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元殺し屋の騎士生活  作者: 倉千 恵
第1章 幼少期編
8/12

第7話 家族と日常

 

 卒業試験の翌朝。


 屋敷の玄関には、俺と父、そしてリーファ先生の姿があった。


「長い間、お世話になりました」

「いやいやこちらこそ、アルスをありがとう。君が家庭教師で本当に良かったよ。昨日、アルスがドラゴンを倒したと聞いた時は正直信じられなかった」

「今のアルス君なら、魔法だけで十分食べていけますよ」

「その分高くついたけどな……」


 聞くと、リーファ先生は月白金貨10枚で雇われていたらしい。

 家庭教師だけで年収1億円を越える。

 その中には、魔法以外の授業の分も含まれているのだが……。


「魔法以外の授業をしてるのは見たことないけどな」


 ばれていたらしい。


「うっ……いや、アルス君は既にできてましたから! その分魔法の授業をふやしましたし……」


 実際、魔法以外の授業は各教科1回と、歴史を数回やっただけだ。


「まあいい。それで、これからどうするんだ? 国王陛下は、是非うちの宮廷魔術師に、とおっしゃっていたけど」

「ありがたい話ですけど、お断りしといて下さい。私は以前のように旅を続けます」

「そうか、まあ、何か困ったことがあったら、うちを頼ってくれ」

「ありがとうございます」


 そう言うと、リーファ先生はしゃがんで俺と目線を合わせ、俺の頭に手を置いた。


「アルス君、君の魔法は既にほぼ完成の域にある。けど、鍛練をサボっちゃだめだよ。君の魔力はまだ伸びてるから、毎日魔力を使いきることを忘れないように、杖の練習もすること、いいね?」

「はい!」

「あと、付属魔法の先生を見つけてね。私じゃ教えられなかったから」

「わかりました」

「よし、じゃあ……」


 リーファ先生は立ち上がり、小さくお辞儀をして旅立っていった。

 あっけない別れだ。なんとも先生らしいが。


 よし、魔法の練習でもするか。



 ~・~・~・



 授業がなくなってから暇な時間が多くなり、家族と過ごす時間が増えた。

 今までは、リーファ先生といた時間の方が長かったように思う。


 話す中で、家族についてわかったことが多くある。

 というか、知らないことが予想以上にたくさんあった。


 まずは父エルヴィン。

 彼は国王直属の近衛騎士であった。

 陛下が父と会う時に護衛をつけないわけだ。

 ローズスハイト侯爵家が名門とはいえ、国王の直属騎士というのはコネでなれるような役職ではない。

 ひとえに、父の実力ゆえであった。

 そして、彼は今年で25歳だそうだ。見た目以上に若い。

 16歳で兄を産んだことになる。

 15で成人のこの世界では珍しいことではないそうだが、少子化社会に生きていた身からすれば驚異的である。


 また、母アリエルは父の1つ下、今年で24である。

 アリエルは王国の大貴族リリーゼ公爵家という家の長女で、バリバリの政略結婚というわけだ。

 貴族ともなれば当然か。

 夫婦仲は良さそうなので問題あるまい。

 彼女は高等学校の教師をしているらしい。評判は良いのだとか。


 そして兄ヒルメスは今年で9歳、そろそろ初等学校を卒業する。

 かなり優秀なようで、特に実技ではずば抜けているらしい。首席卒業は確実だろう、とエルヴィンが喜んでいた。


 そういえば俺もそろそろ初等学校に入学することになるらしい。

 正直めんどくさいんだよなぁ。

 エルヴィンは多大な期待を寄せているようだが、小学生相手に無双しても何の自慢にもならない。

 冒険者をしていた方が楽しそうだ。

 まあ、行きますけど。



 ~・~・~・



 リーファ先生がいなくなってから1ヶ月。


 母アリエルの妊娠が発覚した。妊娠3ヶ月だそうだ。

 めでたい。ローズスハイト家はその報告に湧いた。

 俺が生まれて6年、アリエルは子供ができないことに悩んでいたのだ。

 まあ、することはしていたから、いつかはデキると思ってたけど。


「おめでとうございます、お母様!」

「ありがとう、アルス」


 ここは、純粋な子供として振る舞っておこう。

 これでしばらくは安眠できる、という本音を外に漏らしてはいけない。


 夜、何度睡眠を妨害されて部屋に突入しようと思ったことか。

 我慢した俺を褒めてほしい。

 時々ヒルメスに邪魔されていたそうだが。


 お腹はまだ膨らんでいないか。


 前世は一人っ子だったから、妊婦というものには疎い。

 正直、少しワクワクしてる。


「何かあったら言って下さい!」

「ふふっ、ありがとう」


 エルヴィンは、今度は女の子がいいな、とか言っていた。

 この世界に出産前診断などはないため、妊娠中に性別はわからない。

 ただ、貴族としての跡取りはもういるので、気楽に構えているのだ。

 兄が産まれる時には、男子男子とうるさかったらしい。


 ちなみに、この世界では子供3人というのは普通かすこし少ないくらい。

 貴族としてはもっと少ないのだとか。

 多いところとなると、10人も子供がいる家もあるという。


 そもそも、貴族で妻が1人しかいないのが珍しいそうだ。

 普通は、他の貴族や豪商の娘を娶ったりするものらしい。

 父に聞くと、


「俺はアリエルだけで十分だよ。何人もいても愛しきれないしね」


 とのことだ。カッコいいね。

 エルヴィンは顔も家柄もいい、そして若くしてエリート。さぞかしモテるだろうに、

 と思って母に話してみると、


「あの人、結構いろんな女性に手出してるわよ。特に、私が妊娠してる時とか。そのうち、使用人の誰かが妊娠するかもね」


 と、にこやかに言っていた。

 目は微塵も笑っていなかったが。


 おい。

 何が愛しきれないだ。クールな顔して、遊んでんのかよ。

 ついでに、「アルスは奥さんだけにしときなよ」と言われてしまった。そう言いながら俺の頭を撫でる母の手は、心なしか力が入っていた。

 八つ当たりは勘弁してくれ。



 ~・~・~・



 ある休日、俺はエルヴィン、ヒルメスと一緒に庭に出ていた。

 エルヴィンがヒルメスに剣の稽古をつけるというので、参加させてもらうことにしたのだ。


 父は騎士であるが、毎日付きっきりというわけではない。週に2日は休みがあるそうだ。

 ちなみに、少し前までは、子育てもあるだろうということで週に4日の休みをもらっていたらしい。

 国王陛下は柔軟な考えの持ち主のようだ。


 練習用の木剣を渡される。

 今日は、鍛練のために身体強化はなしだ。

 軽く振ってみるが、重くて扱いにくい。


「まずは素振りからだ」


 ヒルメスが、ひゅっ、と一振り。素人目から見てもきれいなフォームだと思う。

 俺もやってみる。

 イメージは日本刀。剣はあまり扱ったことがないから。

 筋力もないから、勿論音なんて出ないし、剣先はぶれっぶれであった。


 俺が不恰好な素振りをしている間に、ヒルメスは規則正しく剣を振っていた。


「アルスはまだまだ筋肉がついてないな。強いて言うなら、利き手に力が入りすぎだ。左手を意識して振ってごらん」


 言われた通りにすると、少し良くなった。

 主武器はナイフだったからな。両手武器の勝手なんぞ知らん。

 ただ、この世界では両手剣は主流の武器である。真面目にやって損はない。


 しかし、魔法ばかりであまり運動をしていなかったからだろうか、俺は体力がなかった。

 30回程素振りをしたところで手が疲れてしまった。

 ほぼ同時に、ヒルメスがちょうど100回目の素振りを終えていた。疲れているようには見えない。

 本当に9歳かよ。


「まあ、アルスは最初だから仕方ない。休んでなさい。

 ヒルメス、打ち込みだ、来い」


 俺はその場に座り込んで2人の稽古を見学した。

 勢いよく斬りかかるヒルメスと、それを軽くあしらうエルヴィン。多分ヒルメスは本気で打ち込んでいるのだろうが、エルヴィンは余裕そうだ。

 俺からすれば、ヒルメスも十分すごい。少なくとも今の俺は魔法なしではできない。


 だが、エルヴィンは格が違った。

 当然と言えば当然なのだが、やはり強い。

 あの木剣を片手で軽々と扱っているのはいいとして、攻撃への対処が完璧なのだ。

 恐らく、ヒルメスの攻撃を見てから対処しているのだろう。これくらいは余裕だ、といった感じだ。

 さらに、「踏み込みが甘い!」、「攻撃が軽すぎだ!」と指摘を入れている。


 段々とヒルメスの動きが鈍くなっていき、そして剣が止まった。

 汗だくで、肩で息をしている。


 俺は思わず見とれてしまっていた。


 ひえぇ、小学生なめてたわ。

 無双なんてとんでもない。

 不安になってきた。首席、とれるだろうか……。


 ちょっと運動しとこ。

 そう決意した。

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