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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
season2【A面】
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35-1 帰国の手がかり

【35話】Aパート

お風呂を済ませた後、各自布団に籠る面々。


皆の表情がおかしい事に静那以外の人間もさすがに気づく。



5人が寝静まった後、1階食堂広間に集まり話をする4人。


静那と生一、葉月と八薙のお留守番組だ。



「がんばって作ったけど、あしたの朝ごはんコースだね。コレ。」


葉月がため息をつく。


昨日オーナーからまたケバブの差し入れをもらっていたのだ。


…皆が大好きだという事だったので。


勇一達が喜ぶかなと思って用意していたのだが誰も手をつけようとせずそのまま寝てしまった。



「それにしても疲れてるとはいええらく元気なかったですね。皆して。」


「そうよね。疲れもあると思うけど他に何かあったみたいよね。」


「天摘は仁科と部屋同じやろ。寝る前に何か話とかせんかったんか?」


「いや、殆ど受け答えしてくれなかった。今も寝てるのかどうか分からないけど布団に包まってる。生一の部屋は?」


「あいつらも何もしゃべらん。真也とかお通夜状態やった。」


「お通夜?」


「ああ、なんかよっぽどショックな事があったんと違うか?」


「…あんまり考えたくないけど、向こうで出会った人が死んでしまったとか。」


「考えられん事もないな。あの表情やと。しかも全員やもん。」


「そう言えば!」


八薙が何かを思い出したようにつぶやく。


「そう言えば、勇一さん肩口ケガしてましたよ。銃で撃たれたって。」


「ええ!それって少なくとも戦場みたいな場所を経験してきたってことかな。」


「銃の飛びかう現場やと…そうなるよな。」


「もしそうなら皆のこの沈んだ表情は辻褄つきますよ。俺達って戦争とか紛争を経験してないじゃないですか。だから初めてその現場を見てショックを受けた…とか。」


「その可能性が高いよね。」


「その上、誰かが死んでしまった…そんな光景を見たら食欲なんて沸かないですよね。」


「確かにね…」


「多分怖い思いしたんとちゃうかな。」



「私は…」


静那も想いを話す。


「私は、皆が無事帰ってきてくれただけでも嬉しかったのにな…」


「まぁそうだよね。危険な思いをしたのは間違いないみたいだけど、皆無事に戻ってこられたんだしね。」


「だから…さ…。勇一達が今回のいきさつを話せるようになるまではそっとしておいてあげたいかなって思うんだけど…どうかな?」


「しーちゃんは優しいね。気にならないって言えばウソになるけど…でもそれで異議無いよ。私は。」


「そうですね。俺もです。多分先輩方や真也は気持ちの整理をつけてる時間だと思うんで。」


「俺も賛成で。じゃあ明日は予定通り行くか。」


「そうですね。俺、Kırmızı fasulyeさん(オーナー)に電話してきます。明日は予定通り行けるって。」


「お願いね。今回のでお金結構使っちゃったからね~。」


「じゃあ私は皆のお昼ご飯を担当するよ。」


「しーちゃん足は大丈夫。まだ無理しちゃ駄目よ。」


「うん。ちょっとずつ歩ける距離を伸ばしてる。焦らないようにするよ。」


「よろしい!じゃあ明日の朝も早いし、私たちも寝ましょう。」




* * * * *




次の日の朝を迎える。


帰ってきた5人は目覚めてはいるがボーっと海を眺めていた。


そんな朝7時ごろ、オーナーのKırmızı fasulyeさんがトラックでやってきた。


「八薙君、藤宮君、準備は出来てるかな?」


バイト先へ送迎する為迎えに来てくれたのだ。



来年の小麦の準備にもう取り掛かる農家さんがいる為、ヘルプを要請してきたのだ。


田舎では常に男手が足りていない。


播種(※種まきの事)まではまだなのだが、それまでに土壌の状態を整える作業が必要だ。


土を耕し肥料をまいておくのは勿論、石灰を散布するなどの作業がある。



こちらとしても旅費を確保しておきたいので、追加のアルバイトに精を出すことにした。


「ちょっと仲間に報告してきます。すぐ行きますんで。」


そう言うと八薙は勇一達が休んでいる部屋へ向かった。



4人は布団から起き上がり、ぼーっとたたずんでいた。


その4人に伝える。


「今から小麦畑にアルバイト行ってきますんで!夕方まで留守にしてます。行ってきます!」


そう行った後、オーナーの待つトラックへ戻っていった。



“じゃあ畑まで行くよ”と車を出そうとしたその時、勢いよく車を呼び止める声がした。


「待ってください!俺行けます!」


「僕も行きます!乗せて下さい!」


「俺も働けるで!乗せてぇや!」


「オーナーさん!俺も乗ります!」



なんと急いで着替えた感のある4人が大声で叫びながらこっちに向かって走ってきたのだ。


そのまま荷台に4人を乗せたトラックは現場まで走っていった。





* * * * *





小麦畑で懸命に働く6名。その様子を見て、農家さん達は目を丸くして驚く。



とにかく何かの雑念から解放されようと…怨念から邪気を払うかの如く一心不乱に土を耕し、肥料を撒いていく勇一、小谷野、兼元、そして真也。


4人はあのトラウマから逃れるように夢中で体を動かした。


何かに夢中でいると一時は忘れられる。


根本的な解決にならないと分かっていても力が入る。


あまりにも鬼気迫る勢いで土を耕しているので、生一と八薙は入り込む余地が無いように感じた。




作業はお昼になる前に全て終わってしまった。


あまりの速さに農家さん達はびっくりしている。


「もう無いですか?他に耕す所!」


4人からの追加リクエストがあったので、オーナーさんは別の現場に連れて行く。


次の畑でも鬼神の如く土を耕していく4人。


結果、お昼過ぎくらいには周辺一帯すべての畑が終わってしまう。


さすがに夢中で体を動かしていたので、真也以外の3人はバテてへたり込む。



何が彼らをそうさせるのか…不思議に感じる生一と八薙。


とりあえずお昼にしようという事で遅めの昼食となった。



「お…肉か。」


「クーラーボックス入れてたから冷たいけどな。肉は差し入れでくれたやつやねん。ほい。」


生一が4人にお弁当を手渡す。


「ありがとうございます。」


「なんやねん改まって。初めてお前に会うた時よりもカタいな。」


心ここにあらずの真也に突っ込みを入れる。


「まぁ良いじゃないですか。真也も先輩方も一生懸命働いたんですからまずはご飯にしましょう。」


八薙が促す。




……


しかしそこから無言の食事が始まった。



広大な畑と自然に囲まれた中でのご飯なのに気が重い。


風の音しか聞こえない。



重苦しいのは苦手とばかりに生一が口を開く。


「なあ、何かあったん?言いたくないならええけど心が便秘みたいになるで。」



「…まぁな。でもなんか気持ちの整理がつかんねん。まだ。」


「ミスター下半身・小谷野ともあろうものがえらい弱ってんな。お前が少し話してたあの嫁3号になんかあったんか?」


「いや…嫁3号は大丈夫やった。今も元気や。」


「なら良かったやん。どした?プロポーズしたけどフラれたとか?でもそれやと真也や勇一まで落ち込んでるのがどうもリンクせんしな…。」


「まぁ今は無心で仕事させてえや。お前もまだ体調万全違うんやろ。」


「俺のことはええよ。もっと酷い状態からリハビリ頑張ってるやつもいるし。」



その言葉を聞いて無口になる4名。


静那の事を言うと何か反応を見せるのに気づく。




4人はまた無言で食べ物を口に運び始めた。


そんな食べている様子を見ながらまた生一がつぶやく。


「そういえば今日のお弁当、静公が作ってくれたんやで。お前らが起きるよりも前に起きてさ。キッチンで色々作ってたな~なんか愛妻弁当みたいやん。」


「静那がか…」


皆の顔が明らかに強張った。





八薙は口に出さなかったのだが生一は核心をつく。


「やっぱり、あいつに絡むことなんやな…」



またしんと静まりかえった。



「いつ言う?墓まで持っていけるもん違うやろ。」


「違うけど…でもな…」






暫く無言だった真也が口を開いた。


「静那のお父さんが………いた。」




* * * * *




所変わってこちらは施設内。


葉月と静那が一緒に洗濯物や布団を干している。



「しーちゃんお疲れ様。

朝から人数分お弁当作ったりして大変だったでしょう。これからは自由にしていいからね。」



「うんっ。そういえば小春は?」


「小春ならまだ部屋にいるわね。気が抜けたみたいになってる。」


「どうしよう。」


「そっとしておいたらいいんじゃない。今ここって女の子しかいないでしょ。あの子も誰かがいる時は気を張っていたと思うから、こうやって脱力する時間も必要よ。

意外と気を使うタイプなのよ、小春って。」



「私もそう思う。すごく気が利くよね。」


「だからこそゆっくりさせてあげてもいいかなって。」


「じゃあお布団は…」


「起きてたなら回収してきてほしいかな。今日いい天気だから干しておきたいし。」


「いい天気かぁ。皆頑張ってるかな。」


「朝急に全員出払っちゃって驚いたけどね~。」


葉月の声を後に、静那は仁科さんの部屋に向かう。女性の寝室だ。




彼女は起きていた。


でも無言で窓の外を見ている。


「ふとん、回収しますよ。」


静那の問いかけに無言で目をやる。しかしそれ以上に何も言わない。


静那は気をつかわせては悪いと布団を持って部屋を出た。


そのまま日の当たる部屋に移動して布団を干そうとする静那。


そこへ葉月がやってきた。


「ありがとう。あとはやるよ。どうだった?あの子。」


「うん…元気なかったな…。」


「よっぽど怖い思い、したんでしょう。そっとしておきましょう。」



「あの…さ。」


「どうしたの?」


「私の…せいだよね。みんながこんなに怖い思いしてふさぎこんじゃったの…」


「しーちゃん…」


「私がお父さんを探しに行きたいって言ったから、皆を巻き込んだー」


「しーちゃん!それは違う。しーちゃんは何も悪くない。」


「でも皆怖い体験したみたいで顔が全然違ってた…旦那さんが…“嫁”ってまだ一度も呼んでくれなくて顔も合わせてくれなくて…。

真也はずっとうつむいてるし。

こんな辛い思いさせたの、私にも原因がー」



ここで言葉を制して静那を抱きしめる葉月。


「あなたは悪くないの。だって私、今とても幸せだもの。大学よりも…会社よりも…もっと大切なものを手に入れる事ができたし。

こんなに自分が変われたのも皆と居たから、しーちゃんといたからだよ。

一緒に居てくれてありがとうって心から思える。

だからしーちゃんは自分を責めないで。」



「でも…どうしたら。」


「いつも通り明るく元気で居てくれたらいい。」


「いつも通り…」


「そう!しーちゃん、素が可愛いんだから居るだけで皆を幸せにしているんだよ。

あいつらそんなありがたみも忘れてから…酷いよね~。

今日、仕事から帰ってきて誰もお弁当のお礼言わないようだったら、小春じゃなくて私があいつらをぶちのめしてあげるから。ね。

あなたが居てくれるだけで皆が幸せなの。」



「それだけでいいの?」


「勿論よ。思い出してみてよ。

事故の後、城門の前で皆と再開した時の勇一のあの顔、覚えてる?

皆が見てるのにも関わらず顔クシャクシャにして泣きはらしてさ…可笑しいよね。でもそれくらいしーちゃんが生きてくれていた事が嬉しかったのよ。

歩いて見せた時、真也君も泣いてたでしょ。皆嬉しくって仕方なかったのよ。

それだけあなたは皆にとって大切な存在なの。

皆が大好きなの。」




2年前…初めて葉月と出会った頃は、まだ大人しい小柄な女性という感じだった。空手をやっている為か、寡黙であまり人と交わろうとしなかった。


しかし自分の人生を歩いていくようになってからはどんどん変わっていった。


そして今では凛とした自立したお姉さんになっている。


ちょっと男勝りなくらい気が強くなった部分は仁科さんの影響ではあるが…。




お互い身長はそんなに離れていないが、かまわず静那を優しく包み込む。


抱きしめられた静那は肩にもたれかかる。


「もうちょっと…甘えてていいかな。」


「勿論よ。そういうことは気兼ねなくどんどん言うものなの。」

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頑張って執筆致します。よろしくお願いします。

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