上げ、そのまま背中を勢いよく叩きつけた。
片足を取ってから持ち上げて投げる“パワーボム”のような要領だ。
頭から床に叩きつけられた“Tyrant”はグロッキー状態になる。
後頭部を力任せに打ち付けたのだからしばらくは体が痺れて起き上がれないだろう。そして腰の入ったまともな蹴りは放てないだろう。
そう確信した真也は、やっと気持ちを切り替えてジャンヌさんのほうを見る。
観客の富豪達は信じられないという感じで3人の大男を退けた真也を見つめていた。
だが真也はそんな事はお構いなしに観客席を見渡す。
いた!!
ジャンヌさんは警備員に捕らえられていた。
「くっ!彼女を離せ!」
そう言って真也は破壊された金網部分から観客室に乗り込もうとした。
「!?」
しかしまたしても背後から羽交い絞めにしてくる人間が居る。
“Ice Emperor”だ。
吐血しながらすごい執念で真也を押さえつけている。
「ぐうっ。(ちくしょう。ジャンヌさんが危ないというのに)」
あせる真也。
“Ice Emperor”はものすごい形相で真也を離そうとしない。
やがてフラフラと“Beast”も起きあがった。
体は痙攣しているがそれでも立ち上がる。
殺すような視線を真也に向ける。
さっきの蹴りが余程効いたらしいが、それがかえって彼の闘志に火をつけてしまったようだ。
「(こいつら…体がデカいだけあって回復も早い!ジャンヌさんが…このままじゃ…)」
離さず凄い力でしがみつく“Ice Emperor”
早く振りほどいて助けに行きたい。
ジャンヌさんはまさに縛り付けられ再び捕縛されようとしていた。
「ジャンヌさッ…」
真也が叫ぼうとした瞬間だ。
爆発音とともに室内にレジスタンスのメンバーが数名なだれ込んできた。
扉は外から完全に閉じられていたのだが、その出口のうちの一つが爆破されたようだ。
観客は悲鳴を上げる。しかし逃げるべきかどうか分からずたじろいでいる者が殆どだ。
「ジャンヌを助け出すぞ!」
「ウオォォォォ!」
リーダーのラッツィオだ。彼の号令にレジスタンス5人が一斉に警備員に立ち向かっていく。
なだれ込むような形でジャンヌの周りがごったがえした。
闘技場は再び混乱の渦に包まれる。
「リーダー!」
ジャンヌがラッツィオに向かって叫ぶ。
「無事か?遅くなった。すまない。」
「もうひと踏ん張りですよ姉さん!」
他のメンバーもジャンヌの無事を確認してホッとする。そして警備員をかき分けようと突撃する。
どうやらジャンヌの方は何とかなりそうだ。
「レジスタンスの皆さん…」
呟いた真也はホッとする。
そしてすぐに気持ちを切り返す。
後ろから羽交い絞めにされていた真也だが、離してくれないならとばかりに力づくで振りほどいていく。
“Ice Emperor”は自分よりも一回りも小さいガキに力づくで振りほどかれる事実に驚く。
「悪いけどッ!」
腕を振りほどいた後、思いっきり蹴りを見舞う。
“Ice Emperor”の顎を捉え、吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされた勢いで頭も強打した。
……さすがに今度こそ暫く起き上がることはないだろう。
ただ、まだ終わりじゃない。
“Beast”が力任せに拳を振り回してきた。
大振りなので避けつつ体位を変えようと回り込む。しかし回り込もうとしたところへ今度は“Tyrant”の蹴りが飛び込んできた。
横っ腹にまともに蹴りを受ける真也。
しかし“Tyrant”も先ほど投げつけられた影響でかなり体が参っている。威力は無かった。
「あのダメージからこんな鋭い打撃とは…大したもんだ。」
そう告げて真也は相手の蹴りの軸足を蹴り飛ばした。
足の腱か筋が破壊されたのか、ダウンした“Tyrant”は立ち上がれなくなった。
「ふぅ。(しぶとかった。)」
激戦を振り返りたいものだが、まだあと1名いる。
残るは“Beast”だ。
確かに体格だけを見ればこの会場の誰よりも桁違いに大きい。
でも…大振りでは当たらない。
最期の一人に対して真也は冷静に対処する。
大振りのパンチをかい潜り、思いっきり頭突きを“Beast”の顎にヒットさせた。
カウンター気味に入ったその頭突きで、“Beast”は膝から崩れ落ちる。
額が割れ、血が噴き出していた。
「もう立てないだろ。」
真也は最後にそう言ってから“Beast”、そして“Ice Emperor”“Tyrant”の元を離れた。
真也自体も結構打撃をもらってしまったが、食らいながらも致命傷は避けていた。
まぁそんな真也の意識は既にジャンヌさんに向けられていた。
…しかし、形成は逆転していなかった。
レジスタンスの隊長、そして隊員5名はバーンシュタインと交戦しており、既にやられてしまっていたのだ。
バーンシュタインの強さと警備員の数的不利もあり、逆にジャンヌさんは追い詰められていたのだ。
「お仲間は動けん。いい加減観念してもらおうか。」
6人を戦闘不能にした後、ジャンヌさんにゆっくりと迫るバーンシュタイン。
真也はたじろぐ観客をかきわけ急いでその場に駆け付ける。
バーンシュタインとジャンヌさんの間に躍り出た。
真也の姿を見て驚く。
「貴様は……あの3人を…本当に退けてきたのか…」
「正直きつかったよ。でもま、いよいよ大詰めだな。年貢の納め時というやつだ。」
「彼は危険だ!真也君っ!」
倒れていたリーダーのラッツィオさんが注意を呼び掛ける。
確かに2m程の風貌、そして上着を脱いたノースリーブのインナーからは筋骨隆々のシルエットが見える。
あらゆる格闘技に精通している雰囲気だ。
3人の対応をしていたこの短期間で6名ものレジスタンスをあっという間に叩き伏せたのだ。
勢いで踊り出たものの少し間合いを取る真也。
「今回の親玉はこの人か…もっと早く気づいて彼だけぶっ倒しておけばここまで事は大きくならなかったのかな…」
そんな事をつぶやく真也。
その独り言とも言えるつぶやきが聞こえ、余計にバーンシュタインの神経を逆なでしたようだ。
「こんなに殺してしまいたいと思わせるガキに遭遇するとは思わなかったよ。」
真也を睨みつける。
一騎打ちが始まる。
バーンシュタインも怒ってはいたが、我が精鋭3人を退けた真也の強さは受け止めざるを得ない。
自分の“間合い”に入るまでは決して軽率な事は出来ないと感じているのだろう。
睨みつけるだけでなかなか仕掛けてこない。
真也も相手の戦い方、スタイルが分からない以上うかつに入り込めなかった。
体格やリーチだと相手に分がある。
しかしここで膠着状態が続くのも良くない。
倒れているレジスタンスの面々の応急処置を終えて早く結婚式会場へ向かいたい。
真也は度重なる連戦でやや興奮状態になっていた。
そんな状態にまかせ、スタスタとノーガードで近づいていく。
「なっ?」
バーンシュタインは驚いたが、引くわけにもいかない。
引いてしまうと心理的に負けるような気がしたのだろうか。
そのまま近づいてきた真也に対し、思いっきり下から蹴り上げようとした。
生一達に放とうとしたあの“蹴り”だ。
…が真也は蹴り上げる足、技の特性を察知し、一気に間合いをつめ始動前の足を押さえつける。
そして押さえつけた足首を力の限り握りつぶした。
アキレス腱がギリギリ音を立てる。
「がァッ!?」
予想外の怪力に驚くバーンシュタイン。
力が緩んだ隙を見計らい、その掴んだ足首を起点に思いっきりリングの下まで放り投げた。
さっき自分がやられたのと同じ要領だ。
2m程の大男は宙を舞い、金網リングを跨いだ後マットに叩き落された。
ほぼ2階から落とされるような高さ。
大男の体でもバウンドするくらいだ。
強烈に背中を強打したようで、胸を押さえて苦しそうに悶えていた。
「やっぱりこの高さから落とされたら誰だって痛いよな…」
真也自身も投げ飛ばされた時は、息が止まるような衝撃がしたのだ。
これは効いたに違いないと感じる真也。
すぐにレジスタンス達を見る。
「ラッツィオさん!それに皆さん。」
真也が振り向くと、皆なんとか立ち上がろうとしていた。
ジャンヌさんが肩を貸していた。
「行きましょう、皆を救出して式場へ!」
「ああ。行こう。」
呆然としている観客を尻目に闘技場を出ようとした真也達。
その時、爆破された扉から勢いよく武装した警官が乗り込んできた。
この舞踏会にいたガードマンとは違う風貌…
こちらの国の正式な国家警察(Polizia di Stato) のようだ。
ヘリコプターなどで乗り込んできたのだろうか?
レジスタンスのメンバー達はそのまま逮捕されるのかと一瞬覚悟した。
なぜなら満足に逃げ延びるくらいの体力が無いのだ。ジャンヌだけでも逃がそうとしていた。
しかし警官の標的は、地下格闘賭博をしていたバーンシュタイン陣営や富裕層のスポンサーとその関係者達だった。
逃げ場所も閉鎖されている今、賭博に関わった富裕層の面々は次々とお縄になっていく。
それを見て安心した真也はもう一度言う。
「今度こそ行きましょう!なんとか走れそうですか?」
「ああ…なんとか!まずは牢屋の方だ。」
国家警察が乗り込んできて闘技場の中は大パニックになった。
そんなパニックの中、どさくさに紛れて会場を後にする。
ジャンヌさんを先頭に、レジスタンスと共に真也達も牢獄へ救出に向かおうとした。
「?」
…しかしふいに誰かの気配を感じた真也。
「すいません。先に行っておいてください。僕はここでやる事があります。」
「分かった。気をつけてね。」
ジャンヌはもう理由を聞くことなく、真也にこの場を任せて走り去っていった。
式典開始まであまり時間が無い。
レジスタンスの面々もフラフラになりながらもその後を追っていく。
メンバーは“もうひと頑張りだ”という表情だ。
ジャンヌも仲間を鼓舞しながら走る。
怪我をしていたが気力で補いながら走る姿…なんとかなりそうだ。
仲間たちが去るのを見届けた後、真也は闘技場に残った。
闘技場の端ではバーンシュタインたちも捕縛されていた。
数人がかりの警官が取り囲み縛り上げる。
確かに国家警察のようだ。
しかし彼らの存在には誰もが恐怖していたというのに…逆らうだけで一家根絶やしにされると恐れられていた程なのに…それでもこの現状をタレコミした人間がいるらしい。勇気ある人だと感じる真也。
マスコミを通して通達したのが仁科さんだと知るのはもう少し先の話である。
それにしても先ほどの気配は何だったのか…
そう感じ闘技場を見回していた。
すると奥から一人の中年くらいの男がリングの中へゆっくり入ってきた。
上半身は裸だが格闘をする身なりをしている。
先ほどから感じていた気配とは、彼のようだ。
まるで真也と一度相見えて(あいまみえて)みたかったかのような表情に見える。
闘技場の周りでは混乱と警官達による捕縛が進んでいる。
逃げ出すものもいるが出口が1か所しかない。あとは閉鎖されている。抵抗空しく怒号や悲鳴が木霊すそんな空間の真ん中…リングでは2人の対峙が始まった。
真也が“やる”姿勢を見せると、相手の男性はじりじりと近寄ってきた。
“立ち技主体ではなく柔道のようなたぐいの格闘家か…”そんな印象を感じる。
体格はさほど大きくはない。
八薙君くらいだ。
近寄ったかと思うとサッと腕を取ってきた。
しかし真也はやや強引に掴んできた腕を振りほどく。
取ったと思った腕を振りほどかれ、態勢を崩された男は一歩下がって間合いを取る。
“なんて怪力だ”とやや驚いた表情を見せた。
一旦、お互いに距離が出来た。
「成程。今度は本当に無暗に近づいていっては駄目みたいだな。」
そう呟いて真也は再び相手の軸に合わせて構えを見せた。
* * * * *
牢屋前では“アイアン”が見張りをしていた。
遠くから急にバタバタと数人が走ってくる音が聞こえる。
音に気づき立ち上がる。
そこへ一気にレジスタンス達がなだれ込んできた。
“アイアン”がとっさに対処しようとするが数で押し切る戦法をとったリーダーラッツィオの作戦。
皆体は万全に回復していないが、レジスタンス18人総がかりで壁際に押しつぶす。
「クソッ!邪魔だ!離れろ!」
“おしくらまんじゅう”のような感じになり身動きが取れない“アイアン”
「ジャンヌ!これで皆を。」
先ほどの真也との戦闘前にバーンシュタインがジャケットを脱いでいたのだが、牢屋のカギはそのポケットに入っていた。
「皆!助けに来たよ。」
ジャンヌが牢屋のカギを開ける。
「ありがとう。ジャンヌさん。」
「おおお!助かった!」
「ジャンヌさん!あなたは天使だ。」
「あとで結婚しよう。」
口々にお礼とお礼のようなものを言って牢屋から出てくる面々。
八薙はやや喉をやられ疲弊していたが、生一、小谷野、兼元の4人は晴れて牢屋から脱出した。
「なんか“リアル警泥”やったような感じやな。」
牢屋を出た所で、“アイアン”がレジスタンス達に身動きが取れないくらいにぎゅうぎゅうにされている。
「成程、数の暴力やな!今ならいける!」
生一と小谷野、兼元もそのおしくらまんじゅうの中に入っていき“アイアン”を数人がかりで羽交い絞めにする。
当然“アイアン”の方が力も強いのだが、人でごった返している中なので踏ん張りがきかない。
何より両足を羽交い締めされているので腰の入ったパンチが打てない。
「八薙ィ、しばいたれェ!」
合図で羽交い絞めにされてノーガードでむき出しになった頭に思いっきりハイキックを叩き込む。
ものすごい音でクリーンヒットしたが、“アイアン”はまだ倒れない。
しかし確実に足に来ている。
「しぶといけどもうお前は終わってんだよ。」
蹴りをモロにうけてよろける“アイアン”の両腕を兼元と小谷野が掴む。
そして、牢屋の中に勢いよく放り込んだ。
「ジャンヌさんっ!!」
「ええ!」
牢屋のカギをかける。
「この野郎!」
状況に気づいて振り向く“アイアン”。慌てて檻にしがみ付くがびくともしない。
吠えても牢屋からは出られない。
「お前は下船までここで体育座りでもしてロ!バカちんが!」
「まずは負けを受け入れやがれ!」
「ざまぁじゃい!バーロー。監禁された人間の気持ち、ちったあ思い知れ!」
「ああ…まったくだ。」
八薙も同調する。
「行きましょう!大聖堂へ!」
ジャンヌがリーダー顔負けの声で指揮を執る。
あとは結婚式場に乗り込むだけだ。
「確かビータンさんの裏ルートで勇一が先行っとる!でもあいつ1人やと危ないで!加勢せな!」
「ああ!急ごう。」
ジャンヌさんを含むレジスタンスのメンバー18名。そして生一、小谷野、兼元、八薙の4名。
22名の革命家達が今まさに結婚式場へ乗り込まんとしていた。
豪華客船『Venus』の中で繰り広げられる激闘をChapterに分けて描いていきます。
【読者の皆様へお願いがあります】
ブックマーク、評価は勇気になります!
現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。
頑張って執筆致します。今後ともよろしくお願いします。