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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
MOVIEⅡ【A面】
139/227

Departure ~自由と信念①

Chapter1

広大な港ではあるが、その港の中でもひときわ目立つ大型客船『Venusヴィーナス



現在出航ゲートが開き、1等客から順に乗船が始まっている。



御昼下がりの港町。


客船搭乗の為、勇一達9名は船の搭乗ゲートに並んでいた。



風が心地よい。



大都市ということでそびえたつ高い建物。



それらの建物を見下ろせるほどの大きな客船へこれから搭乗するのである。



勇一達がゲートで待っていると大きな歓声が届いた。


どうやらこの辺では各界のVIPらしき人もこの船に搭乗するようだ。付き従えているものもいる。明らかに大金持ちと分かる。


「何か知らんけどお偉いさんが乗るみたいやで。ツラ拝みにいこや。」


「ツラって…物好きだね。荷物見てるから行ってくれば。」


「俺のリュック絶対に中見んなよ!」


「何よ。そんな事言わなくても見ないから。兼元も早く行ってくれば?」


「静公も来い!」


「あ、うん!」


「俺も行ってきていいすか?」


「いいよ。いつにもなくワクワクしてるね亮二。」


生一、兼元、小谷野、八薙はその盛り上がりの渦中を見に行く。




「やっと旅らしくなったな。」


勇一が真也に言う。勇一なりに真也の心情を気遣っていた。


「そうですね。楽しい旅にしたいです。」


しかし勇一からしたら意外とも言えるくらいすがすがしい表情と返事が返ってきたので安心する。


「じゃあ俺もどんな著名人か見てこようかな。」


真也に荷物を持っておいてもらい、盛り上がりを見せる搭乗口の方へ行ってみる勇一。




ごったがえす群衆の中、噂声が聞こえる。


「船で結婚式を…」という単語がちらほら聞こえた。イタリア語だ。


まだきちんとヒアリングが出来ないが、単語はいくつか覚えた。確かに結婚がどうとかいう言葉が聞こえた。


人ごみの中、生一達を見つける。


「あいつらあそこに陣取ってたか…おーいきいー」


その時“ワアアアアアア”という大きな歓声の中、ひと際美しい女性が船内の搭乗口から入船していった。



まずスーツを着た男性とその家族らしき人達。


身なりで大富豪というのが分かる。侍女らしき人やガードマンも20名以上抱えているようだし。


その後、その後ろを美しい女性が遅れてついてくる。


日本人から見ても美しさが分かる。


旦那様らしき人の後を追いかけるような感じでその女性は小走りに船へと乗り込んだ。


その後、その美しい女性の母親らしき人と侍女のような方が続いた。



「ほおおおお。奇麗やな~」


「せやな。こっちの国の美人ってあんな感じなんやろうな…」



静那はその美しい女性の左手に何かを見つけ、生一へ伝えた。



「凄く綺麗だね。それにあの人、左手に薬指があったよ。」


「…うん。まぁ…その、あったよな。何つうかお前の言わんとすることは分かるけど、まだ時々日本語がおかしいぞ。」


「そうだった?」


「まぁええよ。俺らももうすぐ搭乗やし戻るか。」


「そうだね。あ、勇一!勇一も見た?さっきの女の人。」


「うん。ちょっとだけだけどね。


なんか旦那さんみたいな人が前の方歩いてたけど、あれは日本じゃ良くないな~」


「なんか良くなかった?」


「うん。ああいう場面はさ、日本では奥さんの歩幅に旦那さんがきちんと合わせてあげるもんなんだよ。奥さんの歩くスピード無視して、さっさと船に乗り込んでいったように見えたからさ。」


「そう見えたんだ。勇一は優しいね。」


「静那ちゃん!もちろん俺もそう思ってたよ。」


「俺もやで。あんな男は旦那の風上にも風下にもおけんってな。」


「うん。旦那様ならそう感じると思ってた。」


「せやろ~。やっぱり男が違うよ。」



「(絶対ウソやろ!)」と思いながらも今は全員の気分が高揚中だ。あまり変なチャチャは入れないようにしようと感じる勇一。





搭乗までは結構待った。


なにせ乗船収容人数は3000人以上だ。


乗り込む人も大勢いるうえ船旅で使用する食材や用具の積み入れ作業なども同時並行で行われる為、どうしても時間がかかる。


その間、皆にさっきの搭乗口での様子を共有していた。


「すごいビシッとしたスーツ着た男の人と奇麗な女の人が搭乗した時、歓声が上がってたんだ。


聞いた感じだと、この船の中でその2人の結婚式が行われるんだって。


渡航スケジュールが4泊5日でしょ?その4日目の午後に船の中で結婚式するって言ってた。テレビ中継もあるみたいでカメラマンさんも乗り込んでたし。」


話ながらやや興奮気味な静那。


聞いている皆は静那が楽しそうなら何よりという表情を見せる。


“結婚式”がどういうものかは知っているものの、こんな大掛かりな結婚式に遭遇するのは初めてだ。


静那でなくとも色々と想像が膨らむのも無理はない。




話をしているうちに、ようやく勇一達も搭乗となった。




足を踏み入れた途端、船内スタッフが会釈のような感じで搭乗客をお迎えしてくれる。


超大型客船を利用する事の実感…少しリッチな気分になれた。


入船してすぐ。


入り口付近にガラス張りで結婚式用のドレスがお目見えしていた。


おそらく4日目の結婚式で新郎新婦が着るものだろう。


よく見たら下の方にイタリア語で『船上結婚式用衣装』と表記されていた。



そのガラス張りに展示されているショーケース内の純白ドレスの前を通りかかった時に小谷野と兼元が口々に静那に言う。


「静那ちゃん。俺達の結婚式これ着なよ。絶対似合うって。」


キラキラしていてなかなか高級そうなドレスである。


静那は顔を緩ませながらも予算の事が頭をよぎったのか…


「レンタルで十分、だよ。」と返答。


静那が答えそうな返答だった。


しかし兼元と小谷野は結婚式の情景を思い浮かべてその場でニマニマしている。



船上案内人の方に「すいませんお客様。後ろがつかえていますので。」と言われるまでずっとガラス越しで不気味な笑いを浮かべていた。


生一がボソッとその様子を見つつ呟く。


「今の…逆やろ。」




船内に入る。


まず巨大な吹き抜けのエントランスがお目見えする。


上から下まで7階くらいの構成だ。


上階はそのまま映画館やプールに繋がっている。こちらは時間が来たら解放されるエリアという事で今はまだ入場が出来ないのだが。


ぱっと見るだけでもこの豪華な造りが分かる。



入っていきなり色んな“凄い”がちりばめられた空間…


八薙は柄にもなく興奮していた。


「楽しそうだね亮二。」


「そりゃあこんなデカい船初めてだからな。まるで一つの街っていうか一つのタワーマンションごとワープしてきたみたいで。


人の数も凄いし船内スタッフの数もすごいし、探検心掻き立てられてなんだか童心に戻ったようだよ。」


「食事できるレストランも40くらいあるんだって。規模が桁違いだね。」


静那も話に入ってきた。


目に移る船内の情景全てが初めてだ。



さらに奥へ入る。


入り組んだ客室。階段の装飾もすごい。


煌びやかなエントランスから一番下の階まで降りていく。


やや落ち着いたエリアに入った。


一番等級が下のクラスだ。


ただ、一番下のクラスとはいえきちんと部屋はある。


連なった大部屋と中部屋。


事前に調べて、仁科さんが男性用部屋と女性用部屋にあたる2つをリザーブしてくれていた。



興奮冷めやらぬ中という言い方がいいだろう。


落ち着いていられない男性陣だったが、まず一旦男性用の大部屋に全員が集まり、これからの4泊5日の船旅の航海スケジュールを確認する。


1日目の今日は事前予約しておいた夕食だけだが、明日から船内の飲食店は自由に利用できる事。


上階のアミューズメント施設は大体が22時で閉まる…などの最低限のルールの確認。


話し合いを始めていく前に皆の分のお茶を入れる静那。


ジャスミンティーを9名分入れてお盆のようなものに乗せて配膳しようとした時、小谷野が換気の為に部屋に設置してある窓を開ける。


とたんに海側の窓から風が勢いよく入り込んできて、静那のスカートが全てめくり上がるハプニングが起きた。


しかし静那は両手でお盆を持っていた為、無防備な姿を晒してしまう。



「おおぉ…いいパンツだ!」


「何この絶景~」


「わわわわ!ちょ!ちょっと~旦那様~」



流石にこれには仁科さんのエルボースタンプが小谷野の脳天に炸裂する。


「あんた、今静ちゃんの手が離せないタイミングでワザとやったでしょ!さすがに今のはやりすぎよ。いくら乗船して気分が良いからって静ちゃんにこんな事するなんて!」


「違うんだって静那ちゃん。わざとじゃないから!本当に。ごめん。こんなに風が強いなんて思わなかったんだよ。」


静那は黙ってお茶を乗せたお盆をテーブルへ置き、スカートに手をやり真っ赤な顔をしてうつむいた。


「あ~あお前やらかした~。もう船内で口きいてくれへんかもしれんで~」


「そうだぞ。今のはやりすぎだ。」


「だからワザとじゃないって。ね、ね、ごめん。」


「うう……もうやめて下さいよ。恥ずかしかったよ…。」


うつむいた静那にひたすら謝る小谷野。しかし心の中では“最高のオープニング”だと感じる自分もいた。


「ちなみにどんなパンツやったん?」


生一が聞いたら兼元が即答した。


「昨日買ったばかりのやつに決まってるや~ん。もう装備してくれてるなんて感激やわぁ。」


さらに真っ赤になってまたうつむく静那。



「もう最低~。」


「ホント最低ね。」


「ホラ、ちゃんと静公にフォローせえよ。」


静那の耳元に近寄りフォローを入れる小谷野。


「ごめん。静那ちゃん。でも俺、感動した。…いいパンツだ。」


まだ赤くなってうつむいたままの静那。



「おい、なんのフォローにもなってないで。」


「そやで小谷野!ちゃんと謝れよな。


その…静那ちゃん、ガン見してごめんな。でもパンツ…最高やった。メイン飾る時はお互いこのパンツで試合しような。ベストバウト狙えるから。」


ますます顔を赤らめてふさぎ込む静那。



「…お前も全然フォローになってないやん。つうかお前にメインが務まると思うなよ。お前じゃ1分も持たん。ベストバウトなんて夢のまた夢や。


あと、お前も同じパンツ穿くとか想像させんなよな!穿くだけに吐くわ!!」


「そやぞ。その前に挑戦者決定戦が控えてんねん。何の苦労も無しにメインのリングに立てると思うなよ!」





「……なんかまたバカなトークになってるみたいだけど、どうする勇一?」


「うーん。3人とも乗船早々飛ばすなぁ~。でも情報共有が進まないからそろそろやめてもらおうか。おい!静那に恥ずかしい思いさせてちゃんと悪いと思ってんのか!


いい加減話進めたいからこっち座れよ。」



「なんやねん“飛ばす”って。そない言うお前も船降りるまでに結果出せよ。」


「何だよ“結果”って。」


「そもそもお前死角におったからパンツ見れんかったん僻んでるんやろ。」


「違うよ。僻んだりしてないって。」


「強がり言うなよな。まぁ俺ら勝ち組やな。日ごろの行いがちゃうねん。」


「ポジショニングの勝利っつうか。」



「もーいい加減にして!」


調子に乗り過ぎて怒られる兼元と小谷野。



「あの…さ…こっちで話聞こ…」


ボソッと静那が小さい声で話し、兼元と小谷野の腕を掴む。


そして6人が座っているテーブルへ黙って連れてきてくれた。


空気を読んでくれたというか…このバカ2人よりも遥かに大人だ。





迷子になりそうな程の大型客船『Venusヴィーナス』…


だからこそ船内マップを見せて今いる場所を確認した。


上階のアミューズメント施設の閉店時間、立ち入り禁止のエリアなどなど最低限のルール。


一通り船内の情報を共有した後、夕食まで男女別々の部屋に分かれる事になった。


これから2~3時間はしばしの団らんとなる。



今日はとりあえず夕食後は船内での目立ったイベントは開催されず、就寝というスケジュール。


でも男達は乗船の興奮がまだ冷めない。


小谷野と兼元はもともと高かったテンションの上にパンツのブーストがかかり、部屋で落ち着いていられる雰囲気が無かった。


もう“夕ご飯まで待てない”という感じで船内の散策に走る。


「生一!勇一!エントランス上部から港街の景色見に行こうぜ。風にたなびくパンツの股下に広がる景色は絵になるで~。」


まださっき目にした光景が脳内に鮮明に映し出されているのだろう。生一が冷め気味に呟く。


「おまえら絶対アホ。」


「うるせえよ。今なら空も飛べるくらい気分が絶好調やねん。出航したばっかりやし甲板からの様子見ようや!」


「まぁ行くか…。八薙も行く?船から見る港町一帯ってのもええもんやで。」


「はい!行きたいと思ってましたんで。」


2人が羽目を外し過ぎないように監視する意味も含めて八薙も同行する。しかし八薙も初めての船旅にワクワク感を隠せないでいた。




遊歩甲板に出た頃、船は出航したばかりで港では大勢の観客が手を振ってくれているのがまだ肉眼で分かる。


半年近く滞在したトルコをついに出るんだなという実感が沸く4名。


高さもあり圧巻の景色だ。


また縁があればトルコへ訪問したいと心から感じつつ視界はイスタンブール港を離れていく。




ある程度港から離れたので、4人は部屋に戻ろうとする。


その時、一つ上の船橋楼甲板で風をうけて髪が靡く美しい女性の存在に気づく。一人ずっと港の方を眺めている。


意外にも一番早く気づいたのは勇一だった。


「あ…あの人、今回の結婚式の…」


それは搭乗口で大勢の群衆の中、乗り込まんとしていたあの美しい女性だった。


「はかなげな顔がええな~。」


勇一の視線に気づき、小谷野が横からコメントしてくる。


「お前どこ見て…あ!あの子、結婚式やる子やろ…横顔もマジ奇麗やな。」


「なんか気品ありますね。家柄なんでしょうかね。」


見とれる3人。


気のせいだろうか…勇一には、その美しい女性の表情がなにか悲しそうに映った。




風を受けて髪が靡くのがまた良かった。


ただ4人は静那の髪が長かった頃を思い出す。


あの時の静那は髪が肩口くらいまで伸びていて、風になびく様が美しかった。


しかし………少しその後の事件を思い出し俯く。


「戻ろうか…今日はまだ1日目やし。」


生一が言うと意外とみんなすんなり聞き入れて部屋に戻ることにした。


無事出航し、テンションも落ち着いたという所だ。なにせこれから5日間も船内で過ごすことになる。





一方、大部屋…男性の部屋は真也だけ残っていた。


皆の荷物をタンスに入れたり、飲み終えたお茶の片づけをしていた。


そんな折、静那が様子を見に部屋にやってきた。女性部屋の荷物が落ち着いたようだ。


「真也、こっち何か手伝う事ある?」


「いや、もう終わったよ。それに無事船が出航してホッとしてる。」


「不安だった?」


「いや。船旅楽しみだよ。こんな大きな船初めてだし。」


「うん。」


安堵する静那。


「今日の夕食何だろうな。」


「葉月が言ってたけど、中華料理が出るみたい。」


「へぇ~久しぶりだよな。中華。」


「だよね。1日目からテンション上がるね。」


「先輩も静那のおかげでテンション跳ね上がってたし。」


「もう!真也まで。忘れてよ~」


「でも生一さんが“出だしから最高の仕事した”って言ってたよ。意味がよく分からなかったけど。」


「うううう……」






「静ちゃ~ん。昨日買った服、早速着てみないー?」


女性部屋から声がした。


「じゃあ私、3人で着付けしてくる。夕食の時にまた。」


そう言って部屋から出ようとうする静那。



「うん。新しく買った服の方はちゃんと見せてね。どんな感じなのか見たいし。」


「ちょっと真也。“服の方はちゃんと見せてね”ってその言い方おかしいよ。もうっ。」



ちょっと意地悪な冗談も言えるようになった真也。



さっきの気恥ずかしさもあるが、真也を含め皆良い精神状態で船旅を過ごせそうな雰囲気を感じ、口元が緩む静那だった。



やがて空は少しづつ暗くなり、客船での食事会が始まる。

劇場版Ⅱ『Departure ~自由と信念』スタートです。


時系列としては、「 36話 DESTINY 」の続きになります。


【読者の皆様へお願いがあります】

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頑張って執筆致します。今後ともよろしくお願いします。

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