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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
MOVIEⅡ【A面】
140/225

Departure ~自由と信念②

Chapter2

「うおぉぉぉぉ!コレもしかしての中華やん!めっちゃ久しぶりなんですけどォォォ!」


「これフカヒレやろ。おそらくフカヒレ。いや間違いなくフカヒレやろ。」


「この籠から出てる湯気…ええ香りするわ~」


目の前の回るテーブルいっぱいに盛られた中華料理の数々に生一達はテンションを上げずにいられない。


「コレ餃子やろ。見るん久しぶりやん。」


「点心も色んなのあるな。まだ湯気でてるし。」


「なんかもう中華料理並んでるだけで感動ですね。」


本格的な中華料理を口にするなんて本当に8カ月ぶりくらいだ。


今までずっとパンのような小麦粉を使った料理と野菜スープばかりだった。たまにケバブもあったが、穀物と菜食が中心だったこの半年間。


勇一も久ぶりの中華料理を目の前にして嬉しさを露わにする。


女性陣も嬉しそうだがやや俯瞰した感じで男性陣の喜びのしぐさを見ている。本当に久しぶりのご馳走だからはしゃぐのも無理ないか…という感じだ。


「仁科お前ええ仕事したで。お礼としては…アレやな。4番目か5番目くらいの側室にしたるさかい。」


「あんた食べる前にふざけた事言わないでよね。まずは席につきなさい!もう。」


まるで子どもの世話をするようなノリで指定された席へ案内する仁科さんと葉月。


「もう、本当に子どもみたいなはしゃぎようね。まぁこんなに喜んでもらえるならリザーブした甲斐があったよね、小春。」


「まぁ…ね。真也君も嬉しそうだし。」


席に着いたところで仁科さんが付け加える。


「あっちにある料理も自由に取ってきていいからね。食べれる分だけ取るのよ。」


「おかんかお前!まぁカレーとかラーメンもあるんやな。ええや~ん。」


「生一!ラーメンとカレーどっち行くよ。中華もあるからラーメンにしとくか?」


「いや、ここは欲張ろうや。どうせならラーメンにカレー入れてカレーラーメンとかにせえへん。香りからしてレトルトみたいな安モンのカレーやなさそうやし。絶対にうまいやつやで。」


「おお!ええやん。カレーラーメンか。オレの名前のイニシャル取って“K麺”なんてどうよ。」


「お前勝手に名前付けんな。カレーラーメンくらい日本でもあるわ。多分寒い北海道とかで。」


「テンション高いなーお前ら。まぁ久しぶりだもんな。」


「おおよ。今日は中華三昧で英気養うで。出航の景気づけや!」




「あいつらこんなにテンション高いの本当に久しぶりじゃない?やっぱり食べ物って偉大だね。」


「そうかもね。美味しい食べ物を皆で食べれば心も体も充実するから、やっぱり皆で美味しいご飯を囲むのが一番だね。小春、ありがとう。」


「静ちゃんも今日は久しぶりのごちそうなんだから遠慮しないでね。カレーとかは新品の服にかからないように気をつけながらだけど。」


女性陣3人は夕食時に合わせてトルコスタイルの民族衣装を身に付けてきた。


静那は髪がまだ短いのでスカーフを着用。


それ以外は3人同じ。“ジェプケン”という衣装を着用していた。何だかオリエンタルな雰囲気を出しているけど悪目立ちもしていない。


トルコの民族衣装は幅広く、装飾品が美しくゴージャスでカラフルなものもあるが、意外とシックな色合いで落ち着いていた。


このセンスは椎原さんから教わった仁科さんのアイディアだろう。



まぁ民族衣装はそこそこに、久しぶりのご馳走を目にした面々は“花より団子”という感じで取ってきた食材をテーブルに並べる。


「勇一、なんか音頭取ってよ。」


静那が食事の前の挨拶をお願いする。


「いいよ。じゃあ皆、中国茶を手にいい?」


「おう!ええで。何か乾杯するん?」


各々中国茶を手に構える。


「うん。じゃあ……この航海と俺達の未来に…乾杯!」


「乾杯。」


お酒は20歳からということで、中国茶で乾杯する。


そして早速お待ちかねの中華料理の面々だ。




…しかし生一達が食べようとしたその瞬間、銃声が鳴る!



“パンパン”



「何だ?」


“キャアア”という近くに座っていた乗客の悲鳴と共に顔を覆った人間が食堂に乗り込んできた。


見た感じテロリストという風貌だ。


3人だけだが小型銃を持っている。うかつに近寄れない。


「動くな!」という言葉だけは聞き取れた。


早口でよくわからない。


イタリア語?ギリシャ語?言語の勉強はしたのだが、実践経験が乏しくまだはっきり聞き取れない。



少数だったので船内スタッフが果敢にも取り押さえにかかるが掴みかかったと思ったらうまく投げ飛ばされた。


そのまま船内スタッフは食事が並べられた大きな机の柱に激突する。


その机とは生一達が陣取っている机だった。


激突の衝撃でテーブルの料理が跳ね上がる。


餃子や点心がバラバラと床に落ち、お茶や平皿に置かれた回鍋肉が床にまき散らされる。


「熱っつぁ!」


生一も食べていた丼ぶりがモロに顔にかかったうえ床に落ちてしまった。


「うわ…勿体ない!」


勇一は思わず床の点心を拾って食べようとした…が、そこは自重する。


しかし「まだ口にしても無いこんなご馳走達に何てことしてくれたんだ。食べ物の恨みは怖いぞ!」と、手前にいるピストル持ったテロリストよりも食べ物の無念さに心を痛めている勇一。



テロリスト側も銃で威嚇はするが何かを探している感じで、威勢よくこちらに乗り込んできたものの乗客を襲う様子は無い。


何が狙いなのかはわからなかった。


船内がとにかく広いので警備員が駆け付けるまではもう少しかかる。


乗客と警備員、そしてテロリスト3名との妙な空気が出来る。



「大人しく地に伏せろ!」というニュアンスの言葉を発して、もう一度威嚇の為の発砲をするため銃を上げた…がその瞬間!


腰の入ったボディーブローが銃を持つテロリストの腹部にモロに入る。


「ぐ……は…?」


テロリストの目の前でボディーブローを炸裂させたのは、なんと小谷野だった。


「今の一発は餃子の恨みだ!」


まともに入ったので両手で腹部を抑え、うずくまるテロリスト。


そこへ横から飛び蹴りが入る。


飲茶ヤムチャの恨み!」


体重を乗せた飛び蹴りでテロリストは吹っ飛ぶ。その時ピストルも手から離れた。



その様子を見てうろたえるテロリストの2人。



…そのテロリストの後ろにいつの間にか回り込んでいる人間が居た。生一だ!


「こいつは天津飯の恨みだ!!」


両手で拳を作り、上から思いっきり振り下ろす。


鈍い音と共に脳天にヒットする。



予想外の奇襲に残ったテロリストはその場を離れようとしたのだが…そのタイミングで警備員が10名くらい一気に現場に到着した。


逃げられるルートは抑えられ、3人はあっけなく御用となったのだ。




手に濡れたおしぼりでアイシングしながら生一が呟く。


「結局俺が…何が言いたいかっていうと、ドラゴンボールとかで両手握ってぶっ叩くシーンあると思うんだけど……あれ実際にやったらさ。小指の所、痛くね?…ってコト!」


そう呟いて不機嫌にテーブルへ戻っていった。



そこには取り分けた中華料理は勿論、反動で顔にぶちまけてしまった天津飯の残骸が広がる。


「せっかくのご馳走が…あの野郎…」


うなだれる生一達。




その後ろ側を逮捕され手錠をかけられたテロリストの3人がトボトボと歩いていく。


どんな大型船内にも牢屋が設置されていると聞いた事がある。下船まで彼らはそこで監禁されるのだろう。


警備員の方が勇一達の机にやってきた。


「この事件の対処をしてくれたのは君達かい?おかげで周りの客に大事には至らなかった。協力ありがとう。ケガはなかったか?彼らは下船までしっかり監禁するので安心してね。」


そうお礼を言ってきた。


その後食事の席の乗客に向けてもアナウンスする。


「大変お騒がせして申し訳ありませんでした。今後はこのような事の無いよう警備を徹底致します。」



ちょっとテンション下がり気味の小谷野、兼元、そして生一。


それでももったいない精神なのか、散らかってしまった料理を丁寧に拾い上げて掃除し、ゴミ箱へ持っていこうとする。


一通り机を奇麗にしてから料理を楽しみたいのだろう。周りの人にも散らかった料理を目にしながら食事をしてもらいたくないという彼らなりの配慮からだろうか。


その様子を見て、静那が立ち上がる。


「私も机拭くの手伝うよ。」


「静那ちゃんは食べてていいよ。」


「綺麗にしてから食べたほうが美味しいよ。一緒に掃除しよう。」


そう言って小谷野と兼元を見る。


もうパンツの時のわだかまりはないみたいだ。


「分かった。じゃあ…」


静那には新しいテーブルクロスに変えてもらう作業をお願いする。


その後料理を置き直す。


そして夕食が再開された。


「じゃあ夕食の再開と行こうか。乾杯。」


今度は小谷野が仕切ってくれた。




一時はどうるかと思ったが、ようやく落ち着いて食事を再開出来た事を実感する9名。


しかし八薙が気になる事を言う。


「あのさ…あのテロリストは何が目的だったんだろ。


見た感じだけど客席にいる一般人には一切手を出す様子無かったように感じたんです。」


「銃持ってるのにか~」


「あれも邪魔する人がいたら威嚇する為だけで、何か他にそう…誰かを探していたような感じがして。真也はどう見えた?」


「う…ん。僕らには気概は加えないような感じはあったな。何より殺気が感じられなかったです。


でもピストル持ってたからな…誰かを連れ去ろうとしにきた感じ…かな。」


「逆に船で誰かが捕らえられてるって事?」


「可能性は無くもないです。生一さん達が踏み込んだ時銃使って応戦する感じ無かったですから、別の目的があったとは思います。…でもコレ俺の憶測ですけどね。」


「じゃあ何か俺らが逆にいらんことしたみたいやんか。」


「それは考え過ぎじゃないか?お客さんのいる前で発砲したんだから明らかに良くないよ。」


「う~ん。憶測が多いね。こればかりはさっきのテロリストさんに聞かないと分からないって所ね。」


「わったよ。俺がテロリストさんとやらに聞いてきてやんよ。」


「え?生一、マジか。」


「でもアリかも。」


「武器取り上げられて牢屋入れられてるんやろ。話するだけならできるんちゃう?それに俺まだイタリア語うまいこと話せんから、本場の奴と会話の練習してみたいねん。」


「ああ俺も。勉強したんやし話してみたいよな。」


「だからって初実践の相手が船上に乗り込んできたテロリストとか…」


「ぶっ飛んでるか?でもええやん。不意打ちしたんも謝れるんなら謝りたいし。あくまで向こうに殺意がなかったらの話やけど。」


「3人とも無茶言わないでよ。牢屋へ続くエントランスには一般人は入って行けないよ。」


「警備員の人がおってもさっきの事話したら多分入れてくれるって。謝って真相を聞いてくるだけやから。」


「無茶して…」


「物好きねえ。」


同じ階…食事エリアからやや離れた所に立ち入り禁止の入り口が見える。“関係者以外立ち入り禁止”と書かれてはいるものの、ドアではなく簡易な鎖がしてあるだけだ。


見ていたのだが、テロリストの3名はそこから奥へ連行されていったのだ。


「大丈夫?怖くない?」


「静那ちゃん。大丈夫や。ちゃっちゃと行って真相聞いてくるだけやから。皆はもう部屋戻っといてええで。」


「せやで。大事無い無い。」


「じゃ…私たちはもう部屋戻るよ。探検も良いけど今日は早めに戻りなさいよ。明日もあるんだから。



そうして、食事を終えた3名と6名はそれぞれ分かれて行動することになった。




* * * * *




その頃…


牢屋に連れていかれたテロリストの3名。


彼らはテロリストというよりも権力に対する抵抗軍・レジスタンスの生き残りだった。


牢屋前に連れていかれたと思ったら1人の男を残し、警備員らしき男性達はべつの部屋に下がっていった。


その後、男はレジスタンスの3人にいきなり無慈悲な暴行を加える。


3人がかりで必死に抵抗するも、相手はプロの雇われ格闘家のようで桁違いに強い。


攻撃を受けてもダメージを受け付けることなく逆に3人に致命傷を与える。


戦闘不能状態まで痛めつけ、完全に身動きが取れなくなった後3人を牢屋に放り込んでいく。


まるで遊び終わった玩具を片付けるかのようにだ。



「“アイアン”!明後日の準備だそうだ。」


誰かに呼ばれ、そのアイアンという名で呼ばれた男は牢屋にカギをかけて声の主の方に消えていった。




「隊長……ジャンヌさん……すみま…せん。」


立ち上がれないくらいの暴行を受けた状態でうわごとの様に呟くレジスタンスの3人。そして意識を失った。



* * * * *



テロリストが連れていかれた“立ち入り禁止”の入り口の向こう。


チェーンを跨いで問答無用とばかり中に入っていく生一達3名。


それに気づいたようで、1人のスーツ姿の髭を生やした男性がやってきた。


「もし、乗船のお客様ですか?申し訳ないですがここからは立ち入ることができません。」


イタリア語で話すスーツの男はやや言葉に訛りがあるようでうまく全文が聞き取れない。


「私たち。悪人に用事ある。話したい。入れろ。」


カタコトでそう伝える。



しかし目の前の男は首を横に振る。


その行動を上回るかのように小谷野は横に振る顔に往復ビンタをかまして股間を蹴り上げた。


めちゃくちゃ失礼だがどのみち中に入れてくれないならこうするつもりだった。


股間を抑えてうずくる男をよそに3人は部屋の奥へ走り去っていった。



「誰だか分らんがふざけた事をする…。あのお方に見つかったらタダでは済まんだろうに。」


股間の痛みに悶えながらも3人の方を見やる男。




「良かったんか?コレ。」


「ええって。ちょっと話しに行くだけやん俺ら。」


「そんですぐ戻ってきたらお咎め無いやろ。」


走り去りながら3人は確認する。


それにしても奥に牢獄があるとはいえ、そこに至るまで色々と部屋がある。



やがて小ホールくらいの部屋に遭遇した。


扉がやや開いていたので、中にこっそり立ち入ってみる3人。


そこは銅像のようなものが多数保管されている部屋だった。


格闘家のようないで立ちの銅像がある。


「おい、生一!これってガイルじゃね?」


小谷野が手招きする。


「確かにガイルそっくりやん。あいつ実在してんやな。」


「実在するわけねえだろ。現実との区別付けようや。それにしてもまぁ人間と見分けがつかんくらい精巧にできてんなぁこの銅像達。」



その時、銅像の向こう側から男の声がした。


「だれか居るのかね?」


今度はドイツ語だ。


さっきの訛りのあるイタリア語よりは聞き取りやすいので分かった。



「誰や!」


「それはこちらのセリフだよ。どこの国の者か知らんが勝手に入ってきてもらっては困るな。泥棒かな。」


銅像の間から生一達3人の前に姿を見せた男。


その男は金髪で赤いタキシード姿でフォーマルな恰好をしていた。


赤い上着に気品を感じる。



「俺らはここで話したい奴がいるんや。だから入ってきただけや!」


3人に視線をやる。その金髪の男は2m近くもある。


「見た所、東洋人なのに言葉が喋れるのか。まぁいい。


誰かは知らんが不法侵入者という事で拷問を受けてもらおうか。


…最近我が密売品や大事なコレクションを嗅ぎまわる邪魔者が多くてね。」


「コレクション?」


「周りの像を見たまえ!この像こそ私が今まで倒してきた格闘家達そのものなのだよ。すばらしいだろう。」


「チッ!こいつは今までの敵の中でも最悪だな!まるで悪魔だぜ!」


「ハッハッハッハッ……最高の褒め言葉だよ、だがそういう命知らずな輩が最近多いので問答無用で君たちも始末させてもらうよ。」


そう言って2mの金髪男は銅像を出た広間へ案内しようとする。


“倒してきた格闘家”と言っていた。


おそらく正攻法で来るのだろう。



しかし生一たちも今まで2m級の相手や160kgもある大男とまがりなりにも対峙してきた実績がある。そして3人が連携を見せれば、1+1+1が3ではなく、300にも3000にもなる事を自覚している。



「金髪のオッサンよぉ。そのスーツ着たままでやる気か?余裕やな!」



広間へ進み、応戦の姿勢を見せる生一ら3人…。




* * * * *




その頃食事から戻った6人は男性の使う大部屋に集い、明日船内のどこを見て回るかで話を弾ませていた。


静那が船内マップを広げて、見に行ってみたいエリアを提案する。


男性側…真也も行きたいところがあるらしく、提案する。


普段から真也は積極的に話をしないのだが、こんな楽しそうに話をしているのを見て本当にこの船を利用して良かったと感じる仁科さん。


シアターや大聖堂、スポーツ施設など船内のアミューズメント施設も豊富なため話が弾む。


時間はどんどん過ぎていく。


ふいに勇一が立ち上がる。


「今日は月が奇麗だから船首側の甲板へ見に行ってくるよ。9時までには戻るよ。」


「ロマンチックだね。」


「いいだろ。今日は満月らしいから。考えてみたら満月見るのもホント久しぶりだしな。」


「じゃあ時間前には戻りなさいよ。」


「うん。皆はこのまま話してて。」



そこで静那がやや心配そうな顔をして勇一に言伝する。



「あのさ…勇一。もしボスや旦那さんを見かけたら10時までには下の階にもどらないと駄目だって伝えてほしい。


もうあれからだいぶ経つのに戻ってくるの、遅いよね。」



生一達の帰りが遅いのを気にする静那。


「確か食堂の階だよね。彼らが入っていった部屋。」


「そうです。奥の部屋の立ち入り禁止のトビラ。」


「じゃあ僕がこれから生一さん達探しに行ってこようか?」


真也が立ち上がろうとするところを仁科さんが制す。



「いいよいいよ。私が行く。


真也君は静ちゃんたちとここでゆっくり船内パンフレット見てて。


それにここの窓からも星やお月様見えてるよ。せっかくだから2人で見てなよ。


場所って食堂の奥でしょ。私がサッと行って連れ戻してくるから。」



仁科さんは真也が楽しんでくれているのを良しとばかりに気を利かした。


「3人ともまだ食べ足りなかったとか。」


「ありえるよね~葉月。ホント食い意地はってるからね~あいつら。じゃ。」


そう言って仁科さんは一人食堂の階へと歩いていった。



遠いもので階段も含め、この部屋から結構歩かないといけない。そんな事をさせるくらいなら真也には皆との会話を楽しんでもらいたい…。


楽しそうに話をしていた真也の表情を思い出し、歩きながらはにかむ仁科さんだった。




セントラルキッチンは閉まっていたが、まだイートスペースは解放されている食堂エリアに入った。


食事を終えた人ばかりで人は殆どいない。


寛いでいる人が数名いるだけだ。


ふと立ち入り禁止の入り口近くのテーブルで屈強な外人が食事をしていた。


3人程いる。…すごい体格だ。



彼らは近づいてくる仁科さんに気づき、何かを食べながらも視線を送る。


彼らの存在に気づく仁科さん。男達からの半笑いの視線を感じて嫌悪感を抱く。



半年前、あのアジトに捕まっていた時、これくらいの体格の男にニヤリと笑った視線で見つめられた時は恐怖感を感じたが、あの時と同じようなゾクッとした感覚を覚える。



男達は食事を貪りながらイタリア語でもドイツ語でもない言語で話をしていた。だから仁科さんでも会話の内容は分からなかった。


『俺らが出張るまでも無かったな。食事前のいいウォーミングアップになると思ったのによ。』


『オイ見ろよあいつ…あの女、アジア人だぜ。食いてーな。』


会話の内容はこういう感じだ。



仁科さんは何かイヤな雰囲気を感じ取り、早い事あのバカ達を見つけたらさっさと部屋に戻ろう…と考えていた。


しかしこの3人の大男に生一達の行方を伺いたくは…ない!


彼らには絶対に自分から話しかけないようにして、別の方法で生一達を探そうとしていた。




* * * * *




赤いタキシードを着た2mの男は落ち着いてきた。


3人がかりとはいえ足は捕らせない。


囲ませない。


生一達3人の動きを注意深く見て対処しているという感じだ。


もしかしたら自前のこのスーツを汚されたくないと感じたのだろうか。



姿は一見行商人のようなナリだが、さすがは格闘家というところ。


素早いバックステップで3人との間合いを支配している。



そのうち生一の腹部にえぐるようなボディーブローが刺さった。



古傷を狙われ、生一はたまらず悶え吐血する。


「脆いな。」



「生一!」


その声を合図に3人の連携が乱れる。



兼元も小谷野も男の長い脚にリーチ負けしてカウンターの様に足刀を突き立てられる。


そのまま吹っ飛ばされた。


しかし2人はまだくたばるには早いと立ち上がって抵抗を見せる。


じり貧になってきたが、これくらいのピンチは何度も乗り越えてきた。どこの馬の骨か分らん金髪野郎に負けられない。


「ふむ…(これくらいでは参らんか…では少し強く行こうか…)」


男がそう感じたと同じくらいのタイミングで肩をトントン叩かれたのに気づく。


振り返ると生一がスタンバイしていて、口から緑色の液体を勢いよく噴射した。



“毒霧”だ。



「グウゥッ!」


男は始めて苦しそうな表情を見せる。


顔が緑の液体で染まった。目に染みたようで顔を抑える。


そしてその顔面を勢いよく踏みつけた。



しかしその攻撃がかえって男の怒りに火をつけたようで、怒りのまま上着を脱ぎ、黒のノースリーブという服装を見せる。


体制を立て直した生一を睨みつけ、悠然と向かってきた。


それを見た小谷野と兼元が対抗するように生一の前にスッと立ちはだかる。


「生一狙いか?させねぇよ!」と構える。


しかし2人の手前へ一足飛びで間合いに入ったと思ったら、下から円を描くように突き上げる蹴りを披露した。



「ヤベェッ!」とっさにその蹴りの危険度を直感的に感じた生一は、2人の襟元を強引に掴み力任せに後ろに引っぱり寄せた。


首がむち打ちのような感じになったが、間一髪で円暫のような蹴りを交わす2人。


しかしなんと蹴りの風圧で二人の髪の毛が剃り切れる。バリカンで一部を削り取ったような跡ができた。


「こいつ!間一髪ではあるが避けやがった。」


生一の反応に驚く男だったが、それよりも奥からこの部屋に入ってきた屈強な男性達を見て落ち着きを取り戻す。


そしてスーツを着込みなおす。


「どこへ行っていたのだ。“Beast”それと“Tyrant”」


「すいません。バーンシュタイン殿。」


「まあ良い。早速だがそこのネズミ3匹を始末してくれ。」


「分かりました。」



生一達にも聞き取れた短い会話のやりとり。


しかしそこからは“Beast”と“Tyrant”と呼ばれる男との対決が始まった。


生一はボディブローで吐血している。…実質小谷野と兼元が1対1で対峙しなくてはならない。


状況はかなり不利になった。


「クソっ!俺も加わるッ!」


生一も割って入ろうとするが“Tyrant”と呼ばれる男の蹴りが入る。


ものすごいエグイ蹴りだ。


ボディに入ったためこれが決定打になった。2度も古傷をやられた生一は立ち上がれずに悶える。


駆け寄る小谷野と兼元。



しかし今度は“Beast”と呼ばれる大男が立ちはだかった。


同じくボディブローを放つ。


ガードをするもガードごと吹っ飛ばされた。そのまま背中を痛打する。


2人とも食べたものを吐き出してしまった。


吐いたものが手にかかった事に腹を立て、“Beast”は怒り任せにぶっ飛ばすような蹴りで2人をノックアウトしてしまった。


かろうじて意識はあるものの、立ち上がる力もない3人。


完全に勝負は決してしまった。


「話にならん奴らだが、とりあえず私たちの邪魔をする奴に変わりない。海峡を越えたらこいつらもあいつら同様、鮫の餌にでもしてしまえ。」


「分かりました。バーンシュタイン殿。」


そう言って格闘家らしき大男“Beast”と“Tyrant”に動けなくなった3人を運ばせるバーンシュタインという男。


「く……そ……」


抵抗空しく担がれていく3人。



銅像の置いてある部屋から廊下へと連れ出される。



奥の方から誰かが呟いてきた。


「俺が出るまでもなかったか?」


「まぁそう言う事だな。“Ice Emperor”明後日までは退屈だろうが我慢してくれたまえ。」


「ま…だ…おる…(俺…ら…鮫の餌に…されてまうんか…ぐ…)」


まともに腹部に打撃を受けて力が入らない3人。


なすがままにどこかに連れていかれていく生一達。


やがて立ち入り禁止エリアから姿を現す生一達3人と大男3人。


引っ張り出され、この牢屋につながる場所よりももっと劣悪な場所に連れていかれようとしていた。




立ち入り禁止近くで生一達を探していた仁科さんは、3人に遭遇しその姿を見て驚く。


屈強な2人の男に担がれ、大柄な商人風の男と共にどこか連れていかれようとしている。


そして生一ら3人はぐったりしている。


生一に至っては吐血していて虫の息のようだ。



一番先頭を歩く2m近い男…、身なりからして富豪の商人だと判断した仁科さんは彼…バーンシュタインという男の元へ急ぎ駆け寄った。


このままじゃ3人が危ない…そう感じた仁科さん。


ダメ元で目の前の男にドイツ語で“交渉”を申し出た。



仁科さんの声で彼女の存在に気づく生一達。…でも体が動かない。



「商人さん。取引をお願いしたいのですが聞いていただけませんか?」


「これはこれは東洋のお嬢さん。言葉が通じるとはすばらしい。お互いに有益な事でしたら話に乗りましょう。交渉事は得意なものでしてね。」


まずは話に応じてくれた。


言葉も通じる。


身なりなどからこの男性は唯一話の分かる相手…だと信じたい。



「恐れ入りますが、後ろに担いでいる男性は私の知人です。


何かとても無礼な事をしたのでしたら心から謝罪致します。許していただけませんか。


そしてお許し願えるのでしたら、彼らを解放して頂きたいのです。慰謝料は言い値で支払いい致しますので。どうかお願いします。」


慰謝料で手を打とうとしたのだ。


「私たちはお嬢さんから慰謝料を頂こうなんて思っておりませんよ。ただ、非礼に対しての措置を取らないとこの者たちの気が済まないようですのでね。


命までは取らないということなら交渉はできますが。」



一見へりくだった言い方に聞こえるが非常に乱暴な交渉だ。


3人の身の保証は出来ないという事を盾に無理難題を吹っ掛けるつもりだろう。


仁科さんは息を飲む。


体は少し震えていた。


交渉の条件が悪くなっていく前に手を打たないといけない。選択権は向こうだ。



「でしたら……この私と引き換えに3人を解放いただくというのは如何でしょうか?」



自分を犠牲にしてでも3人を助けられないかととっさに申し出る仁科さん。


その申し出を聞いていた男が後ろから急に話に割り込んできた。


先ほど、傍で食事をしながら仁科さんに視線を送っていた男達だ。


「バーンシュタイン様、是非その条件叶えてやっていただけませんか?俺、アジアのビスクドールが居なくて不満だったんですよ。5日間もどうやって過ごそうかと…」


「“アイアン”それに“ブリッツ”それでいいのだな。」


「勿論です。こういう子、大好物です。」


交渉成立のようだ。


バーンシュタインと呼ばれるその男は新たにやってきた2人の屈強な男との話を終え、仁科さんに視線を向ける。


「どうやら我々との需要と供給が成り立つようだ。発した言葉は引っ込められないが良いかね、お嬢さん?」


「3人を開放してくれるのでしたら………応じます。」


「やったぜ。新しいビスクドール!」


「おい。」


バーンシュタインは後ろで生一達を担いでいる“Beast”と“Tyrant”へ視線を送り、声をかける。


その声で2人は生一達を肩から降ろし、仁科さんの方に向けて放り投げた。


仁科さんの足元で苦しそうにする3人。



「では、我々と来てもらおうか。」


バーンシュタインが手を差し出す。


震える手ではあるが、その手に応じる仁科さん。



放り投げられ吐血をしている生一が必死に仁科さんに声をかける。日本語だ。


「やべ…ぞ…行くな。逃げ…ろ…危…ね…」


「仁科…に…げろ。」


仁科さんも日本語で短く返答する。


「逃げて!私の事はいいから。」


仁科さんはロープで一旦軽く手首を縛り付けられる。そして再び立ち入り禁止エリア内へと一人、連れ込まれていった。


屈強でいかにも目の危なそうな5人の男達に囲まれて。




その後姿を見ながら必死の形相で起き上がる生一達。


「無茶や!例え葉月だったとしても体格が違い過ぎる!こんな屈強なヤツらに囲まれたら…クッ…ちくしょう!!」


危ないと感じた3人はボロボロの体にムチ打ちながら、真也がいる大部屋へ急いだ。


這いつくばりながらも全力で走る。



「真也呼ぶぞ!急がねえと仁科が危ねぇ。」

Season2/36話からの続き。第2回目の劇場版エピソードに入ります。


豪華客船『Venusヴィーナス』の中で繰り広げられるメンバーの激闘とラブロマンスをChapterに分けて描いていきます。


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