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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
MOVIEⅡ【A面】
142/226

Departure ~自由と信念④

Chapter4

大部屋の方ではやや気まずい空気が流れる。


船内マップを見たりする事なく、向かいの部屋の真也と仁科さんをひたすら心配していた。


静那が気を使ってか、お茶のおかわりを皆に渡す。




生一はそのうち“思い出し怒りモード”に入った。


あのこっぴどくやられた武器商人とそのお抱え軍団…あいつらもプロの格闘家なのだろうか。それにしても派手にやられたものだと痛感する。


「規格外にデカかったな…あの3匹。まったく…」


もう無茶をしないと仁科さんに約束はした。しかしやり返さないと気が済まない。


それ以前にあの人間離れしたサイズの武闘集団…何やらヤバい匂いを感じとった。



いっぽう紙一重でバーンシュタインの蹴りを避けたものの、頭を剃られ一部がハゲてカッコ悪くなってしまった兼元と小谷野。


仕方ないのでアメニティーで備え付けられていたバリカンで髪を反り上げる。


「ううう…正規の美男子である俺の自慢の毛髪が…あの金髪商人ヤロウ…アイツ…あの野郎!」



八薙もますますテロリスト達の安否や目的が気になっていた。


やはり彼らはこの船に乗り込み、何かを阻止しようとしているのではないか…と。



「そう言えば勇一は?」


ハゲた部分を修正した兼元が、ふと葉月に尋ねる。


「満月を見に行くとか言ってた。もうすぐ戻ると思う。」


「そうか…」


勇一は無事に飄々と船旅を楽しんでいると知ってホッとする3人。



少し決まずい雰囲気が続く中…


やがて勇一も少し複雑そうな表情はしていたものの何食わぬ顔で戻ってきた。



しかし戻ってからは生一の吐血の痕についてや、仁科さんの身に降りかかった災難を聞いて驚いた。


葉月は今2人がいないけど、一旦今までの情報を共有しようという提案を持ちかけた。


仁科さんはもちろん、生一ら3人もこれからフラフラと気軽に出かけられなくなってしまったのだ。


いつまたあの大男達に遭遇するか分からない。


もし逃げ帰る事が出来ても、この部屋の場所が割れたら大変な事になる。


大事にならないように一旦皆の情報をきちんと確認をしようということで異議なしだった。


勇一もミレイナさんという思わぬ出会いから、ここで開催予定の結婚式に色んな思惑が渦巻いていることが分かったらしい。


大部屋に集った7名。仁科さんと真也以外の7名による情報共有がはじまった。




* * * * *



一方こちらはミレイナの部屋。


22時を過ぎた頃、婚約者ユーリイが部屋にやってきた。


乱暴にドアを開ける。


ミレイナの母親が奥で寝ているかもしれないのに…



ユーリイは父と母の3人で部屋に訪問してきた。


ミレイナの姿を確認するや否や怪訝そうな顔をしながら小声で怒鳴る。


「ミレイナ!今夜は私の部屋に来る予定だっただろう。何故来なかった?」


「すいません、。急な来客がありましたもので。」


「言い訳をするな!伴侶となる人間の約束も聞けんのか!」


「…申し訳ありません。」


謝るが、ユーリイはミレイナの顎を引っ張ったと思うと引っぱたいた。


「ああっ!」


引っぱたかれて机に倒れ横たわるミレイナ。


その横から父親のトニーと母親のオルテンシアが顔を出す


「ユーリイ!ほどほどにしなさい。式を前にかんしゃくを起こすのはまずい。式典はTV中継も入れで大々的に行うのだ。婚約者の顔に傷をつけるようなことはしてはいけない。我々紳士としての振る舞いを心がけるように。抑えなさい。」


「…はい、お父様。」


母のオルテンシアも口出しする。装飾品ちりばめられた高貴な衣類を身にまとっている。


「ユーリイの言うことが聞けないのなら、妻とはいえ家政婦扱いに格下げしますよ。息子にふさわしくない者は美しくないものと同等。思考や振る舞いなどこちらの格式に合わせるように努めなさい。全く…父親に似たのか育ちが悪そうで不安だわ。」


「お母様。式典までの辛抱です。


ミレイナ!明日の朝食は遅れないように部屋に来るように。2度も言わすなよ。」


「…はい。ユーリイ様。」


何とも物騒なコメントを吐き捨て去っていった。




3人が去った後、涙を流すミレイナ。


「お父様…私はどうすれば、お父様…」


ミレイナは奥にいた侍女に背中をさすられながら涙を拭く。


「きっとあいつらがお父様を…」


その言葉には侍女のジークリットさんも忠告を入れる。


おそらく母親から言われているのだろう。


「ミレイナ様…それ以上は言ってはいけません。生き延びるのです。私たちは女。


今は耐え、付き従うしか道は無いのです。


決して姉様の様なやり方で命を粗末にしてはいけません。」


ミレイナはもう一人の家族を憂う。


「姉さま…レジスタンスと一緒にいると聞きましたが一体どこに。


今日もレジスタンスが船上に現れたと言っていたけど。無事なのかどうかも…」




* * * * *




ミレイナの姉はなんとレジスタンスの一員となって、トニー財閥と関わるバーンシュタインの動向を嗅ぎまわっていた。


正確には暗躍と言ったところだろう。


そんなミレイナの姉はこの日の夜、ギリシャの片田舎に位置する港に潜伏していた。


レジスタンスの生き残り達、15名程が通信機を持って目標を見据える。


見据えた先…そこから双眼鏡で見える位置に、豪華客船『Venusヴィーナス』を捉えていた。


レジスタンスの隊長らしき人間がレシーバーで外にいる面々に確認を取る。


「こちらリーダー・ラッツィオだ。明日は捕らえられたレジスタンス達の救出と共に妹のミレイナをジャックする。


もう残されたメンバーは我々しかいない。


ジャンヌからの情報により3日後に執り行われる予定の結婚式は何としても阻止する。


バーンシュタインサイドから凄腕の用心棒を配置させてるらしい。一対一に持ち込むな。各々…明日はくれぐれも抜かりないよう行動せよ。」


「了解!」


メンバー達は手短に応えた。


その後、ラッツィオという名の隊長と船内経路の打ち合わせをする女性『ジャンヌ』。彼女はレジスタンスのメンバーでありミレイナの姉であった。


「トニー財団とバーンシュタインサイド『TRUSTEEトラスティ』が揃って行動する時は何か裏で金の動く催し物がある。


マスコミが集う中、一網打尽に暴き出すことが出来れば言う事無いのだが…金にモノをいわす形で抵抗する勢力は殆ど鎮圧されてしまったのだ。


レジスタンスのメンバーは気を引き締めて明日に備えた。



* * * * *



「誰にやられたァ!」


怒りの形相で問う“アイアン”


“お楽しみの時間”をぶち壊され終始機嫌が悪い。



“アイアン”と呼ばれる男の他、“Fist of Stone”そして『Beast』『Tyrant』『Ice Emperor』の面々が顔面を粉砕骨折された“ブリッツ”の様子を伺う。



彼の口と鼻の骨は陥没したように潰されていて、かろうじで息をしている。


荒い息遣いで必死で返答した。


「いきなり…10代の…青年位のやつが躍り出てきやがった。その後俺の拳に合わせてカウンター気味に拳を繰り出してきたんだ。あれは…“東洋人”だ。しかも…たった1人。素人に俺様の突きが見えるわけねえ。マグレだろ…でも信じられないような突きだった。今でも信じられない……でもたった一発…それだけでこの様だ。あんなガキみたいな奴…悪い夢見てるようだ。」


この男達の中で“アイアン”と呼ばれる男は元ボクサーで、かなりのハードパンチャーだ。


だがこれほどまでに顔面に食い込み陥没させるような威力のパンチは見た事がない。



「たった一発か?武器でなく本当に拳だけか?ソイツは!」



弱弱しく頷いた後“ブリッツ”は気を失った。



「誰だか分らんがふざけた事をしやがる!そいつは生け捕りにしてこの俺が血祭にしてやる。10代のガキだろうが容赦はしねえ!クソガァ!」


元ボクサー出身の“アイアン”は怒り狂う。



その後、奥からさわぎを聞きつけ、様子を見に来た男が居た。


「おい!“ニクソン”こいつぁどうだ。」



“ニクソン”と呼ばれた男は“ブリッツ”の陥没した部分をじっと見て一言呟いた…


「最近嗅ぎまわっているというレジスタンス…ではなく別の誰か……“東洋人”…か?」






他にも屈強な男達とは別に、武器商人バーンシュタインとしての業務を執行する男が様子を見にやってきた。


生一達に“立ち入り禁止だから入るな”と注意喚起をしていたあの髭を蓄えた男性だ。


「これは…“ブリッツ”様がまさか…。早速バーンシュタイン様に報告してきます。ちなみに正体をあぶり出すために大会に引きずり出すという手は如何でしょう。」


「それも良いな、“ズッファ”。エントリー可能なように検討しといてくれ。」


“ズッファ”と呼ばれたバーンシュタインの参謀的男性は足早に去っていった。




ただ事態が収束したわけではない。


仲間の一人が完膚なきまでにやられたのだ。


その後も怒りが収まらない“アイアン”


「どちらにせよ、俺達の組織に歯向かった命知らずは無事に下船させられねえな。そのうち土俵に引きずり出してやるぜ。」





* * * * *




「小春には後になるけど私がちゃんと伝えておくから。」


話の共有を約束してくれた葉月。


色んな情報がまだ交錯した段階だが、7人での情報共有タイムは終わった。




生一達3人からは…

・ヤバい地下格闘家が何人かいる


・それらを統括する商人がいる。名前はバーンシュタイン。3人がかりで歯がたたなかった。



続いて八薙も感じた事を言う

・テロリストが乗り込んできたが、少数だったし我々乗船してきた客を襲う感じではなかった。だから恐らくテロリストではなくここで起きている陰謀か何かを阻止しようとしに来た感じがした。だがこれは憶測の域を超えていない。



葉月も船内を歩いていて気づいたことを共有してくれた。

・どうも船内のサーカスなどを披露する演舞場のような所で、VIP限定のイベントがあるらしいが、その内容は私たちは閲覧できないらしい。


・結婚式は4日目の午後執り行われる。テレビ中継が入る大規模なもの。船内にある大聖堂で行われるが関係者以外は入れない。



最期は、勇一が驚くような事実を伝えてくれた。他6名は驚く。

・4日目の結婚式の花嫁さんと船頭甲板で偶然出会えた。彼女の名はミレイナと言う。


・偶然彼女を助ける形になり、縁ができた。部屋に招き入れてもらい話が出来た。


・最近父親を謎の事故で亡くしたが彼女は殺人だと見ている。


・婚約者はトニー財閥の長男・ユーリイという資産家ボンボン。


・彼女はユーリイとの結婚に前向きでない。性格的なものもあるが、一番嫌悪している部分は武器商人の一家という点だ。


・確証はつかめていないが、トニー財閥の動きが怪しい。裏で同じような武器商人とつるんでいるようで、付き合いのあった行商人らが皆怖がって去っていった。


・結果、彼女達はこの業界では孤立している。そんな彼女の会社をトニー財閥が愛の力で救ったという図式になっている。






……


少しこの船で起きている景色が見えてきた。


しかしまだ“点が線で繋がっていない”状態だ。


暫くお互い話をしたので一回落ち着こうという事になった。



この後、女性の寝室に葉月と静那を帰すわけにもいかないので、生一達が気を利かせる。


「下の階にも窓越しからやけど展望スペースあるで。まだ“マルマラ海”出てないし“ダーダネルス海峡”からの景観がなかなかええみたいやで。見に行ってみんか?」


「そうね。気分転換にはいいかも。しーちゃんも行こう。」


「うん…」


「勇一!お前は留守番な。」


「なんでだよ?」


「話聞いてたらお前だけええ思いしやがって。俺なんかアタマ剥げてもうたし…何よこの格差~!」


「それは日ごろの行いの差だろ。夜景見に行くのは良いけど、さすがに今日はもう大人しくしろよ。」


「…ああ。まぁ、そやな。」


意外にあっさり受け入れる兼元。



それだけ反省しているのだろう。


仕方なく勇一が一人男部屋に残った。…と思っていたら船内に興味津々だった八薙も残っていた。


八薙は情報共有後もまだ納得できない事があるようで勇一に話したいことがあるようだ。


「話聞いていてどうもおかしいと思うんですけど…」


相談する。


結婚式の件らしい。


4日目の午後、船内大聖堂にてユーリイとミレイナ。二つの財閥の合併を祝しての結婚式が行われる予定だ。


だが彼女は結婚が嫌で…それで泣いていた。


交易に力を持つ父親が居なくなったのを良い事に力でねじ伏せる形の政略結婚だ。


とするとあのテロリストたちは…。ミレイナの仲間なのではないか?


いや、そこまではまだ確証もない憶測の領域だ。


どちらにしてもテロリストらしき人たちが何か情報を握っているのではないか。


そもそもテロリストというのは船内放送で言われていただけであって、テロリストではない可能性が高い。



…そんな事を呟く八薙。


ただそれをはっきりさせるためにもどうしても確証がほしい。


可能性や憶測を膨らませてもそれが事実にはならない。




こういう大型客船には牢屋は常備してある。


そこまでの道を船内マップの表示されていないエリアも予想して、なんとなくだが場所を割り出してみる。


そのうえで仮定する。


もしテロリスト達が引き続き仲間達を助けに乗り込んでくるならここを通るだろう。


もしそうなら、対抗措置としてこの辺で待ち構える気だ。


生一達の話していたヤバい格闘家達が…。



「明日…もし会えたらミレイナさんにも聞いてみよう。彼女の部屋の場所は知ってるし。彼女が本当に結婚を拒んでいるなら、テロリストに連れ去られたって形にした方がいいのかもしれない。」



とんでもない仮説と提案をしてみる勇一。


しかしそれは何か別のとんでもない組織に手を貸すことにもつながる。


仁科さんの例もある…慎重にいきたい。



八薙の見る目もあながち出鱈目じゃないな…と感じる勇一。


「でもどうやってミレイナさんに会うんですか?」


「有効な方法はある。フードコートは沢山あるけど、朝食会場だけは唯一同じ上層階で共通している。そこで朝、男衆で手分けしてミレイナさんを探してみないか。」




* * * * *




下層のバルコニーからダーダネルス海峡沿いにに広がる景色を無言で眺める5人。


山側に民家の明かりがポツポツ出ていて奇麗だ。



葉月、静那、生一、小谷野、兼元…暫く無言…何も言葉を切り出さない。


やはり仁科さんの事が相当ショックだった。



「明日も何か一波乱ありそうやな。まだ1日目やというのに。」


「クソ…あんの赤タキシードの金髪センターパートやろう。」


「でもあいつが途中で繰り出してきたあの“剃りあがるような蹴り”…あれやばかったで。根本からまともに食らってたら死んでたぞ。」


反省会も交える生一。




夜景はやがて街の明かりが奇麗な海峡を抜けていく。




無数の光を見届けた後、部屋に戻ろうとした。


その時イベントのインフォメーションの張り紙に目をやる。


『VIP限定イベント 時間は3日目10時から、4日目10時から。VIP入場口はこちら』


「これ、さっき私が言ったVIPだけの限定イベントよ。きっと金持ちの道楽でしょうね。主催者の名前は、この人?…なんだかあなたたち3人とも顔つきが怖いんだけどこの人…もしかして知ってるの?」


「あぁ。忘れるワケねぇだろ。この名前…。あの金髪センターパートやろう!」


3人の顔つきが変わった。


主催者の名前…それはあの“バーンシュタイン”と呼ばれていた男だった。




* * * * *




一方、執行担当の“ズッファ”から急ぎの報告を受けたバーンシュタイン。


「あの東洋人らしき彼らの仲間にやられた…と?まだ10代の子どもだったな。にわかには信じられんのだがね。」


「はい。ですが、1名、恐るべき力を持った人間がいるとの事です。実際“ブリッツ”は戦闘不能になっておりまして。」


「ふむ。彼を戦闘不能に追い込むほどの輩か…それが本当に10代の子どもだろうが、私の邪魔をしてくるなら容赦は出来んな。トニー側にも伝達し、部屋を割り出しておけ。」


「はい、かしこまりました。では。」



仁科さんを無事救出できたとはいえ、結果的に黒幕の幹部1人をノックアウトしたという事で、正体はまだ知られていないものの、真也は目を付けられる事となってしまった。

Season2/36話からのエピソードに入ります。


豪華客船『Venusヴィーナス』の中で繰り広げられるエピソードをChapterに分けて描いていきます。


【読者の皆様へお願いがあります】

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現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆致します。今後ともよろしくお願いします。

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