18-2 伝説と乳を語る
【17話/B面】Bパート
「しかし、なんで急に日本の昔話を知りたいなんて思ったんだ、武藤さん。」
葉月さんのプレゼン後、静那に問いかけてきたのは新入部員の八薙君。
同じ1回生同士なので、武藤さんという呼び方にしている。
「今、日本について色々知ろうとしてるんだけどさ、さすがに日本って言ってもジャンルが多すぎて何から調べたらいいか分からなかった。
そんな中でやっぱり昔から伝わるルーツを調べていくのが良いかなって。」
「なるほどな。それで昔話か。」
「そうだよ。図書館に行ったら結構その地域の民話が残されていてね、読んでたら結構面白いんだよ。」
「俺はそういうの全然見てなかったからな…
ちなみに俺の故郷は高知の西側なんだけど、おそらくその地域でも民話は残ってるんだよな。」
「あるよ。土佐の西側だと……そう!全国にも知られるくらいの伝説の力自慢がいたんだって。」
思い出したように静那が話しだした。
「伝説の力自慢って、広いこの日本の中の…この高知の村にか?」
「昔はココ、土佐の国って言われていたんだよね。ならもう昔話上で伝説になってるくらいのすごい人がいるよ。知らなかった?」
「いやいや、日本の中での土佐って小さいぞ。そこに日本でも伝説級の人間がいたとか初耳だよ。」
「え?静那、俺も知らなかったよ。図書館とかで調べたの?」
話をききつけて勇一達が寄ってきた。
「“ねじ金さん”って知らない?聞いたことないですか?」
「いや、初めて聞くな~」
「伝説のお相撲さんなんだって。ここから40kmくらい西に行ったところの村にいたんだよ。」
「本当か!でもなんでそんなに有名なのに名が知られてないんだよ。」
「強かったんだけどあまり世間に向けて力を誇示することが無かったんじゃないかな?強さは村では評判だったけど…」
「それならさすがに逸話で終わるレベルだろう。伝説の力自慢っていうのは民話の中で誇大に仕立て上げたにすぎないんじゃ…」
「それがそうでもないよ。
“ねじ金”はお相撲で負け知らずだってことで村の間では有名だったんだけど、その噂を土佐藩っていうのかな…まぁ高知県の有名な王様が聞きつけてね、是非“ねじ金”も相撲大会に出場するようにって通達が来たのよ。
でもその時、彼はもう死ぬ前というか…これ“晩年”っていうんだよね。
病気で体がほとんど動かない状態だったみたい。
寝たきりに近い感じ。
でも御殿様からの参加命令だからっていうことで、闘病中なのに無理して必死で会場まで歩いていったんだって。
そこで当時の相撲大会のチャンピオンと戦うんだけど、まったく相手にならないどころか逆にかついで勢いよく頭から投げ飛ばして相手を殺してしまったみたい。」
「病で死にかけの状態でもそんなに強いんか…恐ろしいな。」
「そりゃあ伝説になるよな…。」
「その後、フラフラの体でそのまま村へ帰っていって…そのまま病気で亡くなったってお話が残ってるよ。」
「そんな化け物がこの高知県の西のハズレに居たとか全然知らなかったよ。」
「身長が180cmあって体重も200kgって具体的な記述があるから実在する人物だったと思うよ。
ただ彼が本当に有名になった、名が知れ渡ったのはその相撲大会の優勝者との試合。
だから私たちの知らない所に凄い人はいるもんだよ。」
「静ちゃんよく調べたね~すごいよ。私も知らなかった。そんな人。」
傍で聞いていた仁科さんと椎原さんも驚く。
「そうかな…でも昔の民話、面白いよ。日本みたいに図書館に大昔の記録がきちんと残ってるのって珍しいと思う。その村で作られた昔話もちゃんと残ってるし。」
「私も図書館って勉強するところだって思ってたけど、これまでの人たちの叡智が詰まった場所でもあるんだよね。」
「これまでの人たちのエッチが…」
そんな兼元のセリフは無視して話は進んでいく。
「なんか静那に教えられるのって変な感じだけど、俺ちょっと本に対する見方が変わったかも。」
「藤宮君も漫画ばっかり読んでないで図書館で本読んでみるのもいいんじゃない?」
「うるせぇよ。漫画からも学べることはあるんだよ。口から火ィ出すやり方とか。」
「だからよ!だから漫画じゃなくて本にしろって言ってんの!漫画ばっかり読んでたらマジでバカになるよ。今でも十分バカだけど。
まず口から火を出す必要性がどこにあるのよ。」
「フンッ、あるかもしれんやん!
それに何年後かには漫画が人生の教材みたいになる時代が来らあ。」
「まったく…静ちゃんも漫画自体が駄目だとは思わないけどさ。あいつみたいに漫画“ばかり”じゃなくてちゃんとした活字の本を読んだほうがいいよ。
ああなるから。」
「お前は静那のおかん(お母さん)か!
なんで同じ書物やのに漫画がそんな迫害うけにゃならんのだ!
日本の歴史とか伝記とかが学習漫画で出てるやろ。」
「だから全く駄目とは言ってないじゃない。
でもやっぱり漫画の影響が異常かもって感じる時はあったよ、昔。
小学生の時にさ、男子の殆どがアレ…戦闘力の数値とか言いながらケンカしてたの見て、ワケ分かんなかった。
少年誌って暴力的なの多いじゃない。皆が皆強いワケじゃないのにさ。」
「俺らだってみんなが強くなれるわけじゃない事くらい分かってるよ。弱いやつでも立ち回りをうまく考えて切り抜けていく…漫画にはそういう醍醐味もあるんだよ。」
「私それ関心ある!強くなくてもやれることあるんだよね。」
静那が反応した。
「おう…そりゃ誰でも悟空みたいにはなれねぇからな。戦闘力5のオッサンに生まれてきたんならそれなりの人生の送り方っていうモンがあるだろ。」
「ドラゴンボール、ですか?」
「八薙も好きだろ。あれ。」
「まぁ有名ですよね。子どもの頃って何者かになろうとしてた時期があって、自分もああいう強さにあこがれた事はありますよ。」
「何かにあこがれるのは悪くないよね。」
「女性だってアイドルとかに憧れたりするだろ。」
「そんなもんだよ。まぁ漫画でも学べることは沢山あるってこと。」
* * * * *
「何?なんかアイドルの話とかしてんの~?」
トイレから戻ってきた小谷野と兼元。
「はい、女性だってアイドルとかに憧れたりするって。」
「まぁ女はアイドルいたら途端にキャーキャーいう単細胞な奴多いからな~
ミーハーっつうか。」
ムッとしたのは仁科さん。
「あんた!今ので全国の女性を敵に回したからね。」
「お前かてアイドル好きなんちゃうんか?」
生一が意地悪そうに小谷野に振る。
「んなもんどうでもええよ。目の前に嫁がおるんやし。」
「キモ…」
「おいそこ!聞こえてんぞ。」
「でも小谷野、以前“広末”の話してなかったか?隠れてアイドル好きなんじゃないかって?」
「断じて違うね。だいたいまだあんな青リンゴみたいな乳に欲情するわけないやろ。やのに熱心なファンがぎょうさん出来ててアホちゃうか思てるよ。」
「なんであんたの女性を評価する基準がバストばっかりなのよ!」
「はぁぁああ?大事やぞ乳!癒しの成分がぎょうさん詰まっとんねん!」
「バカバカしい…ただの脂肪なのに。」
ブチッという“小声”が聞こえる。
「おい、自分で“ブチッ”とか言うな。」
そんな生一のツッコミも構わずその後小谷野は声を荒げた。
「はぁあテメェー!言ってはいけないことを言ったね。この乳だけがとりえの下女が!」
「とりえ…って、ぶち転がすよ!!」
しかし小谷野は動じない。魂の反論を叩き込む。何かのスイッチが入ったようだ。
「お前達女子は乳の価値を知らなさすぎるのだ。
よく考えてみろ。
女性の唯一無二のサンクチュアリ(聖域)、美の象徴やぞ。
それを何よ!脂肪の塊とでも言うんか?えぇ?」
「別に脂肪の“塊”とは言ってないじゃない。」
「いや、仁科さん…アイツもう何言っても聞こえてないよ。完全にスイッチが入ってしまったみたいだ。」
「諸君!ドラクエになぜ“危ない水着”がある?」
「そんなの知らないよ。そもそも“ドラクエ”って何よ。もっと私達にも分かるように言いなさいよ!」
「じゃあ質問を変えようか!なぜグラビアアイドルなるものが存在する?」
「そ…それは…まぁ綺麗なんだからいいじゃない。」
「いいや、それだけで済ませられるような浅い世界じゃないね。」
「そういう世界の深堀みたいなのはもういいから!早く結論言いなさいよ。こっちはいい加減ドン引きしてるんだけど!」
「偉そうに言うな!脂肪の塊とか言いやがって!」
「だから“塊”とは…」
「そう言うんやったら人間は何やねん。
おまえらの定義で言ったら…人間は“水分の塊”か!“タンパク質の集合体”か!はたまた“二酸化炭素製造マシーン”か!」
「確かに仁科さんの言う通りこいつムカつくね…」
「もうミンチにしていいよ。アレ」
「おまえはそれくらい“お乳様”に対して暴力的な見方をしたんや!夢と希望が詰まった奇跡の産物なのに…」
「あんただって産物とかいうその言い方。モノを見るみたいな言い方してるじゃない!
全世界の女を敵に回してるわよ、その言い方だと!」
「うるせぇよ。お前はこの中やったらエースなんやからその自覚を持て!」
「バッカじゃないの!エースとかバストのサイズで勝手に決めんなコラ!ド変態!!」
「揺らすだけで“PEA”振りまけるんやで!その威力を平和のために使わんでどうするねん!」
「何よPEAって!」
「フェニルエチルアミンいう恋愛ホルモンの一種や。そんなんも知らずに女として生きるな。偏差値大丈夫か?」
「こいつもう窓から放り出そうか。」
「それはちょっと…」
「あのね静ちゃん。コイツは今女を相当侮辱しまくってんの!もうミンチにして犬の餌にでもするくらいが良いのよ。」
「仁科先輩の顔が怖いよ…それに犬の餌って…」
「あっ!ごめんね静ちゃん。そうね。私が暴走しすぎたかも。そのごめんなさい静ちゃん…」
「うん…まぁさ、一応最後まで旦那様の意見聞いてみようか。」
「………はい…。」
「(どんなクソ意見でもあくまでニュートラルに聞ける静那さんって一体……)」
小谷野は最後の締めに入る。
「その存在だけで沈み切った男の心を穏やかにしてしまう…そんな全てを包み込むような偉大さに感動し、男達は涙を流すのではないのかッ!!」
「……………」
何も反応が無いのでとりあえず生一に視線を向けてみる。
「いやだから…別に感動もしねぇし涙しねえよ。」
かまわずマイペースでまだ演説を続ける小谷野。
「そして時としてお互いの距離を瞬時にかつ強烈に縮めていく役割を担う存在…それを解き放ち時、全ての男を高みへと導いてくれる心理の階段…
生まれたばかりの光にも似た宇宙より壮大な存在。
これはもうbreast Symphony(乳のシンフォニー)そのものではないか?」
…全員ドン引きしてこの演説を聞いている。
「お前も絶対アホやろ…」
生一が呟く。
少し間が空いてから勇一が口を開く。
「うん。とりあえずお前も兼元に負けず劣らずヤバいのは分かった。ということでもうこの話を静那にするのは禁止な!」
「なっ!私は“お乳様”の正しき価値を証明しようとしただけだ。ただの脂肪の塊とか言い張るそこの女にだな。」
「“お乳様”言うなバカ!そもそもバストを声高に叫ぶようなやつを静那が好きになるわけないだろ!」
「嫁よ!そうなのか?」
「お前もマジで聞くなよ。まさか逆に好きになったとでも思ってるんか?頭ん中お花畑もいいとこだぞ、ソレ!」
「静那はどうやった?」
「その……私…は自信無いな…最近大きくなったとは思うけどまだ全然で…その、ごめん…平和のために使えそうになくて…。」
俯いて申し訳なさそうに答える静那。
“なんで真面目に答えてるんだよ!!”と心の中で突っ込む女性陣達と八薙。
「あぁあ最低!自分の嫁さん傷つけちゃった。」
「もう静ちゃんあなたたちとの買い物、2度と付き合ってくれないかもね。」
「ええええ、そうなの?静那ちゃん。」
静那は俯いたまま無言だ。
「あぁあ、お前流石に今のは自滅したな。」
「ダンナから陥落だな。」
「そもそダンナだったんですか?」
「さぁね。まぁもうさすがに愛想がつきたのは確実ね。」
「そんな……俺は…これから…あぁあ。」
そのうち泣きべそをかきだしたので、その様子を見た静那は顔を上げ苦笑いをしながら小谷野に歩み寄る。
「反省してる?」
「はい!してまちゅ。」
一同「(なんで赤ちゃん言葉になってんの?)」
「じゃあ…お詫びに小谷野先輩にも日本の昔話を一つリクエストしてもいいかな?」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
【読者の皆様へお願いがございます】
ブックマーク、評価は大いに勇気になります。
現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。
頑張って執筆致します。よろしくお願いします。




