20-1 RPGを紐解く者たち
【20話/B面】Aパート
ここは校舎の東側2階
放課後になるとこの部屋が部室になり、集う面々がいる。
誰かが部室にやってきて、それが複数名になったあたりから『日本文化交流研究部』の部活動は始まるのだが、今日はとあるゲームの話で話題がふくらみはじめたようである。
プレゼンターと言えるのかは分からないが、生一が担当する。
* * * * *
「静那“ドラクエ”は知らんのやったな。」
「はい。ゲームのタイトルってのは聞きましたけど、私そもそもゲーム機とテレビを持ってないですから。」
「でもドラクエがゲームってのは知ってたんや。」
「はい。まぁうちのクラスでもドラクエが好きな人いたので、ゲームの話なんだなっていうのは気づきましたよ。」
「じゃあ“ドラクエ”もとい“ドラゴンクエスト”のゲームがどんなもんか今日は教えたるよ。」
「待って!それちょっと日本文化の紹介っていう趣旨とは違うんじゃない?テレビゲームの話でしょ?男子生徒がよくやっている。」
「別に男子やなくてもだれでもやってるで。漫画にもなっとるしな。例えばこのゲームの音楽に携わっとる人が“すぎやまこういち”言うて凄いええ曲作る人やねん。他にも『RPG』って聞いたことあるか?」
「いえ、『RPG』?RPG(行儀よく)とかの略ですか?」
「なんでゲームに対する姿勢がジャンルになるねん。しかもリアルなプレイって何やるねん!まぁええ、ここ突っ込んでいったら話が変になる。…とにかくな、『RPG』いうゲームシステムの礎を作ったんがこのゲームやねん。
ま、要するに今のゲームのカタチ…テンプレートっちゅうのかな。
多分この先も続いていくゲームシステムの根幹を作った作品やねん。
娯楽の歴史っちゅう観点で見たら、俺悪うないチョイスやと思うんやけどどうよ。」
「…確かにそう言われたらアリやな。」
「“すぎやまこういち”は何か聞いたことあるわね。でもゲームの話して何になるって言うのよ。」
「物語の基本的な流れや。ゲームも人生に通ずるものがあるねん!まぁ野次は気になったらしてもええよ。」
静那を対面に座らせて話はじめる生一。
「“ドラゴンクエスト”ってシリーズ化されてるけど、ここは一番有名な“Ⅲ”を元に説明するで。一番ヒットしてて有名やし…。よう聞いとけよ。」
「はい。よろしくお願いします。ボス!思った以上に頑張って聞きますので。」
「静那ちょっと日本語おかしいぞ。」
「まぁだいたい今のゲームだけでなく現代にも通じる所あるから、気になったら途中で質問してもええで。」
「うん。」
姿勢を正す静那。
今日は…勇一、小谷野、兼元、仁科さん、椎原さんが見守る中、有名なゲームタイトル『ドラゴンクエストⅢ』の基本部分。トリセツを生一が説明する。
「まずはゲームの世界な。なんでか知らんけど当たり前のように世界には“魔王”いうのがおるねん。」
「魔王?」
「悪さするチャンピオンや。」
「悪い奴のチャンピオンですか?」
「オウム返しに言わんでええねん。まぁその魔王を倒すのが大体のゲームのおおもとになっとるけど、このドラゴンクエストも例に漏れずといった感じや。」
「魔王が居てそれを主人公がやっつける流れの世界ですね。ここまでOKです。」
「飲み込みが早くて助かる。そんでたいてい魔王があんまり悪さばっかりしてるから国の王様が主人公を呼び出すねん。魔王しばいてこい言うて。」
「関西弁で言うと雑ね~」
「おいそこ!別に悪うないやろ。そういう野次はやめ。
“殺す”とかより言い方がオブラートでええやろ。」
「魔王をしばきに行くんですね。」
「せやねん。ここまでの流れは、割と今後のゲームの流れのメジャー所になるから知っといた方がええ。
魔王を倒すために軍資金くれるんやけど、ドラクエⅢの場合は100ゴールドくれる。」
「100ゴールド……その100ゴールドでどんなものが買えるんですか?」
「そうやな。最弱装備とはいえ、なんとか4人分くらいの武具が買える。」
「最弱装備?たったそれだけしかくれないんですか?もっと立派な武器が買えるくらいのお金はくれないんですか?」
「お前ええとこに目をつけたな。そやねん。まさしく。王様もケチいねん。もしかしたら主人公以外の奴にも“魔王しばいてこい”言うて100ゴールドずつ渡してるかもしれん。」
「それってもしかして“捨て駒”扱いじゃないですか?」
「まぁ100ゴールドしかくれへんからその説も間違うてないと思う。でもそれで行くしかないねん。多分国も予算が無いんやろうな。」
「たった一人でですか?」
「容量っていう大人の事情があるんやけどな…まぁだいたい4人で行く事になる。
仲間集める場所ってのもメジャー所なんやけど“ギルド”っていう場所。旅人が集う酒場みたいなもんやな。受付の姉さんが大体巨乳やねん。」
「生一!受付の姉さんの情報はいらないでしょうが!」
「まぁ傾向として知っててええやん。」
小谷野と兼元が深く頷く。
「“ギルド”かぁ…。でもたった4人でですか?1万人くらい兵隊を集めて皆で攻めていくとかしないと難しいんじゃ。」
「お前、俺の予想を超えるくらいの見込みがあるな。確かにその通りや!王様も捨て駒扱いで一人一人に100ゴールドずつ渡すんやなくて総動員で行かせばええ話やねん。
でもそこも大人の事情なんやろうな。
村いう場所ですら人が10人くらいしかおれんし…あれは“村”とは呼ばん…
何が言いたいかというと、ゲームを楽しんでもらうために泣く泣く仲間は4人に絞ってんのよ。」
「大人の事情と言うのはよく分からないですけど、主人公以外の3人ってどんな人なんですか?」
「そこがこのゲーム“Ⅲ”のミソやねん。なんと仲間は自由に選ぶことができるんや。職業とか性別とか。」
「職業?先生とか野球選手とか八百屋さんとかですか?」
「まず八百屋さんは戦えんよな。ダイコンとか剣にもならん。普通に考えようや。
ドラクエⅢの場合は“戦士、武道家、僧侶、魔法使い、商人、遊び人”とおるねん。その中から好きな職業の人を3人選んで主人公を入れた4人で魔王をしばきにいくいう流れや。
ちなみに主人公は“勇者”いう職業な。一番花形の職業や。」
「それ聞いたらなんだか面白そうですね。6種類も職業があるんですね。
私は…自分が主人公なら遊び人3人を連れて行きたいかな。きっと旅が楽しいと思うから。」
「遊んでて倒せるわけないやろ。何をもってお前が遊び人を選ぶんかが分らん。お前も勇者と遊者と勘違いしてへんか?」
「ええっ?ゆうしゃって“遊者”じゃないの?」
「お前の頭の中じゃ、ゆうしゃを変換したらまず“遊者”が出てくるんか?お前魔王しばき倒すんやで。」
「だって人生には遊びがないと面白くないじゃないかなって思ったんだけど。」
「ゲームの中に哲学を持ち込むな!普通に戦える奴でええねん。たとえば僧侶。僧侶は傷ついた仲間を回復させる“魔法”を使えるんやけど、そういう事出来る奴がおらんかったら旅は苦しくなるぞ。」
「お薬を100個くらい持っていけないんですか?お金があるなら1000個とか。」
「お前の考えは分かる。でも容量というかこれも大人の事情やねんなコレ…」
遠い目をしてため息をつく生一。
兼元と小谷野は彼がなぜそんな遠い目をしたのか分かる気がした。
「残念やけどそれが出来んねん。まぁアレや。道具箱が小さい思うてたら分かりやすいかな。」
「じゃあ僧侶と遊び人と…遊び人ですね。」
「おまええらい遊び人好きやなぁ。まぁええよ。それで行っても。で、冒険に出発したとするで。城から出たらまず何かが出てくるねん。何やと思う?」
「魔王ですか?」
「気持ちは分かるけど開始早々いきなり魔王に会っても勝てんやろ。1ターンで殲滅やで。」
「1ターンって何ですか?1回くるっと回るって事です?」
「…うん、やっぱり言い直す。
すぐ魔王と戦っても勝てん言う事。すぐにやられる。でもスタート地点では弱い敵が都合よく出てくるねん。」
「なるほど。徐々に敵が強くなっていくって仕様で、最後が魔王…と。」
「ご名答。この辺りは理解できるみたいやな。ゲームやし。
ちなみに他のゲームも同じような感じや。初めはなぜか弱い敵からスタートする。
そんでまぁ弱い敵からチマチマ倒しながら経験値と金を稼いていくんやけど…」
「ちょっと待ってください!」
「どうした?“経験値”っていうのが意味不明か?」
「いえ、経験値っていうのは経験の数値でしょ?それは分かりますよ。でもお金を“稼ぐ”って…」
「それはまぁアレよ。敵というかモンスター倒せたらお金が手に入るわけで…」
「モンスターってお金持ってるんですか?モンスターの間でも貨幣社会が浸透してるんですか?お金を持ち歩いているんですか?」
「う…うん。…まぁそうなるな。」
「それならお金大好きな人間の手によってモンスターなんてとっくに狩りつくされてますよ。モンスター倒しても犯罪にならないんでしょ。お金とっても捕まったりしないんでしょ。
弱いモンスター、お金も持ってるなら特に…危ないなぁ。絶滅するんじゃ…」
「確かにそれ言い出したら魔物と言えど人間の欲によって狩りつくされるわな…でもそこはなんか目をつぶる事は出来んか…?」
かなり斜め上を責められてやや対応に難儀する生一。
「出来ないことはないけど、不思議だなって。お金を持ち歩いてるモンスターって…このイラストの“スライム”ってモンスター。どうやってお金を持ち歩くんだろうって思ったんだけど。」
「そうなんやけどな……あの…ゴメン先行ってええか?魔法いうのの紹介もあるんやけど。」
「魔法?さっき言ってた“傷ついたら回復させる”っていうのが魔法なんですか?」
「せやで。魔法は攻撃したり補助に使ったりする魔法もある。
火ィの魔法やと“メラ”言うんやけど。」
「“目良”…こうですか?」
「誰も漢字で書け言うてへんやろ。そういう事が言いたかったんと違う!
まあええ、各魔法はパワーアップ版があるねん。さっきの“メラ”の場合やとその上位魔法が“メラミ”。そして最上級が“メラゾーマ”という感じや。」
「英語の最上級の3段活用みたいですね。“small”“smaller”“smallest”みたいなの?」
「う~んちょっと違う。氷の魔法だと“ヒャド”その上位魔法が“ヒャダルコ”そして最上級が“マヒャド”という感じになるんやけど。」
「そこは“ヒャドゾーマ”にならないんですかね?どういう条件で正規の三段活用にならないんでしょうか?」
「正規とかそういう問題ちゃうんよな~。なんか調子狂うわ。っうか英語と呪文を混同したらあかん。」
「他の呪文はあるんですか?」
「あるで。例えば“ザオリク”。これは死んだとき生き返るねん。」
「ゲームの中とはいえすごい呪文じゃないですか。だったらこれを1000人くらいの兵士に覚えてもらって一緒についてきてもらったら…」
「“べホマ”いう呪文は自分の体力をフル回復させることが出来て…」
「それ魔王が覚えてて、使われたら倒すの…無理ですよね。」
「“ザキ”いう呪文は相手を即死させる事が…」
「すごい呪文じゃないですか。だったらそれを魔王に使えば…」
一通り代表的な呪文を説明し終えた後、生一は遠くを見てため息をつく。
「なんか俺、気づいてもうたわ…」
「何が?」
勇一達が身を乗り出す。
「俺はゲームという決められたルールと世界の中で戦おうとしてきた。でも型破りに生きても良かったねん。
なんで4人パーティやからって4人じゃないといかんと思い込んでたんやろうか…人間はもっと自由に生きてええんや!
俺は…俺達は、ドラクエやりながらいつの間にかルールに縛られたやり方に慣らされてしもうてたのかもしれん…。」
「おい、たかがゲームだぞ。」
「そうやけどな…そうやけど、なんで何も違和感なくプレイしたのに疑問を抱かんかったんや。
今の日本社会もある意味“貨幣ゲーム”やろコレ…」
“このアホは何を言ってるんだ”という表情の女性陣。
静那は一通りトリセツを咀嚼し終えたようで、生一に話しかける。
「で、どんな冒険になるんです?」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
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