26-1 統轄者
【26話】Aパート
修道院にある食堂…今は会議室として使われている場所から舞台はスタートする。
アジトに居た山賊団“バーサビア”の連中は全員捕縛したのだが、各村の拠点付近にまだ残党が残っているらしく、その対応に追われる村人達。
なにしろ若者の比率が低いため、10人程でも徒党を組んで力で攻めてこられたらとたんに対応が難しくなる。
要塞へ乗り込んだあの日、数少ない若者たちは傷を負ったりと重傷の者もいる。多くの若者らが治療を受けている間、各村の復興はというと思いのほか芳しくなかった。
「……ですので彼らはまず町の大型病院に搬送しなければ…」
「そんな事ではだ誰が村の対応をするのだ!今若者が極端に足りてないんだから。」
広めのスペースが取れる修道院横の食堂を会議室にして、村人達との緊急会議が開かれている。
議長はこの町で唯一軽傷で元気な『アブドゥラメン』が仕切る。
しかしそれ以外のメンバーは殆どが老人だ。
村を救ってくれた真也も会議に参加する。通訳として葉月。八薙も腕の筋を痛めているがもう一人の通訳者として参加してくれた。
議題は『村の今後の立て直し』
“バーサビア”はほぼ壊滅したが、残党は残っている。
そんな残党の捕縛や都市部にある司法長官への引き渡し・対応が出来る人間がいないのだ。
村の実に80%以上が老人と幼い子ども達である。
彼らは戦えない。
そして若者は先の戦闘で傷ついたものばかりで暫くは動けない。
ネイシャさんたちシスターが必死に看病しているが、今は十分な栄養と休息が必要である。
……
こんな状況下で誰が村の警護を担当するのか?
誰が村との連携を作るのか?
アジトをどう解体するか?
残党たちの対応を誰がするのか?
議題は山積している。
そして、それらをこなせるだけの力がこの周辺の村には無い。若者がいない事で動きたくても誰かの救助なくしては動けない現状を各々が感じる。
「まず問題を一つずつ全員で取り掛かりましょう。警備は各村で各々行いながら残党たちの対応に若者を5名ずつ派遣いただけませんかな?」
「それではわが村は若者が誰一人居なくなってしまうではないか。」
「やはり政府の助けを待つしか…」
「待っていたらこのような惨事になったのだろう。我々で何とかしないと。」
「ではどうすればよいのだ。我々は力が無いのに。」
「出来るもので残党や捕縛者の対応をするしかないでしょう。再び暴れ出さないためにも。」と、業を煮やしたアブドゥラメン。
しかし、アジトから近かった点もあり長い間蹂躙されていた東の村から反論が入る。
「だったらうちの村は人を派遣することは出来ませんな。今まで蹂躙されてきたのですから内内の復興に手いっぱいです。元々うちは若者が殆ど都心へ行ってしまい高齢化が激しかったのですから。」
「それを言ったら我々の村でも同じです。若者は皆都心に出稼ぎに行ってしまった。」
「私の村でも同じです。ですので今はまだ人手を割くことは…」
八薙が口を開く。
「そういう状況だから野盗達に狙われたんですよね。若者が居ない現状は分かりました。ただそんな状況をそのままにしていたら、また徒党を組んで村単位なら襲ってきますよ。」
八薙は各村をまとめ上げ、アジトに集結させた影の功労者である。
そのことを知っているからこそ皆は“外から来た若造の意見”と意に返さぬわけにもいかず、静まり返った。
「とりあえずは野盗が潜伏しているような危険な地域の近くは、地域全体で警護に当たる必要があります。そうしないとまた傷口となります。政府機関があてにならないのならなおさらです。」
村人達は分かっている。分かっているが各村に余力がない事を承知しているからこそ渋い表情を見せる。
また今まで地域間内で連携を取ってきていないことがここで明るみになった。
八薙の言葉に反論も出来ないまま少し無言になった会議室。
そんな空気の中、勢いよくドアが開いた。
中年の男性が走り込んできて伝令を申し出たのだ。
「会議中すいません。東の村に徒党が押し寄せてきて…その……村を乗っ取られました!」
* * * * *
「まったく2期のしょっぱなからそんな説教臭いメッセージばっかり発信してたら1話切りされてそっぽ向かれんぞ!」
「あなたねぇ…天井向かって誰と話してんのよ?“1話切り”ってどういう意味?」
仁科さんがベットの生一に向かって不思議そうに突っ込む。
「それよりも静ちゃんの事よ。火傷がかなりひどいの!塗り薬はあるんだけど、他に火傷って言ったら何すればいい?他に治療方法分かる?」
「…火傷っつったら、まずアレよ…手切れ金やないか?」
「火傷の意味が違うわボケェ!!静ちゃんまだまだ予断許さない状態なのに何言ってんのよ!ぶち転がすよ!」
大本の治療はネイシャさんが担当しているが、仁科さんと葉月は替わりばんこでずっと静那の面倒を見ている。とても献身的で真也や勇一も安心して任せているレベルだった。
「ぶち転がすとか重傷者に向かってそれはないわ~。でも静公も発見当初からしたらかなり回復した言うてたから、今大事なんは十分な栄養と睡眠と違う?」
「それは分かってるんだけど……それでも早く治した方が良いでしょ。後々体に火傷の痕が残ったりしたら…お年頃の女の子のカラダなんだからね!」
「痕…ねぇ。」
生一はヨタヨタと歩いて静那のベットへ見舞に行く。
生一は他3名と比べると“外傷としては”比較的軽傷だ。しかしとにかくアバラが痛むらしい。
上体を起こしたり飛んだり跳ねたりすると強烈に腹部に痛みが走る。
複雑骨折している可能性があるので大型の病院へ行かないと症状が分からないという現状である。
ただ、足腰は兼元や小谷野ほど重症ではなかった。
フラフラとベッドで包帯のサナギになっている静那を見る。
「イテテテテ…オイ、静公!」
「お、ボス。痛そうな顔してますね。」
ベッドの横に陣取る生一。
「はは…体ガタガタだよ。」
「しょうがないよね。」
お互い砕けた笑顔で顔を合わせる。
「まぁなかなか…な。お前の方はどうなん?なんか横たわった“マトリョーシカ”みたいになっとるけど。」
「うん…まだ歩けない。」
「じゃあ暫くは車いすか…。リハビリやな。」
「皆に迷惑かかるかな…。」
「アホ言え。皆喜んで手伝うてくれるわ。甘えとけ。」
「喜んで?」
「お前の役に立ちたくて仕方ない奴ちゃんとおるから。心配すんな。
お前は安心して寝っ転がっとけばええよ。」
「うん…」
「ネイシャさんには薬塗ってもろうたか?十分。」
「うん、さっき。」
安心した顔になったので“よし”とばかりに生一はあの2人の病室に向かう。
小谷野と兼元の病室は2人のベットだけがある個室だった。
丁度仁科さんが部屋の空気を入れ替えて花瓶の花の水を替えていた。
「どうよ?キャプテンとリーダーは?」
「さっきからネイシャさんが居ないって拗ねてんのよ。まったく…どんだけネイシャさんがあんたらをひいき目にして看病してくれてるか分かってんのかしらねぇ。」
「ずっとおってほしいんやろ。ええやん。名誉の負傷なんやから甘えさせても。」
「それは分かるよ!だからあえて怒ったりしないけどさ、ネイシャさんは他にも沢山患者さん受け持っているのよ。
でもよ。外から見ても2人がかなり優先的に治療してもらってんだからね。
それくらいは理解しなさいよ。まったく…とことん甘えてからに。日本人としてみっともない。」
「黙れ!ネイシャさんの下位互換。」
「あぁ?」
「ほらそのキレた顔。日本人としてみっともない。」
「あんたね…なかなか元気そうじゃない。私の声色も真似するくらいお元気なことで!逆エビで絞り上げたろか?」
首をクッとねじり上げる仁科さん。なかなか容赦ない。
「あああああ!死ぬ死ぬ死ぬ!」
「だいたいどこが“下位互換”よ!失礼ね~。ネイシャさんが居ない時は葉月と交替しながらずっと看病手伝ってんのに何が不満なのよ?何が!」
「そういう性格の所です!」
「あぁ?」
「あああああ!痛!痛!痛!痛!痛!」
軽く悲鳴を挙げる小谷野。…そこへスリッパのパタパタという音が聴こえてきた。
それを耳にした2人はベットから飛び起きた。
意中の人…ネイシャさんが病室の様子を見に来てくれたのだ。
「小谷野さん、兼元さん、少し留守にしててごめんなさい。さっき痛そうな声が聞こえてたけど大丈夫?」
小谷野がその姿を見るなりいきなり涙を流しながら話しだした。よくこんなに瞬時に涙を出せるものだと感心する仁科さん。
『Fのネイシャさん。僕…お腹がとても痛いですぅ。痛くて痛くて…うううっ…うう。」
この会話で仁科さんはさっき小谷野に言われた“ネイシャさんの下位互換”という意味を理解する。
『まぁ大変!この辺?』
ネイシャさんは急いで駆け寄り小谷野のお腹をさする。
『どうですか?小谷野さん?お腹に力が入らないと立ち上がれないですよね。』
「ネイシャさん…そんなところをさすられたら…。勃ち上がれますがまだお腹が…」
『どうしたの?』
『あ、すいません日本語でつい喋ってしまいました。そうなんです。お腹に力が入らないです。だからもっとさすって下さい。』
『はい。大丈夫?まだ痛む?』
『はい、痛いです。だからもう少し…』
横で仁科さんがじっとその様子を見ている。
なんという甘え方だ。
しかし小谷野はもう2人の世界が出来上がっているとばかりに他の存在にまったく意識を向けていない。
しかし小谷野の幸せな世界を脅かす伏兵はすぐ隣のベットにいる。
『ネイシャさん…僕も背中から肩口にかけてズキズキしてとても起き上がれないんです。ココ…さすってくれませんか?』
今にも痛くて泣きそうな声を出しはじめたのは兼元。
『そうなの?肩口から背中ね。分かった。』
小谷野のお腹周辺のマッサージをある程度で切り上げ、隣のベットに移るネイシャさん。
ネイシャさんは正面から兼元の両肩に手をやる。肩を少しほぐした後、抱きつくような形で背中の方に手をまわして優しく揉んでみる。
『この辺りが痛むの?どうですか?』
抱きつくような格好になっているので、ネイシャさんのボリュームのある品物の圧をモロに前方で受け止めるような形になった。
それを唖然としながら見ている小谷野に向かって横目で“どや!羨ましいかオラ!”とばかりの表情を見せつける兼元。
小谷野の手がプルプルしているのが分かる。
「テメェ。俺の至福の邪魔しやがってタダで済むと思うなよ。次は俺のターンやからな。マッサージと乳と両方堪能できる体制を、まさに今思いついたから見とれよ。」
日本語で言ってるのでネイシャさんには伝わっていない。
しかしこの仁義なきアホな戦いに終止符を打つべく仁科さんが動いた。
『ネイシャさ~ん。さっき彼らが日本語でしゃべってたから分からなかったと思うんですけど“とても気持ち良かった。もう大丈夫だ。”って言ってましたよ。
そう言えば八薙君の腕の包帯を取り換えていなかったので、そちらの対応をお願いしても良いですか?ここは私が受け持ちますので。』
超いらん事を言ってきた。
『あら、そうですか。二人とも満足してくれたんですね。じゃあ八薙さんや静那さんの包帯を取り換えてきます。仁科さん、本当に色々手伝っていただき助かります。』
『いえいえ、ネイシャさんもお疲れだと思いますので“ここ”はもう大丈夫ですから、対応が終わったら少し休まれてください。』
仁科さんは笑顔で返す。
ネイシャさんも笑顔でお礼を言って、またパタパタとスリッパの音を立てながら八薙の病室へ移動していった
「おいコラ!下位互換。」
「だまれ!変態!」
「もしかしてお前…俺に嫉妬してんのか?」
「んなワケあるかァ!頭に花でも植えてんのか!さっきからあんたら何よ!あの甘え方。」
「うるせえよ。俺の嫁なんやから口出しするな!」
「嫁?バカ言わないでよ。静ちゃんは嫁じゃないって言うの。」
「静那ちゃんも嫁や。別に2号がおってもええやろ。」
「お前やっぱり最低やわ。」
「呆れた…あんたらの事、あの時のファイトでかなり見直してたけど、もうあんたらのイメージ地に落ちたわ。何が嫁2号よ。バカバカしい!」
「黙れ3号!」
「いつ3号になった!勝手に側室扱いにしないでよね!バカじゃないの!」
「ちっ…」
「何舌打ちしてんのよ。次3号とか言ったら本当に重症だろうがマジぶち転がす!まったく冗談じゃない!」
「お前なかなかキレっぷりが爽快なキャラになりつつあるな。」
「このバカ達が失礼な事言ってくるからでしょ。デリカシーと言うか失礼極まりないわ!」
「お前も重症なんやからほどほどにせな体バキバキにされるぞ。あと、看病してくれんようになるぞ。お前らまだまともに動けんのやし。」
「じゃネイシャさん返せ!俺の青春を奪いやがって。」
「そうやで。いらん事言いやがって下位互換のくせに…」
「下位互換というか“支配下登録”や。」
「テメェ、まだ言うか。」
目が危ない仁科さん。
「“支配下登録”とかプロ野球のドラフトみたいに言わんでええねん。
まぁとにかく気力の方は思いの他元気そうで問題ないみたいやな。あとは体が戻るまでの辛抱いうことやな。
リーダー、キャプテン…お口の方の“復帰戦”おめでとう!」
* * * * *
3人がバカなやりとりをしている中、やや離れた病室では静那がベットから状態を起き上がらせて窓の外をずっと見ている。
その視線の先には…
修道院だけでなく他の村の子ども達と一緒に畑仕事に勤しむ勇一の姿があった。
勇一はあの日、静那や皆の前で情けないくらい大泣きした後、何か腫物が取れたかのように“今やれる事”に従事しはじめた。
村全体の混乱で不安になっている子ども達のお世話を一心に引き受けたのだ。
畑仕事がひと段落する。
「みんな・部屋・入る前・手・洗う・ぜったい!」
僅かに覚えた単語とゼスチャを交えながら、子どもたちとコミュニケーションをとる勇一。
こうやってみんなで畑をしたりして共同生活するのも悪くないな…そんな気持ちが芽生えた勇一だった。
物語は2期・SEASON2へ入ります。
時系列は、MovieⅠから後の物語となります。
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