Departure ~自由と信念⑤
Chapter5
「あのさ、寝る前に明日の朝の事で話があるんだけど。」
「勇一八薙のコンビから提案か。珍しいな。」
夜景から戻ってきた5人に対して勇一と八薙が自分達の仮説と提案を述べる。
「……ということだ。朝、真也以外の男性は婚約者であるミレイナさんを探すのを手伝ってほしい。真也と女性3人は食事終わったらすぐ部屋に戻ってて。」
全員了承してくれた。
あの時の彼らはテロリストではないかもしれないという想いは、まだ仮説の域を出ていないとはいえ、仁科さんが船内であんなひどい目にあったのだ。
テロリスト側に加担したくなるのは心情的にアリだっただろう。
そしてVIP達がこの船で何をしているのかも気になりだした。
個人の描く想像はそこそこにしたいが、何かが船の中でうごめいているのを感じずにはいられない。
こんな中でもだ。
以前話し合いをした時にも、紙に書き出す作業をやっていたことを思い出す。
「事実・実際に起こった事」と「仮説・思い込んでいる事」…これは違うのだ。
人間は情報量が多くなってくると、これを一色単に混同して考えがちだがそこに判断の落とし穴がある。
そのため情報が多くなってきたら一旦紙に書きだすなどして情報のすみ分け…整理をする事が大事だ。
この日は静那と葉月の2人は男部屋に泊ってくれた。
小谷野も兼元も何もしないといったが本当に何もしてこない。
“3人は相当反省しているんだな…”静那は感じた。
灯を消して程なくして眠りにつく。
航海初日…夕食時から怒涛の動きが展開されたが、ようやく夜も更け…やっと航海2日目を迎える。
朝、静那の入れてくれた紅茶の香りで目覚める面々。
船内にある大聖堂内が結婚式典の準備に入ってしまう為、明日から立ち入り禁止になる。
そうなる前にどんなところか一度行ける人で見学に行ってみようかと話す静那と葉月。
そこへなんと真也と仁科さんが入ってきた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
一同驚く。
「仁科…その…大丈夫か?いや無理なら部屋おってええんやで。」
「僕も何度かそう言ったんですが…」
「真也君も。もう大丈夫よ。無理してないから。」
葉月が仁科さんの前に立つ。そしてじっと目を見る。
「本当?」
「ええ。心配かけてごめん。」
「心配かけたとか思わなくていい。本当に大丈夫?」
「大丈夫。それに…」
「今日は僕が一緒について行動しますから。」
真也が名乗り出た。
「分かった。でも小春…私も一緒にいていい?しーちゃんも。」
「いいよ。これから朝ごはんなんでしょ。皆で行きましょう。」
「仁科…」
「俺らに出来る事はー」
「大丈夫だから。真也君いるし。ね。」
皆の事を思ってなのか、もう大丈夫なのか、本当の所は分からない。
一応ヒジャブ(スカーフ)を静那同様身に付けて顔を見えづらくする。
そのうえで朝食会場へ行く事になった。
仁科さんへの大まかな情報共有は葉月に任せ、朝食を食べる前に男性陣は手分けしてミレイナさんを探してくる旨を伝える。
男性陣。…真也以外の5名だ。
真也には静那と葉月、そして仁科さんの4名。
こちらは単独行動無し。
無理せずに誰かに絡まれたら真也が守る形で。朝食後は部屋にすぐ戻ることで了解してもらった。
ミレイナさんを食堂で見つけられるかどうかは別にして、全員が落ちあう場所は男性が使っている大部屋で。
皆の同意を得た後、上階の朝食会場へ向かった。
上階の朝食会場では様々な人種でごったがえしていた。
運が良いのか悪いのか…
いきなり歩いているトニー家と側近たちに遭遇する。
話に聞いていた新郎のユーリイという男もいた。
「(こいつらがいるなら…ミレイナさんもいるかも…)」そう思いながら後ろ側を見る。
するとそこに彼らの後をついてくるミレイナさんの姿があった。
ちなみにお母さんのオリーヴィアさん、そしてあの侍女はいない。
お母さんの方はルームサービスでも頼むのだろうか。
来ているのはミレイナだけのようだ。
勇一達とはち合った時、足を止め、なんとミレイナさんから声をかけてきた。
「ごきげんよう。昨日はありがとうございました、勇一さん。」
ドイツ語なので5人全員その意味を理解する。
“間違いない。この人が航海4日目に結婚されるミレイナさん本人だ。”
朝から奇麗さについ見とれる小谷野と兼元。
「この人がミレイナさんか。」
日本語でつぶやく八薙。
「さっきの婚約者っぽいやつよりも俺の方が夫としてふさわしくね?」
同じく日本語でつぶやく小谷野。
お互い挨拶をして顔を見合わせていたら、前から新郎になるユーリイがミレイナさんの腕を乱暴に掴んできた。
「おい、何やってる。早く行くぞ。旦那を待たせるな!」
強引に引っ張って連れて行こうとするユーリイ。
そこで勇一がユーリイに初めて言葉を発する。
「あの…女性を乱暴に扱わないで下さい。」と。
「(おおお勇一よくぞ言った!)」と心の中で感心する4人。
「何だと?誰だ貴様は!」
勇一の元へ寄ってきて胸ぐらを掴むユーリイ。
「やめて。この人は知り合いであり恩人です。昨日困っている所を助けていただいた方なのです。ユーリイ様どうかおやめください。」
そう言ってこの場を鎮静化しようとするミレイナさん。
下賤だと感じた相手にはいちいち権力を誇示して横暴に振舞うユーリイには、以前から嫌気がさしていたミレイナではあったが、勇一が変に目を付けられないように必死になだめる。
「黙れ!このような黄色人の男と関わるな。この東洋人風情が。」
勇一の肩を突き飛ばすユーリイ。
その勢いで後ろ側の机に激突した。軽く腰を痛打する。
慌てたミレイナは、勇一の元へ駆け寄った。
上体を支え、勇一を起こそうとした…が、ユーリイの母親・オルテンシアが口を開く。
「そんな東洋人に対して何をしているのです?待たせている息子に恥をかかせるつもりです?」
勇一の事など何も知らないくせにずいぶん酷い言いぐさだ。
勇一以外の4人も彼らへの印象は既に最悪だった。
「あの……ちょっとこの人と話をしてきます。お食事はお先にどうぞ。」
「何を勝手な事を言うのです!黙って夫に付き従っていなさい。」
「そうだ、ミレイナ。これ以上聞き分けのない事を言うのはこの私が許さん。」
朝からうるさいなぁと感じる4人。
無言のミレイナ。
何を思ったのか、そのまま勇一の腕を取って無視して走りだした。
いきなりの彼女の行動に勇一は心の整理がつかない。
でも“こっち”と目でミレイナさんに促されたのでこの場から逃げ出すことに応じた。
「待ちなさい。ミレイナ!」
「待つんだ!」
叫んでも振り向かずその場から逃げるように去っていこうとしたので、途中からユーリイと専属の警備員が3人程追いかけてきた。
警備員が迫る様子を見て逃げる足を速める2人。
突然の出来事に生一と兼元と小谷野、そして八薙は状況を判断するので精いっぱいだった。
とにかく2人は追いかけられている。
このまま捕まってしまえばミレイナさんがどういう扱いを受けるのか…勇一もタダでは済まないだろう。
となるとやることは一つだ。
「勇一さん、二手に別れましょう。落ち合うのは初めて会ったあの船首楼甲板でお願い!」
ミレイナさんが逃げながら提案してきた。
急な申し出だが、ミレイナさんなりに最悪の事態…勇一に迷惑がかからないように配慮してくれたのだろう。
了解して二手に別れた。
* * * * *
勇一の方にはどうも追手が来ていない。
暫く走っているうちに気づいた。
「当然か…(まぁミレイナと親族間の問題だったから、自分には追ってこないか。)」
そうなるとミレイナさんの事が気になる。
しかし一応2人で落ち合う場所に小走りで向かった。
「ミレイナさん…あんなことして、大丈夫なんだろうか。」
* * * * *
勇一の心配した通り、ミレイナは4名(3人の警備員と婚約者のユーリイ)に追いかけられ、追い詰められていた。
船内にある吹き抜けの中央バルコニーに出たが、左右から2人ずつ警備員が迫ってくる。
上階から下階まで7階分が吹き抜けになっているバルコニー。
その上の階で挟み撃ちされてしまったのだ。
吹き抜けのバルコニーには上段から下段まで“昇り旗”が飾られている。
あれに飛び移って下段まで緩やかにダイブを試みようとするが、さすがに高さがあるので躊躇してしまう。
旗に捕まれず足を踏み外してしまえば危ない。それに身なりはスカートだ。
じりじりと4人に囲まれる。
ユーリイが“観念して戻って来い!”という怒りの形相で近づいてきた。
朝、ユーリイの部屋を訪れた時からずっと小言を言われて辛かった。
“トニー家との関係は相変わらず最悪で戻りたくない…”そんな思いが頭を巡るその時、後ろからミレイナさんの腰をがっしりとつかみ、そのまま一緒に昇り旗へとダイブする男が居た。
小谷野だ。
「ヘルプに参りましたッ!プリンセスッ。」
彼女の腰に手をガッシリ回してロックし、一瞬の判断でバルコニーの昇り旗に捕まりながらうまく滑り落ちていく。
一瞬で下の階まで到達した。
「下に行ったぞ!追え!」
ユーリイが叫ぶ。
一瞬バルコニー上段で彼女の姿が消えたように錯覚した警備員たちだが、すぐに状況を理解してエスカレータを走り抜けながら下の階へ彼女を追いかける。
ユーリイも彼女を摑まえる為、最寄りの階段を駆け下りていく。
しかし“誰か”が階段にオイルを塗っていた。
ユーリイはオイルに足を滑らせ、派手に転び、下の階まで転げ落ちていく。
傍で見ていた貴婦人達が階段を派手に転げ落ちたその様を見て、笑っていた。
貴族が大衆の前で何とも屈辱的な姿を晒してしまった。
それでも残った3名のお抱え警備員がミレイナ達との距離を詰めていく。
下の階へ降りきったところでミレイナと小谷野を発見する。
「あっちにいたぞ!」
掛け声と共にどんどん距離をつめていく警備員。
距離が詰まる!
しかし駆け寄る警備員の後ろ側、死角から木刀のようなものを振り上げ、走り込んで叩きつけようとする刺客が現れる。
生一だ!
「まだ誰か別の刺客が!」と気づく警備員。
しかし生一は何を思ったのか警備員を追い抜き、逃げている小谷野の方を襲撃。
「おまえに嫁は助けさせーん!」
「ぐえっ!何すんだよ!」
「おまえにええとこ持っていかれてたまるか!」
「うるせえよ!嫁4号は俺が助けるんや!嫁レースに勝利して夫婦になるんは俺や!」
「うるせえよ。俺も狙うてんねん。邪魔すんな!」
日本語で揉め合いをしているうちに3人に囲まれてしまった。
「何を話していたのかは分らんが、ふざけたマネをしてくれたな。ミレイナ様を渡せ。」
警備員が近寄ってきた。
「待ちなさい。この人たちは関係ありません。」
ミレイナは顔を引きつらせた。
「待った!その嫁は俺が救う!」
しかし、そこでまたもや新たな刺客が現れた。
兼元だった。
まず兼元は生一達にマスクを投げる。
船内にあったものだろう。そのマスクには“ABE”というイニシャルが書かれていた。
「それ着けろ!ミレイナさんも!!」
そう叫んだかと思うと兼元は勢いよく警備員たちの上空に何かを振りまいた。
“コショウ”だ!
さっきまで全力に近い状態で走ってきた警備員たちは、やや息をきらしていた。その反動でたまらずむせて苦しそうにする。
咳とくしゃみが止まらない。
そんな状態なので生一達を追いかけるどころではなくなった。
「とりあえず俺や勇一達が使ってる部屋へ行こう!いいかい?お姫様!」
「あ…はい。」
警備員たちが激しくむせているスキに、生一達3人はミレイナをつれて部屋へと走り去っていった。
廊下に舞った粉塵…コショウはかなりの量だったため、警備員はそこから苦しくて動くことが出来なかった。
「ざまぁお味噌汁や!」
「てめ!生一、さっきはよぉ!邪魔すんなよな!」
「うるせえよ。内なる戦いはもう始まってんだよ!」
「嫁4号を狙うのはここにもおんねんぞ!」
そのまま警備員を撒き、大部屋まで走っていった。
計画通りという所だ。
大部屋で待機していた真也や仁科さん達女性陣は、新婦を直接この部屋まで連れてきたことにまず驚く。
勇一がまだ戻ってきてないみたいだけど、そこは八薙が探しに行ってくれているということで、合流するまでは彼女はここでかくまう事になった。
その頃、トニー財閥陣営では大騒ぎになっていた。
旦那に赤っ恥をかかせ、挙句の果てに妻は誰かと行方を晦ませる始末。
ユーリイの父親で財閥の社長であるトニーにもさすがにプライドに触ったようだ。
2人の侍女に通達する。
「あの東洋人たちの部屋をすぐに割り出せ!分かり次第ユーリイと共にすぐに連れ戻しに行く。」
「かしこまりました。」
「しかし何だ…あの東洋人どもは…。」
「あくまで聞いた話ではありますが、バーンシュタイン伯爵の衛兵とも昨日ひと交戦あった模様です。」
それを聞くや否や少し笑ったトニー。
「交戦だと?…まぁそれは無いだろうな。あんなガキ共がバーンシュタイン殿の護衛と交わりでもしたら、とても命の保証は出来んからな。
一応バーンシュタイン公にもミレイナの拘束には多少手荒になっても協力を依頼するかもしれん。ネズミ捕りの件共々覚えておけ。」
* * * * *
一方、勇一は船首楼甲板でポツンとたたずんでいた。
いつまでもやって来ないミレイナに心配になる。
音沙汰がないのでとりあえず部屋まで戻ることにした。
トボトボと部屋まで戻っていった…が、途中から何者かにつけられていたのだ。
途中、八薙と合流した。
「勇一さ~ん。探しましたよ。」
この広い船内でなんとか見つけられたことにホッとする八薙。
居なくなった勇一を探しまわっていたらしい。
「部屋に戻るときは誰かにつけられる可能性があるので、遠回りしながら一緒に戻りましょう。」
そう言って2人で部屋へ戻ろうとしたのだが、すぐに八薙は異変に気付いた。
勇一の耳元に近づき、日本語で…そして小声で伝える。
「いつからか分かりませんけど、勇一さん…つけられてます。ここで振り切ればまだバレません。この先の角曲がったところで待っててください。」
自分がつけられていたと知らず、勇一は一瞬恐怖を感じたが、ここは落ちついて対応するのみだ。
角を曲がったところで八薙に後ろを任せた。
こっそりと様子を伺う。
八薙はその場で立ち止まり、じっと来た道を見ていた。
下の階…人通りもなく落ち着いた場所…
そこで聞こえるようにドイツ語、イタリア語の順で言葉を発してみる。
「もうバレてる。出て来いよ。」
その言葉に呼応するように軍人らしき体格をした男が姿を現した。
“まだガキのくせによく気づいたな。”とややニヤついた表情を見せる。
八薙と距離を詰める。
今は人通りが無いとはいえ、八薙の奴こんなとこでやり合うのだろうか…そう感じながら勇一は遠目からその状況を見守ってた。
「俺は元軍人だぜ。ガキじゃ勝ち目はないぞ。それでもやるか?」
まずは言葉で威嚇してきた。
肩から盛り上がった三角筋を見せつけ上から睨みつけてくる。
八薙よりやや上背がある。
それでも八薙は普通に返答する。
「あんた1人だけで、まさか勝てるとでも思ってんのか?」
なかなかトゲのある挑発的な返答に元軍人の男は目つきが変わる。
その言葉を受けて、もう目の前の八薙以外は視野に入っていない状態に入った。
やる気だ。
勇一にも緊張が走る。
一触即発…
その時だった。
何かの拍子なのか船がぐらぐら揺れたのだ。
外からの衝撃のようだ。
もしくは船内で何か起こったのだろうか。
船が少し不自然に揺れた後すぐ、元軍人の男のヒザポケットからレシーバーのような子機が鳴り始めた。
どこかから収拾の呼び出しが入ったようだ。
“ネズミ捕りの時間だ。戻れ!”という声がかすかにレシーバーから聞こえた。
目つきの鋭かった男は少し表情を緩め、八薙に向かってこう言った。
「命拾いしたなァ。」
言い残し走り去っていった。
何事だと感じる二人。
「八薙…大丈夫だったか?あの元軍人っぽいのかなりヤバそうだったぞ。」
「とりあえず追手はもう来ないので部屋に戻りましょう。」
「まあそうだな。」
ゴツイ体格の元軍人を目の前にしてもモノともしない八薙には感心するが、とりあえずは部屋に戻ることにした。
船の揺れた原因は後程2人も知ることになる。
昨日を1波とすれば、第2波。
新手のテロリストが船内に侵入したのだった。
* * * * *
豪華客船『Venus』にまたテロリストが侵入したらしい。
廊下内はもちろん、ミレイナさんを招き入れた大部屋にも緊急放送が流れる。
「乗客の皆さまは落ち着くまでの間、部屋から出ないようお願い致します。」
このアナウンスに船全体に緊張が走る。
程なくして勇一と八薙が部屋へ戻ってきた。
「ミレイナさん!」
「勇一さん。落ち合う場所に行けずにすいませんでした。」
「気にしないでください。ミレイナさんこそ無事でよかった。」
勇一は安堵するものの“こんなことして大丈夫なのかコレ”という感情も芽生える。
明後日結婚式を挙げる主役をこんなとこに連れ込んでしまったのだ。
でもきちんとミレイナさんから確認してみたい事があった。
「ミレイナさん。こんなことになってごめん。でも今どうしても聞きたいことがあるんだ。だからここにいてもらってもいいかな?」
「はい。勇一さん。ですが…」
ミレイナさんは了解してくれた。
しかし他に言いたいことがある。
「先ほどのアナウンス……テロリストと言われていたメンバーの中におそらく私の姉様が居るの。助けたい。」
それだけで勇一、そして八薙は状況を理解した。
「姉さんたち…テロリストじゃなく、“レジスタンス”はおそらく残った全員で仲間の救出に向かっていると思います。でも捕まったら命が危ない。壊滅になる…」
「分かった。じゃあ俺が行く。」
「八薙!?」
「じゃあ僕も。」
「いや、真也は仁科さんやミレイナさんがもしもの時のためにここでかくまう事を優先してほしい。勇一さんとレジスタンスが通りそうなルートは事前に確認してあるし。」
「八薙!俺も行くで!」
「俺もや。行ったる!」
「俺もよ…ミレイナさんの御姉さん助けたいねん。行かせてくれ。」
「あなたたち…あのゴツイやつとまた遭遇したらどうすんのよ。」
「そうならんように妹さん助けたうえですぐ逃げるよ。」
「俺らも正攻法で対処できる相手やないいうのは分かってる。無茶はせん。」
「どのみちもうスイッチが入ってもうた。もう迷惑かけんさかい。」
「もう…。」
「皆さん…」
「大丈夫や。優先順位考えて行動する。お姉さん助けるんが一番や。」
「あの時の船の揺れからして、既にレジスタンスの皆は侵入し終えていると思う。それに対してあのゴツイ奴らが待ち構えとるなら急いだほうがええな。」
「そうですね。行きましょう。」
「八薙…俺も。」
「はい、船内はまだ慣れていないので助かります。でも無茶はしないでください。」
「真也、ミッション終えたらすぐ戻るからここ頼むな。」
「うん。先輩、八薙君も気をつけて。」
これらの素早いやり取りが日本語で行われたため、ミレイナさんは意味が分からず困惑していた。
しかし5人が扉を出る際、ドイツ語で生一達3人がミレイナさんに要約を伝える。
「すぐにキミのお姉さん助けて戻ってくるから。後で話しようね~ミレイナさ~ん。」
そう言って八薙、生一、小谷野、兼元、そして勇一は牢獄へ繋がるポイントへ走っていった。
「姉さん…」
不安そうな表情を浮かべるミレイナ。
「まずはこれで落ち着いてください。」
そんなミレイナへお茶が振舞われる。
ここまで緊張状態が続いたのだ。そんな心情を察して静那が気を利かせてくれたのだ。
「そういえば朝ごはんも…まだでしたよね。」
「とりあえず皆を信じて待ちましょう。あのバカ達も同じ失敗はしないと…思いたいし。」
「ガッツあるもんね。バカだけど。」
「そうね。」
仁科さんも少し笑みを浮かべていた。
豪華客船『Venus』の中で繰り広げられるメンバーの激闘をChapterに分けて描いていきます。
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