初めてのお泊まり会①
陽が完全に沈み辺りは真っ暗になろうとしていた。
「ハルトく...ハルト、これからどうするの?」
「とりあえずアイシスをお家に送って、そっからはまあ...帰るかな...」
「お家...あんまり好きじゃ無いんだよね?」
「そうだなあ...今日は特に遅くなったからすんげえ怒られるかもなあ...」
「あっ......そうだよね...ごめん......」
「えっ、あ、いやいやアイシスのせいではない! ってか、アイシスは大丈夫なのか? 女の子だし心配されるんじゃないか?」
「そう...かも... 特に今日のこと話したらまずいかも......」
「確かにそうだな... 今日のことは二人だけの秘密にしておこう...もしかしたら探してるかもしれないから早く帰るか!」
「うん... ねえハルト。」
「うん。」
「もしよかったらなんだけど...うちにくる...?」
「え......い、いいのか?」
「た、多分? 遅くなっちゃって申し訳ないからご飯とか一緒にどうかなあ〜って...」
「え!行きたいよ!! 楽しみだな〜♪ でも、ダメそうだったら言ってくれよ! これ以上迷惑かけたくないし...」
「うん! お母さんもお父さんも優しいから多分大丈夫...かな? ハルトこそまだいいの?」
「余裕!!」
◇◇◇◇◇◇
アイシスは、木造でまだ建築されてから年月が経ってなさそうな小綺麗な民家に入って行った。家は二階建てであり、一階の窓から黄色い灯りが見える。この灯りのおかげで辺りいっぺんが照らされているようだ。
「ここがアイシスの家かあ......」
この家には今朝を含め何度か訪れているがもっぱら日中ばかりで、夜に見たのは初めてだ。昼間にはあまり感じたことはなかったが、こうしてみると広い草原の中にポツンとしているのが際立っている。実はこの辺りも割と閑散としていて、民家が離れたところに点在している。だから夜には民家の明かりを頼りにして歩かないとすぐ闇夜に飲み込まれてしまうだろう。
さっきアイシスは友達が少ないと言っていたが、凄く納得できる。こんな環境じゃロクに遊ぶ相手になんて出会えないだろう。かわいそうなアイシス...
そもそも俺がアイシスに出会えたのも本当に奇跡的だった。
今日もそうなのだが、俺には家出癖があり、しょっちゅう王城を飛び出しては領地を散策していた。まあこう見えて実は俺、現国王の嫡男であり王位継承権を持つ第一王子ってやつだったりする。つまりまあ......こういう勝手な行動は前代未聞の言語道断な訳だが、色々とこちらにも言い分があるので見過ごしてほしい。
それはそうと、3ヶ月前にいつも通り城を抜け出した時なんだが、その日は一層使用人たちが穏やかでなく、城の外に出ても地の果てまで追ってくるかの如く俺を追ってきたのだ。
この日はどうしても覚えたての魔法を練習したくて、死に物狂いで逃げた結果、いつもとは違う方向へ進んでしまい結果辿り着いたのがここだった。その時にはもう流石に体力が尽きかけて捕まるのも時間の問題だったのだが、一人の少女が俺を物置に入れて匿ってくれたのだった。その少女が言わずもがなアイシスのことである。
その日以来俺らは数日おきに集合しては一緒に遊ぶ仲になっていた。魔法や剣術の練習をしたり、本を読んだり、街や森に遊びに行ったりと色んなことをした。
言ってしまえばたった3ヶ月の間の出来事だが、思い返してみると凄く懐かしい気分になりノスタルジックに浸れるなあ。家の傍にある物置も変わらないなあ......まあ3ヶ月しか経ってないからな。
「ハルト!! こっち来て!!」
中から扉が開き、アイシスが現れて俺を呼んだ。
家の方へ駆け寄ると家の中からもう一人背の高い男性と、凄く美味しそうな香りが出てきた。
「こんばんは! 君がハルト君かい?」
「はい!! 初めまして! ハルト・フォ......ハルト・ロイターと言います!」
「そんなに丁寧にしなくていいんだよ。 僕はガリン・シエルフィオラ、アイシスの父です。」
そう言って爽やかな男はニコッと微笑んだ。確かにアイシスの言った通り、とても優しそうだ。微笑み方や仕草に上品な優しさが溢れており、流石アイシスの親だなと思わさせられる。
「ハルト! もうすぐご飯できるから入って入って!!」
「さ、ハルト君どうぞ。」
「お、お邪魔します!」
家の中は一室の広い居間で構成されていて奥の方に二階へつながる階段があった。おそらく2階が寝室なのだろう。
居間の奥を見ると大きな食卓があり、そこにいはアイシスによく似た綺麗な金髪を生やした女性が料理を盛り付けており、咄嗟にこちらへ振り向いた。
「あら、いらっしゃい! お料理もうすぐだからもう少し待っててね。」
「はい! お気になさらず! 本日はお招きいただきありがとうございます!」
「ウフフ、ハルト君は礼儀正しくて素敵ね。」
「あっ、い、いえ...!」
「リーリエ、今日のご飯は何かな?」
「鴨と羊のお肉を焼いてますよ。 ハルト君、何か嫌いな食べ物とかある?」
「大丈夫です! 全部好物です!」
「フフ、本当にいい子ね。 うちの子にしたいくらいだわ。」
「でしょ!! ハルトはいつも優しいの!!」
「は、恥ずかしいなあ〜〜えへへ...」
「いつもアイシスと一緒に遊んでくれてありがとうね。」
「こちらこそです! むしろ今日は遅くなってしまい申し訳ありませんでした...」
「いやいや、ハルト君が謝らなくてもいいんだよ。 ちょっと心配だったけど、アイシスが最近楽しそうだから僕らは凄く嬉しいんだ。」
「お、お父さん...! 恥ずかしいよお...」
「そう言ってもらえると嬉しいです! ありがとうございます!!」
「さ、みなさん。 お夕食ができたので食べましょうか!」
「「「はい!!」」」
さ、最高の両親だ...... こういう優しさの権化みたいな親に育てられると彼女みたいな人格者が育つんだな。 ああ...俺もこの家の家族に入りたい......あ、でもそれだとアイシスと結婚できないか.........って何を考えてるんだ、俺は! とにかく食事に集中しよう。
なんたってとてつもなくいい匂いだ。 こんな日が毎日続けばいいのに......
ご閲覧頂き誠にありがとうございます。絶賛会社勤め中の天下不備と申します。
初めての小説投稿につき拙い点多々ございますが、皆様からのご指摘・ご感想を糧にしてより良い作品へと昇華させていきたいと思います。
皆様のポイント加算・ブックマーク登録をお待ちしております。