25-2 日本人
【25話/B面】Bパート
放課後になると、とある部屋…部室にやってくる決まった面々がいる。
誰かが部室にやってきて、それが複数名になったあたりから『日本文化交流研究部』の活動は始まる。
そんな活動も発足してから順調に部員も増え、正式な部活動として認知もされるようになった。
季節は夏…6月に入り、これから夏にかけて何をしてみたいかの提案を話し合う事になった。
勇一が部長として司会を務める。
「歴史的な資料の展示がある施設なら部の予算で見に行けるようになったから…希望があれば提案してほしい。」
遊びに行くとなると趣旨が違うので無理だが、資料館などへの見学は行ける。
静那にも本で学んだり皆と話をするだけじゃなく、色んな所へ行って日本に関しての見分を広めてほしいと感じていた。
しかしそんな勇一の想いとは違った意見がお約束の様に出てきてしまう。
「はい!俺は静那ちゃんとお城のような建物にお泊り会へ行きたいデス!」
「はい却下。」
小谷野の提案に光の速さで却下する仁科さん。
「何でだよ!」
「あのね。さっきの部長の話聞いてなかったの?文化的な展示物がある施設とかでないと駄目なの。」
「そうだぞ。何私物化しようとしてるんだ。」
「だから城自体が展示物みたいなもんやん。」
「バカ言わないでよ。お城のような造りでしょ。ラ…あれ!」
「仁科詳しいな。」
「詳しいワケないでしょ!でも東京にいっぱいあるから…その…私も建物の事知らない頃に何気なく聞いてみたのよ。何気なく。」
「それで分かったわけか。その世界を。」
「ええ…まぁ。ってそういう話に誘い込まないで。真面目に考えてよ!」
「じゃあ江戸時代に栄えた歴史ある遊郭の街並みをめぐるとかどうよ。潜入捜査アリで。」
「はいそれも却下!」
「早いな。」
「当たり前でしょ。江戸時代の遊郭街って、吉原でしょ。なんであんたら2人はそういうエッチ的なやつしか思い浮かばないのよ。しかも高校生にふさわしくない上に場所が東京でしょ?高知から遠すぎるわ!部活の予算なんて飛んでしまうでしょ。」
「じゃあせめて2日間だけとかでも。その…6発2日で。」
「いいワケないでしょ。それに2日間なら1泊2日でしょうが。ちょっと何言ってんのか分かんないんだけど。」
「なんで6になるんでしょうか。」
「そこはスルーしていいからね。静ちゃん。」
「とにかくもう少し真面目な方向で考えよう。兼元君も小谷野君もまたそういう変な案を出すなら部室から追い出すよ。しーちゃんいるんだから自重してよね。」
椎原さんはあまりにアダルトなトークになった時の突っ込みは仁科さんに任せているが、葉月はさすがに“女子もいるんだから抑えなさいよ”という迷惑そうな顔をする。
その表情を見て八薙も“ちょっと抑えましょう”という顔を見せる。
馬鹿なトークはこれで切ったということで改めて提案を募る勇一。
しかし生一。
「東京行かね?」
「遠いよ。まず全員分の予算が出せないだろ。遊びに行くのとは違うから。」
「ちぇ。高知は自然ばっかりで娯楽が少ないねん。」
拗ねる生一。
しかし部費が出るのはあくまでも課外活動だ。
「娯楽に行くんじゃないってば。」
「じゃあ大阪。」
「だから旅行は部費が出ないよ。」
「野球見に行くんダメなんか?」
「当たり前だろ。」
「いくら日本の娯楽の嗜みっていう名目でもスポーツ観戦は経費降りないと思うよ。」
「プロ野球か…私は見てみたいけどこればかりは個人的に行かないと駄目ね。」
「野球観戦かぁ。」
「しゃあないな。他考えるわ。」
「小谷野!ここ1~2カ月の間、四国のどこかでプロレスの試合開催される日ってチェックしてるか?」
「ああ、それならー「それも駄目だって!」
「いいじゃんかよ。プロレスはアメリカから入ってきたモンだけど、ラーメンみたいに日本で独自に作り上げてきてるもんなんだから。本当は今月の武道館に来て欲しかったけど。」
「そうか。お前今月バス使って日本武道館まで試合見に行くんだよな。熱心な事だな。」
「今週末な!まぁ良さがいずれは全国民に伝わる日が来るさ。」
「その生一の好みはまぁ尊重するとしてさ…他には意見ない?」
勇一は静那から何か提案が無いか気になっていた。
しかし静那からしたら先輩の意見をまずは尊重しようとしたのか、自分から言い出すそぶりはない。
「静那ちゃんは何か行きたいところあるかな?」
久しぶりに兼元が仕事をした。
「私ですか?行ってみたいところは…」
「そう!キャンプでお泊り会とか~学校内でお泊り会とか~密室でお泊り会とかー」
「あんたはお泊り会しか頭に無いんか!」
「でもお城みたいな所はあかんのやろ~。」
「お泊り会自体がダメなの。しかも男女でだなんて…」
「そんなん側室のお前らが心配する事やないで。」
「誰が側室よ!誰が!」
「もう…さすがに追い出そうかこの2人。…窓から。」
椎原さんにも我慢の限界というものがある。
「おい!小谷野、兼元、女性陣をこんなに怒らせるなよ。予算自体もう出なくなるぞ。」
申し訳ない顔で静那の方を見る。
「静那、さっき行きたいところ言いかけてたよな。いいよ何でも言ってくれて。」
「お泊り会じゃなくてもいいですか?」
「もちろんだよ。何言ってんだ。どこでもいいんだぞ。」
「じゃあ…」
そう言って新聞記事の切り抜きをカバンから出してきた。
一同は一体なんだろうかと注目する。
「その、ここ。」
静那が持ち出した新聞の切り抜きは“高知県立埋蔵文化財センター”からの遺跡発掘の記事だった。
縄文時代後期のもので高知県内で発掘されたケースはめずらしい。
「縄文時代の遺跡が高知県でも見つかってるみたいで…実際に見てみたいな…なんて。どうですか?」
「ああここ。まだ出来てそんなに経ってない比較的新しい施設じゃない。いいんじゃないの?どう部長。」
「これなら良いと思うよ。」
「ええ~ここどう見てもお泊り会するところと違うやん~。」
「おまえはお泊り会から離れろ。で、なんで遺跡の資料館に興味持ったの?」
「ちょっと前さ…熊本行った頃、かな。あの時は日本の歴史でも特に江戸時代について色々と調べていたんだけど。」
「そうだったよな。でも今回は縄文時代だぞ。えらく飛んだな~。」
「うん。まぁそう感じるよね。
でもね、日本の縄文時代ってすごく長い間続いていたじゃない。
私の調べた資料だと1万年以上って書かれてあった。
その時代の中で戦争のような争い事が起きた記録が無いって書いてあったんだ。埋葬された発掘品などから推測してだけど。」
「単に資料が残されてなかっただけかもしれんで。」
「それもあると思う。でも遺跡から見つかった白骨に傷がついている形跡が殆ど無かったみたいで、そういう証拠から長い間平和な時代が続いたんだって考察されてる。」
「成程ね。しーちゃんは平和が長い間続いたヒントみたいなのを縄文時代の資料から学ぼうとしてるわけ?」
「そう!そうそう。江戸時代もそうだけど、殆ど争いも起きずに200年以上も平和が続いたのって本当に凄い事なんだよ。
その代わりに江戸時代だったら華やかな文化が栄えていたし、縄文時代も世界的にも見た事無いような特徴ある土器が沢山発掘されている。これって一つの文化だよね。
それに比べて私の故郷や近隣のヨーロッパ諸国なんかはさ、戦争や争いがずっと絶えなかった歴史があるんだよ。
しかもお互い戦争するだけじゃ飽き足らず、アフリカや中東・東南アジアにまで勢力を伸ばしていく有様で…
常に争ってないと気が済まないのかってうんざりするくらい戦いに明け暮れてる。
どうなれば争いの無い時代って続けられるんだろうって考えていたんだ。」
「そんなこと考えるなんてすごいな。」
「すごい事無いよ。日本が凄いんだよ。多分日本人が思っている以上に欧州って多国間との戦争と疫病を繰り返してばかりの歴史だよ。」
「なんでそんなになってしまってるのか…日本との違いを探りに行きたいんだな。」
「うん…私はまだ全然勉強不足だし知識も不十分だけど。……その、答えが欲しいってわけじゃないんだけどね。」
「いいじゃん。私はそれ乗ったよ。私歴史の授業苦手だったけど、行く目的が出来た。行くんならそれまでに勉強しとこうかなって感じた。…スイッチが入った感じかな。」
「別に中間テスト範囲でも何でもないのにね。でも勉強って本来そうやって興味持って自分から進んでやるのが一番いい形なんじゃないかなって思う。」
「俺もそんなに場所遠くないし…いいかなと思います。縄文時代かぁ。あまり深く考えた事もなかったなぁ。」
「でも何千年も争う事無く平和に暮らしていたんだよ。まぁ調べた情報だけだからどこまで本当かは分からない。でも戦争の跡は未だ見つかってないから。」
「縄文時代いうたら…竪穴式住居。そこでお泊り会とか。」
「お前ええかげんにしろ!」
「なんだか日本人のルーツを調べるみたいで良いかもね。そりゃあ残っている資料自体は少ないかもしれないけど色々なイメージが膨らむかもね。」
「縄文時代の性事情とか…」
「お前もええかげんにしろ!」
「じゃあ静那、皆でそこ行くか。」
「いいの?」
「いいに決まってるだろ。三枝先生に許可もらってからだけどきっとOKくれると思う。」
「本当!じゃあ私色々調べておくね。皆にもレクチャーできるように。」
「それは皆もだから気負わなくてもいいよ。」
「でもさ…」
「どしたの」
「一応先生に動機を説明するためにももう少し無いかな。縄文時代や遺跡に興味を持った理由。」
「もちろん。他にもあるよ。」
「平和な時代が続いた理由をさぐりたい以外にもあるの?」
「うん。人類誕生のルーツみたいな所も縄文時代にヒントがあるみたい。」
「人類のルーツはアフリカ大陸やって聞いたことあるで。」
「私もそうなのかなって思ってたんだけどね、日本人って独特の民族だっていう説もあるみたい。大昔、災害で沈んでしまった大陸から逃げ延びてきた種族が日本人のルーツだとか。」
「そんな資料あるんか。」
「うん。あったよ。旧約聖書の『創世記』って部分。」
「調べる間口が広いな~聖書か。どんな内容なの?」
「簡単に言うと…大昔、神様があんまりにも争いばっかりしてる人類に怒って、天罰として大洪水を起こしたんだけどね。
そこから方舟に乗って逃げ延びてきた一部の人間が今の日本にたどり着いて繁栄したって内容だと…私は解釈してるよ。」
「それが長い間平和を保つことができた縄文人ってこと?」
「日本に生き延びてきた後、争いばかりのこれまでの行いを本当に反省しているのなら神様の怒りに触れないように平和を目指したんじゃないかな。
そしてそのDNAが今の日本人には残ってる。
だから江戸時代みたいに長い間争いが起こらない奇跡的な時代も作れた…って。」
「そのDNAが一番色濃く残っているのが、まだ色んな異文化が流れこんできていない縄文時代の人々っていう考えか。」
「そうじゃないかな。まだまだ憶測ではあるけど、こんなに長い間平和が続いた国は私の知っている範囲では聞いた事無いよ。
まぁ欧州が戦争し過ぎなだけかもしれない。
あ、まだアフリカや中東に関しての歴史はまだ勉強不足だけど。」
「…でも…そう考えると日本人って何者なんだろな。俺も先祖のアフリカ人がたどり着いた最果ての地で繁栄した人類としか考えてなかったし。」
「本当。もしその聖書の仮説が正しいのなら、日本人って何者だろ。」
「さっきの憶測の話だとさ、世界中の争いを止める為のキーパーソンなんじゃないかなって。神話的な要素も混じってるけど。」
「争いばかりしてたら神様が最後にどう出るか、DNAレベルの深い部分で身に染みて分かってる種族だからね。」
「戦争を止める鍵を握る種族かぁ…素敵だね。」
「俺にはなんか話が壮大でイメージつかないな~。学生終わったらどこかに就職してさ、それで働いて金稼いで家族持って…とかそういう考えくらいしか…
日本人が世界の争いを止めるカギになる人種なんて全然ピンとこないけどな。」
「意外と生きていればどこかでつながってるかもしれないよ。」
「そうかぁ。まったく世界に立ち向かうイメージなんてできんけどな~。」
「本当に世界が危なくなったら俺達のDNAが目覚めだして、誰に言われるでもなく導かれるように動き出すようになるんと違うか?」
「なんか我のみぞ知る世界やな。」
「多分幕末の維新志士たちもこんな感じで全国で目覚めて動き出したんと違うか?」
「“維新志士”?…幕末は何とか分かるけど…」
「興味あるか?まぁその話はどっかでプレゼンしたるよ。」
「部長はこんな説明で良かったかな。」
「うん。縄文文化を学ぶ動機としては十分良いんじゃないかな。俺うまく先生に話出来そうだよ。ありがとう。」
「頑張ってよ部長。静ちゃんの要望を叶えるためにも。」
「うん。行けそう。」
「頑張って説き伏せて予算ぶんどってこいよ。」
「その言い方下品だからやめろよな。」
「ま、良かったね。しーちゃん。多分皆で行けそうで。」
「はい。楽しみです。日本人のルーツを探る課外授業なんて。」
「縄文時代は恐らくノーパンやったんと…」
「お前引かれるからマジで今やめとけ。」
* * * * *
『高知県立埋蔵文化財センター』は、『国営吉野ヶ里歴史公園』のような本格的な国が定める特別史跡には資料館の規模としては及びませんが、高知県の南国市にある県の文化施設として、発掘調査を主な業務としつつ施設の見学や体験教室などが行われています。
古代の文化を知る手掛かり、きっかけとして現在も利用可能です。
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。各話完結ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
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