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5.新たな仲間

 気づけば俺もリーベもベッドへ横になっていた。

 今日は疲れた……もう寝よう。

 (まぶた)を閉じ、夢の世界へ。


 ◆


 暖かい日が射して俺は目覚めた。

 ああ、そうだった。

 昨日は討伐クエストをがんばって達成させ、その後は宿屋でゆっくりしていたんだっけ。疲労で寝落ちしてしまっていた。


 重たい頭を回転させていく。

 視線を少し動かすと、リーベはまだ寝ていた。おや、意外。

 エルフは朝が弱いと聞いたことがあるが本当らしい。まだぐっすり眠っているようだし、俺ひとりで朝支度を済ませよう。


 部屋を出て軽く身だしなみを整え、受付へ。


「おはようございます、リヒト様」

「お姉さん、おはよう」

「お出掛けですか?」

「うん。ちょっとヘルブラオを探索したい」

「お気をつけて」


 お姉さんの笑顔をもらって俺は元気が出た。この街の人たちは温厚で優しいな。


 外をゆっくり歩く。

 まだ早朝なせいか、それほど活気はない。だが、それでも老人や子供がどこかを目指して歩いている。

 なんて平和なんだ。


 三年前、世界はオーク族の支配によって危機的状況に陥った。

 大陸の半分を失ったほどだ。けれど『聖者クロイツ』の出現により、邪悪に満ち溢れていた世界は一変。

 オークは瞬く間に一掃された。

 そうして世界は平和になったんだ。


 街の広場に出てそんなことを思った。

 クロイツ・オーラケル……俺のたったひとりの親友。

 今はもうこの世には――。


「おい、リヒト」

「――ん?」


 振り向くと、そこには見知った顔がいた。

 いつもの貴族服ではなく、軍服に身を包む男。紫色の髪を揺らし、爽やかに歩み寄ってくるコイツは……!


「エルガー!」

「ようやく見つけたぞ」

「どうしてヘルブラオに」

「おいおい、水臭いじゃねえの。私とお前は親友だろう」


 ニカッと笑うエルガー。そうか、俺を心配して帝国からわざわざ追いかけてきたのか。


「心配をかけてすまない」

「いや、いいんだ。私も気持ちは分かるんだ」

「そうなのか?」

「ああ、この私にも婚約破棄の経験は幾度となくある」


 そんなにあったのかよ。知らなかったぞ。

 そうだったんだ。エルガーは俺よりも破談の経験があるんだ。なら、乗り越える方法を知っているかも。


「この心の傷をどう癒したらいい?」

「ふむ、それは難しい問題だ。だが、一つだけ言えるのは時間が自然と解決してくれるということだけだ」


「時間か……。やっぱり掛かりそうだな」

「そういうものさ。それより、リヒト。お前はヘルブラオに留まるつもりか?」

「いや、知り合った仲間と共に先へ進む」

「へえ、そりゃ興味深いな」

「紹介するよ」


 エルガーを連れ、いったん宿屋へ戻った。


 ◆


「おかえりなさいませ、リヒト様。……って、あれ。そのお連れの方は?」


 俺は、受付のお姉さんに事情を話した。彼が侯爵のエルガーであることを。すると、お姉さんはビックリしていた。


「というわけなんだ」

「こ、侯爵様!? す、すご……貴族の方ははじめて見ました。すごく……イケメンですね」


 どうやら、お姉さんはエルガーに一目惚れらしく、見とれていた。

 マジか。

 確かに、エルガーの容姿は整っているから女性の目を引くのかも。


「部屋に通していいかな」

「侯爵様なら問題ありません。どうぞ、お通りください」


 貴族は無料か。好待遇だね。

 エルガーは笑顔でお礼を言った。


「ありがとう」

「い、いえいえ……! ごゆっくり」


 お姉さん、すっかり落ちているな。


 部屋へ向かい、俺は扉をノック。……あれ、反応がない。まだ寝てるのかな。


「どうした、リヒト」

「ちょっと待ってくれ。中の様子を見てくる」


 少し扉を開けると、リーベはまだ横になっていた。……ダメか。

 仕方ない、起こすか。


 部屋に入って、俺はリーベの体を揺らす。



「……ふにゃー」



 ふにゃーって。

 気が抜けるなぁ。


 しかも、ずいぶんと気持ち良さそうに寝てるし。これは起こすのも悪いけど……しかし、エルガーを待たせるワケにもいかない。


「おーい、リーベ。起きるんだ」

「……ん。リヒト……さん。えっち……」

「――なッ!」


 俺は思わずドキドキした。今の寝ぼけて言ったんだよな……?

 なんかこれ以上はいろんな意味で危ない気が。いやいや、起こさないと。

 もう一度だ。

 今度はリーベの頬を指で押す。


 するとエルフの頬の柔らかさに驚いた。……すご。こんなにフニフニなんだ。


「ひゃう~……う?」


 ぱちりと目を開けるリーベ。俺に指を突かれている状況を確認するや、頬を赤く染めていた。


「お、おはよう」

「――リ、リヒトさん、なにォ!?」


「いや、なかなか起きないからさ……」


「はぅ。ご、ごめんなさい……朝は弱いんですぅ」


 リーベは更に顔を赤くする。恥ずかしそうに枕で顔を覆う。そんな行動が愛おしく思えてしまった。……か、可愛いな。


 って、ぼうっとしている場合じゃないな。


「その、リーベ。大至急で仕度してくれ。紹介したい人がいるんだ」

「紹介したい人?」

「いいから着替えて」

「分かりました。では、少し待っていてください」

「ああ、分かった」


 俺はいったん部屋を出た。

 しばらくしてリーベが仕度を終えて出てきた。これでようやく紹介できるな。


「エルガー、彼女は元聖女のリーベだ」

「……リ、リーベ様!」


 紹介するとエルガーは驚いていた。

 さすがにその存在は知っているだろうし、当然か。


「は、はじめまして……ですよね」

「え、ええ……」


 ん、エルガーのヤツ、妙に落ち着きがないな。ああ、そうか。リーベが可愛すぎるから緊張しているんだな。お姉さんには余裕の表情を見せていたクセに、元聖女様が相手だとこうなるのか。納得、納得。


「どうした、エルガー。らしくないな」

「あ、当たり前だ。リーベ様は、ゴルト帝国の為に尽くしてくれた御方。知らぬ者は誰もいない尊い存在だ」


 なるほどね。それで震えるほどに顔を青くしていたのか。

 俺はあんまり興味なかったからなぁ。

 今は凄くあるけどね。


「そ、そんな大層な者ではありません」

「ご謙遜を。リーベ様、お二人では大変でしょう。この私もパーティに加えていただけるとありがたいのですが」


「そ、それは……リヒトさんが決めることですから」


 遠慮気味にリーベは俺に視線を送る。

 そうなのかな。

 けど、判断を仰がれている以上は仕方ないな。

 それに、戦闘経験豊富なエルガーがいると助かる。


「じゃあ、三人で傷心旅行と行こうか」

「いいのかい、リヒト」

「ああ、エルガーだって何度もフラれているんだろ?」

「まあな。では同行させてもらおうか」


 決まりだ。

 これでエルガーも仲間だ。

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