田舎町の金髪美少女④
「ハルトくん!! 大丈夫!?」
「ハァ、ハァ......」
「ハルトくん、突然で申し訳なんだけどとりあえずすぐ立って!」
いつもは少し奥手気味なアイシスが目を見開いて俺に訴えかけているのですぐに我に返った。
「分かった、何かあったのか?」
「なんか近くに魔物が現れたらしくて! 何度か呼びかけたんだけどハルトくん起きなくて... えっと...」
「分かった! とりあえず逃げよう! そばで待っててくれてありがとう!」
「うん...!!」
俺はアイシスの手を取って走り出した。 アイシスも呼応するようにギュッと握り返して横一列で一目散に走った。
「え.........」
「あまり見るな。」
茂みから大通りに出ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
道中に何人もの大人が倒れており、至る所に血飛沫の跡が染み込んでいた。
「......うぅ......うぅ......」
アイシスの体が大きく震え出し、今にも泣き出しそうだ。
「キャアアアアアア!!!」
どこからともなく女性の叫び声が聞こえてきた途端、アイシスの足から力が抜け真後ろに倒れ込みそうになった。その瞬間、俺は彼女を抱き寄せギュッと力強く抱きしめた。そして耳元でそっと優しく囁いた。
「怖いよな......でも安心しろ。俺がついてる。絶対に君を死なせない。」
「.........う、うんっ......」
アイシスの目からは数滴涙がこぼれ落ちていたが、その目は俺をしっかりと見つめており落ち着きを取り戻していそうだ。
「よし。 絶対に二人で生き延びよう。 こう見えても意外と俺は強いんだ。 どんな魔物だったとしても絶対にアイシスのことは俺が護ってみせるよ。」
「...はぁ...はぁ...う、うん...」
「俺を信じれるよな?」
「う...うん!」
「よし、行こう。 絶対に俺から離れるなよ!」
「はい!!」
俺らは前を向き直し再び走り出し十字路に差し掛かったその時ーーー
「グオオオオオオオオオ!!!!!」
「キャアアアアアア!!!」
「こっちだ!!!」
魔物のものと思われし雄叫びと阿鼻叫喚が前方から聞こえてきた。声の大きさ的に結構近いな。
くっ...やはり戻るか?
「おい坊主たち!! さっさとあっちへ逃げろ!!!」
左から30歳くらいの男がこちらへ走ってきた。
そして俺はアイシスを連れ即座に来た道を戻ろうとしたが、彼女は動き出そうとせずびくともしなかった。
まあ、それもそのはず。走ってきた男の後方に何やら5mほどある真っ黒な物体が小道から出てきたのだった。
「そっちに行ったぞ!!!」
誰かが大声で叫ぶ。
「何っ!?」
走ってきた男が咄嗟に振り向いた瞬間ーーー
「グチャアアアア」
「プシャアアアアアアアア」
肉が引き裂かれる音と飛沫の音が響き渡った。
俺らの目の前で男の腹部が削り取られ、上半身と下半身がボトボトと道端に落ちた。
地面の上に赤黒い血が流れ広がり池のようになってゆく。
「あ..........あ.............あ............」
アイシスは声にもならない音を出しながら、膝から崩れ落ちた。
その顔は絶望に満ちている。
そして、二人の小さな子供の前に魔獣が対峙したのだった。
その魔獣はクマようなの形をしており、体を包んでいる真っ黒な体毛は大量の血で濡れている。更には、目を真っ赤に光らせており、口から白い息を吐いてこちらを見つめている。
「グオオオオオオオオオンンンンンンン!!!!」
「はあああわわわあああ!!!」
「アイシス!! 落ち着いて聞け。 俺の後ろから絶対に出るな。」
「............」
声は出ないもののアイシスは頷き、恐る恐る俺の後方に回った。
「グリズリーか...? いや違うな......」
こいつはただの熊じゃない。 こいつはれっきとした魔獣だ。 身体中から放たれている黄色い光がその証拠だ。 この感じだと元々はただのグリズリーだったが、何者かによって魔獣化させられた可能性が高いか?
まあとにかく、魔獣化しているとしたら巨大化に加えスピードやパワーが桁違いに増加している筈。
当たり前なのだが、子供が敵うわけがない......
しかし逃げ切ることはほぼ不可能......全てにおいて絶望的だな。
ところが、その実俺は恐怖を抱いてなかった...いやむしろ高揚していたのだった。なぜだろう...
つい先程アルビオンから浴びせられた静かな殺気に比べれば、こんなケダモノ丸出しな覇気など屁でもないからか?
それとも王族として抑圧された日常とは、かけ離れた非日常を目の前にしているからか?
はたまた、守るべき少女を背にしているからか?
まあそんなことなんざどうでもいい! 集中しろ!! 勝負はおそらく一瞬で決まるだろう。 一瞬の好機すら逃してたまるか!!
「グワアアッッッッッ!!!!!」
「うおっっっっっ!!!」
グリズリーが左手をブンッと回し引っ掻いてきたが、咄嗟に後ろに下がりすんでのところで躱した!
やべえ......想像の100倍早え。やっぱきついか......
「フォオオオンンンッッッ!!」
今度は右手をぶん回してきたが、これも右前方へ倒れ込みギリギリのところで躱した。
しかし、立ち上がる隙もなく真っ黒い影が俺を包む。
座り込んだまま上を見上げると、真上に前屈みなグリズリーが顔を俺の目の前に突き出していた。
「ハルトッッ!!!!」
「アイシスッッッ!! もっと下がれ!!!」
「フシュウウウウーーーーー........」
グリズリーが両腕を真上に振り上げた。
あ......終わった。
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