転んだ
道を歩いていた時のことだ。
下校中だろう、楽しげな声を響かせて六、七人の小学生、恐らく低学年のグループが前から走ってくるのが見えた。
おれは進路を譲ってやろうと道の端に寄る、と、そのうちの一人が派手に転んだ。
顎を打ったようだ。他の子供らも立ち止まり、大丈夫かー? と声をかけている。彼らの顔から点滅するように笑みが徐々に消えていき、周りにあった温度がみるみるうちに冷めていくのが見て取れた。
特に、転んだ子があからさまに元気をなくしているのがどこか可愛らしくもあり、痛々しい。
と、そういえば、おれも子供の頃よく転んだっけ。で、泣いた気がする。でもある時、手をついて泣かなかったことがあったなぁ。あの時は、やったぁって思った。成長を感じたんだ。それからは転ばなくなった、かも。まあ、そんなには覚えていない。
でも、子供ってなんであんなに転ぶんだろうな。脳と体がまだ発達してないせいかな。
そんなことを考えながら通り過ぎようとした瞬間だった。
「ユーレイのせいだよっ」
え? と思い、おれは子供らのほうを向いた。
「今、せなかを押すのが見えたよ」
「ぼくもみたー」
「おれもおれも」
「なー」
「白っぽい手だった……」
幽霊……ああ、そういうノリか。くしゃみしたら『ああ、それ誰かが君の噂しているんだよ』とかそういう類の。あれくらいの子供は幽霊だの妖怪だの好きというか、存在を本気で信じているものなぁ。
転んだ子が立ち上がるとグループはまた歩き出した。でも……。
「いてっ!」
「い、今、足引っかけたのって」
「ユーレイだよ」
「ユーレイだ」
「ああ……」
「……うん」
また同じ子が転んだ。だが、これは……イジメ、いや、イジリの範疇か。どうだろうな。どちらにせよ、あの子らに罪の意識はないだろう。無邪気な邪悪。
まあ、赤の他人のおれが注意したところで、な。不審者扱いされるのも御免だ。
「……なぁ、やっぱりあいつじゃね?」
「おれらのこと、うらんでるんだ……」
「いつも転ばせてたから……ふくしゅうに? あれも」
「でもあれは事故だってそうなったじゃんか……」
「いや、あれはどう考えてもおれらが……」
「お、おれ、悪くねーし! てか、さっきからおまえらだろやったの!」
怯えた声でそう言うと、さっき転んだ子を先頭に全員が、わっと走り出した。
その最後尾。七番目の子の背中がおれにはなぜだか、とても楽しげに見えたんだ。