32-2 見えてきた片鱗
【32話】Bパート
一同は山道にある“ステパンツミンダ”という国境通過ポイントからロシア南部に入る。
この頃はNATOの加盟国ではないので国境を越えるポイントとして機能していた。
グルジアからタクシーを使い、山道を北上していく。
もう7年も前だが真也にとっては思い出したくない事があったのだろう。
国境を越え、軍用道路のような殺風景な道路を走っていく。
まず見えてくる北オセチア共和国の町並み。
紛争があったような面影は既になく、人口もそれなりに居そうな町に入った。
標高の高い所に位置する町というイメージで、建物もそれなりに高い。
「真也…道、合ってるか?」
「はい。絶対とは言えませんが。」
昔の記憶を頼りに真也は周りを確認していた。
7年も経てば見違えるくらい建物も増え、景色も変わる。
頼りになる情報といえば“山々の地形”くらいだ。
あの時真也の印象に残っていた車から見えていた風景は……緑が少ないゴツゴツした山々。
「あの山越えられますか?」
タクシーの運転手は言葉が分かるので助かった。言葉が分かるって本当にありがたい。
「この山の先に盆地があると思うんです。確か。」
山は次第に緑が少ない鉱山のような景色になっていく。
そこを蛇行運転を経て山に登っていく。
黒っぽい山道に入る。
そして下りに入ろうかというところで真也は一旦止めてもらうように告げた。
遠くの山間に盆地が見えたからだ。
盆地内は殺風景な岩山と違い、緑が広がっていた。
そして中心部には民家もちらほらある。
「あれ?…家が…建ってる。もしかして違ったか…。」
真也は周りの山の地形を見ながらこの辺ではないかと模索する。
しかしそれ以外の決め手がどうにもない。
結局運転手さんには多めにお金を渡し、先ほどの町に戻ってもらった。
今晩はそこで待機してもらうようにお願いしたのだ。
何も無ければ歩きになってしまうが、ふもとまで一旦降りていき、そこから国境付近までは帰りのタクシーとして利用させてもらいたいという話をつける。
2~3日だけ猶予を頂きたいと3泊分程のホテル代も追加で渡す。
ロシアに入り、会話が通じる人がこのドライバーさんしかいなかったので、どうしても近くにいてもらいたかった。キープしておきたかった。
タクシードライバーさんと別れた後、盆地の方に歩いていく5人。
山の形を見ながら昔の記憶を総動員させる真也。
でもそれと同時に忌々しい思いもどうしても蘇ってしまう。
心は終始乱れていた。
* * * * *
蛇行した長く続く道を歩き、小さな民家が並ぶ盆地の村に入る。
どれも全て1階建ての民家だ。
子どもさんは1人も見当たらない。
代わりに村の大人達何人かと目があう。
肌の色が違う人間が何しにこんな僻地に来たんだという表情を見せる…が武装はしていない。
でも“何しに来た感”は拭えない。
やたらと視線を感じる。
こちらとしても言葉を話せない。
「完全アウェーやな、ここ。」
緊張感をほぐそうと小谷野が呟く。
「そうだな…言葉が喋れないって辛いな。さて…どんなスケジュールでいくべきか…。」
その言葉に反応する真也。
「とりあえず一緒についてきてもらえませんか?できるだけ固まって歩きましょう。
村の人危険ってわけじゃなさそうですけど。」
異議なしという感じだ。
男性陣は仁科さんを囲むようにして歩く。
目が合った村人に仁科さんがグルジア語で挨拶をしてみるのだが無反応だ。やっぱり言葉が通じていないようだ。
「国境を越えたとたんに言葉が通じなくなるないなんて感覚……日本じゃまず無いよね。でも隣国なんだからだれか一人くらいは言葉分かるんじゃないかな?だからさっきから声かけてるんだけど。」
仁科さんも通訳で同行しているからにはなんとかしたいと感じているのだろう。
仁科さんにも、真也の強張った何かに怯えた感じの表情には当然気付いていた。
彼の力になりたかった。
その後も家の窓からこちらを見ている人に向かってグルジア語で挨拶をしてみるものの、反応はない。
仕方ないが、真也を先導に盆地の中心部に向けて歩いていく。
真也はどこを目指しているのだろうかと感じたが今は情報が圧倒的に乏しい。
だまって後ろをついていく。
村人達は武装して一斉に襲ってくるなんていう雰囲気こそ無いのだが…視線を感じて歩きづらい。
「どうする勇一…チ■■でも出して緊張解く作戦とかどう?」
「おいっ!バカなことすんなよ!絶対にやめろ。とりあえず今は真也を信じよう。」
勇一が急いでなだめる。
民家エリアへ入ってから歩いて30分程。
民家が密集している盆地の一番中心部辺りまで来た。
そんなに広くない広場。そしてその広場前に3階建てくらいの建物が建っている。
比較的新しそうな建物…この盆地の中では一番大きい建物みたいだ。
真也は到着するなり中心部に建つその建造物をじっと見る。
昔ここに何か別の建物が建っていたかのような視線だ。
他の4人も真也の視線に続けとばかりに建物を見てみる。
大きい建物だが人が住んでいるような気配がまるでない。ここの村人の集会所のような所なのだろうか。
その後、真也はまず建物の上層~天井付近を見回す。
…3階の屋根に、小さいが“電波塔”が添えつけられている。
その後、地面に目をやる。
…勇一達から見ればレンガ造りの地面。目立ったものはない。日本で言う“マンホールの蓋”のようなものが一つあるだけだ。
ここで真也は何かを思い出す。
あの時……家の様子を見に行ったらミシェルさんと諭士さんが電波でやりとりをしていた…。あの場所……あれは確か“地下”だった。
そうだ!
この建物近くには地下がある。
この建物自体は見せかけだ。まるで人の気配が無い…。でも電波塔がある。
そして地下に繋がるような入り口は、ここまで歩いてきた中では見当たらなかった。
そう感じた真也は、一見マンホールの蓋のように見える場所向けて歩を進めていった。
その時に何か視線を感じた。
しかし構わず真也は一人マンホールの蓋部分まで歩いていく。
勇一達は少し離れた所で見ているが、真也の狙いがまだよく分からない。
でも彼が何かを思い出したかのように感じた。
マンホールの蓋に手をかける真也。
しかし取っ手はついているものの蓋は持ち上がらない。
一旦辺りを見渡す真也。…だが、マンホールの蓋があるのはここしかない。
意を決したかのような表情をしたかと思ったら、真也はマンホールの蓋の取っ手部分を掴んで力いっぱい引っ張り上げた。
力づくで…という言い方が合っているのか、無理やり蓋をぶち空けてみせた。
あの蓋はどれだけの力があれば持ち上げられるのだろう…そんな事を感じた勇一だったが、間髪入れずにどこからともなくサイレンが鳴り出したのだ。
いくら異国の地とはいえ、排水溝などに繋がるマンホールの蓋を取ったくらいで普通サイレンは鳴らない。
そのマンホールの下こそ、アジトへの隠し通路だったのだ!
サイレンを聴いてか、もしくは近くで真也の様子を見てスタンバイしていたのかは分からないが、2~30人の軍人のようないで立ちをした大人たちがドヤドヤと広場に集まってきた。
そしてあっという間に真也達は囲まれてしまった。
何人かは護身拳銃・デリンジャーを持っている。そして勇一達に向かって何かを叫んでいる。
叫ばれた勇一達は驚くものの、言葉が分からない!
ここで仁科さんが機転を利かせた。
とっさに空に向かって声を張り上げた。
「グルジア語、話せる方居ませんか?誰かグルジア語でお願いします!」と叫ぶ。
すると一人の軍人が前に出てきてグルジア語で話してきた。
「手を後ろにして伏せろ。お前たちはもう囲まれている。」
ここで4人は言葉を理解し、全員手を後ろにしてしゃがみこむ。
銃を向けられてしまえばもうどうしようもない。
取り囲んだ人数は30人程だ。真也一人なら逃げる事が出来たかもしれない。しかしこっちには仁科さんがいる。決して荒っぽい事は出来ない。
真也も一旦大人しく捕まる事を選択した。
鎖で手を縛られ目隠しをされた上で無理やりどこかに連れていかれた。
グルジア語を喋れる軍人は去り際にこう言ってきた。
「秘密基地を知られたからには 返すわけにはいかん!」と。
* * * * *
どうやら牢屋に放り込まれたようだ。
目隠しは外されたが鎖式の手錠は繋がれたままステンレスの頑丈そうな牢屋に5人とも押し込められた。
どうやらスパイと勘違いされているとはいえ、扱いが…酷い。
「(また静那に心配かける事になるな~。でも今回は仁科さんもいるから弁解してくれるか…)」などと悠長な事を考えている場合ではない。
この武装集団達にこの後どんな仕打ちをされるのか分からないのだ。
なにせどこの誰だか分からない軍の秘密基地の場所を暴いてしまったのだ。
敵軍のスパイと思われても仕方ない。
その場合…さっき向けられたデリンジャーが頭をよぎる。
最悪の場合、銃殺……されてしまうのか。
一刻も早く誤解を解かないと。
でもピンポイントで真也が基地の場所を特定してしまったのはどう考えてもまずかった。
傍から見れば、まるで真也があの場所を知っていたかのような感じである。
「真也!グルジア語が話せる軍人さんが来たらとりあえず誤解を解く。仁科とやれるだけやってみる。
だから今のうちに教えてくれ!なんであそこが基地の入り口だって分かったのか。頼む。」
両手を縛られて動きづらいが、なんとか起き上がり仁科さんも起きあがらせる。
大人しく捕まったのもあり暴行は受けていない。
「以前この盆地に行った時、あの場所は確かプレハブのような簡易施設が立ってました。
施設の隣には小型の電波塔も立ってました。
その施設の中の様子はしっかり覚えていて…ミシェルさんと諭士さんが施設の下。地下に潜って電報で外部とやりとりしていたのを見たんです。」
「だから直感で地下への道がどこかにあるって思ったのね。」
「はい。見渡してみても施設が建ってたあたりにはマンホールの蓋しか無かったので…」
「それで合点がいったよ。じゃあ真也はこの基地の人たちの反組織の人間じゃないって。ミシェルさんの知り合いだって言えば…。」
「でもそう言えば大丈夫って言い切れません。もしかしたらここ一帯が既にどこかに乗っ取られた可能性もあります。あれから7年もの歳月が経ってるんですよ。
ここの盆地、中継地点としては紛争時などは実用的な場所だと思いますので。敵方も欲しがるエリアでしょう。」
「…紛争は終わっても局地戦はまだ終わってないと…」
「その可能性が無いとは言えません。盆地に建つ家をカムフラージュに見せかけて地下に基地を作っているんですから。」
「だったら最悪の場合、俺達ミシェルさん達の敵方に捕まったことになるよな。マズイな。その場合だとまず助からないんじゃ。」
「その可能性もあるなら、ミシェルさんの名前を出すのはまだ早計ね。とりあえずあのグルジア語が話せる軍人がこっちに来たら、どういう話の切り出し方をすればいいかな。」
「そこだよな。真也がピンポイントで基地の場所を特定したのが不味かったな。」
申し訳なさそうな表情をする真也。
「あぁ待って。どっちにしてもアレしないと事態は進まなかったわけだし。その…済んだことは仕方ないさ。切り替えてこれからどうするかを考えよう。なぁこや…」
小谷野と兼元は牢屋の前で文句を言っている。伝わるわけないのにカタコトのグルジア語で。
「おい!出せよ!」
『うるさい!静かにしろ!』
牢番が怒鳴り返すが向こうはロシア語だ。お互い会話が成立していない。
「くそっ!腹減ったぞ。こっちって産地なんやろ。キャビア丼持ってこいオラ!飯食わせろ!」
今度は日本語で牢番に文句を言い始めた。
こんなに相手を怒らせていたら真っ先に外に出されて銃殺されてしまう勢いだ。
しかも“キャビア丼”とかほざいている。
今の自分の立場が分かっていない!
日本語で叫んでも自分達以外誰も理解できるわけない…
ここはロシア南部だ。
そう…誰も言葉を理解なんかできるわけ…
そこへ、その“日本語”に反応した軍人姿の男が様子を見に来た。
「え…あ……ミシェルさん?え?」驚いた顔の真也。
おそらくロシア語だろう。牢番と会話する。
『これは大佐!お疲れ様です。』
『君、実は…』
何やら重役そうな呼ばれ方をした方が牢番と話をしている。
後姿で良く見えない…が、リーンの父親?と一瞬思ってしまう程似ている。
『そうでしたか…では急ぎ対応致します。』
話し終えると、その軍の重役のような方は奥の部屋へと消えていった。
その後牢屋がカタカタという音と共に開かれた。
『おい、出ていいぞ。』
牢番はそう言ったのだが言葉が分からない。
でも出ていいという事なんだろう。
勇一が恐る恐る牢屋から出ようとしても止めようとしなかったから。
「さっきの人…」
真也が呟く。見覚えのある顔のようだ。
「ああ、俺も見覚えある。あれはリーンのお父さんだ。軍服を着てるから一瞬分からなかったけど。」
「そうか?俺は後姿だけでよく分からんかったで。」
「確かによく分からなかった。まだ決めつけるのは良くない。だからさっきのボスっぽい軍人さん探しに行こう。アジト内にいるはずだ。」
「行きましょう。」
真也が急かす。
「真也君待って。気持ちはわかるけどまずはここがどこなのか分からないでしょ。それに…」
鎖の手錠を見せる。
手を自由に動かせないのだ。
「それならのけてもろたで。」
兼元が自由になった両手を見せる。
見ると牢番の男性が小谷野の手錠を外してくれていた。
やや申し訳なさそうな顔をしている。
「まずは全員の手錠を外してもらいましょう。それから行きましょう、真也君。」
「はい。すいませんでした。」
「謝らなくていいのよ。どうやら助かったみたいだし。」
5人の手枷が取れた後、牢屋のある部屋を後にする。
ここは…おそらく地下施設内だろう。
勇一達は地下施設内に監禁されていたようである。
部屋を出る時に伝わるかどうかは分からないと思ったが、番兵に軽く会釈をして退出していく勇一。
番兵はそんな彼らを見ながら“ロシア語”で呟いた。
『大佐の知り合い達だったとは。どう見てもまだ10代の子どもなのに。』
* * * * *
基地の中は精密機械に囲まれていた。
5人は研究室らしき部屋に入る。
何人かの研究者のような姿をした方がコンピュータを操作していた。
仁科さんがその方々にまず聞いてみる。「グルジア語、分かりますか?」
幸いなことにほとんどの研究者が言語を話せた。
「大佐の友人かな。えらく若い方だね。」
ブロンズ髪の中年女性が話しかけてくれた。大佐というのはリーンの父親の事なのか?
「ここでは何を研究されているんですか?」
一番会話が堪能な仁科さんが問う。
「ここはね。世界の秩序を守る研究をしているのよ。
戦争であまりにも大きな力が発動すると、世界のバランスが崩れてとても危険なの。あなたたちの知らない場所で世界がバラバラになってしまうかもしれない危機が何度も起こってるのよ。
そんな世界を守るためにここで調査をしているのよ。」
「へ…へえ。」
あまりにも壮大な話で少しついていけない。
でもそういった仕事にリーンの父親は携わっていることになる。少なくともこの基地の重役として。
ならば、救助隊員という肩書きはあくまで表向きの仕事ということになる。
じゃあリーンの母親とは一体どういう関係で…おそらく再婚は表向き…という感じで疑問がどんどん沸いては尽きない。
他にもグルジア語を話せる方がいた。
「君達にも分かるように説明するなら、取り返しのつかない規模の争いを回避するための組織だよ。国連などとは全く違った形態の組織だ。
この世界に暮らしているのは何も人間だけじゃないんだから。人間同士で勝手に世界のバランスを崩してしまうのは迷惑だろう。」
意味深な発言である。
「自らの力をコントロールできずに滅んでしまった種族もいる。歴史は繰り返すというけど人類はもう少し賢くならないとね。」
どうやらこの施設は相当昔に存在していた文明なども研究しているようだ。
パソコンという媒体は5人にとってはまだあまり馴染みが無い。
そこにびっしりコードというものが書かれていた。
エンターキーを押すと色んな軍用兵器のデザインが雑なドット線ではあるが表示された。
“hydrogen bomb”と記された爆弾に始まり、小さいプロペラを付けた飛行型ロボット(今の言い方で言う“ドローン”)。
他にも魚のような形状をした追尾型の魚雷や蜘蛛型の歩行ロボット。最後に白髪の少年が表示される。この少年も人型ロボットの兵器なのだろうか。
……
勇一は何かこの“蜘蛛型の歩行ロボット”に若干ひっかかりを感じたが、今はそんな事よりもこの研究者の方々の語る聞いたことのない話に夢中になっていた。
「最近になってまたどこかのスパイがこの基地の場所を探っているみたい。基地の周辺は常に緊張状態なの。あなたたちも驚いたでしょう。」
「はあ…まあ驚きました。でもすいません。手荒な事をして驚かせてしまって。」
「手荒…ねぇ。あの蓋は機械でロックされていて、補助でもないと開かないのに、あなたはとんでもない力持ちなのね。将来は大佐の右腕にでもなるのかしらね。」
その“大佐”という言葉でハッと気づく。そう、大佐…大佐とは?
「あの!大佐は今どちらに?」
真也が身を乗り出して聞く。
ちょっと言葉が怪しかったので、仁科さんがもう一度質問し直す。
「あなたたちの様子を見に行った後、会議に戻ったはずよ。この研究棟を出て左奥の部屋にいるはず。」
「ありがとうございます。ちょっと見てきます。」
研究室での壮大なプロジェクト内容も大いに気になったが、研究者の手を止めることになる。
今はあまり長居して邪魔になってはいけないということで、まずは意中の人を確認することにした。
近代化された廊下を歩いていく。
随分テクノロジーが発展しているようだ。途中、廊下の窓から培養植物なども目にした。
突き当りの部屋が会議室になっている。
会議の邪魔になるかもしれない…そんな気持ちもよぎったが、はやる気持ちが勝った。
もし会議中ならば、大佐と呼ばれる方の正体をしっかり確認してから一旦引こう。
会議室をノックする。
すると程なくして渦中の人物がドアを開けてくれた。
会議室の中を見ると7~8人の軍人さんらしき人と打ち合わせをしているのが分かる。
そして渦中の人物は……紛れもなくリーンの父親だった。
「あのっ!」
まず勇一が話しかける。すぐさま日本語で返してくれた。これでもう間違いない!リーンのお父さんだ。
「おお、ユウイチ君か。それにあの時の友達も。
大変すまないが今は大事な会議をしていてね。
まずはここまでの旅路で疲れただろう。一旦指定の部屋で休んでいてくれないか?」
正体は分かった。ただ、お父さんの邪魔をしてはいけないという事でまずは大人しく引くことにした。
『大佐!こちらを見ていただきたく…』
奥の方で軍人さんの一人が呼んでいる。が、ロシア語でよく分からない。
ただ、会議中なので一旦部屋を出ることにした。
リーンのお父さんは勇一に対して“済まない”という感じの表情を見せる。
ドアを閉める前に『Aegis18』と書かれたメモを渡された。
まぁ色々聞きたいことがあるがそれはこの会議後という事で、部屋を後にする。
指定の部屋はすぐに分かった。廊下を歩いていくと“Aegis⑱”と書かたドアがあった。
中は10人くらいが過ごせる簡易部屋になっていて、シャワー完備で布団も10点ほどある。恐らく団体宿泊用だろう。
一旦荷物を置いて寛ぐ。
しかし真也が呟いた一言で話が始まる。
「あの人は…静那の…お父さん。確かに“ミシェルさん”だった!大分痩せてたけど。」
「それ本当かよ!俺達の認識だとリーンのお父さんで間違いなかったぞ。だよな。」
「ああ。確かにリーンちゃんのお父さんやった。」
「真也はどう映ったか分らんけど、間違いないで。」
「じゃあ、あの人はここの軍人さんで、静ちゃんのお父さんでもあり、リーンって子のお父さんでもあるって事なの?」
「……そう言う事になるよな。真也の言う事が本当なら。」
「あの人…僕の事は気づいてなかったんだろうか?」
真也が信じられないという表情を見せる。
実際会ったのは2日だけだが…
「ミシェルさん…だったっけ。描いてくれた似顔絵からしたら大分痩せてたよね。7年よ…7年も経ったんだから真也君も大きく成長していてパッと見た感じ分からなかったんじゃないかな?」
「俺もその節はあると思うよ。真也って小さい頃は無口でいつも人影に隠れてるような華奢で大人しい子だったって静那が言ってたからな。
今の筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な体から想像もつかなかったんじゃないか?
そこはショックというよりもさ、後でちゃんと向き合って話をしよう。“ミシェルさん”と。」
「はい。そうですよね。まだ会ったばかりだったから一瞬見た時、気が動転してました。
まずはここが敵方のアジトじゃなかった…安全が確保されている事に安堵しないと。」
「そうだよ。忙しくてもし今日がダメでも明日話をしよう。どうせなら俺達が話する前にまず真也が話しろよ。静那のお父さんってのが事実ならそっちの方が大事だ。
だから、一回気持ちを落ちつかせて。で、何話すか考えておけよ。」
「はい!…そうですね。」
強張った顔で緊張していた真也の表情がやっと穏やかになった。
「じゃ、シャワーでも浴びようぜ。レディーファーストってことで仁科、先いいよ。」
「ありがとう。覗かないようにこのバカ2人を見張っててね。」
「分かった。まぁこいつらはとにかくもう警戒する必要は無さそうだな。この中では。」
「うん。内心ホッとしてる。」
「俺も。ピストル突きつけられた時はヤバかったからな~。殺されるんじゃないかって思ったよ。」
5人はようやく休憩モードに入った。
とはいえまだ不明な点はある。
それはこの後はっきりする予定だが疑問は尽きない。
「リーン…あの子の母親は本当に再婚の相手だったのか?表向きではそう言われていたけど…。“Gelashviliさん”って名前も恐らくはあの地域で使ってる偽名だろう。
それなら静那は……リーンは実の妹…なのか…?」
シャワーを浴び水分補給を済ませ、会議が終わるのをしばらく待つ5人。
時々しびれを切らした小谷野が会議の様子を伺いに行くが、まだ会議室のドアは閉まったままだった。終わる気配が無い。
そのうちアジトに向かった時のあの緊張感から完全に解放されたのか、睡魔が襲ってきた。
すぐに出られる準備をしたうえで一旦仮眠を取ることにした。
外の時間的には恐らく夜の0時を回っている頃だろう。
精神的に解放された5人はすぐに眠りについた。
しかし夜明け前…大きな爆音と共に飛び起きる。
「何の騒ぎだ?!」
物語は2期・SEASON2へ入ります。
時系列は、MovieⅠから後になります。
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頑張って執筆致します。よろしくお願いします。