田舎町の金髪美少女③
今俺はクモなので、歩幅がとんでもなく小さい。クモとして生きるのも大変なんだな。今度王城で見かけたらそっと逃してあげよう。
「ふぅ...」
やっと扉の前まで辿り着いたが、驚いたことがある。それは死角のため人気が無いし、川沿いで湿気が強いのにも関わらず扉が綺麗だったことだ。つまり、最近も高頻度で使っているということだろう。しかし、変な場所にある分やはり立て付けは悪いな。扉の下の隙間から入ってみるか・・・
入ってみたものの、真っ暗で前が全く見えない。
んーどっちへ進めばいいんだ...
とりあえず真っ直ぐに進んでみたが一向に何も見えない。
クモって暗いところに潜んでいるイメージだが、こんなにも見えないもんなのか?
それとも魔法の欠陥かな......んー分からん。
「タッタッタッタッタッタッ」
ん?なんか足音がするぞ。人か!?
「ドッドッドッドッドッドッドッ!!」
どんどん足音が早くなり近づいてくる! あれ?なんかおかしい気がする......
「チッチッ!!」
この音は.........ネズミだ!!!やばい!!!
突然前から真っ暗闇の中で輝く二つの赤い光が近づいてくる。いや、これはネズミの目だ!
クモは一目散に全速力で逃げ惑うが、如何せん人間が操作しているので思うようにスピードが出ない。しかし、食べられては一巻の終わりなのでとにかく逃げる!
「ドッドッドッドッドッドッドッ!!」
「チッチッ!」
「チュッチュッチュッ!!」
おそらくネズミのものと思われる足音や舌を鳴らす声が各所に鳴り響く。全範囲から聞こえてくるので、もはや一匹だけではないのかもしれない。いや考えるな、逃げろ。
「グァオオオオオオオオンンン!!!」
「シュルルルルルウウウウウウ!!!」
「ブルフフウウウウ....」
なんか他にも聞こえてくるけどこれは果たしてネズミが発する音なのか??音質も音量も全然違う気が......
もう何だか訳が分からないがとにかく走る!逃げる! そうしているうちに前方に四角い形の光が見えてきた! 扉だ!!
「ダンッダンッダンッダンッダンッ」
後ろからとてつもなく大きな足音が聞こえるが関係ない!間に合え!!!
がむしゃらに走っているとクモの体は差し込んでくる光に包まれ、扉の下をするりと通り抜けた。
「た、助かったあ......」
外の茂みの中で目を瞑り、うずくまって座っている俺はボソリと呟いた。
「ハルトくん、身体中から汗が出てる・・・。大丈夫かな・・・?」
◇◇◇◇◇◇
扉を越えるとそこは、ちっぽけで小汚い小さな部屋だった。木製の壁、机、そして二つの椅子が向かい合って置いてあり、そこには2人の人物が座っていた。そしてそのうちの一人は足元しか見えないが、黄色のラインを含んだ白いスカートのような装束を着ていた...ビンゴ!!
「話はまと......というこ....しいでし...か?」
「ふむ.......そう.....ね。」
んん?よく聞こえないぞ......ああクモだからかな?もっと近づこう。
2人の顔がよく見える位置にまで壁をよじ登ると大分聞こえやすくなった。
「一応教皇様にお話を通しておきましょう。 追って沙汰を伝えるよう使いを派遣いたします。」
「誠にありがとうございます...」
やはり読み通り...... この異様に目立つ装束、教国の人物で合ってたか。 別に教会に訪れることは不自然ではないが、密談をしているということは正式な入国なのかは怪しいな......
「これでテオ様の王位継承が大幅に近づきます!」
「まあまあグリニャール殿。 そう焦るでない。 計画は慎重に遂行することが肝要ですぞ。」
「はっ! しかし、やっとあの忌々しき馬鹿王子、いやラインハルト王子を失脚させることができる!」
「ええっっ!?!?」
「焦らずとも、テオ殿の実力に教皇様のお力添えが加われば事は良好に進んでいくでしょう。 あなたはもう少しお言葉にお気をつけ下さいませ。」
「も、申し訳ございません!!」
.........おいおいおいおい!! 突然俺の呼ぶもんだから叫んでしまった...本体が。
心底クモの体で良かったと今日初めて思った。グリニャールとかいう教国の刺客と話している男はどうやらテオ派の親衛隊らしいな。確かに見たことある顔だと思ったが、王国側の貴族だからか。
なんだか凄く穏やかな話でないぞ。というか、俺自身に関わる深刻な問題な気がするがーーー
まあ聞かなかったことにしよっと♪
凄く興味深い話も聞けたことだしそろそろ戻るかーーー
「おや、変な虫がいますねえ。 グリニャール殿、少し横へ。」
「え、ええ、分かりました。」
ん......?
「......リー..イト」
何やらアルビオンがボソボソと呟いたその瞬間!
「ズガガアアアアンンンン」
「うわああああああ!!!!」
突然クモの頭上が爆発して壁が弾け飛んだ。
幸い衝撃が飛んでくる前に、突然の眩しさのせいで壁から転げ落ちてしまったので辛うじて避けることができた......危機一髪!
「ハルトくん......起きて...!」
アイシスが何やら話しかけてくるが、気が動転しすぎて応答できない。
「あ、アルビオン殿! びっくりしましたぞ!」
「申し訳ありません...クモがいたのですが少し不気味に感じましたので。」
「なんだ......クモですか。 お嫌いなので?だとしたらこのような小汚い場所にお連れしたこと深くお詫びいたします。」
「いえいえ、お気になさらず。普段は気にならないのですが、なんとなく不快でしたので。昔耳にしたことがありますが、小動物を使役する魔法があるとかないとか...何事も注意深くするに越した事はありませんぞ。」
「いやはや流石、従二位の信徒殿は意識が違いますな。」
クソッ、このアルビオンってやつ只者じゃないな。ただのクモを見てそこまで頭が回るとは。
いや、逆に今の俺の状態はかなり不自然なのか?手練れには丸分かりなオーラのようなものが出てる可能性もある......帰ったらちゃんと検証しよう。
とりあえずこんなイカれた空間からはさっさと退散しよう。アルビオンとグリニャールが話し込んでる隙にそろりと向かい側の扉から出て行こうとした......その時!
アルビオンと目があった......気がした。その瞬間のアルビオンの表情は、目が据わっていてなんとも表現し難い不気味な笑みを浮かべており、まるでサイコパス殺人鬼のような顔でこちらを見つめているような気がした。背筋が凍るような感覚というものを初めて実感した。
時が止まったような感覚の中歩き続け、気がついたら廊下に出ていた。
なにやら巫女のような人たちが騒がしく走り回っているが、放っておいてとりあえず出口を探そう。できれば礼拝堂側の出入り口を見つけたいな。
「ではアルビオン殿、本日はありがとうございました!」
「こちらこそおもてなし感謝します。 またお会いしましょう。」
やばい...アルビオンが来る! とにかく一目散で廊下を走り去った。流石にこんなに全速力で真っ直ぐ走っているクモがいたら絶対怪しく思われそうなものだが、通りすがる巫女たちは何やら焦っているので運よく気づかれずにいる。
そして何度か角を回った先に食器棚のような棚が壁に面して置いてあった。よしとりあえずここに隠れよう。棚の後ろの隙間に勢いよく入り込み、上側へよじ登った。すると天井に何やら隙間が見えて光が差し込んでいる。もしかしたらここが......!
隙間を越えると目の前に女神像が現れた。ここは...さっき祈りを捧げた場所だ!こんな所に出入り口があったとは。ここに来れば自然と女神像に視線が移るから、まさか扉が真下にあるとは気づかない訳だ!勉強になるなあ〜。
「.........ここにいたのですね? 聖職者の光子砲」
「うわあああああああああ!!!!」
ご閲覧頂き誠にありがとうございます。絶賛会社勤め中の天下不備と申します。
初めての小説投稿につき拙い点多々ございますが、皆様からのご指摘・ご感想を糧にしてより良い作品へと昇華させていきたいと思います。
皆様のポイント加算・ブックマーク登録をお待ちしております。