表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

転んだ

作者: 雉白書屋

 道を歩いていた時のことだ。

 下校中だろう、楽しげな声を響かせて六、七人の小学生、恐らく低学年のグループが前から走ってくるのが見えた。

 おれは進路を譲ってやろうと道の端に寄る、と、そのうちの一人が派手に転んだ。

 顎を打ったようだ。他の子供らも立ち止まり、大丈夫かー? と声をかけている。彼らの顔から点滅するように笑みが徐々に消えていき、周りにあった温度がみるみるうちに冷めていくのが見て取れた。

 特に、転んだ子があからさまに元気をなくしているのがどこか可愛らしくもあり、痛々しい。

 と、そういえば、おれも子供の頃よく転んだっけ。で、泣いた気がする。でもある時、手をついて泣かなかったことがあったなぁ。あの時は、やったぁって思った。成長を感じたんだ。それからは転ばなくなった、かも。まあ、そんなには覚えていない。

 でも、子供ってなんであんなに転ぶんだろうな。脳と体がまだ発達してないせいかな。

 そんなことを考えながら通り過ぎようとした瞬間だった。


「ユーレイのせいだよっ」


 え? と思い、おれは子供らのほうを向いた。


「今、せなかを押すのが見えたよ」

「ぼくもみたー」

「おれもおれも」

「なー」

「白っぽい手だった……」


 幽霊……ああ、そういうノリか。くしゃみしたら『ああ、それ誰かが君の噂しているんだよ』とかそういう類の。あれくらいの子供は幽霊だの妖怪だの好きというか、存在を本気で信じているものなぁ。

 転んだ子が立ち上がるとグループはまた歩き出した。でも……。


「いてっ!」


「い、今、足引っかけたのって」

「ユーレイだよ」 

「ユーレイだ」

「ああ……」

「……うん」


 また同じ子が転んだ。だが、これは……イジメ、いや、イジリの範疇か。どうだろうな。どちらにせよ、あの子らに罪の意識はないだろう。無邪気な邪悪。

 まあ、赤の他人のおれが注意したところで、な。不審者扱いされるのも御免だ。

 

「……なぁ、やっぱりあいつじゃね?」

「おれらのこと、うらんでるんだ……」

「いつも転ばせてたから……ふくしゅうに? あれも」

「でもあれは事故だってそうなったじゃんか……」

「いや、あれはどう考えてもおれらが……」

「お、おれ、悪くねーし! てか、さっきからおまえらだろやったの!」


 怯えた声でそう言うと、さっき転んだ子を先頭に全員が、わっと走り出した。

 その最後尾。七番目の子の背中がおれにはなぜだか、とても楽しげに見えたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ