21-1 追試問答とマリオブラザーズ
【21話/B面】Aパート
生一は激怒した。
「なんでやねん!」
部室でうなだれたような声を出す。
赤点の補習と追試があるようで、そのスケジュールがプリントで通達されたようだ。
抗えないスケジュールを突き付けられる。
顔をうつぶせにして不貞腐れる理由…どうも彼は時間を拘束されるのが嫌でたまらないようである。
「クソ…納得できねえ!」
「何に怒ってるんだよ。」
同じくらいに部室に到着した勇一が問う。彼は今、部屋の換気の為窓を開けている。
「よ~く見ろオラ!この机の上に紙がある。」
その紙を見てみると生一の補習&追試のスケジュールが書かれていた。
「俺は怒っている。俺に補習を通達するバカがいるから。」
「バカはお前だろ。」
小谷野と兼元がやってくるなりつっこむ。
今日は男性陣の到着が先のようだ。
「今の、世の中が怒りを忘れてしまった時代に、俺が校内で赤点に対する不満をぶつける。
それが学生全てが世間に伝えるメッセージなんだ!
学生とはそういう存在だと思う。違うか?」
「いや、普通に違うと思うけど。」
「勇一。怒ってるかオメエは?」
「何にだよ。」
「不満があるなら言ってみろ!」
「急に何だよ。俺の不満とかよりもまずはなんとかしろよ。この補習と追試を。学校に失望する前にさ。」
「あのな…学校での補習とか追試はクソくらえなんだよ。俺はここでダラダラやりたいんですよ!」
「普通にダメ人間になっていくぞ。それに最悪留年になるからな。」
「今日俺は素直な気持ちで問いたい。赤点は構わないだろ?」
「いや、赤点は良くないだろ。そこから逃げようとするな!」
「今の世の中はなぁ。みんな縮こまってしまって夢も希望も潰れてしまった。だから俺に全て任せて欲しい。
赤点かどうかは、俺が仕切る!いいか。」
「いいわけないだろ。なんだよそのトンデモ理論。」
「だいたい何で赤点なんてモンがあるんだよ。39点なら赤点で、40点ならセーフとかおかしいだろ。
この1点に何の差があるんだよ!
そんなジャッジの仕方があるのかよ!」
「お前確か現国22点だよな。全然かすってないからな。」
「うるせえよ、英語は36点だオラ!四捨五入するなら40点だろうが。エェ?」
「理論が破綻してねぇか?」
「どこがだよ。」
「これは俺でもすぐ突っ込めるわ!なんで都合よく四捨五入してるんだよ!」
「お前は現実を受け止めずに不満をぶつけてるだけだろ。」
「そういうお前らはどうなんだよ。」
「俺らはまだ試験受けてないし。試験後にこっちに転入してきたし。」
「はぁ?ズリィぞ。おまえも試験受けろ!」
「はぁ?俺ら編入試験はきちんと受けたよ。知るかよ。」
「それでもこの現状に不満はあるだろうがよ!」
「まぁそこはあるかな…」
「不満なら前世からあるで。」
「オイ!じゃあ今の現状に不満があるんだったら吐き出してみろ!
オラ、エーッ!オイ!小谷野と兼元!」
急に2人を目の前に立たせる生一。
「オメエは怒ってるか!現状に!」
「怒ってますよ!」
「誰にだ!」
「俺の事を変態扱いするあの女です。」
「そうか。オメエはそれでいいや。」
「じゃあなんでそれでいいならこっちに振った!もうちょっと深堀しろよコラ!」
「じゃどういうふうに怒ってんだ!(めんどくせコイツ)」
「全てに対して怒ってます!」
「全てってどこだ?」
まさかの追及に戸惑う小谷野。
「言ってみろ。乳か?臀部か?ツラか?」
「女である部分全てです!」
「そうか。奴らに気付かせろ。オメエは!」
「どう気付かせるんだよ!適当な返答するなよな!」
「俺は下着界の明るい未来が見えません!」
「見つけろ。テメエで。」
「ちょっと雑じゃねえか?不満を煽っておいて!」
「何がしたいか決めろってんだ。」
「じゃあ、俺はこの学生生活の中で、女性の下着の収集をやり続けます!」
「まあそれぞれの思いがあるから、それはさておいて。」
「何がさておいてだ!お前さっきからこっちに振っておいて雑な返答ばかりしてんじゃねえよ!もっと不満を共有したいならきちんとアドバイスしろ!」
「生一、お前中途半端なの嫌いなんだろ。自分から怒りに任せて話を振っておいて適当に返すんじゃなくて、せめてきちんと問答してやれよ。」
「くっ補習が悪いんだ。赤点なんて線引きがあるから…」
「責任転嫁すな!」
「けっきょくそこの不満を発散したいだけだろ。」
* * * * *
「こんにちは!」
そこへやっと静那が到着した。
場の空気が変わる。
「おお!嫁よ!」×2
振り返って漫勉の笑みで迎える2人。
「あの…他の先輩方は図書館行ってて、今日は少し遅れるって。」
「ああ、課題のやつね。」
「なんなんソレ。」
「生一!きちんと授業聞いとけよな。2年生全員の課題だぞ。」
「そうなんか。まぁええよ。それより静那!アレやってみてどうやった!」
「アレって何やねん?」
「アレ静那にやらせてみたんよ。どんな感想来るか思うて。」
「だからアレって何なんだよ!」
勇一も身を乗り出して聞いてきた。
「え?アレ…ああ、これですよ。」
静那はFCソフトの“スーパーマリオブラザーズ”を鞄から取り出した。
「おおぉ、懐かしいな。生一持ってたんやな。」
「これ“嗜み”いうことでやってみろいうてやらせてみたんやけど。」
「いつの間に…どこでやったんだよ。まさか生一の家とか?」
「違う。ここの視聴覚室なんやけど昼休みはまず開いとるから侵入してファミコンやってたねん。」
「おまえ見つかったら大問題だぞ!」
「だから静那にもちゃんと言うたよ。“あくまで嗜み”やって。日本の大ヒットゲームやん。一回は体験ささな。」
「で、静那はプレイしてみたの?」
「はい。日本発祥の有名なゲームってことで、どんなものか知りたかったんで。」
「発祥って、なんか大げさだな…。」
「そんで、今回はそのプレイしての感想を分かちおうてもらおうか思うてたわけよ。」
「マリオなら俺も知ってる。静那は初めてやってみたんだよな。どうだった?」
「あの…でも他の先輩方がまだだから…」
「そうだな。もう少し待っー」
「いや、あいつらゲーム自体あんまり知らんからな。今回はこの男衆メンバーでええやろ。」
「分かりました。じゃあ今回は私がこのゲームを嗜んでみて感じた事を発表しますね。」
「外国の友達に紹介するみたいな感じでええから話してみてや。」
「そうですね。そのつもりで。」
流れでいきなり部活の発表会がスタートした。
今回のプレゼンターは初の静那である。
* * * * *
「ええと、まだ不明な点もありますが“スーパーマリオブラザーズ”から感じた事を発表します。
このゲームは横スクロールのアクションゲームとなってます。
まだ1時間ほどしかプレイしていませんが、反射神経や先の動きを予想して動いたり回避する力を鍛えるゲームみたいですね。」
「まずそこを見るか…」という感じの面々。
「まず、マリオさん…マリさんについて調べてますので。」
「マリオの事“マリさん”言うやつ初めて見たな。」
「マリさんは水道管やガス管などを取り付けるお仕事をされてる社会人の方です。ちゃんと仕事しているおじさんって感じがして好感が持てます。
それ以外だと、一般人だけど異様にジャンプ力の長けたおじさん。
でもあくまで一人のおじさんです。
デビュー時、見た目が地味なので鼻の大きさで左右どちらを向いているか分かりやすくしたという逸話があります。
そんなおじさんが、キノコ王国という国を救うためとはいえ、恋人でも奥さんでもないピーチ姫を助けに行くっていう流れは“動機”が弱いように感じました。」
「動機っていうか…そういうゲームな。」
「遊んでいて初めに驚いたことがあります。
ブロックの中からキノコが出てくるんですが、あれを食べたら身長が急に2倍になりますよね。
これ、すごく不思議な現象ですよね。
初めはどんな副作用が出るのか心配で、その後は恐る恐る進んでいました。
体が膨れ上がったマリさんの体に異変が起きるんじゃないのかって。
副作用の可能性を感じたのがジャンプ音です。
マリさんのジャンプの音はかわいい音だったのに、キノコを食べたら急にジャンプ音のトーンが落ちたような感じになります。
これなら小さい方が可愛いです。通れないスペースも出てきますし。
あれって身長をむやみに伸ばさない方がいいって事が言いたいんでしょうかね。」
「うん…多分それは違うと思う。」
「あとは敵に関してもとても気になるキャラがいました。説明書を調べて名前を把握したんですが
…この“クリボー”という敵キャラクター。
このキャラです。分かりますか?」
静那がイラストの“クリボー”を指さす。
全員が頷く。おそらく日本男児には常識ともいえる程の有名な敵キャラだ。
「このクリボーなんですが、なぜかこのキャラだけ横歩きのカメラ目線で動いているんですよね。
他の敵キャラ…“ノコノコ”とか“メット”や“トゲゾー”なんかは見て分かると思いますが、皆マリさんの方に焦点を定めて向かっていきます。
敵であろうが味方であろうが、相手の方を見て向かっていくのが普通です。私たちの社会でもそうですよね。
例えば葉月先輩のやっていた空手。
相手の動きをよく見てから動くというか対応をします。絶えず横向いて相手する選手は見た事も聞いたことも無いです。
相手をしっかり見ずに横見て歩くから一番弱いんじゃないかと思うんです。
弱い人ほど相手を見ずにカメラ目線というか、周りからどう見られるかを気にしながら動いている…だから簡単にやられちゃう。
相手を倒す為には、まずよーく相手を見る事が大事だっていうことをこのゲームを通して伝えているんではないかと感じました。」
「おまえちょっと考えすぎや!ゲームのスケール超えとるんと違うか?クリボー1匹からこういう方向に考察広げる奴なかなかおらんぞ!」
「嫁の推測としてはなかなか鋭いと思うんやけど。」
「禿同!」
「略して言うな!あとまだその言い方認知されてないからな!」
「でも静那、逆に自分に無い思考で新鮮だよ。他に感じた事は無い?」
静那の予想外の考察に少し興味を抱きつつある勇一。
「あくまでゲームなので、海の中で息が出来る件などは私も目をつぶれます。
でもあの各ゴール地点にあるポールと旗は何なんでしょうか?
あれって何の為にあるのか色々考えても分らなかったです。
図書館でも調べてみたのですが、高台からポールに飛び移る行為なんて競技でも世界中の文化でも見つかりませんでした。
なんであんな危ない所…ポールの最上段に捕まって降りていく必要があるんでしょうかね。“5000点”ってマリオさんの世界ではそんなに貴重な価値なんでしょうか?
恐らく両足でポールを挟んでスルスル降りていくんだと思いますが、局部が摩擦で痛くならないのかなって感じます。
降りきったらなぜか急いで近くの建物に籠ってしまいますよね。
あれって建物の中で何をしてるんでしょう。
私がプレイした時はなぜか花火を打ち上げていましたが、あの花火も未だに意味がよく分からなくて…
もう一度ここまでの動きを通しで説明しますね。
……まず高台からポールの高い部分に飛び移ってスルスル降りていく。
着地後は建物に籠り花火を上げる。
この一連の流れに何かの必要性を考えたのですが、ここはどうしても分からずじまいでした。
すいません。しっかりした回答が見つからなくって。」
「静那ちゃん。きっとそれは男しか分からない世界でー「あーー静那、そうだよな!建物に籠ってホント何してるんだろうな~。不思議だよな~。」
急いでフォローに入る勇一。
「ゲームだから、遊んでいるうちにだんだん割り切れるようにはなってきたんですけど、不可解な行動多いですよね。
でも1985年…10年も前にこんな素敵なゲームが発売されていたなんて、やっぱり日本ってすごいなって思いました。
日本には面白いビデオゲームが沢山あるって昔聞いたことがあるんですけど、もうこんなに前から名作が出ていたんですよね。
だからこの先どんな感じのゲームが出てくるか楽しみです。
日本のゲームの未来像には興味あるかも。」
「そう思ってもらえるならこのゲームやってもらった甲斐があったわ。良かったよ。」
「はい!ボス。これも日本の素敵な文化の一つですね。
これ、総じて“サブカルチャー”って言うんでしょ。」
「おぉ。難しい言葉知ってんな。多分そうやで。」
「“多分”じゃ駄目だろそんな説明!」
「まぁこういうゲーム産業って日本の強みやと思うねん。これからも。」
「うん。」
「よっしゃ。なかなかええプレゼンやったで。」
そこへ部室にやってきた女性陣。
「静ちゃんお疲れ。図書館混んでてごめんね。」
仁科さんと椎原さん。続いて葉月も部室に入ってきた。
「で、さっき何かプレゼンしてたみたいだけど?静ちゃん、何話していたか私も知りたいな。」
この後、視聴覚室でこっそりゲームをやらせていた事が発覚し、滅茶苦茶怒られる羽目になった生一だった。
* * * * *
名作『スーパーマリオブラザーズ』はその後、世界中からの評価が衰える事は無く、国外評価としては“米国IGN”で2005年『Top 100 games of all time』において1位に選出されるのだが、それはまだ先の話。
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
【読者の皆様へお願いがございます】
ブックマーク、評価は大いに勇気になります。
現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。
頑張って執筆致します。よろしくお願いします。